14.休日の……。
二日目の休日。いろいろとあったおかげか体の異常は完全に抜けきっていた。その代わりに家族関係に異常はきたしたが。
まぁせっかくの休日にそんなことを気にしても仕方がないので、今日は当てもなくどこか遠くに歩くことにした。
「お兄ちゃん、どこまで行くんだよ」
「さぁな」
「ふーん、本当にあてのない旅……なんだな」
「……そうかもな」
悠衣來は家を出てからずっと俺の右腕に抱きついている。日差しが強いが、暑くないんだろうか。俺はとても暑い。
あと別にこっちから誘ったわけではない。勝手についてきたのを黙認しているだけ。
「あちー……」
「そうか? 普段家で寝てっからそう思うだけなんじゃねーの」
「どう考えても暑いだろ、お前だって汗だく……」
何か嫌なことを思い出しそうになったのでその先を言うのはやめておいた。悠衣來も何かを察したのか制汗スプレーをカバンから取り出すと俺と彼女自身の体に吹きかけた。
「……大丈夫かお兄ちゃん? 顔すげぇ青いけど」
「大丈夫大丈夫、たぶん」
「たぶんかー……」
それにしても目的もなく彷徨うにしては過酷すぎる環境。ここいらで適当なところにでも立ち寄ったほうが良さそうだな。
結構な距離を歩いてきたおかげでデパートの近くまで来ている。ここなら悠衣來の気に入る店も一つぐらいはあるだろう。
「ちょっと寄ってくか」
「お兄ちゃんがそう言うなら仕方ねーなぁ」
「え、なんか……ムカつく」
くだらない会話をしながら自動ドアを通る。中の涼しい空気が全身に染み渡る。
サウナ後水風呂の簡易バージョンみたいな感じだ。
「んーで、どこ行くんだよお兄ちゃん」
「別に。悠衣來の行きたいところでいいけど」
「んー……じゃあ一周すっか、一回」
大して自分もどこに何があるのかは把握してないのでその意見自体には賛成なのだが、一つだけ懸念点がある。
悠衣來が自分の腕に抱きついたままということだ。
「……このまま?」
「あ? ダメなのかよ」
「ハズくねーか?」
悠衣來は「知るか」と言うように力を強めた。知り合いには絶対に見られたくない光景だ。
それこそ同じ学校に通っている誰かに見られたら評判は地の底に落ちるだろう。いや、むしろそれでアレコレがなくなるとしたら悪くない気がする。
「……三好?」
聞き覚えのある声の方を振り返ると、その先にいたのは見覚えのあるプリン頭の女。汗で髪の毛がベタってなっているのが遠目でもわかった。
ていうか菱原って一人でこんなとこ来るようなやつだったっけ。記憶を辿ってみてもあまりそういうイメージが湧かない。
「ねぇ三好……その子、誰?」
「そっちこそ誰だよお前。ていうか見りゃ彼女ってわかんだろ?」
「変なこと言うなバカ。こいつはただの妹だから勘違いすんなよ菱原」
「ただのってなんだよ。ただ者じゃない妹がいるのかよー」
菱原は珍しく露骨に不機嫌そうな顔をしていた。たしかに年の近い兄弟がべったりしてたら生理的な嫌悪感はあるだろう。
悠衣來をいい加減引き剥がすと菱原もいつもの薄ら笑顔に戻った。
「あははっ、彼女いないからって妹に腕組ませてるんだー」
「ちげーし……」
「なんなら私が組んであげてもいいけど?」
「それはやめてくれ。お願いだ、やめてくれ」
もう二度とあんな目に遭いたくない。ていうか髪の毛染めたりしてるし身だしなみに気を配っていないわけではないだろうに、なぜ制汗スプレーを使ったりしないんだコイツ。
「てゆーか予定なさげ? そうならご一緒させてもらってもいーい?」
「オレらのデートの邪魔すんなよー」
「デートじゃねーよ……でもわりぃ菱原。今日は悠衣來と二人でって決めてんだ」
「……そっかー、なら今度いっしょにどっか行こーねー」
「あ、あぁ。それじゃあな」
俺は悠衣來の腕を引き、足早にその場から離れた。なぜそうしたかは自分でもよくわからない。
ただそうしたい気分だったとしか言いようがなかった。
しばらく歩いて端の服屋まで着いたところで俺は足を止めた。長距離をそれなりのスピードで移動して息も絶え絶えな俺と対照的に、悠衣來は息も切らさずただただ怪訝そうな顔をしていた。
「なぁ、オレと二人でってどういうことだ?」
「こうやって二人で外出すんのって結構久しぶりだろ?」
「ん、まぁ……たしかに」
「せっかくだし今日は二人だけでいろいろしたいんだよ。いろいろ」
休みの日は膝枕してもらってたりしてたけど、思い返せば二人で羽目を外してどうこうというのは最近の記憶にはない。
今日のこの状況は偶然の産物だけどいい機会であることに変わりはない。活かさない手はないだろう。
「んー、だったらメシだな。メシ食いてー」
「だったらあそこのお好み焼きにするか?」
「えー……もっと他にあんだろ? 2階と3階にもさ」
「それもそうだな。よし、じゃあ回るか」
俺がそう言うと悠衣來はまた腕に抱きつき、流れるように恋人繋ぎへと移行する。何の技術なのだろうこれは。
ただそれは菱原と比べると全力で握ってこそいるが、簡単に振りほどけそうな恋人繋ぎだった。
仕方がないのでこちらが握り返すと悠衣來は一瞬驚いた顔をして、そしてこちらに軽く微笑んだ。
自分がこの時に感じたのは……恋人同士のような、甘い雰囲気だった。
三好はゼロ距離で嗅がされたのでいろいろ悪印象を持っていますが、別に菱原はそこまで臭うわけではないです。




