不思議なカラス達に住みかを
シエスタとエレナ、ユキネと共にクエストを無事終えた俺は、懐がかなり潤った。
おかげで、当分はクエストに出なくてもいいと思い城の雑用のみを行い、あとはのんびりと生活していた。
「最近はあまりクエストには出ていないのだな。」
机に座り、何やら書類に目を通していたライアが俺に言う。
俺は今、ライアが普段仕事をしている部屋にある来客用のソファーの上で寝転んでいた。
この世界についてもう少し知りたいと思い、図書室にあった動物図鑑みたいなモノを読んでいた。
向かいのソファーでは、同じく懐が潤ったシエスタが昼寝をしていた。
「まあ、当分はいいかなって。」
ゴロゴロしながら、ライアに対して答える。
ライアの隣ではエレナが読み終わった書類の整理をしていた。そして、ソファーの近くにはユキネが護衛とばかりに立っていた。
「…もう食べられよぉ~。」
涎を垂らしながら気持ちよさそうに寝ているシエスタが何やら寝言を言っている。
コイツは一体、どんな夢を見ているのだろうか。
寝言的にどうせ食事関連の夢だろうが、全くのんきな奴だと思う。
「そうなのか。いや、城の仕事とかはきちんとこなしてくれているから何か言えるような状態ではないのだがな。一応、ここは仕事をする部屋だからあまりくつろがれると少し困る…。」
ライアが呆れながら俺に言う。
確かに、やることがないからこの部屋に来たが流石にくつろぎすぎたかなと思う。
俺は、寝転がっているソファーから起き上がると軽くノビをした。
「それもそうだなー。いや、部屋にいたらそれはそれで何かしら作ったりしていてぐちゃぐちゃな状態なんだよ。掃除しようと思っても面倒すぎて動きたくないんだよな。」
「部屋が汚いのはお前自身の責任だろ。ちゃんと、自分の部屋の管理くらいは自分でしてくれ。」
ライアはそう言うと、ため息をつく。
エレナがそんな俺達の様子を楽しそうに眺めながら作業を続ける。
そんな穏やかな昼の時間だった。
「あら?気づいたら寝ていたわ。うーん、よく寝た。」
昼寝から目覚めたシエスタがよいしょと起き上がる。
昼食の時間くらいに起きてきたと思ったら、また昼寝をしている。
そんな生活だと、夜寝れなくなるぞと言いたいが余計なお世話だろうから言わないでおこう。
「ねえねえ、剣士の人。暇だから簡単なクエストにでも行かない?」
起きて、どこかに出かけたくなったのかシエスタがユキネに言う。
ユキネはシエスタに視線を向けると静かに言った。
「私は剣士の人、ではなくユキネです。今日はライア様がお仕事があるのでクエストにはご同行出来ません。」
「えー、一緒に行きたかったのにィ~…。」
いまだに名前を覚えきれていないシエスタが不満そうに言う。
初めて4人でクエストに行って以降、頻繁にこの自称女神はユキネを連れて何かしらのクエストを受けているらしい。
すぐに酒代に消えてしまう散財癖があるからなのも理由の1つだろうが、一番の理由は誰かとクエストに行くのが楽しいからなのだろう。
何で、柔軟にこの世界に馴染んでいるんだとツッコミたいがそれをしたら何か負けな気がする。
まあ、最初の魔族絶対殺すマン的な雰囲気からここまで仲良くしているのだからこれはこれで良かったと思う。
俺としてもここまで世話になると、魔王軍討伐とか最初にこの女神に言われたことなんてする気も起きないからありがたい。
「行きたいのでしたら、そこのヒロト殿が暇そうにしていますよ。」
ユキネが代案とばかりに俺の顔を見て来る。
今日はもう外出をしたくないので遠慮したい。
「無理よ。この男、貯金が減らないと動かないようなニート気質の男だから。当てにならないわ。」
「昼間まで寝ている女にニート呼ばわりされたくねえよ。あと、俺はちゃんと城の雑用手伝っているからニートじゃありません。そこは誤解するなよ。」
俺はやれやれと失礼な女神に向かって言う。
「まあ、クエスト全然受けないのはちょっと改善して欲しいですけどね…。」
苦笑いを浮かべながらエレナが俺に言う。
別に俺だって、お金が減ったら受けるからそこは心配しないで欲しい。
普段の城での雑用で衣食住はある程度賄えてしまうのだからしょうがない。
文句を言うなら、俺を城に雇ってしまったライアに言うべきだ。
俺はそう思い、再びソファーの上に寝転び本を読もうとした時だった。
「ライア様!失礼します!」
部下らしき人物が入ってきた。
名前は誰だったか、セバスとかいう名前だった記憶がある。
ライアの父親の代から仕えてくれている人物らしい。
「どうした?」
ライアが尋ねる。
セバスはくつろいでいる俺とシエスタを一瞬だけ見ると、どうしてここにいるんだといった表情を浮かべていた。しかし、すぐにライアの方に視線を戻すと慌てるように答えた。
「また、ケガラス達が城下に来てまして…。」
困ったような表情を浮かべていた。
ライアとエレナも一気に顔が曇っていた。
「そういえば、そろそろ来る時期でしたね。」
頭を抱えながら言うエレナ。
「何、ケガラスって?」
俺はユキネに小声で尋ねた。
ユキネは俺の方を一瞥すると、答えてくれた。
「ケガラスはケガラスです。本来は森の中に住んでいるのですが、ここ数年よく城下に現れてはデカい巣を作って困っているのです。」
知らないのか、といった表情でユキネは俺を見る。
俺はこの世界の住人じゃないから知るわけがないだろ、と言いたい。
ましてや、この世界のモンスターの種類すらまだ覚えきれていないのだから。魔族の種類なんて全部知るわけがない。
「また、森に戻ってもらえるように説得をしないといけないのか…。」
ライアが頭が痛い、といった表情で言った。
全貌が全く見えない。別に巣を作っているのなら破壊すればいいだろと思う。
「しょうがない、行くか。」
ライアはエレナとユキネの方を見ると言った。
シエスタが珍しく黙って聞いているな、と思っていると突然立ち上がった。
「何だか面白そうだから、私も一緒に行くわね。」
ソファーから立ち上がると、元気よくライアに言い放つ。
ライアが俺の方を見て来る。俺は別にコイツの保護者じゃないぞと言いたい。
ただ、確かにこの女が黙って何もしないで終わるなんてことがあるわけないので一緒に行くとしよう。
俺は、途中まで読んでいた本を机の上に置くと4人の後ろに従って部屋から出た。-
-城下を歩いて、少し離れた場所にその巣はあった。
いや、正直言って舐めていた。
蜂の巣的なモノを想像していた。しかし、それは想像以上に大きかった。
「…いや、デカすぎるだろ!?」
俺は思わず、ツッコんでしまった。
普通に周りに建っている家と同じくらいの大きさだ。木の枝やら石やらで作られたそれは鳥の巣とも言えない何かだった。
「また、これは一段とデカいモノを…。」
ライアが頭を抱えながらつぶやく。
俺は隣にいたエレナに小声で尋ねる。
「また、ってこんなのが定期的に建つのかよ?」
「定期的にと言うか、ここ数ヵ月に1回くらい来ていますね。デカい巣を作っては近隣から文句が出るので何とかなだめて森に帰ってもらってはまた作るを繰り返しています。」
「いや、普通に罰なり何なりして来ないようにすればいいだけだろ。」
「そんなことしたら、この城下に攻めてくる可能性だってあるんですから。無理なことは出来ませんよ。」
エレナもクレアと同じく、悩ましそうに言う。
シエスタが興味津々に眺めていた。そして、建築物と言えるかも怪しい何かを指でちょんちょんと触り始めた。
毎回思うが、何でもかんでも触るその癖は何とかならないのかと思う。
すると、扉的なモノが開いた。そして、何やら小さい食器のようなモノが投げつけられた。
それはシエスタの頭に直撃した。
シエスタが痛みでうずくまった。
ほら、言わんこっちゃない。
シエスタは頭を数回さすると、顔を真っ赤にして立ち上がった。
「何するのよ!失礼ね!」
そう叫ぶと、思いっきり建築物を蹴り飛ばした。
ぐわんぐわんと勢いよく揺れた。そこまで丈夫な作りではないらしい。
「グエエェェェェェ!!!」
扉がいきおよく開くと、住人が怒りながら出てきた。
まあ、自分達の住みかを蹴られたのだから当然の行動だろう。
見た目は完全に二足歩行のカラスだった。正直、真っ黒な毛がふさふさに生えているあれをカラスと呼称していいかは疑問だが。
顔は完全にカラスだった。
なるほど、毛がふさふさだからケガラスか。小学生の考えたダジャレかなと思うようなネーミングセンスだ。
「何よ!先に攻撃を仕掛けてきたのはあんた達の方でしょ!」
シエスタも負けじと怒鳴り返す。
中には無数のケガラスがいた。その中のリーダー格っぽいのが怒り心頭とばかりにシエスタと口論をしていた。
二足歩行するカラスと口論する女神なんている、なんて言われたところで昔の俺なら信じなかったが今のこの現状を見ると世界は広いと思う。
「…どうします?シエスタ殿が喧嘩を始めましたけど。」
ユキネがライアに言う。
「いや、まあシエスタを連れて来た時点で穏便には済まないと思ったが…。」
ここにいる全員が同じことを思っていたようだ。
というか、どうしてあの女は人外の言葉を理解出来ているのか。これが女神パワーというやつか。
「と、とりあえずどうしてか言葉が理解出来ているみたいですし通訳してもらいましょう。」
エレナがライアに言う。ライアもそれに頷く。
「シエスタ、すまないがこいつらが何を言っているか教えてくれないか?」
シエスタの後ろに立つと、ライアが尋ねる。
シエスタはライアの方を振り向くと、まだ怒り収まらずといった感じだった。
「いいわよ!何て失礼なカラスなのかしら!どんな教育をしているのよ!ただ触っていただけなのに作ったばかりに巣に触るんじゃねえって言ってくるのよ!」
「それについては、相手側が正しいだろ…。とりあえず、蹴り返したことを謝れよ。」
俺が呆れたようにシエスタに言う。
シエスタはケガラスのリーダーと何やら話しているようだった。
「ふむふむ、なるほどね。この人達は住んでいる森を追われたそうよ。何でも人間達が最近、頻繁に経験値集めだと言って自分達の住みかを荒らすからここなら安全だからと言って来ているそうよ。でも、人間達も自分達がいなくなると帰るからその間だけいたいそうよ。」
なるほど、要はコイツが転生させた日本人達が経験値稼ぎにこのカラス達の群れを襲っているのか。
何て、迷惑な話だ。そして、それをさも他人事のように喋っているが元凶はお前なんだぞと言ってやりたい。
「住みかを追われているのは可哀そうだと思う。ただ、そのここに森にいた時のような巣を作られても他の者が迷惑するのだ。」
ライアが申し訳なさそうに言う。
確かにこんなバカでかい巣を作られては近隣住民からしたらたまったものじゃない。衛生面的にもだ。
「酷い人間達ね!いいわ!神の名の元に断罪を下してあげるわ!」
ぷんすかと怒りながらシエスタが言う。
ユキネがお願いだからこれ以上問題を起こさないでくれ、と小さな声でなだめていた。
いや、だからお前が転生させた人間達が原因なんだ。それでその人間達を倒したらそれこそただのマッチポンプだろ。
「要は家があればいいんだろ?」
俺はライアに言った。
ライアは首を傾げた。
「いや、まあそうだが。そんなこと言っても急に家なんて作れない。材料はあると言っても。」
「場所と材料さえ用意してくれれば作ってやるよ。俺のスキルがあれば、作れると思うし。」
俺は自分を指で示しながらライアに言う。
「そういえば、鍛冶師なんてスキルがあったわね。あんた。というか、1人で家なんて作れるモノなの?」
「多分な。まあ、出来なかったら土下座でも何でもして許してもらおう。」
「場所は城下のはずれとかに用意すれば何とかなると思うが…。」
ライアはそう言うと、不安そうに俺を見た。-
-それから、1週間が経った。
無事、ケガラスの一行を住まわせる立派な家が完成した。
ここまで来るのに本当に長かった。
あれを付けろだ、これはいらないだとやたらと注文が多い。内装も無駄にこだわりを見せてきて、火炎放射器でも作ってコイツらを焼き尽くしてやろうかと思ったりもした。
「やるじゃない。日本でオタクの高校生していただけの人間にしては立派なモノ作るのね。」
完成した家を眺めているシエスタが失礼なことを言う。
お前は何も手伝ってくれなかったくせに、セリフだけは相変わらず立派なんだなと言いたい。
俺がライアから借りた力のありそうな部下に指示を出している横で昼寝をしていたのは忘れないからな。
だが、我ながら頑張ったと思う。見た目は完全に日本にいた時によく見たアパートの作りだ。
とりあえず、20羽くらいは入居できると思う。
「グエェェェェ!!!」
ケガラスのリーダーが何か言っている。
正直言って、何を言っているのか分からない。
「ありがとうだって。この恩は一生忘れないって。」
シエスタが通訳をしてくれる。
それはよかった。まあ、俺からしたら善意でやったわけじゃないから別に礼を言われる筋合いはない。
そんなことを思いながら建物を眺めていると、すでにケガラスの集団が各々の部屋に入っていた。
あのリーダーには言葉は通じないが、文字は通じる。だから、すでに俺の構想は完璧に開始している。
「で?何企んでいるのよ、あんた。」
シエスタが俺に耳打ちをしてくる。
あれ?コイツに俺の計画なんて話したか?いや、コイツに話すわけがない。
というか、今日の今日まであのケガラスの男以外に話した覚えはない。
「教えてくれないのなら、あの3人に密告するわよ。私も一枚噛ませてくれるなら内緒にしてあげる。」
シエスタの顔からニヤリとした邪悪な笑みがこぼれていた。-
-それから、数日が経っただろうか。
俺は、ライアの仕事部屋でいつも通りくつろいでいた。
もはや、自分の部屋が寝るか作業するだけの部屋となりかけている気がする。
俺は読みかけの図鑑を眺めていた。
「そういえば、お前の建てたあの建物は大盛況のようだな。」
ライアがふと俺に言ってくる。
俺はライアの方に視線を向ける。
「らしいな。あのカラス達も喜んでいるようでよかったよ。」
俺はそう言うと、再び本に視線を戻す。
ライアが読みかけの紙を机の上に置いたような音がした。
「それで、私に何か内緒にしているようなことはないか?」
声のトーンを落としたライアが俺に言う。
俺は本から視線を変えずに答える。
「イヤ、何も。何だよ、急に?」
シエスタ以外にあの秘密は誰にも言っていない。ケガラス達にも口にしてはいけないと言っているはずだ。
そう、バレるようなことはないはずだ。
「いや、ここ数週間随分と羽振りがいいなと思ってな。お前もシエスタも。」
「それは、あれだよ。この前のクエストの貯金を使っているだけだよ。」
「ほう、シエスタならまだしもあのあまりお金を使わないお前が貯金を切り崩して遊んでいるのか?この前、貯金を貯めるからあまり使わないと言っていたような気がしたが。貯金が出来るくらいの急にお金が入るような予定でもあるのか?」
「遊びにくらいはお金は使うさ。」
俺はなるべく声の調子が変わっていないかを気を付けながら言う。
大丈夫、まだバレていないはずだ。
「そういえば、お前の建てた建物に住み始めたケガラス達が最近仕事をくれとうるさくてな。我々も困っているのだ。」
「そうなのか。まあ、あの建物に住んでいる以上はここの町で暮らすためのお金も必要なんだろうな。」
変な汗が出始めている俺は、バレないようにライアに答える。
「それで、気になってシエスタに聞いてみたのだ。」
俺はその瞬間、ライアの前で綺麗な土下座をした。
ライアは声音を変えずに言う。
「シエスタの奴、お金が入るからと言ってツケが未払いでな。それについて脅したら素直に口を割ったぞ。」
「すみませんでした!」
あの女!だから、あいつに言いたくなかったんだ!
俺が考えていたことというのは、あの建物に住んでいるケガラス達から家賃を取るということだった。
人間の方でも魔族の方でもそうだが、1日限り泊まるような宿屋はあっても定期的な期間を暮らすような建物を運営するビジネスはこの世界には存在していないそうだ。
そこで俺はそこに目を付けてまずはケガラス達に言って、月ごとに家賃を取り始めようとしたのだ。
恐らく、ケガラス達はその家賃を払うために仕事を寄こせとライア達に言ったのだろう。そして、シエスタに関しては月ごとに入るから来月にまとめて払うわとか言って酒代をツケとして未払いにしまくったのだろう。
「いや、別に構わんぞ。初めて聞く儲け話と思ってな。中々に上手く出来た話だなと思って感心していたのだ。」
冷たい視線が突き刺さる。背後から、誰かの気配を感じる。
恐らく、エレナとユキネだろう。振り向くと、首根っこを掴まれたシエスタもいた。
こうして、家賃の話もなくなりケガラス達は好きな時に森とを往復出来るようになった。
俺とシエスタはその後、罰として1週間城の中でタダ働きを強いられることとなった…。
基本的にはギャグをメインで書きながら、たまにシリアスな話を入れてくみたいな感じで考えてます。
ギャグを考えるのとか初めての経験ですが、頑張ろうと思います(笑)




