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魔王軍と魔獣退治

1週間、城でのタダ働きを強いられた俺とシエスタは金に困窮していた。


「ねえ、いい儲け話ってないかしら?」


「あったら、俺が先にしているよ。」


俺は何を言っているんだ、コイツはといった感じにシエスタに雑に返答をする。


「何よ、その返し。せっかく、この私が困っているのよ。良心は痛まないわけ?」


「その程度で痛むような良心は持ち合わせちゃいないよ。マジで何か楽に稼げそうなクエスト探すか、城下でバイトで雇ってもらうか考えないとな。」


タダ働きで飯も出てこなかったので、この1週間はずっと外食だった。

外食ということはお金がかかるということ。つまり、積み立ててた少量の貯金を切り崩さないといけなかったのだ。

加えて、来月には本来入ってくると踏んでいたケガラス達からの家賃。あれも全てなしになってしまったので、本当に困窮状態だ。

これは、料理スキルも覚えておいて自炊出来るようにした方がいいのかもしれない・


「全く、あんたが雑な計画を建てるからこうなるのよ。」


「お前がバラさなきゃよかっただけの話だろ!何で私は悪くありません、みたいな顔してるんだ!」


俺は責任転嫁をする駄女神に対して言い返す。

しかし、本当にどこかでいい儲け話は転がっていないモノか。

とりあえず、ライアに頼んで割のいいクエストでも回してもらうことにするか。

そんなことで俺とシエスタはライアの部屋のドアをノックした。


「おーい、入るぞー。」


俺はもう何度も来て慣れてしまった、ライアの仕事部屋に無造作に入る。

そこには、ライアとエレナとユキネがいつものようにいた。

今日も書類を読んだり、それにサインをしたりと忙しそうだった。


「何だ?無賃での雑用はどうだった?」


ライアがここぞとばかりに嫌味を言う。

俺は首をすくめた。この程度の煽りで怒るような俺ではない。


「散々だったよ。だから、何かいいクエストかバイトでも紹介してもらおうかなって思って来たんだよ。」


「それなら、ギルドに行けばいいと思うんだが?」


「俺のレベルだと行けそうなクエストってあまり報酬金が高いクエストじゃないからさ。採取系とかで割のいい仕事をライア達から回してもらおうかなって。」


「そんな、虫のいい話なんてあるわけがないだろ。ちゃんと真面目に探すことだ。」


ライアが即座に俺に言い放つ。

エレナが苦笑いを浮かべていた。


「じゃあ、クエストに行きましょうよー!一緒に!」


同じく困窮しているシエスタが3人に言う。

俺以上にツケを残しているので、割とすぐにお金が必要なのだろう。

ライアに言っても聞き入れてくれないと思い、何かと甘いエレナに縋りついていた。


「そうは言っても、私達も忙しいですから…。」


困ったような表情を浮かべるエレナ。

シエスタがエレナに駄々をこねる子供のように頼んでいた。

魔王軍に懇願する女神とは、それはもう女神なのかとツッコミたいが、この光景に見慣れてしまっている俺も大概だなと思う。

やっぱり、割のいいクエストを優先して回してもらうことは無理だよな。

そうなると、地道にクエストをこなして稼ぐか、城下のどこかでバイトとして雇ってもらうか、城内の雑用の数を増やすかだ。

正直言って、どれもやりたくない。出来るなら楽に稼ぎたい。

別に楽じゃなくてもいいが、一獲千金みたいな話があればなと思う。

そんなことを考えていた時だった。部屋のドアがガチャリと開いた。

そこには3人の男性が入ってきた。

1人は巨体でかなりの筋肉質だった。見た目は完全にライオン男みたいだった。

もう1人は、サタンに似て頭の両側に角が生えた黒い髪のイケメンだった。

そして、3人目は3人の中だと1番子供っぽい顔つきだった。額の中央に角が1本生えていた。髪の色は茶色でサラサラした髪質だった。


「ライア様、申し訳ございません。来客中でしたか?」


ライオン顔の男がライアに尋ねる。

どうやら、この男がリーダー格のようだ。

よくこの部屋に来るセバスもそうだが、魔族というのは何かしら角だのが生えているのだなと思う。


「いや、大丈夫だ。コイツらはただの友人だ。気にしなくてもいい。」


ライアがライオン男に言う。


「ねー、あの人達は誰?」


シエスタが3人に指をさしながらエレナに尋ねる。


「魔王軍直属の武装警察隊です。お姉さまが魔王になられた際に新規で雇った方達です。左から、アルベルト、ダンカン、ソルベです。」


エレナがそれぞれの名前を紹介する。

ダンカンと呼ばれたライオン男が俺の前に立った。本当にデカいと思う。180センチくらいは超えているだろうか。


「初めまして。噂は聞いております。警察隊長官のダンカンと言います。」


丁寧な口調でダンカンが俺に挨拶すると、右手を差し出す。

俺もそれに従うように握手を交わす。


「初めまして、ヒロトと言います。」


優しそうな目をしている男性だなと思った。

恐らく、この中にいる誰よりも年上なのではないかなと思う。

アルベルトと呼ばれた男はその光景を見ながら、タバコを吸い始めていた。この世界にもタバコがあるんだなと思う。

ソルベと呼ばれていた茶髪の少年はシエスタの方を興味深そうに眺めていた。


「それで、どうしましたか?」


ユキネがダンカンに尋ねる。

そういえば、この人達は何をしに来たのだろうか。

ダンカンはそうだ、と我に返ったようにライアに向かって言った。


「そうでした!少し面倒なことが起きていまして…。」


「…面倒?」


疲れ切ったかのような表情を見せるダンカンにライアが怪訝そうな表情を見せる。


「また、ロイヤル家のクソガキがやらかしているんですよ…。」


タバコの煙をふぅと吐き出すと、アルベルトが言う。

その言葉だけで何が起きているのか理解出来たのか、俺とシエスタ以外の3人の顔が一斉に曇っていた。


「この前のケガラスの問題が解決したと思ったら次はこれか…。」


ライアが頭を抱えていた。

この表情を見せるのは数週間ぶりだなと思う。サッカーの試合くらいの感覚だとどうでもいいことを思った。


「とりあえず、私とユキネさんで行ってきますね。お姉さまは、残りの仕事を終わらせてください。」


エレナがライアに言う。ライアは少しだけ不満そうな顔をしたが、すぐに頷いた。


「どうでもいいっすけど、この女は何なんすか?」


ソルベと呼ばれていた少年がシエスタを指さして尋ねる。

シエスタは掴んでいたエレナの服から離れると、立ち上がった。


「あら?失礼な子供ね。私は、シエスタ。この世界の女神の1人よ!」


フフンとドヤ顔で自己紹介をするシエスタ。決まったな、といった表情を見せているのがどこかムカつく。

それを聞いたソルベはフンと鼻で笑うと小馬鹿にしたような顔を見せていた。


「という、夢を見ているのか?」


「違うわよ!何、このクソガキ!ぶっ飛ばしてあげるわ!」


俺とユキネは怒り狂って暴れ始めそうなシエスタの頭を一発殴ると、首根っこを掴んで部屋の外に出た。-


-「あれが例の魔獣です…。」


ダンカンがエレナに言う。

森の一部を破壊しながらノシノシとそれは歩いていた。


「…帰りましょうか。」


「奇遇だな、お前と初めて意見が合った気がする。」


俺はシエスタに同調する。

そして、2人で一緒にここまで歩いて来た道を歩こうとする。


「ちょっと、待って!手伝ってくれるんじゃないのか!」


ダンカンが俺の袖を掴むとツッコむ。

俺は面倒くさそうな表情を浮かべる。


「いや、別に手伝うなんて一言も言ってないし。というか、あれ何?この世界の生き物はデカくないといけないルールでもあるのか?」


俺は闊歩するそれを眺めると言った。

高層ビルなんて余裕で超えるレベルの大きさのデカい蛇だった。

見た目は完全にウナギにしか見えないが。あれ一匹でどれだけの鰻丼が食べれるのかなと思ったりもした。

まあ、地面を歩く鰻が果たして旨いのかという意見もあるが。


「いや、まあそうだけどさ。ここまで来たら手伝ってくれると思うじゃん!」


慌てるように言うダンカン。

確かに、少しはその気持ちもあったがあれを見たらそんな気持ちなんて失せる。


「うるさいぞ、ライオンキングみたいな顔して。その鋭い歯で噛み千切っちゃえよ。」


「出来るか!そんなことしたら踏みつぶされるわ!」


「大丈夫よ!あなたなら出来る!自信をもって!ほら、応援してあげるわよ!」


シエスタも俺に便乗してダンカンに言葉をかける。


「応援より前に手伝って!」


シエスタにツッコむダンカンの声が森に響く。

そんなダンカンにアルベルトが近づく。


「別にいいだろ、長官。どうせ、こんな奴らに期待なんてしてないんだ。」


こんな奴ら、という言葉に少しイラッと来るがまあいいか。

タバコをふかせているアルベルトは落ち着いた声でいた。


「それで、ロイヤル家は何と言っているんですか?」


エレナが尋ねる。


「どうもこうもないですよ。無傷で戻せって。無茶もいいとこですよ。」


やれやれとソルベが答える。

あれを無傷とか無茶もいいとこだと思う。

というか、段々とこちらに近づいて来ている気がする。


「なるほど、だから私達に報告を先にしたと。」


「そういうことです。正直、俺達だけで解決出来そうな問題ではないので…。」


アルベルトがエレナに言う。

俺は、徐々に近づいて来ているように感じる鰻を見ながらある道具を出した。

それは、以前の文句ばかり言うケガラス達を焼き殺そうと考えて作った火炎放射器だった。


「これで焼いてみんなで鰻丼食べようぜ。」


「話を聞いていたか?無傷で捕まえて返すんだよ。焼けるわけないだろ。これだからバカは困る。」


アルベルトが呆れるようにして言う。

どこか、言葉の端々からムカつく奴だなと思う。

シエスタがちょっと貸しなさいな、と言って俺の持っていた火炎放射器を取り上げる。


「ちょっと行ってくるわね。」


そう言うと、テクテクと歩いて行く。

またそんなに近づくと踏みつぶされるぞ、と言いたい。


「…どうしますか?」


ユキネが不安そうに尋ねる。


「大丈夫だろ。そもそも火力的にまともに焼けるような代物じゃないし。すぐに諦めて帰って来るだろ。」


俺は適当にユキネに答える。まさかあの馬鹿でもあれをあの巨体に向けてぶっぱなすなんてアホではないだろう。


「きゃあああああ!!!助けて―――!」


想像以上のバカでした…。


「何してるんですか?あの女は?」


ソルベが呆れたように言う。

俺も同じ気持ちだ。どうして、一番最初に帰ろうと言い出した奴が食われそうになっているんだと言いたい。


「ヒロトさ――ん!ヒロトさま―――!!!助けて―――!!!」


長い尻尾に巻かれたシエスタが大声でこちらに助けを求めて来る。

あいつはもう家から出さない方がいいだろう。


「…ったく、しょうがないなー。」


俺は背中に背負っていたバックから弓矢を取り出した。

あいつを助けるだけなら、最悪目に矢でも射抜けば痛みで放してくれるだろと思う。


「聞いていなかったのか?無傷で捕まえないといけないんだよ。」


アルベルトが俺の背後に立つと言う。


「無理でしょ。というか、ちょっと矢を目に刺すだけだよ。ほぼほぼ無傷みたいなモノだろ。」


「少しでも傷がついていたら、ダメなんだよ!」


アルベルトの声が荒くなる。

そもそも、何でこの状況下でここまでそれを守る必要があるのか理解出来ない。


「ロイヤル家は魔王軍に大量のお金を貸している魔族の家の1つなのです。だから、あまり無茶は出来ないんですよ…。」


エレナが申し訳なさそうに言う。

なるほど、だからこんな好き勝手が許されているのか。


「ちょっとー!助けて―――!本当にピンチなんですけど!!!」


シエスタの声が響く。

流石にこのままは本当に危ないと思う。

俺は弓に矢をセットした時だった。


「やめろ、というのが聞こえなかったか?」


アルベルトが腰に差していた剣を俺の後頭部に向けて向ける。


「大層な警察様だな。目の前で、年齢不詳とは言え女性が助けを求めてるのにスルーするなんて。日本の警察って実は優秀だったんだなって思うわ。」


俺は今にも食べられそうになっているシエスタを見ながら言う。

年齢不詳なんて言うとまたあいつが喚きそうだなと思う。


「俺達だって助けられるなら助けているさ。だが、無理なモノは無理なんだよ。例え、ライア様のご友人だとしても。」


その言葉に俺以外の全員が黙っていた。

どうにも、ライアの家は権力的に強くないらしい。

まあ、だからそれがどうしたという話ではあるけど。


「それは大変だなと思うよ。でも…。」


俺はそう言うと、アルベルトの剣に手を触れる。


「“ドレイン”。」


俺はそう言うと、アルベルトの魔力を吸い取った。

虚を突かれたのか、アルベルトはそのまま魔力を一定量吸い取られてしまって動けなくなっていた。


「大丈夫、大丈夫。俺、魔王軍と関係ない人間だから。それで文句言われたら、俺がシエスタ連れて逃げればいいだけの話だろ。」


俺はそう言うと、魔獣に向かって走り出す。

アルベルトが何とか動こうと地面を這っていた。


「ヒロトさ―――ん!もう、ホント限界なんですけど!!!」


俺は飛び上がると、目に向かって矢の狙いを定める。


「よぉ、シエスタ!今日から、1週間は酒代奢れよ!」


「嘘でしょ!しょうがないわ!いいわ、それで今回の件はチャラよ!」


「よ―――し!決まりだな!」


俺はそう言うと、巨大鰻の目に向かって矢を放った。

見事に直撃すると、鰻が痛みで苦しみ始めた。俺は、口から放り出されたシエスタを抱きとめるとそのまま地面に降り立った。

腐っても、ステータス能力を高めに設定して貰えただけはある。こういう時はホント、この女神に感謝したい。

後ろから、ダンカンが確保と言う大声が聞こえてきた。

俺の後ろから数100人ほどのダンカンの部下達が鰻に向かって走っていた。

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