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気の乗らないストーカー対策の作戦会議

「というわけで、作戦会議!」


次の日、俺はリリィ達を集めることにした。

店の常連であるダンカンと基本的に荒事になった際には動いてもらうことになるであろうアルベルトとソルベ。

リリィと同じ店で働いていて、慕っているナヤ。同じく、同僚のジル。

そして、その付き添いみたいな形でいるアスター。

この2人がいるなら、まあそりゃあいるよなということでシエスタとミリアの2人。

俺を含めて10人の面子が揃っていた。


「何だかあまりやる気なさそうね?」


シエスタが不思議そうに首を傾げながら、俺に尋ねる。


「当たり前だ。ライアの機嫌を損ねるといよいよ住む場所がなくなるから、仕方なく手伝っているだけだよ。」


俺は面倒臭そうにシエスタの方を振り向くと、答える。


「ヒロト君って、こういう時は割とやる気出すタイプだと思ってたんだけど違うの?」


ナヤもシエスタと似たようなことを尋ねる。


「どんな勘違いをしているのかは知らないけど、俺は基本的に面倒事には巻き込まれたくないの!今までだって、仕方なくやっているだけだからな…。そこの所を勘違いするなよ。というわけで、何かいい作戦はないの?」


俺はナヤに言い返すと、逆に質問をする。


「それを考えるのがヒロト君の仕事だと思うんだけど…。」


ミリアがポツリとつぶやく。


「いや、俺の中ではその面倒な客が次に店に来た時に、ダンカンさん達に会わせて脅して追い返せばいいって思ってるから。でも、それは危険だから避けたいとか言われたから、他の意見はないってことで集まってもらったの。」


「そもそも、ダンカンさん達に脅してもらってすんなりと引き下がってくれるのかな?」


「そこは、物は試しって言うだろ。まあ、逆上してリリィに付きまとうストーカーみたいになる可能性もあるけど…。」


俺は疑問に感じていそうなミリアに答える。


「俺達が心配しているのはそこなんだよな…。どうしても、そうなる可能性が捨てきれないから、下手に強硬策に出れない。相手のそのスキルが分からない上に、分かったところで強力過ぎると被害もデカくなる可能性があるからな…。」


ダンカンはそう言うと、悩ましそうな表情を見せる。

俺はシエスタの方を見る。

一応、スキルを与えた張本人はいることにはいる…。

しかし、いつも通りなら期待は出来ないだろう。


「悪いけど、私に聞かれても困るわよ。そもそも、相手の顔すら分からないんだから。」


「まあ、そうなるよな…。そもそも、チートスキル持ちなら絶対に当たりを引いたいるはずだからそこで候補は出せるだろって期待した俺が馬鹿だった…。」


予想通りの返答に、俺はため息を吐く。

そして、もう1人の女神であるアスターを見る。


「私も何度も言ってるけど、シエスタのやってた事は知らないから無理よ。」


「ですよねぇ…。」


使えない女神コンビに対して、改めてため息を吐く。

さて、どうしたものか…。

俺はリリィの方を見る。


「まあ、あまり気が乗らないなら別に全然大丈夫だよ。今の所は特に問題は無さそうだから。」


「じゃあ、そうします。って言って、あの魔王様が許してくれないから問題なんだよ…。」


リリィの言葉に、俺は何かいい方法はないかと考えながら、言い返す。


「そもそも、何でその青マントの奴は俺の情報なんて集めようと思ってここに来たんだろうな…。」


俺の事なんて調べたところで、何かいい事でもあるのだろうか?

何だか面倒な奴等に目を付けられていそうで、怖い…。


「魔王軍がルチアーノ王国に損害を与え続けている事の全てにヒロト君が絡んでいるからじゃない?最初の方は、ずっと君のことばかり聞いてたんだし。」


「そこから、どうしてお前に惚れる流れになるんだよ。俺の情報なんて、どうせ大したことないんだから適当にあしらっておけば良かっただろ。」


その気になれば、魔王城から一切出なくても生活は出来るのだ。

というか、この城と城下町で生活している分ならまずあのチート転生者連中と関わることなんてないはずだ。


「そ、それは…。ヒロト君のことを売るみたいな感じになって気分が良くなかったからさ。色々と話を逸らして、その人自身の話とか聞いてたんだよ。そしたら、何だか変な勘違いをされちゃったみたいで…。」


恥ずかしそうな感じで、リリィが俺に答える。

俺はその言葉に、ため息を吐く。

まあ、リリィには日頃から世話になっているから、こういう時に恩返しくらいしておくかと思った。

そうでもしないと、いよいよ人の心を失った、だの。人でなし、だの散々なあだ名が定着することになる気がしたからだ。


「というか、リリィの方こそ別にそこまで嫌がってなさそうな気がするんだけど?」


シエスタがふと、リリィに尋ねる。

リリィが少しだけ動揺したように見えた。


「えっと、それは…。ほら!私も年齢的にはそういう事を考えないといけない年かなって思い始めてたから。何か、妙に惚れられちゃって求婚までされちゃってるから、無しではないかなみたいな…?」


「えっ!?先輩、結婚しちゃうんですか!」


リリィの言葉に、ナヤが驚いた表情を見せる。


「いや、まあ決めたわけではないよ!ただ、そういうことも考えてもいいかなって。」


ナヤがあまりにも驚いていたことにビックリしたのか、落ち着かせるようにリリィが言う。

そもそも、ワルキューレに年齢だの結婚だのってあるのかという疑問がまず来る。


「何、お前?寿退社がしたいの?というか、ワルキューレって結婚とかいう概念があるのがまず初耳なんだけど?」


「あくまでも、無しではないかな、ってだけだから!最近、私の周りで恋愛系の話を聞くようになったからさ。そういうのも考えないといけないのかな、みたいな?」


動揺からか、上ずった声でリリィが俺に答える。

周り、というとお店の女の子達だろうか?

リリィ目当てでよく店に行くようになって、他のワルキューレの女の子達とも話すようになったが、一度もそんな話を聞いたことがない。

俺はリリィに対して、首を傾げていた。


「お前が結婚する、ってことはあの店を辞めるってことになるの?」


「うーん、どうなんだろう?でも、相手は他国の人だからね。相手の希望次第だとそうなったりするんじゃないかな?」


何だか、割と乗り気なことに驚きだ。

というか、それはそれで困る。

別にリリィが結婚するのはめでたいが、店まで辞められると俺の楽しみの1つがなくなることになる。


「私的には、先輩とまだお店で一緒に働きたいんだけど…。」


ナヤが不満そうに、つぶやいていた。


「正直、俺達としてもリリィさんが店を辞めるのはあまり喜ばしいことではないから、阻止したいのだが…。」


ダンカンはそう言うと、うーんと悩んでいた。

そうは言うが、本人の気持ち次第なんだよなとい言いたそうだった。

ライアへの感情と違って、リリィへはあくまでも仲の良い女友達の1人という感情しかない。

ただ、普段から通っているお店で贔屓にしている女の子が結婚していなくなるのは何となく寂しさがある。

応援していた地下アイドルが人気になって、遠い存在になってしまったような気持ちだ。


「よし、予定変更。割と皆、リリィがいなくなるのは寂しいみたいだから穏便にお引き取り願うように頑張ってみるか。」


俺の言葉に、周りの奴等がやれやれといった様子を見せていた。


「別にそんなにしなくても大丈夫だよ?昨日の魔王様に言ったのも、もし何かあった時にスムーズに対処してもらえるようにってダンカンさんから勧められただけだから。」


突然やる気を出し始めた俺に、リリィが戸惑っていた。


「どうせ、あれよ。この男のことだから、今まで貢いできたお金が意味なくなっちゃうんじゃないかって心配なのよ。」


シエスタが言わなくてもいいことを、リリィに言う。

お前は余計なことを言う暇があるなら、まずはその足りない脳みそで思い出せと言いたい。


「まあ、ヒロト君がやる気になったならいいことだよ。どうせ、すぐに気分が変わる人なんだから乗せるだけ乗せておかないと。」


そこそこに長い付き合いからか、俺への扱いを割と理解し始めているナヤがシエスタに言う。

横でミリアもうんうん、と頷いていた。


「しかし、どうする?さっきも言ったが、俺達が表に出るのは避けたいが…。」


アルベルトが騒ぎ始めた場の空気を落ち着かせるように、口を開く。


「別に暴れ始めたら、俺達で止めればいいだけじゃないんですか?それで店が荒れたら、後日に修理すればいいだけなんですから。」


ソルベがアルベルトに言う。


「その金が出るとなると、魔王軍からだ。騒ぎもあまり大きくはしたくない。」


過激な発言をするソルベに対して、ダンカンが口を挟む。

ソルベとしては、青マントの男と戦いたかったのか不満そうな表情を見せていた。


「とりあえず、次にその男が店に来るのはいつなんだよ?」


俺はリリィに尋ねる。


「えっと、確か明日とかだったかな。毎回、帰る間際に次に来る日を教えてくれるんだよね…。」


「何でそんなに律儀なんだよ…。じゃあ、とりあえず次来た時にはいつも通り接してくれたらいい。裏でコッソリと俺達でそれを見てるから。」


「見るのはいいけど、それでどうするの?」


リリィが不思議そうに、尋ねる。


「上手い感じで逆に相手から情報を聞き出して欲しいんだよ。相手のチートスキルの事とか。」


相手の見た目も知りたいのもある。

そういう意味では、裏に隠れてその様子を観察するのが一番だと思った。


「私が聞き出すの?怪しまれないかな?」


「そこはお前のやり方次第だろ。一応、自称あの店の人気ランキング上位なんだろ?だったら、それを生かしてくれよ。」


「自称じゃありません!というか、ヒロト君だって店のランキングの掲示は見たことあるでしょ!」


「もしかしたら、偽装してるかもしれないだろ?後輩を脅して、順位を変えるとか。」


「私はそんな事しません!そういう事を考えるのは、ヒロト君の心が汚れてるからだよ!」


負けじと、リリィの方も俺に言い返して来る。


「俺の心が綺麗かどうかの証明はまた次の機会にするとして、やれるのかやれないかだけ教えろよ。出来なさそうなら、別に無理にしてくれとは言ってないから。というか、最悪来店NGとかにすれば解決だからな。」


「それは少し、強引過ぎない?というか、さっきも言ったけど割と結婚とかはありかなって考えてるからさ。」


リリィが少しだけ恥ずかしそうに言う。


「何でそんな急に行き遅れの婚活女子みたいなこと言い出したんだよ…。いや、別にお前が結婚するかどうかは割とどうでもいいんだけど、あの店に行く楽しみが少し減りそうなのが嫌なんだよな…。」


俺の言葉に、リリィは行き遅れ、とつぶやいて何故だか落ち込んでいた。

実際、年齢を聞いたことがあるがニコニコしながら脅してきた記憶があるので、正直行き遅れだろうというイメージしかない。

すると、俺の服をチョンチョンとナヤが引っ張ってきた。


「ねえねえ、私は?たまに、君の相手をしてると思うんだけど?先輩がいなくなったら、私に貢いでもいいんだよ?」


ナヤがどうだ、と言わんばかりに聞いて来る。


「お前はその前にさっさとあの喫茶店の売り上げを伸ばせ…。お前を指名しても、そっくりそのまま来月の売り上げとしてその金が戻って来そうだから、何か嫌だ。」


俺の言葉に、ナヤが不満そうに頬を膨らませていた。

俺はナヤとくだらないやり取りをすると、再びリリィの方を見る。

リリィはまだ少し、悩んでいる様子だった。そして、決心したのか大きく息を吐いた。


「…分かった。まあ、バレないように上手いことやってみるよ。実際、本当にあの人が私のことを養ってくれるつもりなのか気になるし。」


「一応、この世界って人間と魔族の結婚もあるといえばあるんだったな…。」


転生者達が、元の世界に戻れる特典の為に魔王軍を攻めて来ているだけで、基本的にはそこまで人間と魔王軍関連の関係は悪くはない。

それは、レオーナ達とのやり取りを見ても感じていることだった。


「しかし、それだと店長にお店を辞める際には一言入れないといけないと思うんですけど…。」


ジルがリリィに恐る恐る、聞いていた。


「大丈夫。店長にはちゃんとその時が来たら、話すから。そもそも、まだ結婚だの何だのってのは決まっていないんだから。ちゃんと、私の中で心の準備が出来たら、ってだけの話だよ。」


不安そうなジルを安心させるように、リリィが答える。

そして、リリィは俺の方を再び見て来た。


「じゃあ、次に店に来る時は頼んだよ。もし、危ない目に遭ったら守ってね!」


無茶なことを言い出すと、リリィはニコリと俺に向かって微笑んだ。

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