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19.夜の駅


「暑……」


 列車の外の空気は夜だというのに蒸し暑い。そんな真夏とはいえ夜の八時になると空は完全なる黒色。

 さすがの夏もこの時間は明るくできないらしい。だったら少しぐらい涼しくしてほしいが。


 そんな遅い時間に誰かと一緒に帰れるなんて普通はありえない、それも他校の人間となんて。そう思ってたのだが……。


「ホントだねー……」


 なぜか帰りの列車の中に白水がいた。本人曰く偶然らしい。


 しかしせっかく会えたのはいいが列車の中ではずっと生返事みたいなものしか返せなかった。それは列車から降りても治らなくてなんだかすごく後ろめたい気分になった。


「結構遅くなっちゃったね」

「あぁ」

「これは不審者とか出ちゃうかもなー」

「そうだな……」


 今日は体がだるい、熱っぽい気もする。風邪でもひいたのだろうか。いっそのこと、そこのベンチで寝て……朝まで起きれる気がしないしやめておこう。


「家まで送ってあげよっかー? なんか今日の三好元気ないしー」

「いいよ、別に」

「……じゃあちょっと休もっか」


 完全に察せられている。勘が鋭いのか外から見てはっきりと分かるぐらいには外見に現れているのか。たぶん後者だろうな、悠衣來にもよくバレるし。


 言葉に甘えベンチに腰掛けると途端に呼吸が楽になる。熱っぽいのは変わらないがさっきまでよりかはよっぽどマシだ。


「お母さんかお父さんに迎えに来てもらおうよ」

「平日は家にいない」

「えー……私といっしょだ」


 変なところでおそろいになってしまった。悠衣來にこんな時間を一人で来させるのも気が引けるしどうしたものか。


「どうしよっか、私はここと家近いけど三好くんって遠かったよね」

「10分ぐらいはかかるな」

「あらま。それじゃあさすがに一人じゃムリだ」


 うーんと頭を悩ませる白水の姿を見ているとあらためて申し訳ない気持ちが湧き上がってくる。

 結構な間、会うことすらなかったのにこうやって考えてくれているのは人間が出来すぎている。うちの高校の連中にも爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。


「あっ、列車来た」

「あぁそう……」


 もうそれを見る元気もない。俯いてキキーって減速する音を聞くことしかしなかった。

 だがそれ故に反応が遅れた。


「ぐえっ」


 突然左から思いっきり腕を引っ張られる。もしや本当に不審者が襲ってきたのか? だがなんだかこの匂い、嗅いだことがあるような……。


「紗璃ちゃんどうしたんよ」

「……」

「せめて喋ってー?」


 後ろから抱きしめるようにして拘束された。体調のことを加味しなくても抜け出すのは無理なのでいっそのこと全身の力を抜いてしまおうか。

 幸い今日の菱原は匂いも控えめだししばらくこのままでも耐えれるだろう。


「またイチャついてた……」

「介抱してただけだよ。三好くんがしんどそうなのわかるでしょ?」

「……たしかに」


 さっきから何を言ってるか全く聞き取れない。正確には聞き取れてはいるが別の国の言語のように耳から耳を通り抜けている。


「そういえば紗璃ちゃんの家って三好くんのとこと近い? だったらちょっと頼みたいんだけど」

「……何」

「三好くん家まで送ってあげてよ。一人じゃ帰れないって」


 それはいい提案なんだろうか。たしかに菱原の家とは向かいではあるが。


 ていうか家がそんなに近いのに全然仲が深まってないの本当によくないな。あっちがいつも寝てたのもあるけどたぶん俺の方も無意識に避けてたんだろうな。


「いいの? 私の家に連れ込まれちゃうかもよ?」

「そんな度胸あるなら三好くんともうちょっと仲いいでしょ」

「うっ……!」


 なぜかいきなり菱原は抱きしめる力を強める。口の代わりに身体がギシギシと悲鳴をあげた。

 たぶんもう一段階パワーを上げられたら粉砕骨折だろう。


「……はいはい、ちゃんと送り届けますよ」


 菱原は軽々と俺を持ち上げ米俵のように担ぐ。だいぶ事件性のある絵面だが夜なら人目は少ないから大丈夫だろう。

 むしろ少ないからこそ見られた時の誤解も洒落にならなくなりそうな気もするけど。


「んじゃ三好、帰ろっか」

「……ぉぉ」

「ははっ、なんだよそれ」


 もはや礼を言おうにもうめき声しか出せない。菱原は軽く笑い飛ばした。


「……ん?」


 今思ったけどこの姿勢になると俺の顔って菱原の背中の真ん前に来るよな。んで今日は蒸し暑くて汗をかきやすい日。

 あぁそうか、そういうことか。


「……三好、なんでそんな震えてんの? 大丈夫?」

「……死ぬ」

「喋れんなら大丈夫か」


 この前と同じオチか……ある意味このしんどさを感じずにいられるならよかったかもしれないな。


 点滅する視界、揺れる身体。幸い意識が飛ぶのに時間はそうかからなかった。

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