15.放課後の生徒会室
また月曜日、忌々しき学校生活に戻ってしまった。だがなんとは言えない清々しさが朝から続き、気づけば順風満帆と言っていいほど順調に一日の授業が終わった。
このまま帰宅できれば完全勝利……なんだけど足音が近づいてきてる。自惚れだったらいいんだけど明らかに俺に向かっている。
「三好! よかった、まだ帰ってなかったんだな」
「……長野」
なんかすごく久しぶりに会った気がする。同じクラスだからほぼ毎日会っているはずなんだが不思議だ。
「……そのネックレス。お前反抗期になったんだな」
「どういう論理だよ」
長野は俺の首を指差す。悠衣來に見繕ってもらった物だから着けてきただけなんだが……まぁ校則違反だし仕方ないか。
それより長野をこんなに焦らせる出来事がなんなのか気になる。俺の体内に盗聴器埋め込まれてるって言っても「ふーん」の一言で終わらせたやつだから余計に。
「なんの用だ」
「……何も言わずについてきてくれ。頼む」
「うーん……」
屋上の時に呼び出したりした手前、ここで断るのはあまりにも身勝手ていうか不義理というか。ていうか長野は俺がついてくると信じて既に歩き始めている。
仕方ない、ついていこう。後で気まずくなるのもやだし。
ただ長野はすぐに立ち止まって目の前の扉をノックする。プレートに生徒会室と書いてあるのが見えて俺はだんだん嫌な予感がしてきた。
「失礼します」
長野が入ったのに続いて恐る恐る足を踏み入れる。だが俺の想像とは違い中には眼鏡をかけた男子生徒が一人、ソファに座っているだけだった。
奥のデカい机から金村出てきたら嫌だな。一生忘れない自信がある。
「芋片副生徒会長、折り入ってお話があります!」
「長野くん、何度も言っていますが学校から部活動へ支援できる金額には限りがあります。」
「そんな……全国大会に行けるはずなのに……! みんなあんなに頑張ったのに……!」
すごく事情がわかる会話だ。ただこれは感情の問題じゃないし、安易に長野の味方をすることは到底正しい行為とは言えない。
ここはまず長野を説得して……。
「加えてトラブルメーカーを連れてくる手段の選ばなさは評価しかねますねぇ……」
「……あ? 俺に今なんつった?」
いや俺の存在によって引き起こされた凶行の数々を振り返るとその例え自体は的を射ている。ただ達観した風のスカした態度は俺を長野の味方、もとい芋片副生徒会長の敵にするには十分だった。
「副生徒会長だからってイキってんじゃねェよ。どうせ汚ねぇやり方で集めた票だろ? よく偉そうにできるな」
「酷いデマだな、何を根拠に言っているんだ……?」
「俺がトラブルメーカーつーのも何が根拠だ? 言ってみろよ」
口論というか貶し合いをする俺たちの後ろで長野はオロオロとしている。そりゃ説得でもないただの口撃しかしてないからな俺。
「サッカー部は県大会優勝したってのに全国大会は出れませんってか? 長野たちが何を目標に頑張ってきたか知らねーんだな」
「三好くんこそ何も知らないんだな。生徒である僕に予算を動かすほどの権力があるわけないじゃない」
「大臣の息子でもか? バカじゃねぇからこうやって直訴してんだよ」
前からその情報を知っていただけだ。でもハッタリでもいいから言葉を積み重ねたらとりあえずの口論はできる。
「わざわざ調べたのかい。もしかして僕に恋心でも持っているのか?」
「お前は喋りながら寝れるんだな。ドライアイには気をつけろよ」
しかしここまで挑発を続けているがまったく感情的になってくれない。俺のワードセンスが悪いのか、こいつの耐性が高いのか。おそらく前者だろうな。
「こっちからしたらキミの服装違反を大ごとにして退学処分にしてやってもいいが……その態度で大丈夫かい?」
「それって脅しか?」
「そのダサいネックレスで教養がなさそうだと思ったが……もしかしてわからなかったのか?」
「ぶっ殺してやろうか? あぁ!?」
「ちょっと三好落ち着けって! どうしたんだいきなり……」
「……ごめん」
ダメだ、思いっきりこっちの弱点晒した。悠衣來のことをバカにされた気分になってめちゃくちゃ苛ついた。
それ自体は後悔していないが絶対にこのタイミングだけはだめだった。
「クッソー……なんで今日に限って来ねぇんだよ金村めぐみぃ……」
「えっ、金村と三好って絡みあったっけ?」
「あるにはあるけども……あんま言いたくねーなー」
そう言うとなぜか長野は途端に悪い顔になった。なにやら思いついたらしい。このままアイツと口論を続けても進展はなさそうだし、ここはコイツの策に乗ろう。
「めっちゃ気になるんダケドー。教えてよ、みよっちー」
「ちょっと長野ッピー、めぐめぐとは秘密の関係なの。だから言えないわぁ」
「やーん! みよっちったらロマンティックー」
こんなしょうもないやり取りしてる場合じゃないんだが。ていうかアイツなんも反応してないし、スルースキル高すぎだろ。
あれ、違う。よく見たら小刻みに震えてる。すげぇ微振動だけどもしかしてこいつの弱点ってこれか?
「でもズッ友なら話しちゃう! 実はめぐめぐが校舎裏に呼び出してきたの」
「ヤバ、それ絶対コクのハクじゃん!」
芋片は身を乗り出してこちらを食い入るように見ている。よし、ここが決めどころだ。
「そうなの……だからアタシね……」
「うるさい!!」
「きゃっ」
「くだらない世迷言を言うな! 金村さんがお前みたいな落ちこぼれに告白? 侮辱するにしても大概だな!」
「落ちこぼれじゃねーよ。ていうか真実なんかどうだっていいだろ?」
芋片は明らかに動揺している。おそらく金村に惚れているんだろう。あいつ顔はいいからな、会話のキャッチボールできねぇけど。
「サッカー部に臨時予算下ろさねーなら俺が金村と付き合うだけだからな」
「なっ……!?」
「どうしてやろっかなー……俺好みに金髪にでも染めさせるか、あぁピンクもいいかもな」
「三好ってハデな子好きなんだな。けっこー意外かも」
「それにピアスも着けさせてーなー……それこそ臍、とかなー」
片っ端から金村のいいところを削る発言を繰り返す。ていうか俺って案外アイツのこと記憶してるんだな、他のと比べたら実害はあまりないからなのかな。
いや比べてってだけで別に良くはないな、良くはない。
「ていうか結構いいカラダしてるよなアイツ。せっかくだし……」
「わかった! する、援助するよう父さんにお願いする! だから……」
「あれっ、信じてくれんの?」
「まぁ思い当たるフシがあるんだろうな」
大方包囲網がどうたらのときに知ったんだろう。ていうかこうも必死になられるとまるでこっちが脅迫をしたみたいな気分……いやしたのか。
「頼む、金村さんにだけは手を出さないでくれ……! あの人は僕の……」
「芋片くん。私がどうしたのかしら」
もう話し方だけでわかる。よりにもよって一番最悪なシチュエーションでの邂逅、ここまで噛み合わないことある?
「あーめっちゃ来て欲しくない時に来たー……」
「酷いわね。でもそれにも深い思惑が……」
「ねぇから安心して黙れ」
どうやら俺の思い通りに事が進むことはないようだ。長野がただただこちらを哀れむような顔で見てきたのがなんとも言えない気分にさせてきた。
かたおもい→芋片




