日本の商品を魔王城に
ライアから許可を得た後、1週間くらい経った俺はライアの居室に集まった面子の前でこの1週間ひたすら部屋に引きこもって作った商品の数々をお披露目していた。
「おー、かなり作ったんだな!」
ライアが感嘆の声を上げる。
俺は、少しばかり自信ありげに商品の1つを見せる。
「これなんかはかなり頑張った気がする。」
ライアに商品の1つを見せる。
ライアは受け取ると、不思議そうにそれを眺めていた。
「これは何に使うんだ?」
俺はライアから再び受け取ると、スイッチを押した。
丸い球体がブーンと音を立てると振動を始めた。
そう、マッサージ器具である。
「これで肩とか腰とかに当てると、凝った場所が癒されるという俺の世界の1人でマッサージを行う際に使う道具だ。」
俺はそう言うと、実践するように自身の肩に当ててみせる。
振動部分をなるべく、体に負担にならないような素材にするのに苦労した思い出だ。
柔らかすぎるとそれはそれで壊れやすいので中々に素材の選定が面倒だった。
「これは何に使うモノなんですか?」
エレナが机に散らばっている商品の1つを手に取る。
スイッチの部分を押すと、ピカッと光が放たれる。
そう、懐中電灯である。
エレナが驚いたように、懐中電灯を落としそうになる。
「それは暗くて何も見えない時に使う道具だな。一応、明かりの調節は出来るように作ってみた。」
エレナが不思議そうに懐中電灯を触る。
「これがあるなら、わざわざ夜道を散策する際にフラッシュを使ったり暗視スキルを覚える必要が無いのは便利ですね。」
明かりの強さを調節出来るボタンとポチポチと触りながらエレナが言う。
隣で眺めていた、ユキネがある商品を手に取る。
「…これは?」
カチカチと鳴らしながら、俺に尋ねる。
俺はガチャガチャと商品を整理しながら、ユキネの方に視線を移す。
「それはボールペンだな。それで文字を書ける。色もとりあえず、オーソドックスに3色にしてみた。」
ユキネが不思議そうに近くにあった紙に文字を書く。
赤と青、そして黒の3色をそれぞれ使って文字を書いていた。
「色が分けられるのは便利ですね。何だか楽しいです。」
カチカチと色を交互に変えながら色々な文字を書いていた。
シャープペンシルも作ってみようかと思ったが、芯を大量に作るのが面倒だったので今回は諦めた。
鉛筆も試作品と作ってみたが、すでに万年筆的な既存製品があるのでどこまで売れるかは不安だ。
消しゴムとセットで売れたらいいなくらいで作ってみた。
「これは何ですか?」
後ろで眺めていたソルベが積みあがった商品の中から取り出す。
カチッと押すと、火が出てきた。
「うわっ!?」
驚いたように、それを放り投げる。
そして、床に落ちる直前で自信でキャッチをする。
「それはライター。火をつけることが出来る道具だよ。ここでタバコ吸う人っていたりするの?」
俺はソルベから受け取ると、周りを見渡す。
アルベルトが喫煙者的な話はどこかで聞いたことがある。
「タバコと言えば、アルベルトさんでしょ。ヤニカスですから。」
「余計なお世話だ。」
ソルベの言葉に嫌そうな顔を浮かべたアルベルトが言う。
「一本吸ってみろよ。火は俺が点けてやるから。」
俺はそう言うと、ライターからカチカチと火を出してみせる。
アルベルトが不安そうな顔をしながら、ポケットから取り出したタバコを口にくわえる。
俺はその先端にライターから出した火を当てる。
「おー、タバコに火が点いた。」
ライアが驚いた声を上げる。
アルベルトも不思議そうな表情を浮かべて、タバコを吸う。
魔族相手だとやはり、これらの道具はかなり未知の領域らしい。
後は、人間相手にどこまで売れるかだ。
「ねえねえ、そんな小さな商品ばかり作っているけど本当に売れるの?」
今まで何も言わずにずっと眺めていただけのシエスタが俺に声をかける。
すでに、俺とシエスタ以外の面々は他にはどんな商品があるかと漁り始めていた。
「とりあえずの試作品だ。まずはこれらを売ってみて、どういう評判になるかを実験するんだよ。いきなり、デカい商品作って売れなかったらダメージがデカいからな。」
これらの商品の作る際にかかった原価はほとんどゼロに近い。
何せ、基本的には捨てるはずの鉄の端材などを再利用しただけだからだ。
売れ行き次第で、工場を建てる費用をはるかに超える利益を生み出せる可能性もある。
「正直、見たことあるような商品ばかりだからつまんないのよね。ゲームとかスマホとか作れないの?」
「作ってもいいが、使えるかは知らないぞ。ゲームにしてもテレビもないような世界なんだからそんな大層なモノは作れないだろうし。スマホに至っては電波もない世界で作ったところで意味はないだろうしな。」
俺はシエスタに説明をする。
シエスタは少し不満そうな顔を浮かべる。
「ムー、それはつまらないわね。まあ、でも私も1つ貰おうかしらね。」
「お前はもちろん金を払えよ。」
俺はシエスタの襟を掴むと、手を伸ばして商品に手を触れようとするのを防いだ。
「何でよ!私も何か欲しいわ!」
「お前は何も手伝ってないだろ!ライアは今回の件で工場を建てるための土地を探してくれたし、エレナは原材料の調達、ユキネは製品開発の手伝いをしてもらったんだよ。警察隊の面々にも荷物の積み込みとか色々世話になったけど、お前は何もしてくれなかったからちゃんと金を払えよ。」
俺は冷酷に言い放った。
実際、この女が何も手伝っていないのは事実だ。
というか、気づいたらどこかで飲み歩いていた記憶しかない。
原価を考えてもかなり日本で売られている値段よりも安く設定してあるので買うのも大して困らないだろう。
「ヒロトの意地悪!いいわ!私達の水着写真をコッソリと写真集として保存してあるの知っていて黙ってあげてたけど今からここでバラしてやるんだから!」
ドアをバタンと開けたシエスタが大声で叫ぶ。
待て!コイツには何も言っていないはずだ!なぜそれを知っているのか一度しっかりと話し合いたい。
しかし、その前にライア達3人の冷たい視線が刺さる。
冷たいというより、軽蔑したような視線だ。
「分かった!分かったから、お前にも1つあげるから!だから、まずはこの誤解を解くことから始めてくれ!」
俺は部屋に向かおうとするシエスタを捕まえると、宥めるように言った。
「すまないが、何とか持って来たがこれも必要なのか?」
何が起きているのか理解出来ていないダンカンの声が聞こえる。
そこそこにデカい機械をライアの居室まで運んできたダンカンがドアの前に立っていた。
ナイスタイミングだ。とりあえず、これで話題を逸らそう。
「ダンカンさん!ありがとうございます!まさか、本当に部屋から持って来てくれるのは想定外でしたよ!」
俺は感謝の言葉を述べて、シエスタを引っ張りながらダンカンを部屋の中へと案内する。
筋骨隆々なだけあって、階段を登ってこれほどの機械を1人で運んでくるのは流石だ。
「…何よこれ?」
シエスタの興味が一瞬でそちらに移る。
流石は鶏頭の自称女神だ。今日ばかりはその馬鹿さに感謝したい。
先程まで冷たい視線を向けてきたライア達も一斉に興味はこちらに移っていた。
「これは、試作品段階の冷蔵庫だ。」
ポンと俺は叩く。
すると、ダンカンに遅れるようにして数人の男達が部屋の中へと入ってきた。
ダンカンと同様に俺が試作品として作った、洗濯機を持って来てくれていた。
「…冷蔵庫?」
ライアが俺に聞き返す。
俺は頷くと、軽く説明をしようとする。
「簡単に言えば、俺の以前いた国で使われていた生の食材だったりを保存する機械だ。この世界だと、デカい倉庫みたいな所に氷魔法を使って生の食材を保存しているだろう?それをこの機械があれば場所を取らなくても各家庭で保存することが出来るわけだ。」
そう言うと、俺は部屋の中に運び込まれた洗濯機にも目を向ける。
縦型の方が何となく作りやすかったので縦型の洗濯機にしてみたが、割と悪くないデザインだと思う。
「それでこっちが洗濯機だな。まあ、簡単に言えばこの中に服をぶち込んで洗剤を入れておけば勝手に洗ってくれるって機械だ。水に関しては直接入れてもらうしか今の俺の技術では無理だったけど。」
俺は、中を見ながら言う。
電源に関しても、流石に日本にいた時のように電気を流すことは出来ないので魔力で動かすしかないのが個人的な不満点だ。
ただ、それでも実際に使ってみたらかなり今までの生活レベルは変わると個人的に思っている。
「冷蔵庫と洗濯機なんて主婦みたいなモノ作るのね。」
シエスタが冷蔵庫の扉をパカパカと開けながら言う。
あまり、雑に開けられると壊れる可能性があるので気を付けて欲しい。
まだ、この2種類は売る気はないが一度魔王城で使ってみて貰って感想は聞いてみたいところだ。
「本気で売り出すならこれくらいは作っておこうと思っただけだ。ただ、流石にこれを大量生産は1人では無理だから工場でロボットなり作って自動化は必須なんだよな。」
この2つに関しては本当に1週間近くかかった。
1個作るのにこれだから、複数個作るとなると俺の精神が壊れてしまう可能性がある。
今回の作りやすい小物の売れ行き次第でこの辺りをどうするかは考えよう。
「いや、しかしいろいろと便利でいいなこれは。このボールペンなんかは私の仕事でも使ってみようかな。」
ライアがカチカチと鳴らしながらボールペンを触る。
「それで、ライア様。どうやって人間界に売る予定なのですか?」
ダンカンがふと思い出したかのようにライアに尋ねる。
ライアは俺の方を見てくる。
「一応、考えとしては以前していたタコ焼き屋みたいに露店みたいな感じで最初は売ろうかなって考えてる。物自体は小さいから、テントとか用意すれば場所は取らないと思うし。」
「それなら、周りの邪魔にもならないから良さそうですね。後は、護衛をどうするかですね。」
エレナが俺に同意すると、ライアに尋ねる。
ライアはダンカンの方に再び視線を戻した。
「すまないが、頼めるか?一応、エレナとユキネは同行させるがどうしてもこの2人はヒロト的には売り子として使いたいみたいで純粋に護衛を出来る者を探していたのだ。」
ダンカンはその言葉に大きく頷いた。
「それについてはお任せを。アルベルト、ソルベ。この2人を同行させる予定です。腕は確かなので何かあっても大丈夫かと。」
確かにこの2人なら大丈夫だろう。
実際、かなり腕が立つのは事実だ。
そんな俺にユキネがちょんちょんと襟を引っ張る。
「何だよ?」
「そういえば、手伝っている際に作っていたあの武器みたいなモノは見せなくていいのですか?」
そういえば、ユキネは俺が何を作っているのか大体知っているんだったな。
まだ試作段階だから、見せなくてもいいかと思ったけど一応お披露目しておくか。
「もちろん、作ってあるよ。ただ、流石に売りはしないよ。売って、それを魔王軍攻撃に使われたら意味ないからな。」
俺はそう言うと、ポケットから少し大きめの拳銃を取り出す。
そして、シエスタに向けて構えてみせた。
「何か物騒なモノ作ってない?あんた。」
シエスタが少し怖がった表情を見せた。
「連射も出来る俺、特製の武器だ。」
「大丈夫なの?そんなの作って。」
シエスタがユキネの背中に隠れながら、怯えながら言う。
大丈夫も何も、自分の身を守る武器なのだから誰かに文句を付けられる必要はないと思う。
「知らない。というか、魔王軍の方にも俺の世界の現代兵器を導入してみてもいいと思うんだよね。今度、ライアにも相談しようと思うけど。」
ライアは何を言っているのか理解出来なさそうに首を傾げる。
日本のことを全く知らないこの女に分かりやすく説明出来るように考えておかないとなと思った。
「まあ、お前が何かをまた企んでいそうなことは分かった。近いうちに聞くとしよう。それで、王都まで行く手段は分かっているよな?」
ライアが少しだけ不安そうな表情を見せた後、俺に尋ねる。
俺は分かっている、と頷く。
城下にあるテレポート屋にすでに話は通してあるので明日の朝にシエスタを含めた6人で魔族と人間の生息地域のギリギリの場所にまで飛ばしてもらう。
そこから、近場の町にあるテレポート屋に行き王都まで一瞬で行くという方法である。
お金に関しては、魔王軍の方で出してくれるそうなのでそこは心配しなくていいらしい。
俺とシエスタは元が人間だが、他の4人に関しては魔族だとバレないように人間に擬態するらしい。
これで、とりあえず王都で商売してもとりあえず変な連中に絡まれるという心配さえ除けば大丈夫かなと思う。
「よし!じゃあ、明日は約束の時間までにテレポート屋の前で各自集合ね!解散!」
俺が言うべきであろうセリフを奪ったシエスタが元気よく言った。
俺からしたら、お前が問題を起こさないかが一番の不安点なんだがと言いたかった。




