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第9話 謎の強肩少女現る

水を担いで現れたアスラに全員が飛び上がるほど驚いた。


アスラは意味がわからないといった感じで3人を見た。


アスラ「何を驚いている?水を持って来いと言ってきたのは、お前らだろ?」


森「た、たしかに言うたけど、なんで素手で水を掴んで持って来れんねん!!」


風谷「み、水は液体だろ!!担いで持って来れること自体あり得ないだろ!!」


中山「つ、ついに物理的概念を無視したことをやっちゃったよ!!」


信じられない出来事を目の当たりにして驚きのあまり声を荒げる3人。


それに対してアスラは呆れ顔で言った。


アスラ「なにを今更そんなこと言ってるんだ?最初に言ったはずだ。オレはバケモノだとな」


風谷「ば、バケモノにだって限度があるだろ!!」


森「そうやで!!これは明らかにバケモノの領域を超えてるで!!」


アスラ「そんなことより水はいらないのか?」


そう言って水の塊を3人に突き出すアスラ。


完全に世界観が狂いそうな有り得ないことをやっているにも関わらず当の本人は平然としている。


感情の温度差で3人の高まった感情も徐々に冷めていった。


アスラは、担いでいる水の塊をちぎって森の水筒に無理やり押し込む。


すると水はバシャッと音を立てて水筒の中に入っていた。


森「ホンマにそれ水なんか?」


森がアスラの持っている水の塊に触れてみると本当にただの水だった。


アスラは先程と同じ要領で風谷と中山の水筒にも水を入れる。


アスラ「これでお前らの要求は満たしたぞ。後は好きに過ごせ」


そう言って森の奥に消えようとした時、風谷がアスラを呼び止めた。


アスラ「今度はなんだ?」


風谷は少し頬を赤らめながら恥ずかしそうに小さくつぶやいた。


風谷「その・・・アタシたちが寝るまで一緒に・・・」


アスラ「断る」


風谷「なんで即答なんだよ!?しかも、まだ言ってる途中だろ!!」


アスラ「最後まで聞かなくても言いたいことは分かる。だが心配するな。縄で結ばれた木の近くにいれば安全だ。だからオレが朝までいる必要はない」


風谷・森・中山「そうは言ってもなぁ・・・」


いくらアスラの保証付きとはいっても有名な自殺スポットで寝泊まりするのは、やはり怖い。


そこで再び、お馴染みの『おだて戦法』を使うことにした。


森「安全かもしれへんけど強者がいる方が弱者にとっては、ごっつ安心して眠れるもんなんや」


風谷「そ、そうなんだよ。支配者が傍にいるだけで全然違うんだよ」


中山「だからお願い!!出来の悪い配下を守ると思って朝まで一緒にここにいて!!」


アスラ「・・・・・・」


アスラは何も答えなかった。


3人は恐る恐るアスラの顔を見ると怒っていた。


アスラ「お前ら・・・このオレに同じやり方が通用するとでも思ったのか?」


ギクリとして3人は後ずさった。


そのあまりにも分かりやすい反応にアスラは呆れた表情に変わりため息をついた。


アスラ「仕方がない。お前らが寝るまでここにいてやる。だがいつまでも同じことがこのオレに通じると思ったら大間違いだぞ」


とりあえず殺されずに済んでよかったと思った3人は夜食を食べた後、すぐに就寝した。


疲れがよほど溜まっていたのか眠りにつくのは早かった。


翌日・・・


アスラに起こされ時計を見ると予定していた時間よりはるかにオーバーしていた。


風谷「げっ!?もうこんな時間かよ!!何でもっと早く起こしてくれなかったんだ!?」


アスラ「起きる時間を管理するのも特訓の一環だ。起こしてもらっただけ有難いと思え」


森「これじゃ走っても間に合うかどうかわからへん!!」


中山「とにかく可能な限り走ろう!!」


3人は全力疾走で頂上を目指した。


アスラは3人の横で時間と頂上までの正確な距離を伝えた。


その言葉を頼りに3人は体力が続く限り走り続ける。


途中で足が埋まろうが服が泥だらけになろうが無我夢中で走った。


そして・・・


アスラ「記録は4時間2分。現在は8時2分だ。どうやら学校とやらには間に合いそうだな。それにしても今のお前らの身体能力で、あの場所からここまでの時間で来れたのは予想外だったぞ」


アスラの言葉などまったく耳に入っていない3人は息切れをしながら、一斉にアスラに叫んだ。


風谷・森・中山「早く河川敷に戻してぇぇ!!」


アスラ「いや、今回は特別に家まで送ってやる」


風谷・森・中山「え?」


家まで送ってもらった3人は、なんとかシャワーと朝食を済ませてギリギリ学校に間に合った。


風谷「よくあんな時間からスタートして間に合ったよな・・・」


森「ホンマにな。でもこんな生活続けられるかどうか心配やで」


中山「それもそうだけど、1人でも早く女子選手を見つけないと」


風谷「今日は中堅と弱小の軟式野球チームをあたってみるか」


放課後・・・


最初は近くにある中堅の軟式野球チームをあたってみたが女子の選手はやはり見当たらず続いて弱小の軟式野球チームもあたってみるが、それも最後の1チームに絞られた。


風谷「とうとうこの『馬越(うまごえ)バファローズ』で最後か」


森「これで誰もおらんかったら市外も考えた方がええんやない?」


中山「それは無理だよ。市外になったら遠くて誘っても絶対来てくれないよ」


風谷・中山・森「う~ん・・・」


中山「ここで悩んでも仕方ないし、とりあえず聞いてみよう」


聞いてみた結果は惨敗。


結局近くにある野球チームで女子選手は1人もいなかった。


キリがよかったので選手集めを明日にすることにした3人。


だが河川敷での集合時間に余裕があったので、ついでに馬越バファローズの練習を見ることにした。


森「やっぱり弱小って区分けされるだけあって、あんまり上手くあらへんな」


中山「でもなんか楽しそうだよね」


風谷「アタシたちも最初はあんな感じで野球を楽しんでたんだよな」


練習を見ながら最初の自分たちと重ね合わせていると外野の奥の方で練習を眺めている女の子を見つけた。


中山「あの子も野球が好きなのかな?」


森「ちょっと声をかけてみいへんか?」


風谷「そうだな」


3人が駆け寄ろうとしたその時、打ったボールが彼女の前に転がる。


ボールを投げ返してくれるよう頼む選手に対して彼女は無表情のまま返球をした。


ところが返球した先は数メートル手前の選手に対してではなく、はるか向こうにいるキャッチャーだった。


矢のように放たれたボールはノーバウンドでキャッチャーのミットの中へ。


しかもコントロールも完璧だった。


あまりの出来事に唖然とする3人。


彼女はその後、何事もなかったかのようにその場を去って行った。


森「今の見よったか?」


風谷「あ、ああ」


中山「あの距離からノーバウンドでキャッチャーに送球なんて強肩自慢の青木でも難しいよ」


3人は、先程返球を要求していた選手に声をかけてみた。


森「なぁ、ちょっとええか?」


選手「こんなところに来たら危ないぞ?」


森「ちょっと聞きたいことがあるんやけど、さっきボール投げた子って・・・」


選手「ああ、三崎(みさき)のことか。アイツならいつも来てるよ」


風谷・森・中山「え?そうなの?」


選手「アイツ・・・やっぱり野球を諦めきれないんだろうな」


中山「あの子もここで野球をやってたの?」


選手「まぁな。辞めたのだって監督に無理やり辞めさせられたって話だ」


森「どういうことや?」


選手「ウチの監督って声が小さいヤツは試合に出さないってくらい声出しには、うるさくてな。三崎は声が小さかったから特に監督に目を付けられてたんだよ」


風谷「へぇ~」


選手「しかも監督が練習時間を増やすって言いだして週3回だった練習を週5回に増やしたんだ。そのせいで習い事と掛け持ちしてる三崎は野球を辞める羽目になっちまったんだよ」


中山「今時、小学生で掛け持ちが許されないことなんてあるんだね」


風谷「普通に考えてその監督がおかしいだけだろ」


選手「監督は昔の時代の野球をモットーにしてる人だからな。それにしても三崎が辞めたのは惜しいと思うぜ。アイツなら間違いなく全国トップクラスの実力者だからな」


風谷・森・中山「ぜ、全国トップだって!?」


思わぬ形で優秀な逸材を見つけて喜ぶ3人。


しかしその喜びも一瞬で消え失せた。


森「そういえば、ウチも習い事との掛け持ちって出来へんのとちゃうんか?」


中山「そう言われてみれば、そうかも」


風谷「こればっかりは、監督に聞いてみないとわかんないな・・・」


【河川敷】


アスラ「掛け持ちとは一体なんだ?」


風谷・中山・森「・・・・・・」ガクッ


風谷「予想外の答えだったな」


中山「掛け持ちっていうのは、二つ以上のことを同時にやるってこと。つまり野球と習い事を両立して出来ないかってことね」


アスラ「習い事?」


森「学校みたいなもんや」


アスラ「だったら、その習い事とやらが終わってから山登りをやればいいんじゃないか?」


風谷・中山・森「あっ!?」


その時、3人とも肝心なことに気付く。


たとえアスラが掛け持ちを承諾したとしても大きな問題が立ち塞がる。


それは親の承諾だ。


3人の家庭は母子家庭であり、親は夜間勤務。


だから親に内緒で山登りの特訓をすることができている。


しかし普通の家庭ではそういうことはできない。


アスラの特訓を受けるためには親の承諾も必要不可欠なのだ。


中山「あの子の親って許してくれると思う?」


風谷「普通に考えて無理だろ」


森「小学生の寝泊まりなんて宿泊研修ぐらいしか許されてへん。しかも寝泊まりする場所が自殺スポットで有名な天獄山やからな」


風谷・森・中山「・・・・・・」


これは、もはや男女関係なく、この先自分たち以外の人間は誰も入って来ないのではと思う3人であった。


そして・・・


アスラ「今日の特訓も山登りになるが、今回も別の道から始めてもらう」


風谷・森・中山「は~い」


アスラ「この道が山登りの特訓の最後の道になる」


風谷・森・中山「え?」


アスラ「今後は、ひたすらこの3つの道を交互にやってもらう」


風谷「この山登りっていつまで続けるつもりなんだ?」


アスラ「それは、お前ら次第だ。オレの求める身体能力になったら山登りの最終試練に入るつもりだ」


森「なんか曖昧な基準やな」


中山「身体能力なんて自分たちじゃ絶対わからないもんね」


アスラ「くだらない話をしているとまた今日のようになるぞ。さっさと行って来い」


昨日のように3人はリュックを背負って道のない森の中へと入って行った。


最後の道は、最初の道よりも距離は少ないが上りも下りも斜面が急であるため足にかかる負担は大きい。


さらに下る時は慎重になるため時間も余計にかかってしまうのも難点だ。


昨日の件もあり日が沈むまでになるべく距離を稼ぎたい3人は登りに入った時は全速力で走り、下りに入った時はゆっくり歩くというやり方で進んでいった。


風谷「もう今日はこの辺にしておくか?」


中山「そうだね。欲を出して大ケガでもしたら大変だし」


森「ほな、ここで今日は寝泊まりやな」


3人が寝袋を準備している時、いつものようにアスラが夜食を持ってやってくる。


それと今度は大きな水筒も持ってきていた。


森「おぉっ!?これは意外や!!」


中山「ちょうど水が無くなってたところだったんだ!!」


風谷「これは助かるな!!」


大喜びで、3人は水筒をアスラに差し出した。


アスラ「・・・・・・」


アスラは水を補充した後、その場を去らず黙って3人の近くに立った。


風谷・森・中山「・・・・・・」


中山「もしかして・・・今日も朝まで一緒に?」


アスラ「昨日と同じように、お前らが寝るまでな」


風谷・森・中山「・・・・・・」


思わず3人に笑みがこぼれた。


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