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行き倒れた女神様を拾ってくれたのは…

ようやく空腹だった胃袋が満たされていく気がする。

ここ数日、本当に何も食べていなかったからか、まさかここまで食べ物に感謝する日が来るとは思ってもいなかった。

次々と出されて来る料理をこれでもかと口の中に運び、頬をリスのように頬張らせて私は食事をしていた。


「えっと…。確か、あなたってヒロト君達と一緒にいた人よね…?」


私の立派な食べっぷりに感心でもしているのだろうか?

目の前の女性は恐る恐る、といった様子で尋ねる。


「ふぇふぇふぇふぇ(そうよ)。フォフォフォフォフォ(あなた、どこかで会った気がするわね)?」


私も目の前にいる女性に見覚えがある。

以前にシェスタリアに皆で旅行に行った際に、色々とお世話になった気がする。

ユキネが結婚しそうになった際に、何やらヒロトと色々と企んでいたこともあったような、なかったような…。


「とりあえず、ちゃんと飲み込んでからで大丈夫よ。よっぽど、お腹が減っていたみたいだから。とりあえず、満足いくまで食べてもらって大丈夫だから…。」


私が喉に詰まらせないか、心配してくれているようだ。

確か、道端に生えている雑草を苦し紛れに口に含んで、倒れたところまでは覚えている。

そして、気づいた時には目の前に大量の食事が置かれていて、それを気が済むまで食べている、というのが気づいたら起きていた。

私はとりあえず、口の中にこれでもかと詰め込んでいた食べ物達をゆっくりと飲み込むことにした。

女性の背後で料理を持って来ている人達が目を丸くして私を見ていた。

よく分からないが、後でこの人達にもお礼を言わないといけない。

幸せになれる魔法でもお礼に掛けてあげようと思う。


「ヒロトやライアと色々としている人よね?私、ヒロト達がしている商売はあまり関わってないからよく分からないけど…。」


口の中に残っていたモノをすぐ側に置かれていた飲み物で流し込むと、私は女性に再び尋ねる。


「そうね。魔王軍には色々と便利な道具とかを売ってもらっているわ。あっ、私はマーヤ。この辺りを治めている領主の娘よ。」


そうだ、マーヤという名前だった。

確か、シェスタリアも彼女達が治めている地域に含まれていたはずだ。

ただ、ゼレスからは、シェスタリアは自分達の自治に任せてもらっている、と以前に教えてもらったことがある。


「確か、あなたはシエスタさんだったわよね?シェスタ教の人達が崇めている女神様の…。」


マーヤの言葉に、周囲にいた人達が驚いた表情を見せる。

ここは1つ、女神らしくしっかりと自己紹介をしないと…。

私はそう思うと、勢いよく立ち上がる。


「フフン!その通りよ!私の名前は、シエスタ!シェスタ教の唯一神である女神よ!」


大きな声で、堂々と自身の名乗りを上げる。

格好を付ける為に目を閉じているが、目を開けば、きっと私の偉大さにひれ伏している光景が広がっているはずだ。

期待に胸を膨らませて、私が目を開けると、そこには予想に反した光景があった。

マーヤはさておき、その後ろで料理の準備や片づけをしていた人達が一斉に怯えた表情を見せていた。


「えっと…。せっかく、名乗ってくれたのは嬉しいんだけど…。ここの人達は、シェスタ教の人達にトラウマを抱えているから…。あまり、その…。名乗らない方がいいと思うわ…。」


マーヤが言い難そうに、私に伝える。

私は予想外の反応をされてしまい、恥ずかしさから顔が赤くなった。


「何でよー!シェスタ教って、この国の国教なんでしょ!その女神である私を見て、どうして怖がられないといけないのよ!」


目に涙を浮かべながら、私は文句を言う。

すると、さらにマーヤ以外の人達が怯えた表情を見せてしまった。


「ご、ごめんなさい…!悪気があって、言ったわけじゃないから…!一応、国教ではあるけど…。その、何て言ったらいいのかしら…。シェスタ教って、シェスタリアくらいでしか広まってない宗教なのよね…。基本的に、国教になった成り立ちも彼等の暴走が怖くてみたいなのもあるから…。とりあえず、落ち着いてちょうだい!」


マーヤが泣き始めた私を必死に慰めようとする。

しかし、ちっとも慰めになっていないと言いたい。

確かに、ゼレスから自慢気にその話を聞いていたが、聞いていた話と実態が違いすぎていて、むしろ傷つくくらいだ…。


「ほら、デザートも持って来たから!うちの屋敷のシェフが作った特製のケーキよ?これで、機嫌を直してもらえないかしら…?」


マーヤはそう言うと、皿に載っている1切れのケーキを私の前に見せる。

私は目に浮かんでいる涙を手で拭くと、再び座り直した。


「5切れくらい欲しいわ…。」


せっかくのデザートだから、もっと食べたいのだ…。

魔王城では、ライアとエレナからデザートの分量が決められているので、こういう時ではないと好き放題食べることが出来ない。


「もちろんよ!持って来れる分だけ、持って来て!」


私の反応に、マーヤは急いで後ろで怯えている部下の人達に命令する。

その命令に、部下の人達もまた慌てたように部屋から出て行った。

私はマーヤから渡されたケーキを1口、口に運ぶ。

確かに、特製のケーキと言うだけあって、今まで食べたケーキの中で1番を争うくらいの美味しさだ。

私の満足そうな表情に、マーヤは安どの表情を浮かべていた。


「それで、一体どうしてあんな場所で倒れていたの?確か、あなたってヒロト君と同じで、魔王城の方で暮らしているのよね?魔王城からここまでって、相当の距離があると思うんだけど…。」


マーヤが機嫌が直った私に、事の経緯を尋ねて来る。


「私は女神よ?女神として、この世界を救おうと思ったの!」


私の返答に、マーヤは思わず首を傾げていた。

どうやら、私の言っている事が理解出来ていないらしい。

仕方がない…。私は優しい女神なのだ。

どこかの元女神達と違って、性悪ではないのだ。

ここは、分かりやすく最初から話してあげることにしよう。

私はそう思うと、ケーキを食べることを一度やめて、マーヤにこうなった原因について話そうとする。

皿の上にフォークを置いた私は、どこから話そうかと考える。

とりあえず、例のルチアとかいう女が現れた辺りからで大丈夫だろうか?

私はこれまでに起きた出来事を思い出しながら、マーヤに説明をしようとする…。-


-私の話を、一通り聞き終わったマーヤは考え込んでいる様子だった。

表情を見る感じだと、私の話を大体は理解出来ているように思える。

マーヤは私の方に、再び視線を向けて来た。


「つまり…。あなたが以前にいた天界から刺客が送られて来たって認識で大丈夫かしら?」


「そうね。私がこの世界でいることが不満なのかしら?よく分からないけど、私をイジメようとして来たから、逆に倒してやったのよ!」


私はそう言うと、マーヤに対して自慢気な表情を見せる。


「ちなみに、その天界って場所は私は全く知らないんだけど…。シエスタさんは、どういう事をしていたの?」


どうやら、この世界の人達は天界について全く知らないらしい。


「私は、地球って場所で若くして亡くなった人達をこの世界に送り込む仕事をしていたわ。ほら、あなたも知っているヒロトなんてまさにそれよ。あんな感じにちょいちょいって便利なスキルとかを渡してたのよ。」


「ヒロト君というか、私の国にもいるあの強い冒険者の人達よね。変わった髪の色をしてる人が多いから、何となく記憶に残ってるわ。大体は、シェスタリアに一度来て、ボッタクリをされて泣きながら帰っていくイメージだけど…。」


マーヤの言葉に私はムッとする。


「ねえ?私の可愛い信者達にそんな事を言うのはやめて!きっと、あの子達にも色々と考えがあっての事だと思うの!」


私の表情に、マーヤは少しだけ慌てる。


「別に悪意があって言ったわけじゃないのよ!そういうイメージがある、ってだけの話だから。でも、そうなのね…。あなたがあの人達をこの世界に送り込んでいたのね…。」


そう言うと、マーヤは少しだけ表情が曇ったように見えた。

私はどうしてなのだろう、と首を傾げる。

すると、マーヤは言い辛そうな目を私に向けて来た。


「あなたの前で、あまり言いたくはないんだけどね…。この世界の人達、と言うか特に一般の人達よね。王族とか貴族みたいな偉い人達じゃない人…。彼等や彼女等からすると、あの人達の存在ってあまり嬉しいモノじゃないのよね…。」


「どうして?まあ、私もこの世界にやって来て、魔王軍って全然危なくないわねとは思ってたけど。それと関係があるの?」


私の疑問に、マーヤは首を横に振る。


「そういう事じゃないわ。というか、この世界の人間からしたら、別に魔王軍に対して敵意も抱いていないし、滅びたところで別に問題はないって感じかしら。まあ、私にとっては仲の良い人もいるし、それこそ今では大事なビジネスパートナーだからね。滅ぼされたら困っちゃうけど…。」


そう言うと、マーヤはクスリと微笑んだ。

しかし、すぐに元の真面目な表情へと戻った。


「簡単に言うと、あなたが送り込んだ人達に仕事を奪われちゃう人が多いのよ。特にこの国は、どうしてかそういう人達が集まりやすいからね。そういう意味では、あの人達に不平不満を抱えている人は多いと思うわ。」


マーヤの話は私にとって初耳だ。

ただ、それを言われたところで私にとっては知ったこっちゃないと言いたい。


「そもそも、この世界に転生者を送り込んでいる理由って、少子高齢化対策も兼ねているのよね。ほら?この世界って平均寿命が長いって言えないじゃない?だから、少しでも強力なスキルを与えて、長生きしやすいようにして、それでこの世界で子供を産んでもらって、っていうのも含まれているのよ。」


「そうだったの…。確かに、若い人達が多いなって印象はあったけど…。まあ、今言ったのはそういう話もあるってくらいに取ってもらえればいいわ。それで、どうしてこっちに向かっていたの?」


マーヤがこの国に敢えてやって来た理由について尋ねる。


「そのルチア、って女がこの国と関りがあるって言ってたからよ。あと、アラタシンジとかいう赤いマントを着けている強い人なのかしら?その人もいるから、何か手伝ってもらえないかなって思ったから来たの。その前に、シェスタリアに寄って色々と準備を手伝ってもらおうって思っただけよ。」


私の言葉に、マーヤは納得したように頷く。


「確かに、ゼレスさん達によく会いに行っているってのは聞いているわね。でも、どうしてそれであんな場所に倒れていたの?」


「お腹が減ったから、そこら辺に生えていた雑草を食べたからよ。」


私の言葉に、マーヤはどう反応したらいいのか分からなさそうな表情を見せていた。


「えっと、旅費とかはどうしたの?」


「使い切ったわよ?食事の分も考えて、ヒロトに借りて来れば良かったわ…。まあ、でもここまで来たから後はシェスタリアに行けば何とかなると思っているから。」


私の言葉に、マーヤはいよいよ微妙な表情へと変わっていく。

私の言葉に、何かおかしな所があったのだろうか?

私はマーヤの表情の変化が理解出来ずに、首を傾げていた。


「ま、まあ…。話は分かったわ…。とりあえずは、あなたをシェスタリアというか、ゼレスさんの元へ連れて行ってあげればいいのかしら?」


マーヤの言葉に私は大きく頷く。


「そうしてくれると助かるわ!シェスタリアには何度も行っているけど、いつもはエレナに直接テレポートしてもらっているの。だから、ここからどう行けばいいのか分からないのよ。」


私の返答に、マーヤは苦笑いを浮かべる。


「いいわよ。私も、あなたの話を聞いて、何かしら手伝いたいと思っているから。というか、ヒロト君達の事だから助けに来るんじゃないのかしら?」


マーヤの質問に私は少しだけ考え込む。


「でも、ここで待っていて、助けてもらったら何だかヒロトに馬鹿にされそうで嫌だわ。どうせなら、すでにあの国の王都に到着して、待っているくらいの余裕を見せたいの!」


私の言葉に、マーヤは再び苦笑いを見せる。


「仲が良いのね。じゃあ、すぐにでもゼレスさんに会わせてあげるわ。」


マーヤはそう言うと、立ち上がって部屋から出て行こうとする。


「あっ!ちょっと、待ってちょうだい!」


私は小走りで出て行こうとする、マーヤを引き留めようとする。

マーヤはどうしたのだろうか、と不思議そうに振り返る。


「私、まだケーキを食べ終わってないわ!あと、まだ残りがあるって言ってたから、それを食べ終えてからにしてちょうだい!」


私はそう言うと、再びケーキを食べ始める。

その後、しっかりと食後のコーヒーもご馳走になって満足した私は、軽く昼寝を取ることにした。

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