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202/319

王女様との2人きりのキャンプの約束

次の日、ライア達が先に帰って行くのを見送ると、俺とレオーナは部屋へと戻った。

何だか上手いことレオーナが業者の人達と口裏を合わせたことで、ライア達を騙すことに成功した。

まあ、帰る際にこれでもかと疑いの目を向けられたが、バレはしないだろう…。

そう、業者の人達が口を滑らせなければの話だが。


部屋に戻った俺は、レオーナの方を見る。

今までで見たことがないくらい、ご機嫌な様子だった。

そして、俺の方に振り向いて来た。


「お兄さま!レオーナはどこかに一緒に遊びに行きたいです!」


部屋に入るなり、そんなことを言い出す。

まあ、別にどこかに遊びに行くのは構わないが、そんな簡単に城から出してくれるのだろうか?

俺は絶対に反対するであろう、ヘレンの顔を思い浮かべながら思った。


「遊びに行くのは全然大丈夫だけど、どこに行くの?まあ、今日と明日はレオーナの頼みなら大体は聞くつもりでいるけどさ。」


「はい!お兄さまと、キャンプをしてみたいです!」


ふむ、キャンプか…。

確かに、レオーナは冒険者みたいなことに強い憧れを抱いている。

今回のサンタクララ王国に向かう際の野営をした時も、人一倍楽しんでいた記憶がある。


「キャンプってことはこの前にした野営みたいな感じか?あれだと、相当準備が必要だと思うけど?」


俺の言葉に、レオーナは首を横に振る。


「確かにあれも楽しかったですけど、違うのです!お兄さまと2人だけで行きたいのです!以前にお話していた、日本という国で行われているキャンプのようなことをしたいのです!」


レオーナはそう言うと、俺の元にこれでもかと近づいて来る。

そして、ジッと俺のことを見上げて来る。


「あー、なるほどね。この世界の野営みたいなことをしたいんじゃなくて、日本のキャンプみたいなのを想像しているのか…。」


俺はそうつぶやくと、少し考え始める。

出来ないことはないが、それなりに準備が必要だなと思う。

というか、俺とレオーナの2人だけで外出なんてそんなことが許されるのだろうか?

仮にもこの国の王女様だ。何かあれば、俺にも責任が及ぶかもしれない。最悪、打ち首になるとかそういう極刑があるかもしれない…。

そんな事を考えていると、途端に俺は恐怖で震えて来た。


「…ダメ、でしょうか?」


レオーナは不安そうな目で、俺に尋ねて来る。

そんな目で見られると、俺も断れなくなってしまうだろう…。

可愛い妹からの頼みを無下に出来るわけにもいかず、俺はため息を吐きながら苦笑いを浮かべた。


「分かったよ。まあ、許してもらえるかは分からないけど今から準備だけでもするか。もし、断られたら庭で簡易的にするのも視野に入れてな。」


俺が代案を出しつつ、レオーナを安心させる為に了承する。

すると、レオーナの顔は再び明るくなった。


「ありがとうございます!でしたら、何か用意するモノとかはありますか?恐らく、お城にいる人に頼めば材料とかは色々と用意してもらえると思うので!」


レオーナは早速、とばかりに俺の腕を引っ張る。

そんなに喜ばれてしまうと、何だかハードルが上がってしまいそうで困ってしまう。


「じゃあ、俺のスキルでキャンプで使う道具を作れるような鉄材とかを用意してもらえるか?」


俺の言葉に、レオーナは大きく頷いた。

そして、俺の腕を引っ張ったままの状態で部屋から勢いよく飛び出した。-


-あれから、城内で働いている人達に頼み込んで使わなくなった鉄材とかを色々と貰うことが出来た。

何をするのか、とか聞かれたがレオーナが楽しいこと、と適当に言うと皆揃って快く渡してくれた。

それらの材料を持って、作業が出来そうな場所を用意してもらうと、俺は早速準備に取り掛かることにした。


「これは、何を作っているのですか?」


レオーナが興味津々に、俺の作業を覗き込んで来る。

俺はある程度、形が出来上がるとそれをレオーナに見せてあげる。


「これは、お湯を沸かしたりするのに使う道具だな。俺の国ではキャンプストーブ、とか言うんだったかな?キャンプをするって言ってもそこまで遠出するわけでもなさそうだから、そこまで念入りに準備は必要ないと思うから。あったら、便利そうな道具を作ってるんだよ。」


最悪、道に迷ったらテレポートを使えばいいと思っている。

俺とレオーナの2人を送るだけなら、十分にMPも足りるだろう。もし足りなければ、レオーナから少し貰えばいい。

というか、危ない魔獣に襲われたとしてもレオーナなら簡単に退治してくれるだろうから心配するだけ無駄かもしれない。


「お兄さまのこの不思議な能力は、どうやって得たのですか?普通のスキルなら教えて貰えば、覚えれるスキルとして登録されるはずなのに、お兄さまのこれは出来ないので…。」


そうか、レオーナには俺がどうやってこの世界にやって来たのかまではまだ話してなかったんだなと思い出した。


「俺のこのスキルは、ちょっと特殊だからな。日本からこの世界に来る際に、シエスタから貰ったんだよ。俺以外の似たような境遇の連中も大体そうやって特殊なスキルを貰ったりしてるはずだよ。」


「そうだったんですね!つまり、お兄さまは選ばれた人みたいな感じなのですか?」


レオーナはそう聞くと、俺に向かって目をキラキラさせていた。

ちょっと、変な誤解をしているかもなと思った。

当時の光景を思い浮かべると、とてもそんな風には見えない。


「いや、そういう訳ではないと思うよ。というか、今もそうだけど初めて会った時のシエスタって相当酷かったからな。ルーレットで当たったスキルを渡す、とか言い出して当たったのがこのスキルだったんだよ。」


流石に、俺のことをバカにしてきた話まではしないでいいかと思った。

あいつは、今も昔もどうしようもないな、と改めて思う。


「では、お兄さまは運が良かったということなんですか?」


「…良かったのかな?正直、今まで会って来た転生者達がトンデモなく凄いスキルだったから、物を作るだけのこのスキルが果たして当たりだったかと言われたら微妙かな…。」


俺はそう言うと、レオーナに苦笑いを浮かべる。

どうせなら、凄い魔剣とか世界を滅ぼせるような力とかの方が良かったなと思う。

まあ、世界を滅ぼしてしまったら俺が魔王になってしまうかもしれないからそんなスキルは存在していないのかもしれないが…。


「でも、お兄さまはそんな方々と戦って勝っているのですよね?」


レオーナは少し興奮気味に、俺に尋ねて来る。


「勝って、はいないかな…。何だか運よく切り抜けられているだけだから。というか、止めとかそういうのはほとんど周りの連中がしてるから俺には一向に経験値が入らないしな。」


そう、最近気づいたのだ。俺がレベルが上がらずに、周りの連中がドンドン強くなっている理由。

それは、俺が指示を出すだけ出して、後はお任せしているからなのではないか、と。

最終的に止めを刺した者に経験値が入る仕組みらしい。それを利用して、経験値の美味しい魔獣を生け捕りにして、後は止めを刺すだけで簡単にレベルアップさせるやり方も存在するらしい。


「でも、実際に今回のサンタクララ王国でのお兄さまの活躍を見ていると、運の良さだけではないと思います!」


「そう言ってくれると、嬉しいよ。まあでも、実際今回の件も活躍したのはレオーナなんだから。無理に俺を褒めようとしなくてもいいんだよ。」


もっと自分の功績を誇った方がいいと思う。

あの狂暴な2匹の魔獣を戦意喪失させてしまったのだ。あれがなければ、確実に今回の成功はなかったと思っている。

しかし、レオーナの方は首を横に振っていた。


「お兄さまが王子さんと交渉してくれたから、上手く行っただけです。もし、お兄さまがいなかったらそもそも、魔獣を倒すなんて話もなかったのですから。」


そう言うと、レオーナは俺の体にしがみついて来た。

そして、甘えるようなそぶりを見せて来た。

可愛い義理の妹が欲しい、なんて思っていたが本当に妹のように思えてきた。

数日で魔王城の方には帰らないと、と思っていたが何だかずっとこのままここにいてもいいんじゃないかと思ってしまう。


「今は何を作っているのですか?」


ふと、レオーナが俺の手元を見ながら尋ねて来る。

俺はニッコリとそんなレオーナに向かって笑みを浮かべた。


「これは秘密だ。完成したら、教えてあげるよ。」


俺はそう言うと、作っていたモノを脇に避けた。

すると、レオーナが身を乗り出して来た。


「気になります!何を作っていたのか、教えて欲しいです!」


「完成したら教えてあげる、って言っただろ?後のお楽しみってやつだよ。」


俺の言葉に、レオーナは不満そうに頬を膨らませる。


「もしかしたら、言えないようなモノなのですか?シエスタさん達が、お兄さまは裏に隠れて変なモノを作っているかもって言っていました!」


「あいつ!魔王城に帰ったら、覚えておけよ!というか、レオーナもレオーナでそんな話を真に受けるな!何だ、そういうのに興味があるのか?」


俺の言葉にレオーナは慌てたように、顔を真っ赤にした。


「そ、そういうわけではありません!でも、もしかしたらお兄さまがそういうモノを作っているのなら妹として注意をしないといけないと思っただけです!」


「まあ、レオーナもそういうのに興味がある年頃なんだな。」


「違います!レオーナは興味なんてありません!」


俺がニヤニヤした表情を浮かべながら言うと、レオーナは反論するようにポコポコと俺の体を叩きながら言う。

そして、顔を真っ赤にしたままさらに頬を膨らませていた。


「まあ、でも本当に後のお楽しみに待ってなよ。また、当分は会えないかもしれないから俺からのプレゼントだよ。」


俺の言葉にレオーナはパァっと顔を輝かせた。

そして、うんうんと何度も頷いていた。


「分かりました!楽しみにしています!」


そう言うと、再び俺の元に抱き着いて来た。


「ちなみに、今は何を作っているのですか?」


「これは夜のキャンプでテントの中を明るくする道具だよ。懐中電灯とかも作らないといけないからな。この国に来る際に、ほとんど魔王城の自室に置きっぱなしにしちゃったから、改めて作り直さないと。」


そう言うと、俺は作り終わった懐中電灯をレオーナに渡す。

レオーナは興味深そうにスイッチを押して、明かりを付けたり消したりしていた。


「多分、この国でも売ってるはずだよ。それを使えば、魔法を使わずに明るくすることが出来るんだ。」


「お兄さまは色々なことを知っているのですね。こういう知識はどこから得ているのですか?」


スイッチをポチポチと弄りながら、レオーナが俺に質問をする。


「基本はスキルの力で考えていたモノを具現化しているだけだよ。だから、別に俺自身に知識があるわけじゃない。形とかも日本にあったのをそのまま流用しているだけだからな。」


「前にも話していましたけど、私もいつか日本という場所に行ってみたいです…。」


レオーナはそう言うと、遠い目をしていた。


「そうだな。それこそ、ライア達も連れて行ってみたいけど。まあ、もう戻るなんてことはほとんど無理だろうからな。」


というか、すでにあっちでは俺は故人になっているのだ。

ここと日本とで、どのくらいの時間の流れに差があるのかは分からないが、どちらにせよ俺が戻って家族の前に姿なんて現したら大変な騒ぎになるだろう。


「もし、日本に行けたらお兄さまと一緒に学校に通いたいです!手を繋いだりして、仲良く登下校というモノをしてみたいです!」


レオーナはそう言うと、笑顔を見せる。


「何だか、前の世界では絶対にありえないような光景だな。でも、確かにレオーナと仲良くそういうことはしてみたいな。」


そう言うと、俺は優しく頭を撫でてあげる。

レオーナは再び甘えるような仕草を見せる。

そして、ふと思い出したかのように立ち上がった。


「そうです!せっかく、明日キャンプに行くのでしたら、私の方も色々と準備をしようと思います!」


「そもそも、まずは俺とキャンプに出掛けていいかの承諾を取るところからじゃないか?勝手に抜け出して後で怒られるのはレオーナなんだから。」


「大丈夫です!そこはしっかりと、考えていますから!お父さま達に言えば、きっと許してもらえるはずです!」


一体、どこからそんな自信が出て来るのかは分からないが、レオーナは自信満々に俺に言う。

俺がレオーナに対して首を傾げていると、レオーナはニッコリと笑い返して来た。

そして、そのまま待っていてください、と言い残すと部屋から走って出て行った。

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