表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

168/319

大忙しの屋台仕事

そこから1週間程、準備期間を経て、無事に城下で祭りが開催されることとなった。

何の祭りにするか、とかという話があったが、結局決まらないままだったらしい。

元々、ユキネが留守にすることが増えたので、ユキネを元気づけるという意味合いがライア達的には強いらしい。


「ヒロト君、注文来たよ!」


ミリアの声が飛んで来る。


「分かってるよ!今、前の客の分が作り終えるから!というか、シエスタの奴は何してるんだよ!」


俺は、ミリアに怒鳴り返す。


「えっと、シエスタさんならあそこでアスターさんと…。」


「あのアホ女神共!この忙しい時に、サボってんじゃねえ!給料払わねえぞ!」


俺は、隣で一緒に作っているナヤに現場を任せて、サボっている自称デキる女神共を連れ戻そうと向かった。


「待ってちょうだい!ちょっと疲れたから、休憩してるのよ!」


俺が来たことに気づいたのか、シエスタが慌てて立ち上がる。


「客がこれでもかと来てる時に休憩してるんじゃねえよ!あと、アスターも!」


俺は、シエスタを守るように俺の前に立っているアスターにも怒鳴る。


「何よ、私はただシエスタに誘われて休んでいただけよ!」


「だったら、なおのこと注意しろよ!店長のナヤが頑張って作ってるんだから!」


悪びれもせずに答えるアスターに対して、俺は呆れながらツッコむ。

そして、そのまま2人を連れ戻すと、再び作業に戻る。


「アスターちゃん、戻って来ていきなりで悪いんだけど、このフルーツを切って欲しいの!」


ナヤがアスターの姿を見るなり、まな板の上に置かれているフルーツを指差す。

頼む前に、店長としてまずはサボっていたことの注意をしろよとも思ったが、それ以上に客が列を作って並んでいたので、俺も作業に戻ることにした。

シエスタの方は、ミリアの方に合流して、支払いなどを手伝っていた。


「本当に、これで店の赤字が補填されるんでしょうね?」


アスターがフルーツを切りながら、俺に尋ねて来る。


「一応、儲けが予想通りに行くならな。というか、元はといえばお前等が赤字覚悟の経営をしてるからこんな事をしてるんだぞ…。」


どうして、俺がこんな事をしているかというと、祭りの際に出店する店で、ナヤが経営している喫茶店も出ようと言ったことから始まる。

シエスタとミリアが続けている家庭菜園の方から、安価に野菜やフルーツが貰えるようになったのはいいが、それでも店の売上自体はいまだに赤字続きだ。

俺としては、ナヤのしていることだから好きにすればいいとは思うが、流石に赤字続きなのは良くないと思ったので、今回の出店で黒字にしてあげようと思ったのだ。

ついでに、ライア達によって、私腹を肥やせなくなったので、こうしてコツコツと地道な労働をしているわけだ。


「お客さんにも人気っぽいから、今度からこれを店のメニューにするのもいいかもね。」


ナヤが作りながら、嬉しそうに俺に言う。

ちなみに何を作っているかというと、普通のクレープだ。

フルーツはシエスタの女神の力とやらで無駄に育った新鮮なフルーツを使っている。

そのお陰もあってか、立ち並んでいる出店の中でも一際、人気を誇っている。


「もう、お前に任せるよりも俺があの喫茶店の経営にある程度介入した方がいいんじゃないかと思ったりしているんだけど…。」


俺は、ニコニコでクレープを作っているナヤに言う。


「ダメだよ!私とアスターさんの喫茶店なんだから!私達のやりたいようにやるの!」


驚いたような表情で、俺の方に振り向いて、ナヤが言い返す。

今でも十分にやりたいようにやらせているので、少しは儲けを出してくれと言いたい。

正直、本人達には言わないが、赤字続きで、とても儲け分のいくらかを建築した際の代金として払ってもらえていないのが現実だ。

俺が優しくなかったら、今頃追い出されていたぞと心の中でツッコむ。


「ねえねえ、このフルーツ美味しそうだから一口食べてもいいかしら?」


能天気なアスターが、フルーツの試食の許可を得ようとする声が聞こえる。

食べてもいいかしら、じゃなくて、それ売り物なんですけど…。


「一口だけだよ、あんまり食べちゃうとお客さんに出す分が無くなっちゃうから。」


ナヤが、アスターに答える声が聞こえる。

いや、一口でもダメだろう…。

というか、食べたいなら店仕舞いをした後にしろよ、とか色々とツッコミたい。

しかし、それをするとキリがないので、俺は俺の仕事をすることにしよう。


「でも懐かしいな、昔にマスターがこんな感じの日本?の甘い食べ物を一度だけ作ってくれたことがあるんだよね。」


クレープを焼きながら、ナヤがそんなことをつぶやく。


「お前のマスターって料理なんて、出来るんだ。意外だな。」


「うん、だから一度だけしか作ってくれたことはないよ。私の誕生日とかのお祝いだったかな?」


「よくまあ、そんな昔の話を覚えているよな。そのマスターって奴、相当昔の人だろ?」


何だかんだ、ナヤからマスターとやらの話を聞いていると、この人物が相当昔にシエスタによってこの世界に送り込まれた転生者であることは分かった。

なので、俺がナヤのことを年齢不詳、と言ったのはあながち間違いではなかったなとも思う。


「フフン。私、こう見えても昔のことはよく覚えてるんだよね。」


自信満々に、ナヤが俺に言い返す。

そんなことを話しながら、作業をしていると、子供を数人連れて来た女性の姿が見えた。


「すみません、この子達分のをください。」


その聞き覚えのある声に、俺は顔を上げる。


「あっ、ユキネさん!いらっしゃいませ!」


接客をしていたミリアの声が聞こえる。

久しぶりに、ユキネの声を聞いた気がする。


「もう用事とやらは終わったのか?」


俺は、作業をしながら、ユキネに尋ねる。

ユキネが少しだけ迷った感じを見せながらも、頷く。


「一応は、です。今日は、何やら祭りを行うので絶対に来い、とライア様から言われましたから。」


ユキネはそう言うと、足元ではしゃいでいる子供達に落ち着くように言っていた。

ここ最近、よく見るようになったユキネが勉学を教えている子供達だった。


「何か、こうして見ると子供を産みすぎた人妻みたいな感じだな。」


俺は、ユキネの両手を繋いでいる子供達を見ながら、純粋な感想をつぶやく。


「まだ、そんな年齢ではありません…。そもそも、この子供達も魔王城で働いている方々の子供ですから。中々、面倒を見る時間もないので、私が代わりに見てあげているだけです。」


ユキネが、俺の感想に対して、若干不機嫌そうな様子で言い返す。


「はいはい。それで、この子供達分ね。」


俺は、ユキネに適当に返事をすると、ナヤに人数を伝える。

5人以上はいるので、それなりに時間はかかりそうだ。

ちょうど、人が減って来た時間だから、助かった。もしかしたら、ユキネもそれを狙ってこの時間帯に来たのかもしれない。


「しかし、あなたが真面目に働いているなんて珍しいですね。」


ユキネが、仕返しとばかりに俺に対して何やら言って来る。


「うるせえよ、どこぞの魔王様のせいで店の申請は全て魔王軍を通じてしか出来なくなったからな。お陰で、俺が話を通すことが出来なくなったんだよ。」


俺は、ユキネを少しだけ睨みながら、言い返す。


「いいことだと思いますよ。ライア様も、あなたのお陰かは分かりませんが、対処が手馴れて来ているような感じが最近はしますから。」


ユキネはそう言うと、俺に向かって鼻で笑うような仕草をする。


「そういうお前こそ、ここ最近はどこをほっつき歩いているんだよ?魔王軍で一番出来るメイドじゃないのかよ?」


悔しかったので、負け惜しみとばかりに俺はユキネにボソリと言う。


「私はあなたと違って、色々と忙しいのです。」


「俺はてっきり、どこか怪しげな場所に遊びに行ってるのかと思ってたよ。」


「それはあなたの方でしょう…。これが、以前にシエスタ殿が言っていたブーメランとやらでしょうか?」


相変わらず、口が減らない女だなと思う。

しかし、本当にどこに行っているのだろうか。

別に、この女がどこに行こうが俺には関係はないが、危ない場所に行っているのなら、少しは心配になる。


「はいはい、喧嘩しないの。クレープが出来たよ。」


人数分のクレープを作り終わった、ナヤが子供達にクレープを渡す。

子供達は、それを受け取ると、すぐさまに口に頬張っていた。


「甘くて、美味しい!」


子供達の中の1人が、嬉しそうな声を上げる。

他の子供達も、美味しそうに食べていた。


「また、見慣れない食べ物ですね。」


子供達の食べている様子を見ながら、ユキネが俺に尋ねる。


「俺がいた国で、有名なスイーツだよ。せっかく売るなら、この世界に無いモノを売った方が儲けは出そうだからな。」


「なるほど、しかしその割にはかなり値段が安いような気がしますね。」」


看板に載っている値段を見て、ユキネが意外そうに言う。


「まあ、中に入っているフルーツはシエスタとミリアが作っているのを貰っているからな。後、原価を考えたらそこまで高い食材は使ってないから、そこまで高い値段じゃないよ。」


俺は、ユキネに説明をする。

値段が周りと比べても比較的に安価で売れているのも、人気の理由だと思っている。


「そういえば、以前にそんなことをしていたという話もありましたね。」


なぜか、懐かしそうにユキネがつぶやく。

すると、ユキネの服を子供の中の1人がちょんちょんと引っ張っていた。

ユキネはそれに気づいて、視線を向けると…。


「ユキネ様は食べないんですか?」


「私は、大丈夫ですよ。」


ユキネはそう言うと、子供に向かってニッコリと笑う。


「まだ材料に余裕あるから、1個くらいなら全然作れるよ?」


ナヤが、ユキネに言う。


「大丈夫ですよ。私は、この子達の為に買いに来ただけなので。」


ユキネが、ナヤに断っていた。

まあ、いらないのなら別にいいか。無理に食べさせるのも悪い。


「だけど、本当にユキネさん。大丈夫ですか?ライアさんも心配してたよ…?」


ミリアが、不安そうにユキネに尋ねる。

そういえば、隣にいたはずのシエスタはどこに行ったのだろうかと思った。

軽く辺りを見渡すと、アスターと共に子供達に遊ばれていた。

あの2人は、また作業が始まったら呼び出せばいいか。


「本当に、大丈夫ですよ。ライア様にも、今日ここに来る前にちゃんと大丈夫だと言っておきましたから。」


ユキネが、ミリアを安心させるように優しい声で言う。

ミリアの方は、まだ納得が行っていないのか、心配そうな目でユキネを見ていた。


「…お前、本当に危ないんだったら相談くらいはしろよ。」


俺は、ユキネに聞こえるか聞こえないくらいかの声でつぶやいた。

すると、その声が聞こえたのか、ユキネが俺の方を見る。


「あなたが私のことを心配するなんて、珍しいですね。何か悪いモノでも食べたのですか?」


ユキネは、俺に対して少しだけ挑発気味に言う。


「やっぱり、お前のことなんて心配なんてしない…。」


俺は、そう言うとプイッとユキネから顔を背ける。


「もう、ヒロト君も素直じゃないんだから…。」


ミリアが、俺に対して咎めるように言う。

素直じゃないのは、ユキネの方だろうと言い返したい。


「まあ、でも。珍しい、ヒロト殿の姿も見れたので、1個くらいは買ってもいいかもしれませんね。」


「…どういう意味だよ?」


よく分からないことを言う、ユキネに対して、俺は呆れながらに言う。


「おっ、注文!1個くらいなら、私1人でちゃちゃっと作れちゃうから、待っててね!」


ナヤが注文が入ったことで、嬉しそうに作業に取り掛かった。

アスターも呼び出そうかと思ったが、シエスタと共にすっかり子供達の玩具にされていたので、面白そうなのでこのまま放置にしようと思った。


「ミリア殿、そんな顔で見ないでください。本当に、何もありませんから。私の家のことですから、私自身の問題ですよ。」


そう言うと、ユキネはミリアの頭を優しく撫でていた。

ミリアは、先程と同様に不安そうな目でユキネを見ていたが、撫でられたことで少しだけ機嫌を直しているように見えた。

俺はそんな光景を見ながら、ナヤがクレープを作るまで待っていると…。


「逃げろー!」


突然、声が聞こえて来ると、周りから悲鳴のようなモノが聞こえて来た。

そして、武装していた警察隊の連中も集まって来ていた。


「皆さん、こっちへ!」


ユキネがすぐさま、状況を察したのか、子供達を安全な場所に逃がそうとする。

俺は、警察隊達が向かっている方向を見た。

すると、それは森の方向からやって来たのだろうか。地面が揺れるような足音と共に、姿を現した…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ