かつての旧敵は、性格がすっかり変わっていました…
昨日、お伝えした通り今日からは18時過ぎくらいに投稿になります。明日から、金曜日までは投稿の方はお休みになります…。
3人がゼレスと共に入って来た女性に思わず、驚いた声を上げる。
俺も声こそ上げなかったが、同じように驚いていた。
しかし、冷静になって一度考えたら、別におかしなことではない。
そういえば、面倒臭くなってテレポートでシェスタリアに適当に送っていたのだった。
「おや、まさかのお知り合いでございましたか。」
ゼレスが3人の表情に気づいて、声を掛ける。
知り合い、と言っていいのかはとても怪しい所だ…。
そして、ゼレスは3人をジッと見ていた。
「随分と大仰な出で立ちですな。まるで、戦でも行くかのようだ。以前あった時のような、服装の方が私は好みですな。」
俺達の状況を察して、何か気の利いた言葉でもかけてくれるのかと期待した俺が間違いだった。
3人がすぐさま恐怖の表情を浮かべて、俺の後ろに隠れた。
「ゼレスさん…。3人が怖がってるじゃない。あまり、そういうセクハラ染みたことは言わないであげてね。」
ゼレスの扱いに慣れているのか、マーヤが呆れたように言う。
ゼレスの方は全く気にしていない様子だった。
「ふむ…。私としては、素直な感想を述べただけなのですがね。」
そして、少しだけ残念そうな表情を浮かべる。
3人からの怯えた視線を受けて、少しだけガッカリしているようだ。
「いや、まあそんな事はどうでも良くて…。どうして、ゼレスさんと一緒に?何だか、部下みたいな感じなんだけど…。」
俺は目の前の女性について、ゼレスに尋ねる。
そう、目の前の女性はヤマトナギサ。以前、ライアの故郷を襲ったピンク色のマントを羽織ったチートスキルを持った転生者の1人だ。
確か、相手を洗脳させるみたいな能力だったはず…。
シエスタのお陰で、その能力は奪われて、レベルも初期値に戻されていたはずだから、そこまで心配する必要はないはずだが…。
「シンジの奴がこの辺りにいるみたいなことを言っていたけど、本当にいたんだな。」
そんな俺達の様子を眺めていたレオンが、こちらも驚いたようにつぶやく。
そういえば、この2人は面識があるどころか、以前までは同僚として一緒に仕事をしていたはずだ。
「あら、知り合い?私は見た事ない人だけど。」
隣にいたアスターがレオンに尋ねる。
「まあ、知り合いと言えば知り合いですね。俺がまだ、アスター様と出会う前にこの国で一応は同じ冒険者として雇われていただけの関係です。」
簡単に、アスターにレオンが説明をする。
俺はそのレオンの言葉に、首を傾げる。
「何だか、その言い方だとあまり仲は良くなかったのか?」
俺が質問をすると、レオンは俺の方に視線を向ける。
「仲は良いわけでもないし、悪いわけでもなかっただけだ。ただ、同じ国に転生された日本人ってくらいの関係だ。」
特に懐かしむ様子もなく、レオンが俺に答える。
「でも、同じ立ち位置だったんだからそれなりに話したり、一緒にクエストを受けたりとかは無かったの?」
俺が再度質問をすると、レオンは首を横に振る。
「そもそも、俺達は個人で十分に高難易度のクエストもクリア出来ていたからな。各々が好き勝手にやっていただけだ。それに、今はどうか知らないが、俺の知っているこの女は性格も悪かったから、付き合いたくなかっただけだ。まあ、簡単に言えば、距離を取っていただけだな。シンジ以外の連中とは、全員そんな感じの関係だ。」
「確かに、あの赤マントの男以外はマジで性格が終わっている連中しかいなかったからな…。つくづく、魔王城の方に転生先を間違えてもらって良かったって思うよ…。」
俺はレオンの言葉に、呆れたように言い返す。
というか、それだと一応はリーダー格だったあの男の負担は想像以上に大きかったのではないかと思ってしまう。
一癖も二癖もあるどころか、癖の塊みたいなコイツ等を押さえるのは相当厳しかったのだろう。
俺の言葉に、なぜかライアが少しだけ嬉しそうな表情をしていたが、今の一連の会話のどこにライアが嬉しくなる要素があったのか謎だ。
俺はレオンの方から、再びゼレスの方に視線を戻す。
「この方は、数カ月前に突然我々の聖地にやって来ましてね。最初の方はそれはそれは荒くれ者でしたよ…。確か、あなた方の名前を何度も叫んでいましたね。相当、恨みを持っている様子でしたよ。」
当時の状況をゼレスが説明をしてくれる。
まあ、あんな事があれば俺達に恨みを抱くのは当然だろう。
ライアが当時の記憶が蘇ったからか、さらに俺の陰に隠れてしまっていた。
「だけど、今の様子だと全くそんな感じは無さそうですよね。というか、多分ですけど…。性格はもちろん、人格そのものが変わっていませんか?」
目の前のヤマトの様子に俺は首を傾げる。
あの高圧的な態度と、ガラの悪さはどこに消えてしまったのか…。
「それはもちろん、シェスタ教に改宗したからですよ。とりあえず、暴れるので牢屋にぶち込みました。その後は、毎日のようにシェスタ教の教義を永遠と彼女の耳元に唱え続けましたよ。そして、シエスタ様の肖像画を360度、いつでも拝めるようにしましたところ、今では立派なシェスタ教の信者になりました。」
得意気な様子で、ゼレスが語る。
「ただの洗脳じゃん…。いや、予想通りの展開にしてくれたから感謝の言葉を述べた方が良いのか…。」
確か、コイツ等ならあの性悪な女でも扱えるだろうと思ったから、送り込んだ節はある。
しかし、まさか性格そのものを変えて来るのは予想外だった。
「いえいえ、シエスタ様の偉大さを説いただけですよ。ただ、その副作用でしょうか?少しばかり、以前までの記憶が失われてしまっているようですな。なので、恐らくはあなた方の事はよく覚えていないかと思いますよ。」
全く気にしていなさそうな素振りで、ゼレスがさらに俺に説明をする。
か、可愛そうに…。
俺はそれ相応の報いとはいえ、目の前の女性に対して憐みの感情すら湧いて来た。
流石にそこまでしてくれとは思っていなかったので、この信者達の団結力というか、狂気を垣間見た気がする。
「私の事を知っているのでしょうか?残念ながら、今の私はあなた方の記憶は全くありませんので…。是非、宜しければ、私達との出会いについて教えて頂ければ幸いです。」
人の良さそうな笑顔と共に、俺達の元に駆け寄って来る。
あまりにもの変わりように、俺の後ろに隠れている3人も唖然としていた。
「おい、どういう事だ?これは本当にあの女か?何だか、面影が全くないのだが…。」
ライアが恐怖からか、顔を引きつらせながら、俺に尋ねる。
「俺にそんなこと聞くなよ…。というか、今の今までその存在すら忘れかけてたんだから。いや、実は本性はこんな感じの人だったのかもしれないぞ。俺達と出会う前は、裏で慈善活動とかしてたかもしれないし…。」
名誉の為に、一応はそれっぽい事をライアに言おうとする。
「ちなみに、そんな事をする奴じゃないぞ。むしろ、シンジが貧しい奴等に与えた食事を裏でボコボコにして奪って目の前で地面に放り捨てるような奴だったな。」
レオンが俺の少なからずの良心を否定するような事を言う。
いや、想像以上に性格が悪い女だったらしい。
当時の事も何1つとして、覚えていなさそうだし、本当にこの信者達は恐ろしすぎる…。
あまり、シエスタを本気で怒らせることはしない方が良いのかと思ってしまう…。コイツ等を差し向けられたら、俺までも洗脳されそうだ…。
「で、でも…。もう、私達の事は覚えていないみたいだから、大丈夫なんじゃない?」
ミリアが恐る恐る、ヤマトの事を眺めながら、つぶやく。
「問題は、ひょんな事で私達に関する記憶を思い出してしまう事ですね…。」
エレナも不安そうに、つぶやく。
「それについては大丈夫ですよ。あまり、以前のナギサ殿に良い印象がないようですが、我々と会うまでの記憶の一切が完全に無くなっていますから。頭の先から爪の先まで、シエスタ様をただ信ずる、敬虔なシェスタ教徒に生まれ変わりましたので、ご安心を。」
俺達を安心させるように、ゼレスがニコニコと言う。
「いや、逆にあんた等に恐怖を抱き始めたよ…。いや、でも本当にそうなってるなら助かるよ。出来れば、あまり再会したい人じゃなかったから。」
あまりじゃない、絶対にだ。
俺達とヤマトの間に何があったのか知らないゼレスが、首を傾げる。
「この人がシェスタリアに突然やってくる前に、この子の故郷に攻めて来たらしいのよ。」
事情をライアから聞いて知っているマーヤが、ゼレスに俺達に変わって説明をする。
「なるほど。だから、初めて出会った時にあなた方の名前を叫んでいたのですね。それに、私はヤマトナギサだ、と何度も叫んでもいましたな。そんな名前を我々は知らないので、何を言っているのだろうという気持ちでしたが。」
ゼレスが納得したように、頷く。
「そこは俺が知っているこの女だな。まあ、今はその面影も一切なくなっているが…。」
流石の変わりように、そしてシェスタ教の狂気を直に知ることが出来たからか、レオンまでも少しばかり怯えている様子だった。
この男すらも怖がらせるシェスタ教。恐るべしだ…。
「どうやら、以前の私はあなた方に多大な迷惑を掛けてしまったようですね…。本当に申し訳がございません…。何なりと罰は受ける所存でございます。」
どうやら、この一連の会話を聞いても、記憶が戻ることはないらしい。
ヤマトの方は、本当に反省している様子でライアに対して頭を下げる。
「い、いや…。そんなに頭を下げなくても…。というか、前と変わり過ぎていて、もうお前に対しての恨みとかそういうモノはない。確かに、里を襲ったことは許せないが、幸い里の者が怪我を負ったりとかの被害は無かったからな…。」
ライアの方も、この変わりように怖くなったのか、慌ててヤマトに対して頭を下げていた。
「これ、大丈夫だよね…?急に記憶が戻って、私達に襲って来るとか…。」
ミリアが不安そうにつぶやく。
「おい、やめろ!フラグが建ちそうなことを言うんじゃない!まあ、この様子だとレベルも1になったままだから、そこまで脅威ではないだろうけど…。」
俺は慌てて、ミリアが余計な事を言わないように注意をする。
流石に今のは本当にフラグになりそうで怖い…。
「それで、何をしに来たの?まあ、あんたが来るってことはロクな事じゃないんだろうけど。」
マーヤの方は、ゼレスに来た理由を尋ねていた。
ゼレスも、思い出したかのような表情を見せる。
「そうでしたな!危うく、麗しい女性の方々に目移りをして、目的を忘れてしまう所でした。」
そう言うと、再びゼレスはライア達に視線を向ける。
ライア達は再び、別の恐怖を感じたからか、俺の後ろに隠れてしまう。
この人もこの人で、相変わらずだなと思う。この街の連中、こんな奴ばかりな気がする…。
「ハイハイ、この子達を怖がらせないであげて。それで、要件は。あまり面倒なら流石に、私の方も忙しくなりそうだから、聞く気はないけど。」
呆れた様子で、マーヤがゼレスを窘める。
「そうでしたな。何やら、我々の聖地に見慣れない者がいるという話が信者達から聞きましてな。」
「それ、ただの観光客じゃないの?」
マーヤが聞き返すと、ゼレスは首を横に振る。
「それがそうでもないようです。ここなら、シエスタがいるはず、などと言っているようなのです。あのシエスタ様に対して、呼び捨てをされるような不敬者を野放しには出来ませんからな。」
「いや、それだと俺達も不敬者になる気がするんですけど…。」
俺達だって、同じように呼び捨てで呼んでいるはずだ。
「あなた方は別ですよ。何と言っても、我々に代わってシエスタ様の面倒を見てくださっているのですから。シエスタ様がここにいれば、あなた方にシェスタ教からのお礼をしたかったのですが…。」
残念そうにゼレスが俺に答える。
「いや、あんた等のお礼ってロクなモノじゃなさそうだから、良いかな…。お礼と称して、大量の勧誘の紙とか渡して来そうだし…。」
実際に本当にやりかねないな、と俺は思ってしまう。
「ただ、シエスタさんの事を知っていて、その言い方だと何かしらの恨みがあるような人ですよね…。」
ここまでの話を聞いて、エレナがブツブツとつぶやく。
それに当てはまるような人物は、今の俺の中では1人しか思いつかない。
そして、エレナ以外も同じ考えのようだ。
「その人、もしかしたら知っているかもしれないので、どんな人かの簡単な特徴とか教えてもらえないですか?」
俺がそう尋ねると、マーヤとゼレス。そして、ヤマトの3人は首を傾げた。




