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クエスト後の一杯

「プッハーーー!!!やっぱり、一仕事した後の一杯は最高ね!!!」


シエスタがジョッキに入った液体を一気に飲み干す。

とても、女神とは思えない姿だ。どこからどう見ても、仕事帰りに居酒屋にいる中年のサラリーマンにしか見えない。

俺も一口、ジョッキの中の液体を飲む。

どうやら、ビーズという名前らしい。前飲んだ時もそうだったが、口の中でパチパチと粒が弾けるような感触がある。

ビーズと呼ばれる植物を使って作るらしい。割とどこにでも生えているらしく、採集も簡単らしいが無闇に手を出すと原材料となる実が爆発して怪我をすることがあるらしい。

何で、変な仕掛けがあるんだと言いたい。


「お前が勝手な行動をしなければ、もう少し楽に事が進んだんだけどな。」


俺は、すでに酔い始めて顔が赤くなりつつあるシエスタに言う。


「別にいいじゃないの!倒せたんだから―!」


そう言うと、隣で飲んでいるユキネの肩を掴み、自分の方へと引き寄せる。

ユキネの方はシエスタのスキンシップにもだいぶ慣れて来たのか、割と嫌がることなくシエスタと一緒に体を寄せ合うようにして飲んでいた。

モリクマを倒した特別報酬として、余分にお金が貰えたのでシエスタとエレナ、そしてユキネと宴会をしている状況だ。

すっかり食べ慣れたファングの肉を頬張りながらチビチビとビーズを飲む。


「でも、無事討伐出来て良かったです。一時はどうなるかと思いました。」


エレナがホッとしながら、ゴクゴクとビーズを飲む。-


-シエスタから一通りバフを受けた俺は、モリクマの前に立つ。

想像以上にデカい。正直言って、すぐにでも帰りたい気持ちだ。


「よっしゃ!来い!!!」


俺はそう叫ぶと、モリクマの建っている方向とは真逆の方向へと逃げる。

モリクマの俺の声に反応すると、凄い勢いで追いかけて来る。


「うおおお!!!マジで怖い!」


頭の上に小さな木やら草やらが生えているクマ。目は完全に白目を剥いた状態でこちらに迫って来ている。


「頑張れー!捕まったら、サヨナラよー。」


バフはかけたからやることがないシエスタが少し離れた草むらからヤジを飛ばす。

あいつは、後で殴ってやろう。

他人事だと思って、調子に乗りやがって。


「ユキネさん!ユキネさん!まだですか!」


俺は目の前で立ちふさがっているユキネに声を上げる。

ユキネの近くまで俺が引き付けて、ユキネがタンク役として一撃だけ耐えてもらう。

タンク役が出来るようなスキルは持っていないが、シエスタからバフとして防御力を限界まで上げてある。

恐らく、十分耐えてくれるだろうと思う


「任されました!」


ユキネが俺の前に立つと、モリクマが振り下ろしてきた鋭い爪による一撃を自身の刀で受け止めるように耐える。


「エレナ!準備は大丈夫?」


俺は、シエスタの隣にいるエレナに声をかける。

エレナは草むらから姿を見せると、持っていた杖を空へと掲げた。


「ユキネさん!避けてくださいね!」


エレナが俺に頷くと、ユキネに合図をする。

耐え続けていたユキネが踏みつぶられそうになるギリギリの所で抜け出す。

そのまま、モリクマの爪が地面に突き刺さって動きが止まる。


「“メギドフレイム”!!!」


すでに詠唱を終えていたエレナが魔法を放つ。

ユキネと共に離れた場所にいた俺達の目の前でモリクマが炎の渦に巻き込まれていた。

うおおおん!、と言う叫び声と共にずしんと音を立ててモリクマが倒れ込んだ。


「…疲れた。」


俺はその場に座り込んだ。

ユキネもとりあえずは大丈夫かと思ったのか、一息ついていた。

そんな俺達にエレナが駆け寄ってくる。


「大丈夫でしたか?」


不安疎な表情を見るエレナ。俺は安心させるために笑みを浮かべた。


「まあ、怪我はなかったから大丈夫かな。」


俺は、地面に倒れているモリクマと呼ばれるモンスターを見る。

元々、白目をひん剥いて襲ってくるようなモンスターだったが倒れている時も白目はひん剥いたままなんだなと思った。


「案外余裕だったわね。流石、私!」


シエスタがルンルンとステップを踏みながらこちらにやって来た。

お前はバフをかけただけで、倒したのは俺達だろと言いたい。

ただ、この女のバフ自体はかなり効果があった。そこに関しては、感謝しないとなと思った。


「しかし、面白い生き物ね。植毛みたい。」


モリクマの頭をチョンチョンと触れながら、シエスタが言う。

余裕で触っているが、何か変なウィルスとか持っていそうで怖い。

帰ったら手洗いとうがいをしっかりしておくかと思った。


「さーて!後は残りの5体倒したら終わりね!パパッと倒して帰りましょう!」


「お前はそうやってフラグが建ちそうなことを言うんじゃねえよ。」


俺はそう言うと、立ち上がった。

軽くズボンに付いた砂をはらった。地面に目を向けていると、何やら地面が少し揺れたような音がした。

俺は、音のする方を見た。


「…どうしたの?鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして?」


シエスタが不思議そうに首を傾げる。

恐らく、シエスタ以外の全員が同じ表情をしていただろう。


「シエスタ!後ろ!後ろ!」


俺はそう言うと、一目散に走り出す。後ろからはエレナとユキネも同じように追いかけて来る。


「…何よ?急に逃げ出して?」


シエスタが後ろを振り向いた時だった。


「ぎゃああああ!!!」


シエスタの声が背後から響く。


「どうしますか!?シエスタさんは!」


「知らない!知らない!いいか!あいつのことは忘れるんだ!いい奴だったよ、きっと!」


俺はエレナに向かって叫ぶ。まだ、バフが効いているのだろう。

走るスピードは衰えていない。


「死んでないわよ!!!」


突然、俺の横から声が響く。

そこには必死の表情で走るシエスタがいた。


「お前っ!生きてたのかよ!」


「当り前よ!こんなとこで死んでたまるモンですか!!!」


コイツ、MPとかはかなり高かった気がするが素早さとかその辺りはそんなに高くなかった気がする。


「自己強化をフルでしてきたのよ!あんた!置いて行ったら祟るからね!」


「ざけんな!じゃあ、それ俺にもかけろ!というか、何であいつは生き返っているんだよ!」


自分だけ強化している女神に俺はツッコむ。

何だか、先ほど見た時よりも頭の上の森が元気に育っているような気がする。


「私って生命とかその辺りを司る神様だから。もしかしたら、あれ触った影響で成長始めたのかもしれないわね。」


「お前が原因じゃないか!じゃあ、お前が責任もってあれ倒して来い!」


何てことだ!せっかく、倒したと思ったのにコイツのせいでさっきよりも強化されて復活している。

やはり、コイツは女神じゃなくて疫病神か何かかもしれない。

そういえば、コイツが歩くと雑草やらが元気よく生えているのを思い出した。


「無理に決まってるじゃない!私、攻撃スキルほとんど覚えてないのよ!」


「だったら、無闇やたらに触るんじゃねえよ!小学生か!」


俺とシエスタが言い合う。


「言い合ってる場合じゃないですよ!このままだとバフが切れて追いつかれます!」


エレナの声が響く。

俺は走りながら何とかならないか、と考えた。

いや、待て。コイツが復活した原因はシエスタによって生命力を付与されたからだ。

それならば、もう一度あの頭を焼き尽くせばいい話じゃないか。


「おい!シエスタ!ユキネに全力でバフかけてあげろ!」


俺は隣を走るシエスタに言う。

シエスタは理解出来ずに首を傾げる。この状況なんだから、考える前に手を動かせと言いたい。


「一撃だけ、ユキネに防いでもらってその間にあのクマの頭を焼き尽くすんだよ!多分、あの頭がある限り無限にあのクマは生き返るぞ。」


「なるほど!そういうことね!任せなさいな!」


シエスタはようやく理解したのか、ユキネにバフをかける。

俺は弓を取り出し、矢をセットする。


「エレナ!俺があいつの目を潰すから、それが出来たら頭に狙いを定めて炎系の魔法を打ってくれ!」


「正直、もう魔力ほとんどなくてまともな魔法打てませんよ!」


「マジかよ!それは聞いてない!」


俺は予想外の状況に叫ぶ。

考えろ、考えるんだ。

俺は脳内をフル活用して考えた。人生で一番考えている瞬間かもしれない。

そんな俺の頭に1つの考えがよぎる。


「おい!エレナ!小さい炎で大丈夫だから、この矢じりを燃やしてくれ!」


俺は5本ほどの矢を取り出すと、エレナに渡す。

ユキネはすでに、立ち止まり仁王立ちでモリクマと対峙していた。


「矢じりをですか!?」


「そう!矢じりを!その弓をあいつの頭に打ち抜く!」


俺は立ち止まると、弓矢を5本、弦にかける。

ユキネがモリクマの一撃を防ぐ。ただ、本人は苦しそうな表情で耐えている。

そう長くは持ちそうになさそうだ。

エレナは覚悟を決めたのか、頷くと5本の矢じりに炎を灯す。

燃え上がる矢じりをモリクマの頭に狙いを定める。


「早くしてあげて!あの剣士の人、もう死にそうな表情になってるわよ!」


シエスタがユキネの方を見ながら叫ぶ。

あまり叫ばないで欲しい。狙いがずれそうで怖い。

俺は、狙いを定めると、モリクマの頭をめがけて矢を放った。-


-「しかし、矢じりを炎で燃やしてあのクマの頭に当てるなんてあんたも考えたモノね。」


すっかり、酔って出来上がっているシエスタが赤い顔で俺に言ってくる。

元はと言えば、コイツが原因なのだが今のコイツに言ってもどうせ聞いていないだろうから言わないでおこう。


「しっかし!凄いわね!あんなデカいクマの一撃を防ぐなんて!」


さっきから肩を寄せて一緒に飲んでいるユキネに対してシエスタが言う。

実際、ユキネが耐えてくれなかったらあのクマを倒すことは不可能だっただろう。


「シエスタ殿のバフのおかげです。私は防御力などはあまり高くないので、あのバフのおかげで一撃だけは耐えることは出来ました。」


褒められたことが嬉しかったのか、少しだけ笑みをこぼしながらユキネが言う。

今回のクエストのおかげか、すっかり打ち解けたような感じがする。


「でも、どうして矢に火を付けようと思ったんですか?」


隣に座ってビーズを飲んでいるエレナが俺に尋ねる。


「俺の国の昔の戦い方で城に向かって火のついた矢を放ってたって話を思い出したからさ。ほんの少しだけ魔法使えるならそれしかないかなって思ったんだよ。」


俺はエレナに少しだけ自慢気に言う。

学校の歴史の授業で習った程度の大した知識ではないが、酔っていたことで気分も良くなっていて調子よく話していた。


「昔ってそれ凄く大昔の話でしょ。」


「まあ、大昔と言えば大昔だな。」


俺はシエスタの言葉に頷く。

むしろ、こちらの世界ではそういうことは考えないのかと思った。

まあ、魔法があるから火でも水でも何でも打ち込めるからそんなこと考える必要もないのかもしれないが。


「どうせなら、戦闘機とか作りたいわね。」


「作れたとして動力源をどうやって作るかとかの問題もあるから、そこは考えないとな。とりあえず、身近に作れそうなモノから作っていくよ。」


とりあえず、今は銃関連の武器を作りたい。

後は、それこそ日本で使えたような道具を作ってみたいとも思う。

人間相手だともしかしたらすでに先人達によって作られている可能性があるが、魔族相手ならいい商売になるような気がする。


「まあ、でもこのメンバー。かなり、バランスが取れているわね。回復役とバフを撒ける私がいて、魔法職と前衛職がいるもの。」


シエスタはそう言うと、うんうんと頷いていた。

魔法職はエレナのことだろう。前衛職ならユキネのことだろう。

あれ?ちょっと待って欲しい。


「おい、俺は何の役になるんだよ。」


「知らないわよ。あなた、職業もないし器用貧乏感が半端ないのだもの。」


「誰が器用貧乏だ!あと、職業がないって言い方やめろ。ニートみたいで何か嫌だから。」


俺は、そう言うと、仕返しとばかりにシエスタが食べていた肉を取り上げた。


「返しなさいよ!それは私のステーキよ!欲しかったら、明日の飲み代と交換よ!」


「何で、明日も飲みに行く前提の話になってるんだよ!というか、お前金ないんじゃないのかよ!」


「お金なら、借りればいいわ。何て言っても、お城に住んでいる偉い人とお友達になったんだもの。」


俺からステーキを取り返したシエスタが頬張りながら言う。


「その、お友達とやらが私達のことでしたらお金の貸し借りはちょっと…。」


エレナが少し遠慮するように言う。

まあ、当然の反応だろうと思う。

俺だってコイツにお金なんて貸したくない。いつ返って来るか分からないからだ。


「えー!お願いよー!これからも一緒にクエスト行ってあげるから―!」


「いえ、私達はそもそも本来の業務とかありますから…。」


悪酔いした女神に迫られて若干引き気味のエレナ。

多分、これから先こうやってこの女神に連れられてクエストを受けさせられるんだろうなと俺は思った…。

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