10.放課後の図書室
夏休みの宿題というのは高校に入ってもあるものだ。ただ学年が上がるにつれやる内容は当然変わるので前もって終わらせることは難しい。
けど一つだけ、読書感想文はテーマの指定こそあれど変わらない。これだけは先に終わらせられる。
なので今日は図書室で本を借りることにしたのだが、どれにしたらいいか全く思いつかない。せっかくの一人の時間が無駄になっていく。
そもそもどういうジャンルを選ぶのかも決めなかったのがここまで難航している理由だろう。
そういえば掲示板にミステリー特集とかあったな。感想文とか書きづらいジャンルだけど一応どんなのがあるか確認だけはしておくか。
カウンターの近くの棚、そこにざらっと並べられたミステリー小説の中に一つだけ場違いな本が目を引いた。
本のタイトルは『ミス×カノ 〜ミステリアス系女子と付き合うまでの日々〜』。
いやこれはミステリーではないだろ。図書委員は何を思ってこれを名だたる本格ミステリーに並べたのか。いや、何も考えなかったからこんな珍事が起こったんだろうな。
でもまぁ……一応借りておくか。普段本を大して読まない俺でもこういうライト系のを読むことで気だるさを解消できるかもしれないしな、うん。
そう考えるとあそこの『幼なじみ系ギャルカノの笑顔はいつもラビュい』も面白そうだな。ギャルが好みというわけではないが笑顔に焦点を置いているのは印象が良い、あれも借りとこう。
本をこうやって選ぶだけで自身の趣味趣向がわかる気がする。ということは俺はミステリアスで笑顔がラビュい相手が好みということか。
そんなやついたっけ。
「あっ、三好くん……?」
「お前は……誰だっけ。殺人未遂犯なのは覚えてるけど」
「うぅ……新嶋和花です……覚えなくても大丈夫です……」
ていうかもう二度と関わるなって言ったのに話しかけてくるのか。そこまで本気で言ったわけでもないから別にいいが、案外図太いなコイツ。
「読書感想文書きやすいのねーかなー……」
「えっ……でもそれってライトノベル……」
「これはただの趣味だよ。正直読書好きじゃないから感想文とか怠いんだよなー」
どうせ先生もまともに監査していないだろうから、おそらく『ミス×カノ』で書いたとしても問題なく通るだろうけど。
不必要なリスクを背負いたくもないから真面目にやるが。
「だ、だったら自分の興味が向いてるものがいいんじゃないかな……」
「俺が今いちばん惹かれてるのはミスカノだけどな」
「そ……そうだとしたらいい本知ってるよ……?」
そう言うと新嶋はしゃがんで近くの棚から一冊の本を取り出した。恋愛小説の棚だけど何を選んだんだろうか。
幼なじみ系だったらなんていうか菱原を思い出しそうで嫌なんだが。
「この『愛に吹かれど恋落ちず』って本なんだけどね……」
「別に説明しなくていい」
「あっ……ご、ごめん……」
「……わりぃ、言葉づかい荒かった今のは」
一応はあの時の謝罪で水には流したのにいつまでも引きずった態度をするのはさすがに面目が立たない。
あの時の約束破ってきたのはあっちからだけど。
「あの、三好くん……聞いてもいいかな……?」
「なんだ」
「そ、その……そういう女の子が好みなの……?」
新嶋は机に積まれた本を指さしていた。
少し前に葉森にタイプの異性は掴みどころがなくて笑顔を絶やさない女と答えたが、俺の借りた本のタイトルもそれとかみ合っている。
無意識下にそういう好みをしっかりと自分の中で持てていたのだろうか。それならたぶん、喜ばしいことなんだろうな。
「そう……かもな」
「……そっか」
「……」
質問に答えただけなのに気まずい空気が流れる。このままお互い黙っているのも苦痛なだけなので、本に貼られたバーコードをスキャナーで読み取らせたがその度に鳴る「ピッ」「ピッ」が余計に居心地を悪くさせた。
「……んじゃ、また明日」
俺はカバンに本を突っ込んで返答も聞かず足早に図書室から出た。半ば逃げるような形になったが、それがあの空気から逃げるためだったのかはわからない。
「暑……」
空調の効かない廊下は図書室と比べたら間違いなく居心地は悪い。ただその不快感も胸につかえた謎のモヤモヤに比べたら幾分かはマシだった。




