突然の訪問者
皿洗いの後も様々な雑用をこなした俺は疲れ切ったように自室のベットに寝転んだ。
まさか、異世界に来てまで労働をするとは思わなかった。
こんなことなら、異世界転生なんてしなければよかった。
しかし、俺はベットの上に寝転んでいる暇なんてなかった。
というか、このままだと本当に寝てしまいそうだ。
やることがある、というのは今日知った鍛冶師のスキルについてである。
壊れた物を壊れる前と同じように修復出来た。ということは、何かを作ることも可能なのだろうか。
「とりあえず、木材の切れ端をいくつか貰えたからなー。これで机でも作ってみるか。」
俺は、そうつぶやくと木材の切れ端を並べる。
すると、並べた木材の切れ端が材質が木で作られた机に変わった。
俺は、別の木材の切れ端を手に取った。
すると、次は皿が出来た。
「なるほどなー。」
俺は、つぶやく。
恐らく、その材質にあったモノを想像すれば大体のモノが作れる。
ただ、その材質から作れるモノでなければダメなのだろう。
例えば、木材から銃を作ろうと思ってもそれは木の銃でしかない。だから、多分使い物にならないレプリカでしかない。
あと、色とかは自分で塗らないといけないのだろう。
「使い方次第で、色々出来そうではあるよな。」
まあ、これがチート能力ですと言われたら戦闘面ではあまり役に立たないチート能力なのかなと思う。
いや、それこそ使い方次第で戦闘方面にも利用は出来る気がする。
まあ、ステータスの件で当分はクエストに出るのは気が引けるが。
そんなことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞー。」
俺は、外に声をかける。
外からはライアが入って来た。
「入るぞ。って、何だこれ?」
俺の目の前にある机を見て驚く、ライア。
元々部屋にはベットと服をしまったりするタンスくらいしかなかったので突然机が俺の前にあり、驚いたのだろう。
「凄いだろう、作ってみた。」
俺は少しばかり、自慢気に言う。
「凄いな、本当に机だ。」
逆に本当じゃない机とは何だと言いたい。
「この鍛冶師、ってスキルで色々作れそうな気がするんだよな。」
俺は冒険者カードをライアに見せる。
「前言っていたやつか。確かに、色々作れるのは良さそうだよな。」
ライアがカードを覗き込んで、俺に言う。
「ただ、そこそこ制限があるのがネックだよなー。無条件に何でもポンポン作れるような能力の方が良かったんだけどな。」
「それが出来たら、もうやりたい放題になってしまうんじゃないのか?」
「正直、異世界に転生した能力者って話なんだからそれくらいの何でも能力であるべきだと思う。」
「まあ、確かにお前みたいな姿の人間達はどれも凄い能力とか武器を持っているらしいからな。私も頭が痛い。」
そう言うと、ライアは俺の座っている隣に腰を下ろす。
俺は、その隣で木材の破片をいじっていた。
「よし、木刀が作れた。」
俺は、どうだとライアに見せた。
「…木刀?」
ライアが首を傾げる。
どうやら、木刀はこの世界にないらしい。
「俺の元々いた国にあった武器だ。鉄とかあれば、拳銃とかの武器とかも作ってみたいんだよなー。」
「拳銃?何だかよく分からないが、色々と知らない言葉だな。」
不思議そうな顔をするライア。
そんなことを話している時だった。
外から、何やら声が聞こえてきた気がした。
「何か言った?」
俺はライアに尋ねる。
「いや、私は何も…?」
ライアも同じように外を見る。
すると、外から何やら飛んでくるのが見えた。
その姿は段々と近づいて来ているような気がした。
「…何か来てないか?」
「来ているな。」
俺とライアが顔を見合わせてる。
そして、窓ガラスが派手に大きな音を立てて割れると1人の女性が突っ込んできた。
「あっぶな!!!」
俺は間一髪で避けると、その女性はそのまま壁へと激突する。
そして、壁からズルズルと落ちると地面に座り込んだ。
「何これ?」
ライアが俺に尋ねる。
俺が聞きたいくらいだ。突然、窓から突っ込んできたと思ったら壁に激突して動かない。
人間魚雷とか新しい兵器なのだろうか。
もしかしたら、俺以外の転生者が作り出した兵器かもしれない。
そんなことを考えながら、俺は立ちあがった。
ライアが俺の背中に隠れるようにして一緒に近づく。
「あのー、大丈夫ですか?死んだ?」
俺はツンツンと背中を触ると、壁に激突した何かに尋ねる。
本当に一切動かない。もしかしたら、冗談抜きで死んでいるかもしれない。
そうだとするなら、縁起が悪いので早々に火葬にでもして弔うとしよう。
「いったーーー!!!何で、避けるのよ!!!」
突然、壁に激突した何かが起き上がると大声を出す。
「うわぁぁぁ!!!生きてる!!!」
俺は恐怖からか後ろに下がる。
その拍子で俺の背中に隠れていたライアも一緒に下がる。少しだけ体が密着していたのか柔らかいモノが背中越しに感じる。
ありがとうございます…。
「生きてるわよ!何で、避けるのよ!本当に死んだかと思ったわ!」
「いや、死にかけたのかよ。」
俺は女性にツッコむ。
どこかで聞いたことがあるような声だなと思った。そして、顔もどこかで見たことがある気がする。
ただ、どうにも記憶が思い出せない。あと少しの所まで来ているのだが…。
そして、その記憶もどこかいい記憶とは言えない。
「って!本当に魔王城にいたのね!馬鹿じゃないの!?」
突然失礼なことを言ってくる女性。
銀髪の長い髪をした女性だった。どうやら、この女性は俺のことを知っているようだ。
「大丈夫ですか!凄い音がしましたが!?」
エレナがユキネと数人の部下を連れて部屋に入って来る。
「まあ、大丈夫だとは思う。」
中腰で女性を観察している俺を横目にライアが言う。
「…何なんですか、この状況は。」
部屋のカオスな雰囲気にエレナが呆れていた。
ユキネはじゃあ持ち場に戻ってください、と部下達に言って解散させていた。
「知らん。急にこの女が窓から突撃してきた。」
ライアが首をすくめて言う。
「ちょっと、待ちなさいよ!魔王ごときがこの私のことをこの女呼ばわり!いい度胸ね!」
立ち上がると、女性がライアに食ってかかる。
正直、うるさい。
というか、やはりこの声。どこかで聞き覚えがある。
俺はここ数日の記憶を辿る。
「お前!あのクソ女神か!」
俺は、ようやく思い出すと声を上げる。
そう、俺をこの世界に送り込んだ元凶だ。
名前は確か…。
「シゲハル、だっけ?」
「誰よ、それ!シエスタよ!シエスタ!女神、シエスタ!」
そうだ、シエスタだった。
クソ女神、という情報しか残っていなかったから名前を間違えてしまった。
「女神…?」
俺の背中に再び隠れたライアが聞き返す。
女神、という単語に少しだけ恐怖感を抱いているようだった。
シエスタはライアの反応を見ると、フフン、と鼻で笑うような表情を見せる。
そして、両手を広げた。
「ようやく気付いたようね!私の名前は、シエスタ。そう、女神シエスタよ!さあ、覚悟なさいな!魔王!!!」
「と、自称をする痛い女だ。俺をこの世界に送り込んだ張本人だな。」
「誰が痛い女よ!事実よ!事実!」
俺の付け加えた情報にケチを付けるシエスタ。
実際、今のお前を見て誰が女神だなんて分かるんだよと言いたい。
「確かに、神格っぽさは感じられますね。女神なのかどうかは分かりませんけど、嘘は言ってないようには思えますね…。」
若干、引き気味のエレナが小声で言う。
どうやら、魔族側からしたら相反する存在故に感覚的にシエスタのことが女神だと分かるらしい。
「ほら、やはり分かるのよね。まあ、所詮は日本でオタクしていただけの男には私の偉大さは理解出来ないのよ。」
ここぞとばかりに憐みの表情を見せてくるシエスタ。
お前が偉大、というならゴキブリでも偉大だと思えると言ってやりたい。
「で、その女神様が何の用なんだよ。お前のせいでこっちは大変な目に遭ったんだぞ。」
俺は、話が進まないと思いとりあえず本題に入ろうとした。
シエスタはそうだと思い出したかのような顔をした。
「そうよ!それが問題なのよ!あんたの送り先がミスったせいで、天界をクビになったのよ!」
泣きそうな顔をするシエスタ。
本当に、感情表現が豊かな奴だと思う。
「むしろ、それが正しい判断だろ。上司はまともなんだな。安心したよ。」
「良くないわよ!おかげで、私一文無しよ!」
「俺はお前のせいで一文無しどころか、もう一度死ぬ羽目になったんだけどな。」
自分のことばかり言うワガママな女神に対して俺は言い返す。
「知らないわよ。あなたの運が悪かっただけでしょ。」
…コイツ、反省する気ゼロじゃねえか。
「何が運が悪かっただけだ!おかげで、冒険者カードの説明も受けてないからスキル振りミスってるんだよ!こっちは!」
俺は、シエスタの頭を拳でグリグリしながら言う。
「痛い!痛いのよ!分かった!とりあえず、謝るからその拳を頭に押し付けるのやめてちょうだい!!!」
シエスタは泣き叫ぶと、俺に土下座をしてくる。
一応、謝りの姿勢は見せたので拳を頭から離す。
「うー。神聖なる女神の私が日本でオタクしていたような男に辱められるなんて…。」
「人聞きの悪いことを言うんじゃねえよ。当然の仕打ちだろ。」
涙を指で拭うシエスタにツッコむ。
「それで、この方はどうするのですか?」
俺達を見ていたユキネがライアに尋ねる。
ライアはかなり悩んでいる表情だった。当然であろう。
魔王と相反をなす女神なのだ。正直、俺がコイツの立場なら追い出す。
「まさか、あんた。追い出すなんて言うんじゃないでしょうね?」
ライアにシエスタが詰め寄る。
ライアはひえっと声を上げる。
「えぇ、いいわよ。それでも。ただ、それをするなら私にもそれ相応の考えがあります。」
もう女神じゃなくてヤクザか何かだろとしか思えない。
そう言うと、俺の背中に隠れているライアの手がギュッと俺の服を掴んでいた。
「な、何が望みなんだ?」
そう言うと、待ってましたとばかりにシエスタが俺達に冒険者カードを見せて来る。
人間界に落とされたせいで、冒険者カードをこの女も持っているようだった。
「私もここに住ませなさいな。最初、人間界でとりあえず数日過ごそうと思ったのよ。でも、誰も私のことを女神とは認めてくれないし崇め奉ってくれないのよ!」
不満爆発とばかりにシエスタが言う。
そりゃそうだろ、とその場にいる全員が思った。
そもそも、俺以外の3人も神格とかそういったフワフワしたモノでしかこの女を女神と認められていないのだ。
そういうモノが分からない人間からしたら、ただのワガママな虚言癖の女にしか見えないだろう。
「…女神を城に住まわせるのですか?」
流石にエレナもそれはとばかりにライアを見る。
ライアは俺の方を見て来る。いや、その判断はお前がすることだから俺を見ないで欲しい。
というか、出来たらこんな女と一緒に生活したくない。
「もし、断ったらどうするのだ?」
ライアが小声で尋ねる。
シエスタは邪悪な笑みを浮かべた。もう、コイツが魔王でいいだろと思う。
「あなたを消すわ。」
「させねえよ!」
俺は思いっきり、シエスタの頭をはたく。
シエスタは殴られた頭をさすると俺に逆ギレをする。
「何をするのよ!痛いわね!」
「いや、困ってるだろ!」
「だって!だって!私だって上に言われたからバンバン送り込んだのに!送った人間達が好き放題したからって私の責任にするなんておかしいと思わない!」
そう言うと、シエスタは地面に転げ回って泣き始めた。
先程からの騒々しさから、城中の人間がドアの外から眺めていた。
まあ、少しは可哀そうに思うがじゃあちゃんとした人間を精査して送れよと言いたい。
「…どうするよ?」
俺はライアに顔を近づけると、小声で尋ねる。
ライアもどうしようかとずっと悩んでいる。
そして、覚悟を決めたのか俺の背中に隠れるのをやめると、地面を転げ回っているシエスタの前に腰を下ろした。
「ここの城や町の魔族達に何もしないと約束は出来るか?」
シエスタはその言葉を聞くと、バタバタしていた手足を落ち着かせた。
そして、ふと考えていた。
「まあ、私に危害を加えないなら何もしないわよ。」
「だったら、ここにいるヒロトと一緒に城での雑用だったりクエストだったりで自分達で生活するのであればここにいることは許すよ。」
「ホント!あなた、魔王のくせに話が分かるのね!いいわ!今までの無礼は許してあげましょう!」
シエスタは飛び上がると、ライアの手を握った。
無礼をしていたのはお前の方だろと言いたい。
ライアも微妙そうな顔を浮かべていた。もちろん、エレナとユキネも。
こうして、天界をクビになった自称女神が新たに加わった。