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怪盗娘からの秘密の告白

その夜、俺は疲れ切っていたので早く寝ようと布団の中にいた。

あの後、無事に助けられてソルベにおんぶにだっこ状態で魔王城へと皆で帰って行った。

しかし、本当にレオーナって強いんだなと感心してしまう。

以前に聞いたことがある、王族はちょっと高レベルの冒険者よりもずっと強いという言葉は嘘ではないらしい。

というか、次にチート転生者達が襲ってきたら、即座にレオーナ達に助けを求めた方がスムーズに撃退出来るんじゃないか、と思ってしまう。

そんなことを考えながら寝転んでいると、疲れもあったからか徐々に眠気が襲って来た。

また明日には、レオーナ達と魔王城の城下で遊ぶ予定があるので早めに今日は寝るとしよう。

そう思って、俺は目を瞑ることにした。


それから、どのくらいが経っただろうか。

俺は突然、寝苦しさを感じていた。

何かが上に乗っかっているような感覚だ。

これが金縛り、というモノなのだろうか。

ここは異世界だ。そして、魔王軍という一応魔族やモンスターの総締めみたいな場所だ。

金縛りを使うモンスターくらいその辺りにいてもおかしくない。そして、ぐっすりと寝ている俺にイタズラを仕掛けて来ても何もおかしくはないだろう。

そう思って、俺は追い返そうとするために目を開けることにした。


「…何してるの?」


俺は目を開けると、目の前にいる見覚えのある少女に向かってツッコむ。

なぜか目を閉じて、俺に触れるか触れないかくらいのギリギリの位置にまで自身の顔を近づかせていた。

俺が目を覚ましたことに気づいたのか、少女は固まってしまっていた。

そして、バツの悪そうな顔を浮かべながら、俺から離れて行った。


「なぁ、ミリア。もう一度聞くけど、何してるの?」


俺は再度、ミリアに尋ねる。

ミリアは俺の視線から顔を逸らそうとしていた。

俺は不安に思って、思わず自分の下半身を見つめた。

そして、本当に大丈夫かを確認する為に思いっ切りパンツを脱いだ。


「うわぁぁぁぁ!!!君、急に何してるのさ!」


俺の行動に、ミリアは顔を真っ赤にして目を手で覆っていた。


「当たり前だろ!俺の寝ている間に、イタズラされてないか確認してるんだよ!」


「な、何もしてないから!」


「嘘つけ!お前、俺にキスしようとしてただろ!というか、どうやって部屋に忍び込んで来たんだよ!以前、お前が俺の部屋に勝手に入って来たって話聞いてから戸締りはしっかりしてるはずだぞ!」


「き、キス…!?ち、違うから!そういうつもりじゃないから!」


「じゃあ、何であんなに顔近づけてたんだよ!明らかに俺の2回目のファーストキスを奪おうとしてただろうが!」


俺は脱いでいたパンツを再び履きながら、顔を真っ赤にして興奮しているミリアに対して言い返す。

一応、何もされている様子は無さそうだ。

別にするのは勝手だが、俺の寝ている間にするのは勘弁してもらいたい。

流石にそれだと、何も喜びを感じなさそうだからだ。

やはり、ちゃんと意識のある状態でしたいという願望はある。


「2回目のファーストキス、ってそれはもうファーストキスじゃないんじゃ…?」


ミリアがどうでもいい事に対して、ツッコんで来る。

上手い言葉が思いつかなかっただけだ。

しょうもない揚げ足を取るのはやめて欲しい…。


「…それで、何しに来たんだよ?せっかく人が気持ちよく寝てたのに…。」


カーテン越しに窓の外を見る感じ、まだ深夜帯だろう。

俺は再びベッドの上に寝転ぶと、布団を被ることにした。

すると、ミリアが俺の上から顔を覗き込んで来た。

月明かりだけしかないのもあって、普段のミリアと違ってどことなく幻想的な雰囲気だった。


「ねえ、君ってライアさんのことが好きなの?」


突然、ミリアが真面目な表情でそんなことを聞いて来る。

俺は一瞬、返答に困ってしまった。

しかし、黙っている訳にもいかないと思って、何とか安パイな返答を考える。


「そりゃあ、好きだよ。でも…。」


俺がミリアに対して答えようとする。


「…でも、私達のことも好きって言いたいんだよね。それは、友達としてって意味だよね?」


俺の言葉を遮るようにして、ミリアが俺に再び尋ねて来る。

俺は思わず、黙り込んでしまう。

そして、恐る恐るといった様子で口を開く。


「…まだ、よく分からないんだよな。多分、ライアのことは好きなんだと思う。あいつと一緒にいると、何だか楽しいんだよ。まあ、母親かって思うくらいに口うるさい時も多いし、小言ばかり言われて口喧嘩することも多いんだけどさ…。」


俺は、自信なさそうにミリアに言う。

ミリアはそんな俺を見て、少しだけ微笑む。


「…私も君のことが好き。それは、友達としてじゃない。多分、君がライアさんに抱いてるのと同じ思いだと思う。」


そう言い終わると、ミリアは少しだけ黙る。

そして、俺の顔をジッと見つめていた。


「私って、もう知っていると思うけど同世代の男の友達ってまったくいなかったんだよね。そもそも、女の子の友達って言えるのもあの家を追い出されて、冒険者稼業を始めてからだから。だから、最初に君と会った時にもしかしたら友達になれないかなって思ったんだよ。」


ミリアは一気に話したからか、軽く息を吐いた。

暖かい吐息が俺の首筋にかかって、少しだけくすぐったく感じる。


「何だか、楽しそうにしていたから、もし私があの輪の中に入れたら、あんな風になれるのかなって思ってた。そこからは、まあ君も知っての通りだよね。最初は、周りの女性にセクハラばかりするし、おかしな知識ばかり持っていて、何か悪だくみをしたら、バレてライアさん達に怒られてるのを見てて、変な人だなって印象しかなかったの。」


そう聞くと、俺って本当にロクでもないなって思う。

ただ、言うほどセクハラをした記憶なんてないんだけどな…。

おかしな知識、に関してはこの世界に来る前の知識の方が豊富なんだから当然だろう。

俺の表情が微妙になっていくのを見て、ミリアはクスクスと笑っていた。


「でも、たまに見せるカッコいい姿が凄い惹かれたのは覚えてるの。周りにいる友達が困ってたら、自分の出来る範囲で必死に助けようって姿が凄く好きだった。私の弟が誘拐された時も、気づいたら助けてくれていた。私だったら、考えもしないような奇策とか使ったりしてね。素直じゃなくて、いつも文句ばかり言ってるのに、最後には何とかしてくれるんじゃないかって期待しちゃう。そんな君のことが私は大好きなんだよ!今回も私を見捨てて逃げてもいい場面で、最後まで手を離そうとしなかった。私は、やっぱり君のことが大好きなんだなって改めて思ったの…。」


ミリアは一気にまくし立てるように、俺に言った。

どうしよう…。凄く、嬉しい。

自分の今までの人生の中で、ここまで好きだって女性から言ってもらえることなんてなかったと思う。

それでも、俺の頭の中ではライアの顔が思い浮かんでしまっていた。

友達以上恋人未満。何だかよく分からないフワフワとした関係だが、恐らく俺はライアのことが好きなのだろう。

ここで自分からミリアに対して、好きだと言えるような度胸は俺にはなかった。


「…その、ごめん。凄く嬉しい。俺って前の世界では、女性から告白してもらえるような人間じゃなかったからさ…。だけど…。」


俺が何とか頑張ってミリアに答えようとする。

すると、ミリアは俺の言葉を予想していたのか、首を横に振る。


「分かってるよ…。君は、ライアさんのことが好きなんだよね。普段の君を見てたら、何となく想像出来ていたことだから。」


そう言うと、ミリアは俺に対して微笑んだ。

しかし、すぐにミリアの目から大粒の涙が落ちて来た。

そして、その涙は俺の顔を濡らして来た。


「…私じゃ、ダメかな?私じゃ、ライアさんの代わりにはなれないかな?」


声を震わせながら、ミリアが俺に尋ねて来る。

そして涙を拭くこともなく、俺の顔をジッと見つめて来た。


「私なら、ライアさんみたいに怒ったりしないよ?お店に毎日行っても、何も文句は言わない。セクハラとかも全然大丈夫だからさ!そういうエッチな事とかも、全然させてあげれるよ!」


ミリアが俺に向かって、泣きながら言う。


「お前、落ち着けって!というか、流石にそれは俺を馬鹿にしすぎだ!確かに、城のメイド達からは人でなしだの、魔王よりも魔王っぽいヒロトさん、だの散々なあだ名をつけられてるけど、そこまで人の心を失ったつもりはないぞ!」


自分で言っていて、本当にロクでもないあだ名だな、と思う。

すると、ミリアはすっかりと子供のように泣きじゃくっていた。


「…そうだよね。ごめんね、ごめんね…。」


何度も何度も俺に向かって謝る。

そして、ようやくどこか踏ん切りが付いたのか、目に浮かんでいた涙を拭きとった。


「…ありがとう。君の気持ちが聞きたかっただけだから。私じゃ、ライアさんには勝てないってことくらい最初から分かってたからさ。」


「…ごめん。」


俺はよく分からないが、ミリアに謝る。

ミリアはそんな俺に対して、笑顔を見せながら首を横に振る。


「別に君が悪い、なんて言ってないよ。むしろ、私なんかじゃ君の恋人になれるなんて思ってなかったから。だから…。」


そう言うと、ミリアは目を閉じて俺の顔に近づいて来た。

そして、俺の唇に柔らかい感触が静かに感じられた。


「…これくらいは、させてね。」


少しだけ意地悪っぽく笑うと、ミリアは布団から飛び降りた。

そして、そのまま歩き出そうとした。

しかし、何に引っ掛かったか分からないが、ミリアは足を滑らせて顔から豪快に転んだ。

一瞬だけ、部屋の中には静寂が流れた。


「ブフォッ!!!」


俺はその空気に耐えられず、我慢出来ずに噴き出してしまった。

すると、顔を真っ赤にして泣き顔を浮かべていたミリアがこちらに怒りのあまり突撃して来た。


「待って!今のは流石にお前が悪い!あの雰囲気で転ぶのは反則だろ!」


「私だって、自分なりに覚悟を決めて告白したんだよ!それを、それを…!」


俺は殴りかかって来そうなミリアを必死に押さえながら、言い返す。

いや、あの状況でドジっ子を見せるのは反則だと思う。

そして、逆ギレをして来るのはもっと反則だ。


「もういい!こうなったら、ライアさん達との友情とかもう知らない!このまま君と一夜明かして、既成事実でも何でも作ってやる!」


「それがバレて、ライアに2人で仲良く怒られるんですよね!テンプレだからな!」


俺は暴れ出すミリアを何とか落ち着かせようと、必死に距離を離そうとする。

すると、突然俺の部屋のドアが開けられた。


「うるさいぞ、もう何時だと思っているのだ?」


ライアの声が聞こえてきた。

俺とミリアは思わず、固まってしまう。


「この女に夜這いをされそうになりました!」


「あーーー!!!」


俺は真っ先にミリアを指差しながら、ライアに報告をする。

ミリアがそれに対して、顔を真っ赤にして叫び声を上げる。

そんな俺とミリアの2人を見て、ライアは呆れたようにため息を吐いた。


「本当にお前達は…。」


ライアがそうつぶやくと、静かにドアを閉じて部屋に入って来る。

ミリアは反省したように、ライアの前で正座をしていた。

俺は勝ち誇ったように、ミリアを見下ろしていた。ミリアが負けじと、俺を睨み返して来る。


「それで、どうして2人でそんなに騒いでいたのだ?」


ライアが修学旅行で夜に暴れて注意をしに来た教師のような雰囲気でミリアに尋ねる。

ミリアは言い難そうな表情をしていた。

ライアはそんなミリアに対して、微笑んだ。


「ヒロトにしっかりと思いは伝えられたか?」


優しい口調で、ミリアに尋ねる。

ミリアは驚いた表情を浮かべていた。

コイツはたまに妙に勘が鋭い時がある。そして、どうしてそれを普段の魔王としての業務に生かせないかと不思議に思う。


「言いたいことは、全部言えたかな…。」


ミリアはライアに対して遠慮しがちに答えた。

ライアはそんなミリアに対して、尚も優しそうに微笑んでいた。


「お互い、どうしようもない男を好きになったモノだな…。まあ、私からしたらこれだけアプローチをしてあげているのに、気にも留めないで仲の良い女性と酒を飲んだり、妹だの何だのといって年下の女の子にデレデレするような甲斐性なしなど捨ててやりたいと思っているのだがな…。」


そう言うと、俺の方を睨みつけて来た。

俺は空気に耐えられずに、ミリアの隣で同じように正座をすることにする。


「一応、しておいた方がいいと思いまして…。」


「…いい心がけだな。」


俺に向かって、ライアが辛辣に言い放つ。

隣では、ミリアがざまあみろと言いたそうな視線を向けて来た。

お前の先程の告白のセリフをライアに教えてやってもいいんだぞ、と思った。


「…その、ライアさん。ごめんなさい。」


ミリアはそう言うと、ライアに対して恐る恐る頭を下げた。

ライアはそんなミリアの頭を優しく撫でていた。


「別にお前が謝る必要なんてない。お前がちゃんと思いを伝えれたのなら、それで良かった。」


何だろう、以前見たあの意地悪そうな継母よりもこっちの方がよっぽど母娘に見えて来る。

ライアは俺の方をチラリと見て来た。


「ヒロトも、ちゃんとミリアの思いに応えてあげたか?」


そんなことを尋ねて来る。

俺は先程までのミリアとの会話を思い出す。


「そういえば、ミリアからされたあのキス。セカンドキスってやつになるのか…。」


ふと、雰囲気に耐えられなかったので俺はそんなことをつぶやく。

ミリアがバッと顔を上げて、俺を睨んで来た。

ライアの方も、先程までの優しそうな表情から一転して俺達を睨みつける。

その後、2人して仲良く小1時間程、ライアから説教をされることとなったのはまた、別のお話である…。

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