表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/319

女神に異世界に送られるようです

現在、連載している作品と同時進行で投稿していこうと思っています。

基本的に、どちらの作品も1日1話ずつを予定しています。

目を開くと、白くそして何もない部屋に俺は座っていた。

目の前には椅子に座っている1人の女性がいた。


「ようこそ、死後の世界へ。鈴木浩人(すずきひろと)さん。あなたの人生はここで終わったのです。」


女性は俺を見ると、優しい笑みを浮かべて言った。


「…えっと、死後の世界と言うと?」


俺は女性に聞き返す。

銀色の艶のある長い髪をした女性だった。そして、恐らく自分がこれまでの人生の中でも見たことがないようなレベルの美しい女性だった。


「まだ、実感が沸きませんか?あなたは死んだのです。」


女性は俺の質問に答える。

そうか、俺は死んだのか。

そして、どうしてこんな状況になったのか少し記憶を思い出そうとした。


その日、俺はいつものように家の近所の河原を散歩していた気がする。

17歳、高校2年生の俺は学校が休みだったこともあり日課である朝のランニングをしていた。

その日は、新作のゲームの発売ということもあり、いつもより早めに起きて走っていた気がする。

段々と思い出して行っている気がする。そうだ、河原を走っていた時にちょっと可愛い女の子が通り過ぎたような記憶がする。

別に女の子と言っても、自分とそこまで年は変わらないような気がする。

自分はロリコンではない。そこは断定していいと思う。

その女の子に目が惹かれた拍子に足を滑らせたのだ。そして、そのまま流れている川の方へと落ちて言ったような気がする。


「…あの、俺の遺体ってどうなりましたか?」


俺は銀色の髪の女性に尋ねた。

女性は微笑んだ顔を崩さぬまま、俺に答えた。


「はい、あなたの体は無事病院に届けられましたよ。」


そうか、よかった。せめて、流されて行方不明みたいな最悪の状況じゃなくて。

俺はそんなことを思いながら、女性を見た。すると、女性の口元が少しずつ緩んでいっているように見えた。

我慢できなくなったのか、女性は大きな声で笑い始めた。


「あ、あのごめんなさいね。つい、あなたの死因を思い出しちゃって。」


そう言うと、ゲラゲラと笑い始めた。

先程の高貴な気品さのようなモノは微塵も感じられない。

腹を抱えて、広くそして何もない部屋の中に女性の笑い声が響く。

一通り、笑い終えたのか女性はふぅと息をつく。


「本当にごめんなさいね。えぇ、あなたの体は無事病院に届けられましたよ。まあ、川のすぐ手前で転んだだけですけど。」


ん?この女、今何て言った?

俺は女性の顔をまじまじと見つめていた。


「死因は転んだ衝撃によるショック死です。流石に、お医者さんもそれは見抜けなかったみたいね。堤防沿いから落ちたことで体を打ち付けたことによる心臓停止って話らしいわ。今、ご家族や親戚の方が悲しそうな顔であなたの死体を拝んでいますよ。」


そう言うと、再び思い出したのか大笑いを始めた。

俺は、先程まで抱いていたこの女性に対するイメージはすっかりなくなっていた。

むしろ、このムカつく顔面に思いっきり殴りたいという思いしかない。


「あー、笑った、笑った。これまでに色んな死因の人を見て来たけどあなたみたいなドジな死に方をした人は生まれて初めてよ。それに知ってる?あなたの死体を最初に連絡した人?」


そう言うと、女性は俺の方に近づいてきた。そして、耳元に小さな声で囁いて来た。

正直、もう嫌な予感しかしない。


「あなたがガン見していた、女の子よ。年上のお姉さんとかならまだしもあんな小さい子をガン見しちゃうなんて。あなたってロリコンなの?」


そう言うと再び俺の隣で転げまわりながら爆笑を始めた。

落ち着け、俺。ここで手を出そうモノならそれこそこの女の思う壺だ。

俺はグッと怒りを堪える。


「いや、別にロリコンじゃないですよ。そもそも、その女性って俺とあまり年は変わらないと思うんですよ。」


俺は顔を引きつらせながら、必死に笑顔を作りながら言う。

女性は笑いすぎて目に涙を浮かべながら、俺に言う。


「あらあら、あなたったら記憶喪失だったりする?あの子の年齢を教えて欲しい。10歳よ。」


10歳、という所を強調するかのように再び耳元で囁いてくる。

俺は聞きたくないとばかりに耳を塞ぐ。

女性はねえねえ今どんな気持ち?、とテンプレのような煽りをしてくる。

もう何でもいいからさっさとこんな場所から帰りたい。

俺がそう思い始めていると、女性は再び椅子に座り直す。

そして、足を組んだ状態で俺に話しかける。


「さて、一通り馬鹿に出来て満足したし本題に入るとしましょうか。」


コイツ、最初から俺を馬鹿にする気だったのか。

本当に拳の1つでも振るってやろうか。


「私の名前は、シエスタ。この死後の世界に訪れた迷える魂を正しい場所へと導く女神です。」


「もう、これだけ馬鹿にしておいて今更そんな改まった口調に戻っても何の意味もないだろ!」


俺は思わず、椅子から立ち上がりシエスタと名乗る女性にツッコむ。

シエスタは迷惑そうな顔でこちらを見てきた。


「うるさいわね。せっかく、シエスタ様の貴重な口上シーンなのよ。しっかり聞きなさいな。」


シッシッと手を振りながら俺に言う。

何て失礼な女なんだ。これが女神とか死後の世界とやらはどんなロクでもない世界なんだ。

シエスタは俺と最初に会った時のような改まった口調で再び話し始める。


「さて、鈴木浩人さん。あなたにはこれからある選択肢があります。」


選択肢?何だろうか。この女のことだから、地獄巡りツアーとか言い出すのだろうか。

もしそうだとするなら、今すぐに断りたい。


「異世界転生、って言葉聞いたことあるでしょう?」


シエスタは俺に質問をしてくる。

異世界転生、俺もよく聞いたことがあるような言葉だ。

正直に言うと、俺はオタクだ。アニメや漫画、ライトノベルだったりはよく見るし読む。ゲームも凄い得意ではないが、好きで暇があればよくしている。


「まあ、それなりには。」


俺はシエスタに答える。

シエスタは満足そうな顔を見せる。どうやら、想定通りの返答だったようだ。


「そうでしょう、そうでしょう。その異世界転生。したいと思いませんか?」


何だか、怪しげな宗教勧誘みたいな口調でシエスタが言う。

よく家にやってくる、買う気も起きない商品を売りに来る通販販売の営業マンみたいだなと思った。

大体、対応する両親が適当に流して断っている姿を目にする。

あれと同じように見える。


「したいと思いませんか、って。どんな世界なのかも分からない場所にいきなり行けって言われても…。」


俺は、少し迷いながら言う。

シエスタは待ってましたと言わんばかりに、口調を強める。

この女、少し楽しんでるだろ。


「えぇ、えぇ。そう言うと思いましたよ。あなたが行く世界というのは、剣と魔法の世界。ゲームのRPGとかでよく見る世界ですね。好きでしょう?」


最後の言葉に若干馬鹿にしたような言い方だが、黙っておくとしよう。

いちいち、ツッコんでいたらキリがない。


「まあ、好きって言われたら好きですけど。そもそも、俺は普通の高校生していただけの日本人だから剣も魔法も使えないけど…。」


「フフフ、そう言うと思いましたよ。本当にテンプレみたいな返答をしてくれますね。」


「口調を統一しろよ。怪しげな営業マンにしか見えないぞ、今のお前。」


俺は我慢ならないと思い、シエスタにツッコむ。


「あら、あら。そんな口を聞いてもいいのかしら?私の判断1つで、あなたに何の特典も付けずに異世界に飛ばして野垂れ死にさせてもいいのよ?」


恐ろしいことを言い出した。

この女、本当に女神なのか。もう、ヤクザかマフィアにしか見えない。

いや、それよりも特典って言ったな。この女。

特典と言うと、よく見るチート能力的なモノなのだろうか。

俺がそんなことを考えていると、その考えを察したのか再びシエスタが営業モードに戻る。


「フフフ。気になるでしょう?特典。えぇ、そうです。オタクなあなたもよく聞いたことがるチート特典を与えてあげます。」


どこかしら小馬鹿にした言葉をいれないとこの女は死ぬ病なのか?

ちょくちょく、こちらの神経を逆なでするようなことを言いながら少し魅力的なことを聞いた。

チート能力か…。アニメや漫画でよく見る、チート能力。度々、妄想しちゃうあれである。


「やっぱり気になりますよね。その異世界。実は魔王の侵略に脅かされていましてね。あなたのような、若くして亡くなった方にチート能力を与えて、魔王討伐をして貰いましょうっていうのが今回のご紹介するお品でございます。」


「おい、いよいよテレビショッピング染みて来たぞ。もうキャラがブレブレだぞ。」


俺は呆れたようにシエスタに言う。


「うるさいわね。別にいいでしょ、あなたみたいな冴えないオタクとか何人も相手にしてると私だって疲れるのよね。私なりの楽しみよ。」


「誰が冴えないオタクだよ!」


「事実じゃない?文句言うなら、チート能力あげないわよ。」


チート能力を盾に、シエスタが脅してくる。

もうさっさと、適当にチート能力貰って異世界に送ってもらおう。


「すみませんでした。是非、チート能力を頂き異世界へと連れて行ってください。」


俺はそう言うと、シエスタに対して頭を下げた。

シエスタは満足そうに頷く。


「急に殊勝な態度ね。いいでしょう、いいでしょう。では、早速チート特典を与えるとしましょうか。」


そう言うと、シエスタは気分良くなったのか元気よく椅子から飛び上がる。

そして、パチンと指を鳴らした。

すると、俺の目の前にダーツ盤が現れた。


「…何これ?」


俺はシエスタに尋ねる。

シエスタは、決まっているだろと言った表情を見せる。


「何ってダーツ盤よ。」


「そんなのは分かるわ!何で、チート能力貰えることでダーツ盤が出てくるって話になるんだよ!」


俺は再び立ち上がるとシエスタにツッコむ。

シエスタはヤレヤレといった表情を見せる。


「ホント、うるさい人ね。今からあなたにダーツをしてもらって当たった能力があなたのチート能力よ。流石に、魔王討伐してもらうために送ってる人間に与える能力だからハズレはないからそこは安心して。」


「選ばせてくれないのかよ。」


「それじゃ、面白くないじゃない?」


面白さでそんなルールを決めるなと言いたい。

ハズレはないとは言うが、能力の格差は出るだろとツッコミたい。


「というか、魔王討伐で何人も送ってるのならそいつらがもう倒してたりしてないのかよ?」


俺はふと気になり、シエスタに尋ねる。


「まだ倒せてないんじゃないかしら?私はあっちの世界のことなんてよく見てないし。でも、だいぶ送ったからね。かなり、魔王軍は壊滅状態らしいわよ。ハイエナみたく美味しいとこだけ取るとか卑怯なこと考えないでね。」


「しねえよ。俺を何だと思ってるんだ。」


相変わらず、失礼極まりないシエスタに俺は言い返す。

シエスタはそんな俺を鼻で笑うと、ダーツの矢を1本俺に渡す。


「はい、これを投げてちょうだい。運がよければいい能力当たるかもね。」


「なあ、外れの能力ないとか言うけど本当なんだよな?」


俺は再度シエスタに聞き返す。


「大丈夫よ。ちゃんと使える能力は厳選してるから。一応、出生率増加も含めた転生企画だから。そこの所はちゃんとしてるわよ。」


「その企画を日本にしてあげればいいのに。」


俺は狙いを定めながら、シエスタに言う。


「地球に関しては少なくとも滅亡レベルまでは出生率も低下してないでしょ。それに、あなたのような冴えないオタクを日本に再び転生させたとこでオタクが1人増えるだけじゃない。」


「今、この持っているダーツをお前の脳天に投げつけてやってもいいんだぞ。」


俺は、すっかり敬う気持ちも失ったシエスタに言い返す。


「どうでもいいから、早く投げて―。あなたみたいな冴えないオタクの相手するのも疲れるんだから。今日はもう寝たいのよ。」


改める気がないシエスタは大きなあくびをしながら、俺に言う。

本当にこの矢を投げてやろうかなと思う。

まあ、いいや。考えるのも面倒だから、さっさとダーツ盤に投げていい能力当てて異世界とやらに行くとしよう。

俺はそう思うと、精神を統一してダーツ盤に向けて矢を投げる。

ヒョイッと投げた矢は空気を少し切り裂く音が鳴ると、ダーツ盤に突き刺さる。

シエスタはそれを見ると、どこから取り出して来たのかスーパーの特売とかで使われていそうな鐘を鳴らした。


「おめでとうございます!では、これよりあなたを異世界へと転生させます。」


そう言うと、シエスタは両手を天に向かって広げた。

すると、俺の足元に白い光が浮かび上がる。そして、俺の体は天へと昇り始めた。


「鈴木浩人さん。あなたの力で、魔王を打ち倒す日を心よりお待ちしております。それでは、行ってらっしゃい。」


最初に見た神々しさを見せたシエスタが女神らしいことを言う。

こうして、俺の第二の人生が幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ