表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/319

魔王軍への報告

「「「人間の冒険者と口論になった!?」」」


城内の一室でライア達の声が響く。

俺は耳を塞ぐ。


「うるせえよ。まあ、態度の悪い客をユキネが注意しただけだよ。」


俺はライア達に言う。

一応、報告をしておいた方がいいと思ったので次の日にライア達が揃っていた時を見計らって、昨日の出来事を言った。

そしたら、ライアとエレナは驚くわ、周りの面子もざわざわし始めて今に至る。


「いや、まあそれは分かるが…。」


ライアが少し考えこんでいた。

エレナもかなり不安な表情をしていた。


「…あの。私がしっかり対応出来なかったのが悪いだけだから、あまりユキネさんを責めないで欲しいの…。」


同行していた、ミリアがライア達に言う。

自分が悪いから、と言って昨日の後、そのまま一緒に魔王城へと来ていた。


「いや、別にユキネを責めるつもりはない。ミリアもそんなに深刻に考えなくていいぞ。」


ライアがミリアに優しく言う。


「しかし、姐さん。どんな奴と言い合いになったんですか?」


ソルベがユキネに尋ねる。

ちょうど、ソルベを含めた警察隊の幹部であるアルベルトと長官のダンカンもいた。


「マントを着ていました。黄色だったと記憶しています。あとは、かなりいい鎧を着ていましたね。」


ユキネがソルベに答える。

ソルベは、ダンカンに視線を送る。


「ダンカンさん。それって?」


「まあ、例の高レベルの冒険者の一団の1人だろうな…。」


ダンカンが小さな声で言う。


「そんなに有名なの?あの色違いマント集団って?」


俺はダンカンに尋ねる。


「かなり高レベルで不思議な力を使う連中だからな。魔王軍もかなり手を焼いている連中だ。」


苦々しく言うダンカン。

俺はチラリとシエスタを見た。


「…何?」


シエスタが聞き返す。


「いや、お前は何か覚えてないのかって聞きたいだけ。」


元を辿れば、コイツが送り出した連中だ。何でもいいから何か覚えてるいないモノなのか。


「昨日も言ったけど、大勢の人間の内の1人なんだから覚えてるわけないじゃない。スキル見たら何か思い出すかもだけど。」


「…使えねぇ。」


俺はポツリと言う。

その声が聞こえたのか、シエスタが飛びかかってくる。

俺は鬱陶しいので、それを頭で押さえつけていた。


「まあ、攻めて来たりしたら考えればいいんじゃないでしょうか?口論だけで、手を出してないのならそこまで大事にはならないでしょうし。」


エレナがライアに言う。

ライアもそうだな、と言うと頷く。

そして、俺の方を見てきた。


「それで、お前の方はどうする?」


「…どうする、って?」


俺は質問の意味が分からず、ライアに聞き返す。


「そのままだ。明日以降もミリアのいる街で店を開くのかということだ。」


あぁ、そういうことか。

俺は少しばかり考えた。

元々、人手不足を感じていたのでゴーレムロボットの数を増やそうとは思っていた。


「まあ、数日はいいかな。ちょっと、怖いし。それに、ロボットの数を増やしたいとは思っていたからな。」


ライアに言う。


「…ごめんね、私のせいで。」


ミリアが俯いて、俺になのかその場にいる全員に対してなのか分からないが謝る。

俺は、ミリアの頭を軽く叩く。


「別に気にする必要もないよ。どうせ、数日は臨時休業の予定だったから。昨日も言ったけど、儲けは十分に出てるしな。」


ミリアは俺にポンポンと叩かれた頭を擦った。


「う、うん。そう言ってくれるのは嬉しいけど叩かないで。」


申し訳なさそうに俺に言うミリア。

今のは、格好つけて漫画やアニメの主人公がよくやる頭をポンポンとする仕草だったのだがどうやらミリアには分からなかったらしい。


「ダメよ、ヒロトさん。今みたいなのはね、イケメンじゃないと成り立たないの。」


その光景を見ていたシエスタがこれ見よがしにニヤニヤしながら俺に言う。

…余計なお世話だ。

俺は、少しばかり悔しかったのでシエスタを睨む。

シエスタは舌を出して、そのままユキネの元に逃げ込む。


「そうか、ならまあいいか。」


ライアは俺の言葉を聞くと、一応納得してくれた。

今回に関しては、俺はもちろんユキネにも落ち度はないと思っている。

そこは、ライアも分かってはいるのだろう。


「というわけで、俺は数日は工場に引きこもろうかな。今回の件で例の(ひいらぎ)航大(こうだい)とかいう奴が攻めて来た時に備えて武器とかも作っておきたいし。」


「また、引きこもりのニート生活に戻るの?」


シエスタがユキネの背中越しからポツリと言う。


「誰が、引きこもりのニートだ。引きこもりはさておき、働いてるからニートじゃねえよ。」


俺は心外とばかりにシエスタに言い返す。


「武器、って言うと?」


ふと、俺の言葉が気になったのかエレナが聞き返す。

俺はエレナの方に視線を向ける。


「そのままだよ。俺が元々いた世界にあった武器を作ってみようかなって考えてる。魔法を使う必要もスキルを覚える必要もないから誰でも持てると思うんだよね。」


そう言うと、ダンカンを見る。

ダンカンが何だ、といった表情をする。


「いや、もし使えそうな出来だったら導入して欲しいなって。最終的には魔王軍の戦えそうな奴らにも配って軍隊みたいな感じにしてみたいんだよね。」


俺は少しだけ壮大な夢を言ってみる。

ゴーレムロボットを巨大化させて、砲台とか付ければ戦闘用のロボットとかにもなるかもしれない。

数日間、工場内に引きこもる際にそちらの開発もしてみるのもありかなと考えている。


「また、何か良からぬこと考えてそうな顔をしてるわね。ヒロトったら。大丈夫なの?」


シエスタがライアに尋ねる。

良からぬこと、とは失礼な奴だ。

むしろ、この魔王軍の為になることだぞ。


「まあ、ヒロトの作る道具は便利だからな。悪用さえしなければ、この魔王軍の為にはなってる…。…なってる?」


ライアが擁護してくれるのかと思ったら、なぜか考えこみ始めていた。

オイ!そこはしっかりと、シエスタに言い返せ。

少なくとも、俺のスキルのお陰でかなりこの城内だけでも色々と貢献していると思うのだが…。

そんな感じでいつものような雰囲気になっていた時だった。


「それで、我々はどうしたら良いでしょうか?」


アルベルトがライアに尋ねる。

ライアも先程の和やかな雰囲気から一転して、真剣な表情に戻った。


「とりあえずは、守りを固めておくのが先決だな。いつ攻められても大丈夫なように、訓練だけは怠らないようにしよう。」


ライアがアルベルトとダンカンに向けて言う。

ダンカンとアルベルトはその言葉を聞くと、頷く。


「…あの、私はどうしたらいいかな?」


蚊帳の外になっていたミリアがライアに尋ねる。


「ミリアは別に気にすることはないぞ。もし、困ったことがあれば遠慮なく頼ってくれればいいと思うし。」


「でも、私がしっかりと断れなかったのもあるから…。」


申し訳なさそうに言うミリア。

どうやら、よっぽどユキネが口論になった原因になったことを気にしているらしい。

正直、あの手の輩はどこの世界にもいるのだから気にする必要もないのに。


「大丈夫ですよ、ミリア殿。私は何も気にしていませんので。」


そう言うと、ユキネはミリアの頭を優しく撫でた。

ミリアが顔を赤らめていた。

何だ俺との違いは、と言いたい気持ちだ。


「ねえねえ、見た?これが理想的な頭ポンポンよ。」


背後にいつの間にかいたシエスタが俺に言う。

俺は、すかさずシエスタの方を振り向くと拳を振り上げる。

煽りながらシエスタが逃げていく。

あの女、後で覚えてろよ。


「しかし、領主達に一応報告だけはしておきますか。」


エレナがライアに言う。

ライアは途端に嫌な顔をした。


「そういえば、それが残っていたな。」


どうしたものか、といった表情だ。


「何か問題でもあるのかよ?」


俺はライアに聞き返す。

ライアはうーん、と少し考えていた。


「前にも言ったかもしれないが領主達の中には人間に従おうと考えている者もいるからな。対等な関係ではなく、あくまで人間に従うという立ち位置でだ。今回の話を聞いて、怖がって勝手に動かないかだけが心配なだけだ。」


そういえば、そんな話もあったなと思い出した。

あくまでも、この世界の魔族は人間に対してあまり強くないという感じだ。


「じゃあ、とりあえず解散しましょう。また、何かあればその時に話し合いをするということで。」


エレナが解散、と言った感じで手を叩く。

それに合わせて、その場にいた俺達はぞろぞろと部屋から出て行く。

とりあえず、俺は今から工場に引きこもるための準備をしないといけない。

食料を含めて、1週間くらい用意が必要かな。


「申し訳ございませんでした。」


そんなことを考えていると、後ろから声が聞こえた。

振り向くと、ユキネがシエスタとミリアと共に立っていた。


「ん?何か謝られることされたっけ?」


俺は、ユキネに聞き返す。


「いえ、せっかくのお店を休むことになったので。」


あー、そういうことか。

俺は納得した。

そして、首をすくめるとユキネに言う。


「気にするなよ。さっきも言ったけど、どうせ人手を増やすために数日は休む予定だったんだ。ちょうど、あの黄色のマント男が忘れるくらいまであれこれ作業して、忘れた頃に再開すればいいだけだよ。」


正直、日本にいた時から接客のバイトは何度かした経験はある。

あの程度のクレーマー、たまにいたのだから別にそこまで驚くことでもない。

まさか、異世界で、それも同じく送られた人間にそれをされるのは予想外だったが。


「とりあえず、お店の方は何かいたずらとかされないように私が逐一見ておくね。」


ユキネの隣にいたミリアが俺に言う。


「それは助かるな。一応、鍵はかけておいたけど泥棒とかに入られる可能性もあるからな。」


そう言うと、俺はユキネの方に再び視線を向ける。


「そんな顔するなよ。俺の以前いた国にはな、あの程度が可愛く見えるくらいの化け物がいたんだぞ。」


流石に実物は見たことはないが、動画とかでも見たことがある経験をユキネに教える。


「あれでしょ?私、見たことあるわ!電車で突然奇声あげたりする動画よね!」


シエスタがどこで知ったのか、日本でよく見る動画のことを言う。


「何でお前はそれを知っているんだよ?」


俺は呆れた顔をして、シエスタに言い返す。

シエスタは自慢気な顔を見せる。


「暇な時に、ユーなんちゃらとかいう動画サイトで見たことあるわ!あと、車にわざとぶつかる人の動画とか。」


「お前は本当にロクでもない知識しか持っていないんだな。まあ、だから気にするなよ。あの手の輩は無視するのが一番なんだよ。騒ぎたいだけ騒がせておけば、勝手に帰ってくれるんだから。はいはい、って適当に受け流すのが一番なんだよ。水かけるみたいな手を出しちゃうと相手の思う壺だぞ」


俺はユキネとミリアに対して言う。

逆に言い返すから、余計に図に乗ってエスカレートしてしまうのだ。

まあ、ミリアみたいに怖がった表情を見せてしまうのも少しダメだったかもしれないが。


「そうですね。でしたら、今度はそうしましょう。」


ユキネはそう言うと、ニッコリと笑みを浮かべる。


「ねえねえ、ヒロトさん。今は頭撫でないの?」


先程のことをまだイジり足りないのかシエスタが俺に言う。


「…やらない。」


俺は嫌な顔をして、シエスタに言い返す。

とりあえず、もう2度とあれはしないようにしよう。

そもそも、それなりに幼く見えるミリアはまだしも年上感のあるユキネにしたところでそれこそ場違いだろう。


「じゃあ、私はそろそろ街の方に戻るね。」


そんな会話をしていると、ミリアが俺達に言う。


「もう帰るのか?」


俺は少し驚いて聞き返す。

せっかくなんだから、1日くらい泊って行けばいいのに。


「うん。お店の方が荒らされていないかも心配だからね。それに、弟と妹も待ってるから。」


「ミリアって兄妹がいるの?」


シエスタが意外とばかりに尋ねる。

確かに、初めて聞く話だ。てっきり、1人で生活しているのかと思っていた。


「そうだよ。育ち盛りの子が2人もいるから、ちゃんと稼がないといけないの。」


そう言うと、ニコリと微笑む。

そして、ユキネの方を見る。


「昨日はありがとうございました!」


再度お礼を言う、ミリア。


「構いませんよ。また、あの男が来たら、遠慮なく私を呼んでください。」


ユキネが優しく、ミリアに言う。

ミリアははい、とユキネに言うと俺達に手を振って小走りで去って行った。

恐らく、この後は城下のテレポート屋から街に帰るのだろう。

俺達はミリアを見送ると、さてとつぶやいた。


「じゃあ、俺はこれから数日は引きこもるから。あとは、よろしく!」


2人にそう言うと、俺は自室に戻るために歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ