久しぶりの妹との再会
「開門!!!」
衛兵の声が響き渡る。
すると、門がゆっくりと開かれる。そして、まだ幼さが残っている少女と、その後ろにはスーツをピシッと決めた女性が立っていた。
「お兄さま!お久しぶりです!」
「ちょっと、レオーナ様!」
レオーナは俺の姿を見るなり、ドレスのスカートを軽く持ち上げてこちらに駆け寄ってきた。
その姿を見た、従者であるヘレンが思わず鋭い声を上げる。
そんな声を無視して、レオーナが俺のに抱き着いて来た。
「お会いしたかったです!当分は会えないと思っていましたから!」
嬉しそうに言うと、抱き着いて来た俺に顔をうずめる。
俺も久しぶりに会うことが出来た妹の頭を優しく撫でてあげる。
「久しぶりだな。いい子にしてたか?」
俺が尋ねると、レオーナは笑顔を見せて俺の方に顔を上げた。
「はい。お兄さまのいない間は、お城でしっかりと勉強や武道などをしていました。今日は、お父さまに頼み込んで、お兄さまと会わせていただくことにしてもらいました!」
レオーナが褒めてくれ、と言わんばかりに俺に報告をする。
「おっ、偉いぞ!」
俺はそう言うと、再び優しくレオーナの頭を撫でる。
レオーナが嬉しそうに俺に再び抱き着いて来た。
そんな俺達を後ろから呆れたような視線で見ていた5人の女性陣。
すると、ライアが久しぶりの再会を喜んでいる俺達の元へ近寄って来た。
そして、何を思ったのか俺に抱き着いていたレオーナを無言で引き剥がそうとした。
「ライアさん!何をするんですか!」
レオーナが俺から離れまい、とばかりに抵抗をする。
「何だか、ムカついたからだ!これ見よがしに、ヒロトに抱き着くのをやめるのだ!」
ライアはそう言うと、レオーナを無理やりにでも引き剥がそうとさらに力を入れる。
レオーナも簡単には引き剥がされたくないのか、俺の足元で必死に抵抗をしていた。
「嫌です!ライアさんは毎日、お兄さまとイチャイチャしているのでしょう?なら、今回は私に譲ってくれてもいいじゃないですか!」
「そ、そんなことはしていない!というか、誰がそんなことを言ったのだ!」
それを聞くと、レオーナが俺の方をチラリと見て来た。
そういえば、いまだに続けている手紙のやり取りで、ライアと同じベッドの上で寝たことがあるみたいなことを書いた気がする。
それを幼いこの王女様が、過剰に考えてしまっているのだろう。
それ以上のことは、まだ書いていないはずだ。多分…。
「お前か!やっぱり、この男と文通とやらのやり取りをするのはやめろ!」
「嫌です!私はお兄さまと会えるのは数少ないのですから、せっかく教えて頂いた文通とやらで私のことを忘れないでいて欲しいのです!」
まるで年の離れた姉妹が喧嘩するような光景が繰り広げられる。
別に喧嘩をするのは勝手だが、俺との再会で喜んでくれている可愛い妹を俺から引き剥がそうとするのはやめて欲しい。
というか、前の時も思ったが、レオーナが関わるとライアの精神年齢が数歳くらい下がっているような気がするのだが、気のせいだろうか…。
「お兄ちゃんは、その気持ちだけで嬉しいからな。レオーナのことを忘れるなんて、ありえないことだから安心しろよ。」
俺はレオーナの頭を再び撫でながら、優しい声で言う。
レオーナはその言葉を聞くと、ライアに引っ張られながらも、嬉しそうに俺に再び顔をうずめて来た。
「ちょっと、ライア様!流石に、そこまでにしてください!一応、お互いに一国の王女なのですから…。」
レオーナ関連になると、比較的常識枠に入り込んで来るユキネが慌てた様子で、2人の間に入る。
「うるさいぞ!これは、魔王としてではなくて、女性として負けてはいけない気がしたからだ!」
「もし、そうならば、お願いですから人の目が少ない場所でお願いします!流石に、声が大きすぎて人が集まっていますから…。」
ユキネが周囲の視線を気にしながら、ライアに言う。
確かに、2人の声に反応して、何事かと野次馬達が集まって来ている気がする。
ユキネがレオーナと小競り合いを始めている、ライアをとりあえず無理やり離そうとする。
「あの、レオーナ様…。流石に、城の者達もいますから、あまりそのような言葉遣いはやめて頂きたいのですが…。というか、イチャイチャなんて言葉、どこで覚えたのですか?」
同じく、従者であるヘレンがレオーナをライアから離そうとする。
「お兄さまから教えて頂きました。まだ私には早いことだ、と言われましたけど、もう私も立派な女性ですよ!」
ヘレンに答えながら、俺の方を見て来る。
流石に、いくら可愛い妹といえど、年の差がかなり離れてしまっているのでそれは少し難しいのでは、と思ってしまう。
「また、この男からおかしな知識を!レオーナ様、お願いですからもうこの男とあまり話さないでください!これ以上、おかしな知識を付けられると、私の従者としての評価が落ちてしまいますから!」
ヘレンが俺を睨みつけながら、レオーナに必死に懇願をする。
「嫌です!そんなことばかり言うと、もうヘレンとはお話しはしません!」
レオーナが鋭い口調で、ヘレンに言い放つ。
幼いのに、逞しいなと思う。
「ふぎゅっ!」
よく分からない擬音と共に、ヘレンがレオーナの言葉によって悶え苦しんでいる。
この人も大概変な人だな、と思う。まあ、この世界の住人でまともな奴なんてほとんどいないけど…。
「お願いですから、ライア様!落ち着いてください!レオーナ殿が関わると、どうして毎回そうなるのですか!」
「離せ!これは、私の女としての意地が懸かっているのだ!」
「それは分かっていますけど、今は落ち着いてください!」
ユキネが、いまだにやる気なライアを止めようとしていた。
こっちもこっちでうるさいな、と思う。
「少しは静かにしろよ。魔王軍のメイドがヤバい奴だと思われちゃうだろ?これだからキス魔は…。」
俺はやれやれ、といった風にユキネに言う。
「…キ、キス魔!?」
顔を真っ赤にしたユキネが、分かりやすく動揺する。
その言葉に、隣にいたレオーナも反応を示す。
「…キス?それは、どういうことでしょうか?」
あまりその手の知識が少ないのだろうか?レオーナが、不思議そうに首を傾げる。
今度、そういう知識も教えてあげるとしよう。
「レオーナ殿には関係のない話ですので!早く、本題に入りましょう!」
ユキネが慌てて、レオーナの元に駆け寄る。
そして、バレないように俺を睨みつけていた。
「そうですね、いつまでも遊んでいる暇もありませんから。そろそろ、話すべき話題に移りましょう…。」
ユキネの視線に気づいた、ヘレンがため息を吐くと、話を始める。
「まずは、例のモノを見せて貰ってもいいでしょうか?」
ヘレンの言葉に、ユキネは頷いた。
そして、例の宝石を渡した。
「見た感じ、確かに外見は一致しますね。なぜ、このような大事なモノが魔王軍の領地に住んでいる領主の元に存在していたかですが…。」
「それについては、今も調べ中です。ただ、本人もあまりよく分かっていないみたいで…。」
ユキネが申し訳なさそうに言う。
ヘレンの方も、そのことについては深く追及する気はないらしい。
その宝石を大事そうに、包み直していた。
「この宝石は、一度私達の国王に見せるつもりです。また、何か分かったら連絡をください。こちらも、出来る限りは情報は共有するつもりですから。」
「ありがとうございます。協力、痛み入ります。」
2人が丁寧な言葉遣いで話をしている。
こうして見ると、2人とも立派な王女様の護衛みたいだなと思ってしまう。
ヘレンはそんな俺の視線を無視して、次はミリアの方を見た。
「こちらからの招待に応じて頂き、ありがとうございました。」
そう言うと、軽く頭を下げる。
「えっ!?そ、それは…。」
ミリアが突然話しかけられたことで、驚いた表情を見せる。
そして、例の手紙の件も思い出したのか、微妙な表情を浮かべる。
「どうして、急に私と会いたいなんて言って来たんですか?正直、何の理由も書かれていなかったから、そこがまず知りたいんですけど…。」
ミリアが恐る恐るといった様子で、ヘレンに尋ねる。
ヘレンはある程度事情を知っているのか、微妙な表情を見せる。
「…今度、我が国では他国なのですが、そこの王子様との婚姻が行われるのです。」
俺はその言葉の時点で、何となく予想が出来た。
俺の様子を見たからか、ヘレンが頷いて来る。
「その女性を誰にするか、という話が議題に上がっていまして…。それで、あなたの父君が立候補をなされたのです。」
「私が生きている、って噂を聞いたからですか?」
ミリアの質問に、ヘレンは頷く。
「わざわざ、他国の王子に自分の娘を差し出すのはあまり喜ばしい事ではありません。国王様もそれを分かっていて、部下の方々に頼んでいました。」
「逆に言えば、そこで差し出せれば、王様からの印象が良くなるってわけか。」
俺の言葉に、ヘレンが頷く。
なるほど、それで今更になってかつて捨てたはずの娘と再び会おうとしているわけか。
そもそも、会いに行った瞬間に拉致られて、そのままその王子様の方に引き渡されるみたいな話になるのかもしれないが…。
「その国ってのはルチアーノ王国ではないんですよね?」
「違いますね。また、別の国です。」
俺の質問に、ヘレンが答える。
俺は事情をあまり分かっていなさそうな、レオーナの方を見る。
「そういえば、レオーナはどうしてミリアとまた会いたいなんて俺への手紙で書いてたんだ?」
俺はふと、レオーナから来た手紙の内容を思い出して、尋ねる。
「それは、少し聞きたいことがあったのです。」
レオーナはそう言うと、ミリアの方を見る。
ミリアは先程までの不安そうな表情から一転、不思議そうにレオーナを見る。
「私がとても小さい時の記憶なのですが、ミリアさんとは一度会ったことがあるような覚えがあるのです。それを聞きたくて…。」
レオーナの質問で、俺達の視線は一気にミリアの方に向かった。
ミリアは言いたくなさそうな表情を見せていたが、諦めてため息を吐いた。
「うん、まだレオーナ様が凄い小さい時に短い期間だったけど、遊び相手みたいな関係にはあったね…。」
「やっぱり…。何というか、初めて見た時からどこかで見たことがあるなとは思っていたのです!」
その言葉に、レオーナが嬉しそうに声を上げる。
そういえば、ミリアの方も、初めてレオーナと会った時に驚いた反応を示していたな、と思い出した。
あれは、恐らくレオーナのことを覚えていたからだろう。
「でも、結局は私は奥さんに黙って作った娘だったから。それもあって、追い出されたから、レオーナ様が覚えていた方がビックリだよ。」
少しだけ、懐かしそうにミリアは言う。
「…その、もし私に力になれるようなことがあれば、言ってください!お兄さまに教えて貰った、甘えるとやらで、お父さまを説得してみせますから!」
レオーナが、ミリアに対してそんなことを言う。
ミリアがチラリと俺のことを睨んで来た。
「あまり、ヒロト君に変なことを教えて貰わない方がいいと思うよ…。でも、ありがとうございます。レオーナ様が無理する必要はないですよ。これは、私自身の問題ですから。」
「そ、そうですか…。でしたら、レオーナ様はやめてください。あまり、そういう呼び方をされるのは好きではないので…。」
レオーナは残念そうに俯いていた。
そんなレオーナの姿に、ミリアはクスリを笑みを漏らした。
「分かりましたよ。でも、昔みたいな呼び方は無理だから、レオーナさんでいい?」
「はい、それでお願いします!」
レオーナは嬉しそうに顔を上げると、ミリアに言う。
「ねえ、ヒロト。ミリアのこと、何とか出来ないの?」
シエスタがふと、俺に尋ねて来る。
「いつも言ってるが、その抽象的な言い方はやめろよ…。何をどうしてもらいたいんだよ?俺に出来ることなんて、たかが知れてるぞ。」
どうせ、コイツのことだからミリアの両親を説得しろとか、無茶を言い出すつもりなのだろう。
俺は何でも出来る未来のネコ型ロボットではないのだ。無理なことは無理。
ハッキリと言うタイプの人間だ。
「ミリアがいなくなっちゃうのは嫌だから、いつもみたいに助けてあげれないのって言ってるのよ。」
「何で、俺が他国のお偉いさんの事情にまで介入しないといけないんだよ…。」
俺はシエスタに呆れながらに言い返す。
すると、ライアとエレナ、そしてユキネの3人がジッと俺のことを見て来た。
俺はもちろんだが、その視線を無視する。
すると、レオーナが俺の前に立って来ると、両手を胸に当てて俺を見上げて来た。
「お兄さま、私からも頼んでもいいでしょうか…?」
目を若干だが潤ませて、俺に言う。
流石は俺の妹だ。教えたことをしっかりと実践している。
俺は自分を兄と慕ってくれるこの少女に、末恐ろしさを感じた…。




