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怪しげな領主の男の調査

魔王城から出て来た俺は、ある場所に向かっていた。


「ねえねえ、どこに行くつもりなの?」


後ろから、シエスタが不思議そうに俺に尋ねる。

俺は、なぜか今回はずっと引っ付いている女神の方を振り向く。


「別にどこに行こうが俺の勝手だろ…。お前こそ、何で俺と一緒にいるんだよ?ミリア達の後でも追えばいいだろ。」


「しょうがないじゃない、もういなくなっちゃったんだから。探しに行ってもいいけど、確実に私は迷子になるわよ?それに、ヒロトは私の従者だからね、変な事しないか見張らないといけないの。」


「いつ、俺がお前の従者になったんだよ…。」


訳の分からないことを自慢気に言う、自称女神を引き連れながら俺は城下町を歩く。

別段、この辺りは被害が無かったからか、これまでと変わらない様子だ。

そんな事を思いながら、俺は目的の場所に到着した。


「…ここって、確か皆で一度宴会をした場所よね?」


リリィ達の店の看板を見上げながら、シエスタがつぶやく。


「どこぞのエルフ娘が口を滑らせたせいでな…。」


俺は苦い顔をしながら、シエスタに言う。

まだこの時間だと、営業前なので店の外も静かだ。

ただ、開店前の準備があるはずなので、すでに店長やリリィ達はいるはずだ。

俺は、そう思いながら店のドアを開けた。


「すみません、まだ開店前なんです!…って、ヒロト君じゃん?」


ちょうど、入り口付近で作業をしていたリリィが俺が入って来たことに気づくと、意外そうな表情を見せる。


「よう!ちょっと、聞きたいことがあって来たんだよ。」


俺は、軽くリリィに対して手を挙げると、笑顔を見せる。

こんな時間から誰かがやって来たことで、すっかり顔馴染みとなった店長達も不思議そうな表情で俺を見ていた。


「別にいいけど、こんな時間に来るなんて珍しいね。」


リリィが俺に近づきながら、そんな事を言う。

そして、俺の隣にいたシエスタに気づく。


「…えっと、シエスタさんだっけ?以前に魔王様達とうちの店に来てくれた人だよね?」


シエスタのことを覚えていたのか、シエスタに尋ねる。


「この人って、ヒロトがよくお酒飲みに行く時に会いに行く人だっけ?」


「まあ、そうだな。」


「いいの?こんな時に、会いに行って。また、ライアに怒られるわよ?」


シエスタが、俺の方を見ながら、首を傾げて言う。


「別に、今日はそういう目的で来たわけじゃねえよ。そもそも、営業時間外なんだから来たところで酒も何も提供されないしな。」


俺はシエスタに言い返すと、再びリリィの方を見る。

リリィの方も、俺がどうしてこんな時間帯に来たのか不思議そうに見ていた。


「ちょっと聞きたいんだけど、バルトラって領主のオッサンのこと知ってたりする?」


俺はいきなり本題に入ろうと、リリィに尋ねる。


「…バルトラ?あー、たまにうちの店に来て、凄い勢いでお金をバラまいて帰って行くオジサンよね。でも、その人がどうしたの?」


思い出したかのように、リリィが俺に答える。

どうやら俺の予想通り、この店の常連客らしい。


「そのオジサンがどういう人なのかって教えて貰うことって出来る?」


「えっ、別にいいけど…。急にどうしたの?」


リリィが突然の俺の質問に対して、逆に聞き返す。

確かに、唐突に聞きすぎただなと俺も反省する。

仕方がない、ここはちゃんと事情を説明しよう。

俺はリリィ達を巻き込みたくはなかったので、当初は話す気がなかったユキネの一件について軽く説明をする。


「なるほどね…。そういえば、この前にそのオジサンが来た時に、新しいメイドを雇うみたいな話があった気がするわね。」


「お前に話してたのか?」


俺はリリィの言葉に、思わず反応する。

リリィは、首を横に振る。


「私じゃないわよ。別の女の子を指名してた時ね。気前が良かったのか、お小遣いをくれたって言ってたはずよ。」


そう言うと、リリィは確認とばかりにその女の子の方を見る。

女の子の方も事実なのか、うんうんと頷いていた。


「その新しいメイドさんって、多分ユキネさんのことだよね?」


リリィが恐る恐るといった様子で、俺に尋ねる。


「まあ、そうだろうな…。他にどんな話をしてたとかって分かったりする?」


「うーん、私はほとんど指名されたことはないからねー…。一番、指名が多い子だと…。」


そう言うと、リリィは先程頷いていた女の子を再度見る。

女の子の方も、自分に用事があると気づいたのかこちらに近づいて来た。


「バルトラ、ってお客さんの話ですよね?私は、別に変な事とかはされてないですけど、よく息子さんが我が儘なのか、飽き性なのか、メイドさんをすぐに解雇しては雇用してを繰り返していて大変だ、みたいなことを言ってました。後は、よくお小遣いをくれるんですけど、自分には秘密の収入源があるんだみたいなことを言ってました。」


これまでに話していたことを思い出しながら、俺達に教える。


「ちなみに、その収入源については詳しい話は分からない?」


俺の質問に、自信なさそうに頷く。


「…ごめんなさい。そこまでは教えてくれなかったです。でも、酔った拍子にバレたら大変なんだみたいなことを言っていました。」


なるほど、どういう手段化は知らないが、非合法な方法で貯蓄を貯めているのは事実らしい。

ただ、それをミリア達が暴けるのか、と言われると疑問だ…。


「うちの店からしたら、かなりの太客だけど、良い噂は聞いたことは無いな。何せ、治めている地域の魔族達からかなり評判が悪いってのは聞いたことがあるから。」


俺達の会話を聞いていた店長が、話に入って来る。


「ちなみに、どんな評判なんですか?」


俺は店長に、尋ねる。


「ちょっとでも期限が遅れると差し押さえをしたり、挙句の果てには可愛い娘がいると自分の屋敷に無理やり連れて行ったりしているらしい。ただ、それを魔王軍の方に訴えたりすると、さらに酷い目に遭わされると知っているから、言えない状態とは聞いたことがあるな。」


「じゃあ、魔王軍の方はそのことについて何も知らないってことですか?」


俺はさらに、店長に尋ねる。


「知っているけど、証拠がないってエレナが嘆いてたわよ。証拠がないから、責めれないから、うやむや状態だって。」


隣で突っ立っていただけのシエスタが、会話に入って来る。

大体の話は分かった。そして、これ以上はもう情報は得られないだろう。


「ありがとう。もしかしたら、また聞きに行くかもしれないから、次にバルトラって客が来たらそれとなく聞いてみてよ。あと、この話はここだけの秘密にしてくれると助かる。」


俺はリリィ達にお礼を言うと、無理なお願いをしてみる。


「まあ、ヒロト君の頼みだから何とかしてあげたいけど、そんな上手くはいかないと思うよ…。」


リリィが申し訳なさそうな表情で、俺に言う。

俺もそれは十分に承知しているので、軽く手を振って店から出て行く。


「ライア達に報告しなくていいの?」


店から出て、魔王城とは反対方向に歩き始めた俺に、シエスタが尋ねる。


「言ったところで、証拠がないからな。そもそも、そっちであの領主を相手にするのはかなり無理な話だってのは分かった。」


「じゃあ、どうするのよ?というか、あれだけ反対してたくせに、ユキネを助けようとしてるのね?」


意外だな、と言いたそうな表情でシエスタが尋ねて来る。


「別に助けるつもりなんてねえよ。ユキネが勝手に決めたことだからな。ただ、一応どんな奴なのかって興味を持っただけだ。」


俺は、シエスタに言い返す。

シエスタは俺の言葉に対して、何か言いたそうな表情を見せる。

そんなシエスタを無視して、俺は次の目的地へと歩いていく。

そこは、リリィ達の店からそこまで離れていない場所だった。

シエスタと先程の会話をしていたお陰か、歩いているとすぐに到着した。


「次は、ナヤのお店じゃない。ここで何をするの?」


看板を見たシエスタが、再び俺に尋ねる。

俺はそんなシエスタの疑問を無視して、店のドアを開ける。


「いらっしゃい!」


ナヤが元気な声を掛けて来る。


「相変わらず人がいないな…。」


俺は人気のない店に入ると、ナヤに向かってつぶやく。


「一応、さっきまでは常連さん達がお昼を食べに来てたんだよ。アスターさんの占いもしに来てたしね。」


ちょうど、机を掃除していたのか。

雑巾を手に持っている、ナヤが俺に言う。


「まあ、俺からすると今日は人がいない方が助かるからな。」


「どうしたの?そういえば、シエスタさんと来るなんて珍しいね。いつもは、別々に来てるイメージがあったから。」


ナヤが、シエスタの方を見ながら俺に言う。

別に、一緒に来る気は無かったのだ。勝手に、コイツが引っ付いて来た、と言った方が正しい。


「まあ、ちょっと事情があるんだよ。」


俺の表情に、ナヤも少しだけ表情を引き締める。

ちなみに、シエスタはいつの間にかいなくなっていた。

占い用の水晶玉を拭いているアスターにちょっかいを出しに行っていた。

まあ、コイツはいてもいなくてもどっちでもいいので、どうでもいいか…。

俺は、リリィの時と同様にユキネの件をナヤにも話す。


「なるほどねー。バルトラってオジサンなら、私も何度かお店で見たことはあるよ。」


「話したことはある?」


俺の質問に、ナヤは首を横に振る。


「私はないかな。基本的には別の女の子を指名することが多かったから。」


「じゃあ、リリィと同じか…。」


俺は、それを聞くとあまり収穫は無さそうだなと思う。

ミリアとは別方面で、情報を収集しようとも思ったが、やはりこのやり方では上手く行かないなと思う。


「でも、一度だけこのお店にも来たことがあるんだよね。」


ナヤがふと思い出したかのように、つぶやく。


「一度だけなんだ…?」


「うん、一度だけ。多分、指名した女の子が教えたから興味を持ったんじゃないかな?アスターさんの占いも体験してたはずだよ。」


そう言うと、ナヤはアスターの方を見る。

俺もアスターの方を見ると、視線に気づいたのか俺達の方に振り向く。


「…何の話?」


アスターがナヤに尋ねる。


「ほら、だいぶ前にだけど太っちょの高そうな服を着たオジサンが来たの覚えてない?多分、他の人達よりも明らかに高い服を着てたから目立ってたはずだけど…。」


ナヤが、アスターに教える。

アスターは思い出そうと、悩んでいる様子だった。


「…そんな人、いたような気がするわね。」


「一応聞くけど、どんな占いをしたんだ?」


俺は期待しないで、アスターに尋ねる。


「そんなこと言われても、毎日のように誰かしらの占いをしてるんだから1つ1つ覚えていないわよ。」


まあ、それもそうだよな…。

俺はアスターの言葉に納得する。

すると、アスターの隣にいたシエスタが1枚の写真のようなモノをアスターに見せていた。


「ほら、このオジサンよ?」


アスターは、シエスタから受け取るとジッと眺めていた。


「あー、思い出した!この豚みたいなオジサンね!」


アスターが割と酷い言い方で、思い出していた。

確かに、見た目は完全にそうなのだが、もう少しオブラートに包んでやれよと思う。


「この人、占おうとしたら何だか何も見えなかったのよ。それを正直に言ったら、機嫌悪くなってたわね。」


アスターが当時の状況を思い出しながら、俺達に教える。


「見えない、なんてことあるのか?」


俺は、アスターに尋ねる。

何度か俺も占ってもらったことはあるが、基本的に外れたことがない。


「そうよ。ちなみに、シエスタも見えないわ。でも、シエスタの場合は女神だからって理由が言えるけど。あのオジサンの場合は分からないのよね…。」


そう言うと、アスターはうーんと悩み出した。

いや、予想外の情報は得たが、別にそれを知ったからといって何かが変わるわけではないな、と思った。


「ありがとう。一応、頭に留めておくよ。」


俺は、軽くアスターに礼を言う。

そして、再びナヤの方を見る。


「なあ、ナヤ。頼みたいことがあるんだけど…。」


俺の言葉に、ナヤは首を傾げた。


「別にいいけど、無茶な頼みは流石に断るよ。私も出来ることと出来ないことはあるんだから。」


俺はナヤに対して、頷く。


「もしもだ。もしもの話だけど、自白剤的な薬って作れたりするか?」


俺の言葉に、ナヤは考え込んでいた。


「君が何を考えているかは、今までの話で大体は分かったけど…。そんなすぐに作れるモノじゃないよ…。」


「作ろうと思えば、作れるのか?」


「…まあ、一応は。」


ナヤが自信なさそうに頷く。

シエスタとアスターは、俺達の会話の意味が理解出来ないのか、首を傾げていた。


「いや、興味本位で聞いただけだから。気にしないでくれ。」


俺はそう言うと、シエスタの方を見た。

俺の視線に気づいたのか、アスターから離れて俺の方に近づいて来た。

そして、俺は2人に軽く礼を言うと、シエスタと共に店から出て行った。

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