18.休日のファミレス
炎天下の日焼け止めが必須な真夏日。俺はまた悠衣來と二人で街をふらついていた途中、適当なファミレスで食事を摂ることにした。
配膳ロボットから料理の乗った皿を受け取り、机の上に置く。慣れないタブレットでの注文に苦戦したがこうやって届いた食事を見るとそれも報われた気がする。
「最初っから私に任せときゃすぐだったのに」
「空腹は最高のスパイスだからな、それを計算してたんだよ」
「……あぁそう」
もともと低かった悠衣來のテンションがさらに下がったが目の前の食事を見るとすぐにそれも治った。
「おー……うまそー」
悠衣來の前のプレートの上でハンバーグがジュウと音を鳴らす。悠衣來はそれをフォークで上手に切り分けると、ニヤッとこちらに笑いかけた。
「家みたいにあーんしてやろっかー?」
「やめろ。ていうかしたことねぇだろ」
「じゃあやっちゃうか? 初めてのあーん」
幼い兄妹がやるならまだしも今やるのはもうただのカップルだろ。いやだからこその提案なのか。
だったら飲んだ方がいいのか、でも知人に見られたらちょっとヤバいなそれは。
「したくなったらそん時こっちから頼むからいい」
「ふーん。ま、オレはいつでもいいけどな」
「……」
ハンバーグは悠衣來の口の中に消えていく。咀嚼するのをじっと見ているとなんかとても可愛く見えてきた。犬っぽいというか頭を撫で回したくなるというか。
これ以上見てたら変なことを口走りそうなので食事に手を付ける。慣れない手でローストチキンをナイフで切り分けるが、案の定不格好な出来だ。
「ガブッていったほうが楽だろ?」
「……せっかくだし使ってみたかったんだよ」
「へー、かわいい」
「可愛くはないだろ」
味に関して難しいことはわからないがそれなりに美味しいということはわかる。
しかし悠衣來の言う通りかぶりついたほうがよかったなコレは。絶対そっちのほうが美味い。
「おいひぃふぁー」
「飲み込んでから喋れ。華の女子高生ならもっと外面良くしろ」
「うっせーなぁ。これもこれで好きなヤツはいんだろ」
「だとしてもガサツすぎるって」
そういうところも確かにかわいいかもしれないが、兄としてはそのせいで嫌なことに遭ってほしくない気持ちがある。
ただこれも含めての悠衣來と言われたら否定ができないが。
「何だよ。お兄ちゃんはガサツなオレは嫌いなのか?」
「いや好きだけど」
「……だろ?」
今の好きは妹だからあっさり言えたんだろうか。考えても仕方ないことかもしれないが少し気になる。
ただ今はコップの水を飲んでその疑問は喉の奥に流し込む。楽しい食事の時間だ、難しいことは考える必要はない。
そのままお互い無言で食事を摂る時間が続く。ただやっぱり悠衣來の食べっぷりは見ててお腹が空く。
美味しそうに食べるその姿は兄の視点でも他人から見ても変わらずメッチャクチャ可愛い。
「……なんか、お前が食ってるの見てたらそれすげー美味そうに見えてきた」
「じゃあ、すっか? あーん」
「……あぁ、やってくれ」
悠衣來は一瞬驚いたような表情をしたがすぐにいたずらっぽい笑みに変わる。
冗談のつもりだったのだろうかと思ったがそういうわけでもないようで、すぐにハンバーグが刺さったフォークを差し出してきた。
「はい、あーん」
「……なんか恥ずいな」
「じゃあ目つぶってたらいーんじゃね?」
「そうか……」
言われた通り目を瞑ったがこれは悪手だったかもしれない。卓上にある七味を舌に振りかけてくる可能性がある。悠衣來はわりとそういうことはするタイプの女だ。
だけどもう覚悟を決めるしかない。口を開けて何が来ようと飲み込んでやるという覚悟で身構えた。
「ん……」
しかしなぜか口内ではなく頬になにかが当たった感触がする。しかもこれはハンバーグじゃない、懐かしいような懐かしくないような柔らかい感触。
この柔らかさはまるで唇……唇だこれ。
目を開けると赤面しながら口元を押さえながら笑う悠衣來がいた。この光景を見るのは何度目になるんだろうか。
「はははっ! 驚いたかっ?」
「悠衣來、お前……!」
「顔あっかー。ほっぺにキスされたぐらいで照れんなって!」
完全に嵌められたが嵌めた側の悠衣來も真っ赤になっているので実質相打ちのような状態になっている。
「んなに焦んなってー。ただのカップルにしか見えねーよ」
「俺らのこと知ってるやつがここでバイトしてたらどーすんだよ」
「んーまぁ……それはそれで結果オーライだろ」
「そりゃお前からしたらそうだろうけどなぁ……」
悠衣來に言い返す言葉がコレな時点でもう俺は底なし沼に半身まで浸かってしまっているのかもしれない。
でも悠衣來の顔を見ているとそれもなんだか悪くないような気がした。




