いざ、封印されし魔王の剣を引き抜く時…!
俺とライア、そしてシエスタとミリアの4人は何とか無事に例の剣が封印されている場所へとたどり着いた。
「…ここは?」
まだ来たことがなかったミリアが、俺に尋ねる。
「大昔の魔王が使ってたとかいう伝説の剣が封印されている場所らしいよ。」
俺の言葉に、ミリアは興味津々といった様子で洞窟の中を覗き込む。
追っ手は来ていないようだ。
一応、ここに来るまでの間は潜伏スキルを使ったからバレてはいないはずだ。
もし、冒険者達。特に、ヤマトナギサが狙っている場所があるとするならばここなのではないかと思う。
「ここに来て、どうするのだ?正直、あの剣はいまだに抜いた者はいないはずだぞ?」
ライアが不思議そうに俺に尋ねる。
「だから、それを引き抜くんだよ。お前が。」
俺は、ライアに向かって言う。
ライアは言葉の意味が分からないのか、ポカンとした表情をしている。
しかし、次の瞬間には理解したのか目を真ん丸にしていた。
「いや、無理だ!幼い頃に、お母さまに連れて来てもらって冗談で引き抜こうとしたがビクともしなかったんだぞ!」
ライアが、慌てて俺に言い返す。
冗談で引き抜こうとしたのか…。
いや、まあそれで引き抜けたらこんな苦労しなくて済んだのにと心の中で思う。
「じゃあ、今から抜いてみてよ。もしかしたら、成長して抜けるかもしれないぞ?」
俺は、3人と共に洞窟に入ると例の剣が刺さっている場所を指差す。
ライアが自信なさそうな表情を見せる。
「いや、別に成長したからといって抜けるものなのか?」
俺に尋ねる、ライア。
「そんなこと、俺が知るわけないだろ。もし、抜ければこれであの女を倒せるかもしれないんだから。」
俺は、ライアを勇気づけるように言う。
「正直、抜けたからと言ってあの女を倒せるかは分からないのだが…?そもそも、持った時点で凄い力を発揮出来るものなのか?」
「そこは、アドリブで考えるよ。まずは、引き抜いてからじゃないと何も話は始まらないだろ?」
俺の言葉に、ライアは渋々といった様子で頷く。
そして、地面に突き刺さっている剣の場所に立つと両手を添える。
「…よし、行くぞ!」
ライアは自分を鼓舞するようにつぶやく。
そして、全身の力を使って突き刺さっている地面から引き抜こうとする。
しかし、どれだけ必死に引き抜こうとしても少しも動く様子はなかった。
まさに、ビクともしないという日本語がピッタリ来る。
「…抜ける気がしない。」
ライアが悲しそうな顔で、こちらを見ながらつぶやく。
俺はシエスタとミリアと共にその様子を眺めていた。
「…まあ、そうでしょうね。」
俺は、当然だろうなといった様子でライアに言う。
「酷い!あれだけ優しい言葉をかけておいて、急に梯子を外すな!なあ、お前は本当にミリアが言うように人の心を失っているんじゃないのか?」
ライアが泣きそうな顔で、俺に近づきながら言う。
もちろん、その気にさせるためにそれっぽい言葉を言うのは当然だろう。
正直、コイツにそんな力があるなんて思ったこともないので期待なんてほとんどしていなかったが…。
というか、そもそも本当に引き抜けるだけの力があるならまず魔王軍がこんなに苦労することなんてないだろうとツッコみたい。
「落ち着けよ。ここまでは、予想通りだから。」
「おい、本当に泣くぞ!何だ?いつも、お前に厳しいことを言っているからここぞとばかりに仕返しをしているのか!」
羞恥の感情からか、顔を真っ赤にしてライアが怒りながら言う。
別にそんなつもりはないんだけどな、と俺は思う。
「だから、落ち着けって。ここからが大事な話なんだから。おい、シエスタ!」
俺はそう言うと、シエスタの方を見る。
急に話を振られたシエスタは首を傾げる。
「お前、この封印を解けるかもって前に言ってたよな?」
俺は、シエスタに尋ねる。
「解けるかも、ってだけよ。絶対に解ける、って自信はないわよ?」
流石のシエスタも、状況が状況だけに珍しくちゃんと自己分析が出来ているようだ。
「それでいいよ。今から、この封印が解けるが試してみて欲しいんだ。それで、封印が解けたらコイツに引き抜かせる。」
俺は、シエスタとライアの2人に説明をする。
「ねえ、それって要はズルをするってこと?」
俺の言葉の意味を理解したのか、ミリアが質問をする。
「人聞きの悪いことを言うんじゃねえよ。封印されているから、それを解除して抜くだけだ。ライア自身が抜いたという事実に何も間違いはないだろ?」
「いや、それはどうなのだ?正直、封印されているがそれを自身の力だけで抜くのが言い伝えのはずだ。それを、シエスタの力を借りて抜いてしまったら価値がなくなってしまうだろう?」
ライアもミリア同様に、俺の考えに反対をする。
「いいんだよ、それで!今、ここには俺達4人しかいない。俺達が黙って、ライアが覚醒して伝説の魔王の剣を引っこ抜いたってことにすれば丸く収まるの!」
「いや、それは以前お前が言っていたでっち上げとかいうやつではないか!」」
真面目なライアが俺に言い返す。
同じように、根は真面目なミリアがライアの言葉に賛成するようにうんうんと頷く。
俺は、2人に対してため息をつく。
「でっち上げ、上等だよ!そもそも、この剣を抜けて使えたとしてもあの女を倒せるか分からないんだぞ?現状、俺達のある選択肢の中で一番可能性があるのがこのやり方なんだからしょうがないだろ!」
俺は、聞き分けの悪いライアに言い返す。
「…そ、それはそうなのだが。だけど、それを知った周りの人間はどう思うのだ?ズルをして封印を解いたことに意味なんてあるのか?」
ライアが、俺の言葉に一瞬だけ黙ってしまう。しかし、すぐに負けじと言い返してくる。
「意味なんてモノは、後付けで考えればいいんだよ。さっきも言ったけど、俺達4人が口裏を合わせて、ライアの力で引き抜いたってことにすれば誰にもバレないの!」
「その発想が、もうダメだと思うんだが…。」
どうしても、シエスタの力で封印を解いて引き抜くことに抵抗があるらしい。
俺は、頭の固い魔王様を睨みつける。
ライアの方も、まともに戦える手段がこれくらいしかないことは分かっているのか悩んでいる様子だった。
「…でも。ライアさんの言う通りだと思うよ?ズルしてまで貰った力なんて、それがバレた時に皆がっかりしちゃうと思うよ…。」
ミリアが、ポツリと言う。
どいつもこいつも、どうしてこうも聞き分けが悪いんだ…。
「じゃあ、他にやり方があるならお前が言ってみろよ!いいか、俺のいた国にはこんな言葉がある。バレなきゃ犯罪じゃない、って!」
「流石に、今の言葉は私でもドン引きなんですけど…。」
シエスタまでは呆れた目で、俺を見て来る。
俺は、3人を睨みつける。
ライアとミリアの2人は、他に方法を思いつかないのか黙ってしまっていた。
「じゃあ、いいよ!俺が、引き抜いてお前にあげる!それでいいだろ!」
俺は、ライアに向かって怒鳴ると剣が刺さっている場所へ向かう。
そして、ライアと同様に両手で柄の部分を掴むと思いっ切り力を込める。
恐らく、人生で一番と言っていいほど力を込めた気がする。
しかし、もちろん俺の力ではビクともしなかった。
小さい頃に、畑で大根だの人参だのを引っこ抜く経験をしたことを思い出したが、そんな経験の比にならないレベルだった。
地中深くに根を張った巨大な木を引っこ抜こうとするような感覚だ。
もちろん、そんなことをした経験なんてないから例えでしかないが…。
「流石に、あれだけデカいこと言って少しも動かないのはどうかと思うんですけど…。」
先程と同様に、シエスタが呆れた目をしながら俺に言う。
他の2人も、同情するような視線を向けていた。
そして、ライアが俺をジッと見るとどこか覚悟を決めたような目をしていた。
「…分かった。お前の言う通りにしよう。だが、一応聞くがシエスタの力で封印が解けなかったらどうするつもりだ?」
「そんなの、周りの地面くり抜いて無理やり引き抜けばいいだけだろ。それでも無理なら、もう偽物を作ってここはお前が死ぬまで永久に立ち入り禁止にすればいい。」
「おい、もうそれはただの偽装工作ではないか!というか、偽物を作ったとしてそれでどう戦うというのだ?」
俺の提案に、ライアがすぐに反対をして来る。
「偽物でも遠目から見たらそっくりだろ?お前がそれっぽいセリフを吐けば、ワンチャンあの女も動揺するかもしれない。レベル自体は大して高くないから、シエスタの女神の力で捕獲くらいは出来るだろ。」
「…もう、真面目に戦う気皆無じゃん。」
俺の言葉に、ミリアが呆れたようにつぶやく。
当たり前だ。前の時もそうだったが、チート能力持ちの奴等と正面から戦う気なんてあるわけがない。
文句を言いたいなら、そんな連中をポンポン送り込んだ目の前のシエスタに言って欲しい。
「よく分かんないんだけど、とりあえずやってみればいい?」
シエスタが、ライアに尋ねる。
ライアは、まだどこか躊躇いがあるのかぎこちない感じで頷いていた。
シエスタはそれを見ると、俺の立っている場所へと近づいた。
そして、突き刺さっている剣の刀身に手を触れる。
何やら、詠唱のようなモノを唱えているようだ。
温かみのある光が現れると、剣の周りをそれは覆う。
そして、それが急速に消えるとシエスタは俺の方を見てきた。
「…一応、解けたとは思うんだけど?」
俺は、それを聞くとライアの方を見る。
そして、視線を送る。
ライアも俺の視線の意図を理解したのか、あまり進まない足取りで俺達の方へと近づく。
そして、先程同様に柄の部分を両手で掴む。
「これで、あとは抜けばいいのか?」
ライアが俺に尋ねる。
「うん、それで抜いてくれると助かる。」
俺の言葉にライアは目を一度閉じた。
そして、覚悟を決めたのか全身の力を込めて地面から引き抜こうとする。
「んーーー!!!」
声を上げて引き抜こうとする、ライア。
その光景だけ見れば、とても封印された伝説の剣を引き抜くというよりも無駄に地中深くに埋まっている農作物を引き抜く様にしか見えない。
「…ダメだ。抜ける気がしない。」
ライアが汗を垂らしながら、俺に言う。
「おかしいわね?封印は解けてるはずなのに…。」
シエスタが不思議そうにつぶやく。
「よし、シエスタ。ライアにバフをかけるんだ。それで、筋力値を最大にしてパワーでゴリ押すぞ。」
俺は、シエスタに言う。
「そ、それは正直言ってどうなのだ?その、何も考えが思いつかない私も悪いのだが、凄く卑怯なことをしている気がするのだが。」
ライアが、良心の呵責からか微妙な表情を浮かべる。
「いいんだよ、それで。さっきも言ったけど、バレなきゃ犯罪じゃないの!こちらの都合のいいように話なんて作っちゃえばいいんだよ。」
俺は、ライアに向かって言う。
ライアは、納得が行かないという表情をするが自分達のために戦ってくれているエレナとユキネの2人のことを思い出したのかシエスタに無言で頷く。
「…よく分からないけど、とりあえずかけてあげるわね。」
シエスタはそう言うと、ライアに様々な効果を付与する。
そして、再びライアは剣を引き抜こうとする。
しかし、どれだけ力を入れても、態勢を変えても地面に突き刺さったその剣はまるでビクともしなかった。
「…抜けない。どうしてなのだ?」
ライアが泣きそうな顔で、つぶやく。
俺はため息をついて、ライアの手の上に自身の手を被せる。
「こうなったら、俺も手伝うから無理やり引き抜くぞ。おい、シエスタ!俺にもバフをかけてくれ!」
俺の言葉に、シエスタが慌ててバフをかける。
「いや、待ってくれ!流石に、ここは私の力だけでやりたい!」
どこか後ろめたさがあるライアが、俺に言う。
「うるせえよ!そういうのは、ちゃんと抜けそうな奴が言うセリフだ!一切抜ける気配がないんだから、俺も抜くの手伝ってやるよ!」
シエスタのバフが終わると、俺はライアと共に思いっ切り引き抜こうとする。
さっきよりは、抜けそうな感じがする。
しかし、それでもまだまだほんの少ししか動いている感触しかしない。
俺達の様子を見ていた、シエスタとミリアがお互いに頷くとシエスタはミリアに対して同じようにバフをかける。
そして、自身にもバフをかけると俺の腰に手を回して一緒に引き抜こうとする。
「何で、こんなに固いんだよ!この封印作った奴、絶対に抜かせる気なかっただろ!」
俺は、ライアと共に無理やり引き抜きながらつぶやく。
「力ある者にしか抜けないという伝説がある以上、そんな簡単に抜けるわけがないだろ!」
ライアが、俺のつぶやきにツッコむ。
4人が全身の力をフルに使って、突き刺さった剣を引き抜こうとする。
すると、徐々に地面が盛り上がって行くような感触がする。
そして、次の瞬間にはあれほどビクともしなかった剣が地面の底からその刀身を露わにした。
俺達は、引き抜いた衝撃で全員後方に吹っ飛ばされていた…。




