森を荒らす冒険者達に鉄槌を!
様々な声が混じって、賑やかな店内。
俺は、数人と酒を飲んでいた。
「パンツくらいいいだろうが!あいつも、硬い女だよなー。」
俺は注がれたグラスの中の酒を飲み干すと、乱暴に机に置いた。
「まあ、やり方がバレバレだったな。今度は上手くやるようにするしかないな。」
隣で一緒に飲むライオン顔の男ことダンカンが言う。
横から、酒が注がれる。
「そもそも怒られて当然じゃない?っていうツッコミをするのは野暮なのかな?」
リリィがポツリと言う。
「女子のパンツってのは男のロマンなんだよ!そんなことも分からないのかよ!」
俺はリリィに力説をする。
リリィの方は若干引き気味だった。
「まあ、男の子だからね。ただ、ヒロト君の前では危ないなって気持ちにしか今はなってないよ。」
そう言うと、少しだけ俺から距離を離す。
周りにはダンカンと共に一緒に来ていた警察隊の面々もいた。
今日は集団で来たこともあり、宴会のような感じで飲んでいた。
「しかし、ライア様も最近はよく笑うようになってこちらとしては嬉しいことだ。」
隣でよく指名している店の女の子と飲みながら言うダンカン。
正直、俺からしたら最近はさらにじゃじゃ馬っぷりが増している気がするのでもう少し大人しくなってもらいたいのだが。
そんなことを考えながら、酒を飲んでいると…。
「そういえば、聞いたことある?」
別の席に座っていたナヤが俺達に近づいてきた。
「何を?」
俺はナヤに聞き返す。
ヴァンパイアの従業員のナヤ。正直、すっかりこの店でも馴染みとなった。
「最近、人間の冒険者達が魔獣達を退治しまくってるって話?」
「知らない。初めて聞いたな。」
俺はダンカンの方を見る。
ダンカンもあまり知らないのか、首を横に振る。
「何でも、例の森の異変を解決しちゃったから高レベルの冒険者からしたら怖い存在はいなくなったから好き放題暴れまわっているんだってさ。」
小さなグラスに注いだ酒を揺らしながら、俺が座っているソファーの背中越しから言うナヤ。
「まあ、でも魔獣が倒されまくっても別に困る話じゃないだろ?魔王軍にしてもあの森にはあまり入るなって言われてるんだし。」
まあ、勝手にペットを放つどこぞの領主のアホ息子もいるが、それは置いておくとしよう。
「私、あの森に住んでたからさ。魔獣達とは仲良くしてたんだよ。何だか自分だけここで生活してるのも心苦しくてさ。」
そう言うと、ナヤが甘えるように俺に抱き着いてきた。
「ねえ、そこで魔王軍と繋がりのある君に頼みたいんだよ!ほら、この通りだから!」
そう言うと、ナヤが頭を下げる。
「僕からもお願いします。」
いつの間に来たのか分からなかったが、この店のマスコットのスケルトンことジルも一緒に頭を下げてきた。
正直言ってやりたくない。
というか、魔王軍の管轄している地域で唯一あるあのバカでかい森には毎回何かしらの問題が起きるんだ。
一度、お祓いでもしてもらった方がいいだろうと思う。
「ねえ、ヒロト君。私からも頼めないかな?今日は警察隊の人も多く来てくれているし、みんなで頼みを聞いてくれたらサービスしちゃうんだけどなー。」
これ見よがしに甘えた声で言うリリィ。
ダンカンや他の一緒に飲んでいた面子に付いていた女の子達も同じように甘え始めた。
俺は、ダンカンと顔を見合わせた。
そして…。
「しょうがないなー!」
そう言うと、俺は高々とコップを天井に向かって掲げた。-
―「で、結局あの場にいた全員で行くことになるのか…。」
俺は草むらに隠れながら、ポツリと言う。
後ろのは腕組みをして立っているダンカンがいた。
「仕方がない。いつも世話になっているお礼だ。これくらいはしてやらないと。」
「あんたの場合は上手く人間の冒険者を追い払った後のご褒美が欲しいだけでしょ。」
俺は呆れながら言い返す。
「それは君も同じだろ。」
ダンカンが俺に言う。
俺は図星を突かれたので無視することにした。
「そういえば、アルベルトとソルベは?」
ほとんど見知った顔ばかりだが、あの2人はいないなと思った。
「あの2人はそもそも、店の常連じゃないからな。加えて、全員で行くとライア様に怪しまれる。」
「ナヤも絡んでいるとはいえ、あんたのせいでそのライア様の妹様にバレているんですけど。」
以前、口を滑らせたせいでエレナにバレているのだ。
まだ、エレナは周りには誰にも言っていないがいつ口を滑らせてライアにバレることやら。
「あの時のことは悪かった。謝っただろ。」
ダンカンも思い出したのか、苦々しい顔をする。
そんな話をしていると、何やら物音が聞こえてきた。
俺は周りに指示を出して、身を潜めるように言う。
どうやら、数人で来ているようだ。
以前に面識のあるチート転生者がいなければいいのだが、と俺は心の中で思った。
「よし!今日もたっぷり経験値稼ぎするか―。」
冒険者らしき集団の1人の声がする。
そして、夜の暗い中から飛び出してきた魔獣を一突きで倒す。
そして、そのままその場所で同じように表れた魔獣を一通り倒して暴れまわっていた。
「なるほど。あれが、ナヤちゃんの言っていた連中か。」
ダンカンが俺の横から言う。
純粋に魔獣を倒しているだけなのだろうか。
まあ、それならそれでクエストをしていると思うのだが、わざわざこんな夜中にする理由は何なのだろうか。
冒険者達の集団は満足したのか、別の場所へと向かった。
俺達は姿が見えなくなるのを確認すると、暴れまわっていた場所を調べる。
「酷いな、これは。」
1人がつぶやく。
確かに、めった刺しにされていて何もここまでしなくてもいいのにと言いたくなるような状況だ。
確かに、これをナヤが見たら悲しむだろうなとは思う。
「どうする?ヒロト君。」
ダンカンが俺に尋ねる。
俺は、少しだけ考える。
「要は、怖がらせればいいだけなんだよな。ここに来ないようにするために。」
そう、わざわざ戦闘する意味はない。
腕の立つ警察隊の面々がいるとはいえ、あくまで最終手段だ。
「ふむ、驚かせるか。なら、俺たちに任せて欲しい。」
ダンカンが自信満々に言う。
「あんまり手荒な真似はやめてくださいよ。ただでさえ、今はユキネの件もあるから…。」
俺はダンカンに言う。
俺は俺で、ダメだった時のために個人的に準備をしておこうと思う。
俺はその旨をダンカンに言う。
「うん、分かった!では、準備が終わるまでに俺達で終わらせてしまおう!」
そう言うと、ダンカンは部下達に元気よく鼓舞し始めた。
俺は大丈夫かな、と一抹の不安を覚えていた。
…1時間後、俺が再び戻ってくるとそこには恥ずかしそうな顔で並んでいるダンカン達がいた。
「一応聞くけど、上手く行きましたか?」
俺は目の前の光景に目をつむり、尋ねる。
「ダメだった。上手く行くと思ったんだけどな。」
ダンカンが悔しそうに言う。
俺は我慢出来ずに、その光景にツッコむ。
「いや、無理に決まっているでしょ!何で、どいつもこいつも全裸なんだよ!」
そう、漏れなく全員全裸でその場で立ち尽くしていた。
一体、何をどうしたらこうなるのかと問いただしたい。
「いや、君が驚かせてここに来なくさせればいいと言ったじゃないか。」
ダンカンが申し訳なさそうに言う。
「言いましたね。」
俺も静かに答える。
「だから、全裸や奇怪な格好をすれば驚くのではと思ってな…。」
「…動物園のサルじゃあるまいし。で、結果はどうだったんですか?」
俺は分かりきっているが、一応聞いておこうと思って尋ねる。
「うむ。女性がいてな。彼女らは驚いていたが、男性陣は驚くこともなく返り討ちにしようとしてきて、武器も持っていなかったので慌てて逃げてきたのだ。」
「バカじゃん!せめて、武器くらいは持って行きましょうよ!あんた、本当に長官なのかよ!」
俺はあまりにも予想通り過ぎる結果に呆れながらツッコむ。
「だから、言ったじゃないですか。次は、全身に金色のコーティングをして驚かせに行きましょう。」
後ろから部下らしき男がダンカンに言う。
「いや、意味ないから。何でそれで上手くいくと思った?街灯じゃないんだぞ。」
俺はやれやれと思いながら、とりあえず持ってきたものを整理する。
「何を持ってきたのだ?」
裸のダンカンが近づいて尋ねる。
せめて、服くらいは着て欲しい。
男の裸なんてみたくないのだから。
「1体だけ、巨大ロボットを持って来たんですよ。これで、物音を立てまくって、最後に拡声器で怖がらせようという作戦です。」
古典的だが、全裸で突撃するよりかはよっぽどマシだろう。
俺は、そう言うとダンカンを含めた警察隊の面々に仮面やら何やらを渡していく。
これで、驚かして周りの木々をざわめつかせればある程度は恐怖を与えれるだろうと思う。
俺は、さてどこに行こうと思ったその時だった。
再び、足音が聞こえてきた。
どうやら、戻ってきたようだった。
俺は、変装が済んでいるかを確認する。
ダンカン達がいつでも行けると言わんばかりに頷く。
俺は手で行ってこい、とジェスチャーをする。
「うがー!お化けだぞ!」
またそんなテンプレみたいなセリフを。
俺は呆れていたが、思ったよりも夜の暗さと仮面の模様で恐怖感を与えれたのだろう。
明らかに、全員がビビっている様子だった。
俺はすかさずに、残っていた面子に指示を出した。
草や木の枝を激しく揺らして、物音を立てまくる。
ちょうど、風も吹いていていい感じの演出になっている。
「よしよしよし、怖がり始めてるぞ!音も出せ!」
俺は少し楽しくなり、さらに指示を出す。
以前作ったが、使い道もなくて埃をかぶっていた太鼓やらの楽器が鳴り出す。
ダンカン達がなぜか謎のダンスを始めたが、もうそれはいいや。
冒険者達が武器を構えだしていた。
そろそろかな、と思った俺は拡声器を取り出す。
「森に勝手に入り、暴れる愚か者どもよ!聞け!我は森の精霊なるぞ!」
ナヤが隣で聞いたこともないような低い声で大声で叫ぶ。
俺がするよりもナヤにやらせた方が面白そうだったので、こちらに戻る途中に呼んだのだ。
「ふざけるな!何者だ、お前達!」
冒険者の集団の1人が声を上げる。
謎の踊りを続けるダンカン達に取り囲まれて、顔は明らかに焦っていた。
「我は森の精霊!この森を荒らすお前達に裁きを与えに来た!」
俺はナヤの声に必死に笑いをこらえていた。
帰ったら、しっかりと弄ってやろう。
「上等だ!俺達が高ランク帯の冒険者だと知っていてのことだろうな!なら、覚悟しやがれ!」
そう言うと、1人がダンカン達に斬りかかろうとした。
その時だった。
「試運転、開始!」
俺はそう言うと、ロボットを動かした。
ガシャン、と音が鳴ると駆動音が響き、目が光り始めた。
座らせた状態で、ほとんど見上げる程度の高さだったので突然草むらから光りだした何かに冒険者達は慌てふためいていた。
「ひィィィィィィ!何だ、あれ!?」
そう言うと、我先にと剣を構えていた冒険者が逃げ出した。
恐らくは彼らのリーダーだったのだろう。他の冒険者達も蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「当分はこれで近づかないだろう。」
俺はピョンと、ロボットから飛び降りる。
同じく、拡声器を持ったナヤも飛び降りた。
「いやー、楽しかった。楽しかった。またやりたいね、これ。」
「やりたいなら、店の中ですることだな。我は森の精霊だ、って。」
俺はここぞとばかりにナヤの声真似をする。
「そんな声じゃないもん!」
「そんな声でした!」
俺はナヤに言い返す。
気づくと、いつの間にか再び全裸になっていたダンカン達が近づいてきた。
「…えっ。何でみんな裸なの!?」
大勢の男達の裸姿に動揺して、ナヤが目を手で覆う。
「ナヤちゃんの声だったのか。いや、これは失敬、失敬。」
ダンカンはそう言うと、服を着始める。
周りも同様に、服を着る。
何で、裸になる必要があるんだと言いたいがもうツッコむのも面倒なのでやめることにした。
「しかし、これなら俺達の裸でも逃げて行ってくれてもよさそうだったのにな。」
ダンカンがポツリとつぶやく。
「少なくとも演出をした上での裸だからな。極めつけに俺のロボットの姿を見せたこともあったから。裸だけの作戦とは訳が違うの!」
俺は誤解していそうなダンカンに言う。
ダンカン的にはまだ納得が行っていないらしい。
「…また来るのかな、あの人達。」
ナヤがポツリと言う。
「来たら、また追い払えばいいだけだろ。イタチごっこになりそうだけど。」
俺はナヤに言う。
「それもそうだね。また来たら、お店でサービスするのを約束に頼めばいいか。」
「何か上手い手を考えたみたいな言い方だけど、そう何度も乗らないからな。」
俺はチクリとナヤに言う。
「では、帰るとするか!さて、今から店に行こうとしようかな!」
ダンカンの言葉に後ろにいた部下達の喜ぶ声が聞こえる。
俺も片づけが終わったら、合流するとしよう。
ダンカン達とはしゃいでいるナヤを見ながら、俺はそう思った。




