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復興の手紙

作者: nor

 春の空気が満ちてきたある夜の日に、私は家のリビングで椅子に座り本を読んでいた。

 森の中のこの家は静かで、平穏という言葉がよく似合う家だ。

 涼しい風が家に吹き込んでくる音、遠くにあるはずの川の流れる音、そして


「おじいちゃん。

 なんのお本をよんでいるのですか?」


 かわいい孫娘の澄んだ声。これらは私に唯一の平和と安心を与えてくれる。


「魔法についてのお本だよ。」


「わたしもよみたいです!」


「マリナはまず文字を読めるようにしないとだよ。

 それに、ほら。お母さんたちに読み聞かせてもらいなさいな。」


 私が見たほうにはよく笑った夫婦がいて、こちらを眺めている。


「おかあさん、最近読んでくれないんですもん」


「それじゃあ。いつか通う学校を楽しみにするんだね。」


「はーい…………」


 マリナは親の元に戻りお母さんの膝に座ると、マグカップを両手で持った。

 私は読書を再開した。

 私ももう60歳になった。知り合いも兄弟も恩人も嫁も、みんな死んでしまった。

 ある人は病気で、ある人は戦場で、ある人は裏切りで、ある人は魔術研究で、ある人は自ら、命を落として行った。

 その命たちを、一つ一つ拾って、いつかはこぼし始めて、やっと私のを落とす番か。

 明日?明後日だろうか。後悔は無い。あってはたまらない。後悔のあるような生き方をすれば、私が落としかけた命を拾ってくれた人たちに顔向けできない。

 子供もいる、孫の顔まで見ることができた。

 家を持った。安らぎのあるいい家だ。

 他にもたくさんのものを持った。

 いい人生だ。

 私は本を閉じて窓際のテーブルに置いた。


「私はもう寝るよ。おやすみ。」


 すると、おやすみなさい、と言われた。

 私はゆっくり階段を登って寝床に向かった。


ーーーーー


 私は部屋に入って、蝋燭に火をつけ、窓際の椅子に腰掛けた。

 魔法で作った嫁の写真を眺めた後、ガラス窓を開けて夜を眺めた。

 夜空の満点の星空も、光って見える獣の目も、とても綺麗だ。

 私の部屋の反対側はまた見えるが、こっちの方には一面森しか見えない。こっちの方がなんだか落ち着く。


「…………っ!」


 いきなり胸が苦しくなり息が苦しくなった。

 私は軽い回復魔法を胸の辺りに当てながら、椅子を立って、薬を求めた。

 薬の瓶を開けて錠剤を飲み込んだ。


「ふう」

 

 私も本当に弱くなった物だ。

 私はもう一度窓辺の椅子に座った。


「…………」


 こうしていると時々思う。

 私は過去の具体的なことを最近思い出していない。

 それはどうなのだろう。

 過去にあったことを思い出すのは楽しいが、同時に辛いものも見る。

 もう私しか知らない思い出たち。

 それらを作る前に死んでいった人たちもいる。もう思い出すことも話すことも許されていない人たちもいる。違う、もうそういう人たちしかいない。いわゆる私の特権。

 いや、他人を盾にするのはやめよう。

 私がこの最後の時間にやりたいこととして、やるとしよう。

 私は窓を閉じ、立ち上がって、机の上にある羊紙たちをまためた。

 椅子に座って筆をとり墨の準備をした。

 さて、書き出しはどこからにしたものか。

 うーん。

 いや、明日にしよう。私だってそう早く死ぬつもりはない。

 そうして私は蝋燭の火を消して、ベッドに寝転んだ。


ーーーーー

 

「おじいちゃん!はやくおきてくださーい!」


 私はそんな孫の声で目を覚ました。

 チュンチュンと鳥の声が聞こえる中、マリナに連れられて身を起こした。

 

「どうしたの?」


「きょうは街に出るやくそくでしょう?わたし楽しみでしかたがないんです!」


 そうだった。街に出て、お昼を食べたりしたいと言う物だから、一緒に行こうと言っていたんだ。


「それじゃあ私は着替えるから、マリナは下に降りてお母さんのお手伝いでもしてきなさいな。」


「はーい。」


 私は着替えを済まして、一階に降りて朝食をとった。


ーーーーー


「すごーい!!」


 私とマリアは森を抜けて街に出てきた。

 いつも通りかなり賑わっている。

 物流の中心でもあるからか人の通りは多い。

 建物も大きいし、この街もまだまだ健在だな。


「さあ、まずは商店街にでも行ってみようか。」

 

 私たちは、商店街の方に向かっていった。

 最初に見つけたのは老舗の魔法店だった。

 いつも通り禍々しくて入りづらい店だ。


「おじいちゃん、あれは?」

 

 そう指を指したのはゴツい店だった。


「あれは武器屋だね。ほら、看板に書いてあるのは武器屋だよ」


「へー」


「入ってみたいかい?」


「んー、そんなに…です」


 まあこの年で武器に興味があっても少し怖いかな。

 私たちはその後も商店街を回った。

 昼下がりになると予定にあったレストランでお昼を食べた。私はサラダとパスタを、マリナはハンバーグを食べた。美味しさは本当にいつも変わらない。孫の笑顔も加わってもう満点の味だ。

 その後も広場や役場、ギルドや王宮にまで回った。

 この国もすっかり大きくなってしまった。

 つい数十年前までは国を見渡すのに小さい丘で十分だったというのに。人の営みはいささか早すぎる。

 すると日が暮れはじめて、すっかり夕方になってしまった。

 私たちは最後にと、海辺に足を運んだ。


「きれいです」


「そうだね、とっても綺麗だ。」


 海は白い漣を立てながら、ゆっくりと動いていた。

 地平線に近づく夕日の淡い光に照らされて、曇った黄金色や、ある日の雲のような紫が海を着飾っている。

 私たちはしばらく海を眺めていた。


「さて。もう直ぐ宵の刻だ。

 おうちに帰ろうか。」


 私はマリナの手にそっと手を差し伸べた。


「あの、おじいちゃん」


 マリナはその手を取りながら、そう話し出した。


「海の冒険のおはなしはないのですか?」


 海の冒険話か。

 

「そうだねえ。」


 そう言いながらマリアと私は砂浜にあった流木に腰をかけた。


「じゃあ、人魚の話をしようかね。」


「にんぎょ!」


 私はにこやかに笑うマリナにつられて笑みを浮かべた。

 そのまま海に目を向けて話をつづけた。


「あれは確か冒険者になってから3年ほどたったころだ。

 まだ仲間もいなくて一人で放浪しているとあるうわさを耳にしたんだ。

 毎晩人魚によって人が消えている、なんて。

 私はすぐにその被害の出ている町に向かった。

 住民に話を聞いていると大体同じようなうわさをみんなが教えてくれたんだ。

 夜の浜辺に人魚が現れてはその魅力によって男女問わず魅了され、海底に連れていかれるってね」


「マリナがしってるにんぎょさんはそんなのじゃないですよ?」


「おじいちゃんだってそう思ったから調査をしたんだ。

 そうじゃなくちゃ人魚がただ濡れ衣を着せられているだけだからね。」


 私は少し間を置いて息を吐いた。


「でもね、実際は本当に人魚がやっていたわけではなかったんだ。

 あんなうわさを聞けば私のやることなんて決まったも同然だ。もちろんすぐに夜の浜辺へ向かったよ。

 なのにどこからも人魚なんて現れやしなかったんだ。

 代わりに出てきたのは人の気配と、ある魔法だった。」


「まほう?」


「夜の暗い海が光りだしてね、変わり続ける噴水みたいに水が踊りだす魔法だよ。

 私は少し海のほうに歩みを進めたんだ。

 すると突然、その噴水みたいな水が崩れて赤く染まった水がこちらに向かってきたんだ。

 足を取られかけた時はひやりとしたが私も魔法使いだ何とかその魔法をしのいだよ。」


「さすがおじいちゃん!」


 そういわれると少し照れてしまう。


「そして、謎の人の気配に向けて捕縛魔法を打ったんだ。

 するとそこには魔女がいてね、赤髪で華奢な体をした16歳くらいの少女だったよ。

 捕縛魔法が直撃して身動きが取れなくなったその魔女に私はお前が犯人かって問い詰めたよ。

 案外あっさり、魔女は自分がやったと認めた。

 私は次に、なぜこんなことをしているのかと尋ねたよ。

 したらその魔女は理由を言い始めたんだ。

【私がやったことは認める。

 でも役所には連行しないでくれ。

 私はここに来たやつらのためにやっているんだ。

 この浜辺に来るやつはこの国から亡命したい国民だ。

 この国では互いに監視していて、国に歯向かおうとすれば密告されて一生檻んなかだ。

 私はそういうやつらのために噂を流している】 」


「じゃあその魔女さんはわるい人じゃなかったということですか?」


「いや、極悪人だったよ。

 そのあと私はわざと魔法を解いて逃がしたんだ。

 そのあとをつけていると魔法で隠された家にたどり着いたんだ。

 忍び込むとそこにはたくさんの遺体があったよ。」


 さすがにマリナには言わないが、実際は目玉は謎の液体に浸かり、首は切断されていて、血液なんかはきれいに抜かれて小瓶に入っていた。


「こわい…………」


「ああ、ほんとにおぞましかった。」


 私はマリナに少し近づいて話をつづけた。


「魔女がわたしに気づいた瞬間戦いになったよ。

 私はなんとかその魔女を気絶させて役所に突き出した。

 その数日後にはだんだんその事件の真相がわかったよ。

 魔女は子供のころ親に虐待されていたんだ。

 それで狂っていってしまったらしい。」


「それってこのはまべのはなしじゃないですよね…………」


「さあね」


 私は立ち上がってそう茶化した。


「はやくかえりましょう、おじいちゃんはやく!」


 マリナはそう言って私の袖を引っ張った。

 私たちはそのまま帰路についた。

 さっきも少し話をぼかした。

 その魔女は実際、親に様々な暴力を振るわれていた。

 でもある時魔法の才能が芽生え、親も周りの住民もろとも殺戮した。

 そのあと魔女の行方がすぐわからなくなった。

 魔女が処刑されるとき、断頭台の上で拘束されながら放ったあの言葉は今でも覚えている。


【あんたらにはわかるのっ!?

 親に殴られて脅されて体を触られて気持ち悪くって

 それでも親は外面だけいい人を装って

 暴力なんて誰も気づかずに私をただの娘だと見てきたあの気色の悪さを!

 いらない明日がずっと来て死にたくても許されない

 食べ物も水も服も友達も平和も自由も!

 何も持てなかった!この!私の、気持ちがっ…………

 親を殺したとき、人を殺すのは気持ちがいいことに気づいた

 あんたらには、絶対にわからない…………】


 あの時ばかりは一瞬でも同情の感情が出たものだ。

 まだ未熟だった私だったが、それでも齢16歳の少女が私と互角をしていたのだ。

 もしも一般的な家庭で育っていたら、ほかに何か違う結末があったら、きっと彼女は偉大な魔女の一人になっていただろうに。

 …………海、か。

 ああ。そうだ。あの時の話を書こう。

 私がずっと目をそらしてきた、あの時の話を。


ーーーーー


 すっかり日は落ちた時、私は家に着いて夕食を食べた後そのまま部屋に向かった。

 蝋燭に火をつけて窓は開けずに机の前に座った。

 インクと紙を用意して、筆にインクをつけた。

 私はそのまま紙に日付からそれを書き始めた。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 神降暦804年 3の使徒 11廻

 


 これを読んでいるのは私の子孫でしょうか、それとも誰か旅の放浪者でしょうか。

 誰だとしてもこの紙を手に取っていただいて感謝します。

 私はここに未来の誰かに向ける手紙として、ある経験談と一つの教えを記そうと思います。

 ゆえにここからは私の昔話がつらつらと書かれているでしょう。

 ある、どこぞの歴史の話だと思って聞いていただきたいです。

 

 私は20年間ほど冒険者として旅をしていたのですが、

 この話は、その冒険者になる一つの理由となります。

 まず私の概要から話しましょう。

 私は漁業の都市ハーベンツェルに生ました。

 裕福とまではいわずとも快適な暮らしを親とともに過ごしていると

 ある時私に魔法の才が現れました。

 そこからは王宮の学院に通ったりして18歳の時見習いの傭兵となりました。

 傭兵になって2年、私が二十歳の時、その出来事が起こります。

 あれは、そう、星がきれいな夏の終わり、その夜のことです。

 私は国を囲む塀の上を巡回警備していました。

 一つ頼りなくて細い槍をもって侵入者に警戒していました。

 あの頃はある戦争の最中でした。

 隣国が海の向こうの国に資源の略奪などをきっかけに戦争を仕掛けていたのです。

 私たちの国は隣国の同盟国ということで、戦争に参加していました。

 特に海に面する港のようなところは常に警戒弾を持った兵を設置していました。

 私が海に面する町の塀の上を辿っていったとき、ある音に気付いたのです。

 決して大きくはない音です。それでも、はっきりと、ゴゴゴゴゴゴ…………といった海から何かが迫ってくるような雑音が私の耳に響いていました。

 浜にいる兵士もとくには変わった様子はなく、最初は私も気のせいだと思っていました。

 ですがその奇妙で奇怪な雰囲気と夜の暗さは私の感情を蝕み、何か警告音を頭の中に鳴らしていました。

 何度もこれを上官に報告するべきかどうかを悩んでは、きっと気のせいだと言い聞かせていました。

 私はふと月を見上げました。

 大きな丸い月でした。

 いつもならあんなにきれいな月も、あの夜は私のことを不快にあざ笑っていたように思えます。

 そんな違和感を抱えながら塀を歩いていると、突然のめまいで転んでしまいました。

 立ち上がろうとしたときに気が付きました。

 違う、これは地震だ。と。

 揺れていたのです塀が、地面が。

 するとどこからか鐘を打つ音や敵襲を知らせる笛の音などが鳴り始めました。

 きっとそれに気づいた者たちが住民を逃がそうとしたのでしょう。

 そこからはとにかく住民を山の上に逃がし続けました。

 明かりのない夜の暗い日です。

 しかも兵も含めて大半の人々がパニックに陥っていました。

 中には走っているときに足をくじいたものや、そもそも骨が折れたり病気などで歩けない人、この揺れは神が起こしたものでありもうこの世は終わるのだと嘆く人さえもいました。

 私のいた港は国の中でもそれなりに栄えていました。

 夜で来客もいなかったですし、海辺の町の総人口はおよそ2万人もいいところでした。

 ただ、船がなかなか帰ってこないという報告も入っていました。

 その報告に何か予感を感じながらも、私は避難誘導をしていました。

 最初の揺れが来てからも、何度か大きめの地震が来ました。

 それは人々の不安をさらにあおり、町が混乱に陥りました。

 そんな時あの音が聞こえました。

 さっき雑音と表現したものが、今度は恐音となって町に響き始めました。

 海に目をやるとさっきまでの静かな海の姿からは想像もできないようなものがありました。

 海の壁でした。

 どのくらいの高さがあったのでしょう。今となってはわかりませんが、あの時に思い知らされました。

 魔法というのがどれだけ小さいものなのか。

 私は晩年に書きました魔導書『魔力の概念と理論』の前文にはこう記しました。

 

 魔力というのはあるエネルギーの一種である。

 魔法とはそのエネルギーの変換先でしかない。

 ただエネルギーといっても火などとは違うものである。

 一部省略。

 さてこの前文の最後に一つ私の見解、いや教えを記そう。

 この世で最大の魔法は決してこの星を超えることはない。


 この一文はあの海の壁を見たから書いたものです。

 その海の壁と音によってパニックはより一層ひどくなり、同時に避難から逃走に全員の意識がシフトしました。

 あの時私は逃げずに避難誘導と歩けなくなった人々に一時的な治療魔法をかけたりしていました。

 すると海側から、傭兵、そして我が魔法使いとしての師が走ってきました。

 私は叫んで海側の状況を尋ねると、師は風魔法で私を吹き飛ばし、逃げろと命令しました。

 困惑して数秒経つと、師が海に飲み込まれました。

 次に傭兵たちは足を取られ夜の闇に消えました。

 私が助ていたものも絶叫とともに海にのまれました。

 私は持ちうるすべてを用いて、山に逃げました。

 あの行動は私には正しかったかどうか区別がつきません。

 あの時の師からの言葉がなければ私はこの命を落としていました。

 ただ一つ、なぜあんなに善の心を持っていた師が住民より私の命を優先をしたのか。

 予想ができても、もう聞くことはできません。

 私が山の中腹当たりの避難所に到着すると凄惨な状況が広がっていました。

 あらゆる人々が絶望、恐怖、後悔、はたまた諦めでしょうか、そんな顔をして集まっていました。

 私は海のほうに顔を向けることなく、負傷者の手当てに徹しました。

 傷が酷い者は四肢がつぶされているほどでした。

 夜は魔物が出るので傭兵は警戒をつづけましたが、頭の良い獣たちです。おそらく一目散にこの森から出て行っていて一匹も発見の報告はありませんでした。

 あの森は比較的含んでいる魔力量が多く、様々な植物があります。

 不自然な光を出す果実、動き出す樹木、宙に浮いた状態で実をつける植物などいろいろです。

 これは魔獣たちが住み着く一番の要因であり町の住民はこの山から聞こえる魔獣の鳴き声を聞きなれています。

 この静けさはそんな住民たちの不安を逆にあおりました。

 そんな雰囲気とは裏腹に怪しげな雰囲気の森は燦然と煌めいていました。

 地震も収まり、太陽の日が昇ってきたとき、私たち兵士と常駐していた貴族や王家とともに今後の行動を相談する場が設けられました。

 相談の前に被害の報告がなされました。


 まず建物は波が山のふもとまで迫ったことから、全壊。

 同理由で、作物および農場は全滅。

 死者、およそ13,000人。

 負傷者およそ3,500人。

 生存確認者およそ6,700人。

 うち平民およそ5,500人。

 

 生存者と死者の合算が合わないのは、漁に出ていた者たちは行方不明者として扱っているからだそうです。実際かなり時間がたってからですが生存者はいらっしゃいました。

 さてそのあとの会議の結果ですが、こうなりました。

 

 本国や隣町に伝聞をよこし応援の要請。

 数日たち安全が確認されれば町のほうに探索開始。

 それまではこの山での野宿生活となり傭兵の引き続きの警戒と同時に、平民たちと協力し食料の現地調達。

 

 大まかにはこんな感じです。

 なぜ山の向こうへ行かないかというと大勢での移動はあまりに危険がありすぎること、また敵兵と間違われる可能性も少なからずあったからです。

 ですがその日の夜にこの会議の意味がなくなることとなります。

 その夜周りにあるもので簡易的な寝床を作りかろうじて野宿ができるようにしました。

 夜の最初よこした応援の要請の返事が返ってきました。

 危険性も考慮し応援要請は今時点では拒否する。

 さすがに私は憤怒しました。

 戦争中なのに何を言っていいるんだ、という考えが見え見えです。

 夜明けも近づき私が引き続き治療を行っていると、笛の音が鳴り響きました。

 周りの兵たちはすぐに戦闘態勢に入りました。

 私はその時初めて、その気配気づきました。すでに獣たちは私たちを取り囲んでいたのです。

 そこからはただひたすら防衛戦が続きました。

 その魔獣たちは体格のわりにやせていて、飢餓状態でした。

 飢餓状態の魔獣は理性や知能が著しく低下します。

 津波の音に恐怖を覚えるのではなく、食べ物を求めやってきたのでしょう。

 まだ避難所に魔物除けの結界を張っている途中で、油断していたのがいけませんでした。

 もう災害で疲弊しきった兵士たちは暴れる魔獣に悪戦を強いられました。

 そこで私たちは魔獣のせん滅から、住民を町のほうに避難させつつ戦うことにしました。

 そうすることで魔獣に囲まれている状況を打開しようとしたのです。

 実行に移すと追って来る魔獣の数は少ないものでした。

 そもそもが豊かな山です飢餓状態の弱い魔獣は木の実などだけで満足したのでしょう。

 私たちは住民が通る道をこじ開けて森を駆け下りました。

 あの時私は、親友の剣士とともに追ってくる魔獣を蹴散らしました。

 その中で私は横からの魔獣に気づかず腕と足にけがを負いました。

 私は応急処置として軽い治癒魔術をかけた後布で縛りました。

 夜が明け、私たちが魔獣を全滅させると同時に山のふもとに着きました。

 あの時私は確か親友に肩を借りていたと思います。

 親友が私を切り株に座らせると、私は海を見ました。

 綺麗。残酷なほどに安らかで平和なきれいな海でした。

 朝焼けに照らされた雲と海は魔物の血で見飽きた紫色でした。

 でも、その紫は明らかに魔物のものとは違って、憎らしいものではなく、どこか愛らしさがありました。 

 時折光を反射する海の白い光は、暗闇に慣れた目にはあまりに痛いものでした。

 津波によってすべての建物が倒壊し、代わりに水平線が端から端まで見渡せました。

 いつもは曖昧な水平線もあまりにくっきり見えて、なんだか涙が出てきました。

 その日の思い出はその友人の言葉で締められます。


【俺たちが守るべきなのはこの海の美しさと

 さらに美しい人の活気であふれるあの町だ

 お前もそう思うだろう?】 

 


 その後復興作業が始まりました。

 途中で国の応援より先にたくさんの冒険者が駆けつけてきてくださいました。

 あの時私は冒険者になることを決心しました。

 復興の景色とは圧巻なものです。

 次々と立ってゆく建物は、やはり前までの町の外装とは違うものでしたが、その町の人の復興の心でとてもきれいでした。

 一週間ほどたった時本国からの応援が来たのですが、おそらく本国への被害報告の任も持っていたのでしょう、多くは復興を手伝いもせず帰っていきました。ただ一人一生懸命に働く少年がいたのですが、その話はまた今度。

 しばらくして住民の笑顔も戻っていきました。

 時には休息としてお祭りをしたり飲んだりして楽しくしたものです。

 復興作業を1年ほど手伝った後私は旅に出ました。その話は私の孫と娘がよく知っていることでしょう。

 復興作業が終わったのはあの災害から何十年もたった後でしたが、その時の記念祭はなかなか楽しいものでした。

 この災害は私からたくさんのものを奪いました。

 親も師も友人も仲の良かったあの漁師も、たくさんです。

 でも私はさらなるものを失いながらも冒険でたくさんのものを手に入れました。

 もちろん冒険で失ったものがないわけではないですが。

 さて、この先は私からの教えを一つ。


 私は最初にあなたが誰かと聞きました。

 仮にあなたが勇者という存在だったとしましょう。本当に勇者様だったらすいません。

 魔王を倒すためでしょうか、あなたはきっとこの手紙を読んだ後すぐにどこかの国か街に冒険していくでしょう。

 そうだとして、もしもあなたが訪れた街に私が経験したほどの災害が起きた時、どうしますか?

 なんとしてでもみんなを助けようとするでしょうか。

 自分の身を放り出し、みんなをその力の限り避難させたりするのでしょうか。

 ですが考えてみてください、本当にあなたにはそれができますか?

 あらゆる人の命を一つも落とさせずに、助けることを、一つの命で救えるでしょうか。

 それにもしもあなたにそれができたのならば、あなたは戦争を止めることができるはずです。

 町にいる人を全員避難させることは正直不可能だと思います。

 ゆえにあなたは震災をどうにかしなければならない。

 どういう震災か?

 戦争を止める震災です。

 この世のほとんどの国が参加したあの戦争を一晩で主要国を戦闘不能に追い込み、戦争の放棄を宣言を出させた震災です。

 私は体験談の際に『この世で最大の魔法は決してこの星を超えることはない』と書いたといいました。

 少し訂正しましょう。

 私は小さいころから独学で魔法を扱っていたこともあって、魔法を作ることに長けていました。

 ゆえにわかるのです。

 きっと未来、今よりもさらに進化した魔法で、最も優れた魔法使いたちが世界各地で同時に最大火力の攻撃を星に向ければ、星の崩壊を起こすことは可能なはずです。

 ですがそれは、同時にこの星を超える魔力が必要です。

 この世界ではその魔力量というのはそのまま防御力につながるといっても過言ではありません。

 自然的魔力そのものである星を我々が越えるというのは、つまり魔力量で勝ることです。

 この世界のすべての人間が協力したとして、そんな暴挙ができるでしょうか。

 そんな星の、一つの技である震災。

 もしもあなた一人でそんな震災を打ち負かし、誰一人の命を失わさせなかったというのなら、あなたにはきっとどんな戦争でも一人で止められてしまう。

 もしも、あなたの仲間と協力し何人かを救えたとしてもあなたは欲張りのせいで命を落とすことになる。

 でも、もし逃げる選択をとれたなら、そのあとに魔王を打倒できる可能性ができる。

 どうしましょうか、目の前の命と、魔王の首、どちらを取りましょう。

 魔王の首を手に取り、生き延びたのなら、そのあとが待っています。


 ここで視点を変えて、あなたがもしもとんでもない悪党だったらの話をしましょう。

 悪党はエゴイズムで動きます。

 人の利益を奪ってだからこそ悪党ですから。

 ですがそれでは、私たちも当てはまってしまいます。私たちだって人に不利益を与えないわけではないでしょう?

 ですから、とんでもない、とつけさせてもらいます。善の心を持たない人ということです。

 そんな人が勇者と同じような状況になったときについて考えてみましょう。

 まず人を助ける前に自分の命の安全を最優先にするでしょう。

 実際これは普通の住民と変わりません。

 ですがもし空き巣を考えてしまったらどうでしょう。

 目についた家におもむろに忍び込むのではないでしょうか。

 そして金品を盗み夢中になることでしょう。

 さてこのままだと悪党はきっと迫りくるものに気づかず、命を落とすでしょう。

 それとも途中でやめて命を大事にするでしょうか。

 目の前の金品(利益)と、自分の命、どちらを取りましょう。

 もし自分の命を選び、生き延びたのなら、そのあとがまた、待っています。


 私は死んでしまった方たちがどんなものを見たのかは知りませんが、生き延びたものが見たそのあとの景色は知っています。

 

 さて勇者にしても、悪党にしても、自分の命を案じたものは、人の集まる避難所で見るものは同じです。


 

暗闇の中、

友人を、

恋人を、

親を、

兄弟を、

宝を、

失ったものを考えながら、

泣き出す者も、

絶望する者も、

嘆く者も、

どんなに現実から抗おうとするも、

ただ、

時間がたつほどに、

その現実が近づいてきて、

悲しみも、

さみしさも、

絶望も、

どの言葉も当てはまらない、

ただ生きることのみを決めた、

そんな人々の顔は、

あまりに何もなくて、

その場を凍らせていきます。


ある人は、

命からがら生き延びて、

でも、

その生を喜ぶことはなく、

ただ、

痛みと、

悔しさと、

後悔と、

怒りと、

恐怖を感じて、

歯を食いしばり、

拳を強く握りしめ、

手から、口から、血を流しつづけています。


 どんな人間がこの状況を見たとして、どんな気持ちになるのでしょう。


 私は経験談の時少し表現をぼかしました。

 ここまで読んでいただけたあなたに感謝を表し、避難所の実際を伝えましょう。


 集まった数千もの人々の顔は一人の漏れもなく狂っていました。

 狂いといっても、狂乱という意味ではありません。

 ただ、どんな人も本当にここにいるのかを疑るほどに、現実から目をそらし、心をなくしていました。

 救いを求めるのでもなく、ただこれは夢か何かだと、そう願っているようでした。

 周りには、自分を生かすほどの人も物もなくて、なぜ自分だけがいるのか、ずっと疑問にしているようでした。

 私が治療をしようとしても嫌がるも感謝もなく、ただそこに存在しているだけのようでした。

 でもその生に執着していたことは、魔物の襲撃の際にわかりました。


 あの夜、池の水を汲みに行ったとき、水に映った私の顔は

 ●




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は続きを書こうとすると、なんだか一つも筆が進みませんでした。

 まったくあの時のことを思い出せなくなったのです。

 インクが垂れて黒い染みができた時、私はその光景をやっと引き出しました。

 すると私は机に乱暴に筆をおきインクを手紙にぶちまけた後、上から下に手紙を引き裂き、そのまま手紙を放り投げ、魔法で八つ裂きにし、部屋の出口に向かいながら、その宙に舞って部屋を満たした紙の一片一片を



 燃やした。






短編ニ作品目「復興の手紙」

ご精読ありがとうございました。

実はこの手紙の部分はある吹奏楽の曲をモチーフにしています。

もしも心当たりがある方は、それを聞いた後にもう一度読んでみてください!

面白いと思います。

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