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私たちの監督は14歳で、かなりヤバいっ!!  作者: フムフム竜
小学生編
61/61

第61話 アスラの本能

アスラのノックは続いた。


マリーは類まれな反射神経を駆使して、アスラの打球をさばいていく。


その光景を異世界から猛スピードで戻って来たゼラは苛立ちながら見ていた。


ゼラ「(アスラ様・・・本当に支配者への道よりもコイツらの育成を選ぶんですか。このわずかな期間で何があったか知りませんが、こんなのは私の知っているアスラ様じゃない。アスラ様は常に自分のことを優先して行動する御方(おかた)のはずだ)」


マリー「アンタの打球には慣れたわ!!もうどんな変化にも対応できるわ!!」


アスラ「どんな変化にもか?」


マリー「そ、そうよ!!」


アスラ「そうか」


マリー「(こんな挑発したくはないけど仕方がないわ。何とかボールは捕れてるけど、本当に紙一重って感じだし、アイツの意味深な言い方が正直マジで怖い)」


アスラの打ったボールは、マリーの顔面に向かってきたがそこからストンと落ちてマリーの足元を抜けていった。


マリー「なるほどね。今までアタシに向かって飛んでくる軌道とは逆にアタシを避ける軌道を打ってきたわけね。たしかにこれじゃ捕れないわ。でも次は捕るわよ」


アスラ「次だと?オレが言ったことをもう忘れたようだな」


モニカ「マリー!!後ろ!!」


マリー「え?」


足元を抜けて行ったはずのボールは戻ってきてマリーの背後へ。


マリー「ぐはっ!?」


ボールはマリーの後頭部にぶつかった。


マリーは脳震盪(のうしんとう)を起こしたのか足元がおぼつかなくなる。


アスラ「最初に言っただろ。ボールをよく見ろと」


マリー「(や、ヤバ・・・視界が)」


ゼラ「アスラ様!!トドメを!!トドメを刺してください!!」


アスラ「言われなくても・・・これで終わりだ」


アスラが打ったボールはマリーの眉間に向かって一直線に進む。


マリー「くっ!!」


ぼやける視界の中、かろうじてグローブを盾にして直撃を避ける。


ゼラ「くそっ、しぶとい奴だ」


アスラ「心配いらん。次は防げん」


アスラは再び眉間に目掛けてボールを打つ。


マリー「はぁ、はぁ、はぁ」


再びグローブで防ごうと右腕を動かそうとするが動かない。


マリー「(ち、ちくしょう・・・こ、こんなところで・・・こんなところで・・・死んでたまるか!!)」


マリーは咄嗟(とっさ)にグローブを外してボールに向かって投げて叩き落とした。


アスラ「なにっ!?」


ゼラ「ま、まさか・・・」


マリー「アンタも・・・驚いた表情ができるんだ。そんな感情ないと思ったけど」


ゼラ「いい気になるなよ。そんなやり方がいつまでもアスラ様に通用すると思ってるのか」


マリー「(たしかに・・・もうこの方法は通用しない。あのバケモノのことだからアタシが投げたグローブを拾う暇も与えずボールを打ってくる。でも意識は戻ってきた。勝負はこれからよ)」


自身に気合を入れて構えるマリー。


アスラ「驚いたな。もう意識が戻ったか」


マリー「当たり前でしょ。アタシをそこら辺の平凡な人間と一緒にしないでちょうだい。しかもこっちは命がかかってんのよ」


アスラ「命か・・・そんなお前にいいことを教えてやる」


マリー「な、なによ・・・」


アスラ「オレの打つボールをこの先・・・お前は絶対捕ることはできない」


マリー「な、なんですって!?いくらなんでもそんなことは・・・」


アスラ「不可能だと思うか?」


マリー「(たしかにコイツが今まで言ってきたことは全部現実になった。じゃあ本当にアタシはこの先1球も捕れないってこと!?)」


マリーは心底震えた。


捕れないということはアスラの打球が直撃することを意味する。


マリー「(あ、あり得ない・・・一体どうやって)」


アスラがボールを打ったその時、突如激しい突風による土埃(つちぼこり)が舞った。


マリー「うっ!?これは!?」


アスラ「隕石がすぐ近くまで迫っているからな」


マリー「で、でもなんで今になって突然!?」


アスラ「もともとこれぐらいの突風はすでに起こっていたんだ。それをオレが今までわざと止めていただけだ。だが声は聞こえるようにしてあるから安心しろ」


マリー「何をどう安心しろって言うのよ。でもこんな状況じゃアンタだってまともなノックなんかできないじゃない」


アスラ「まだオレがどういう存在かわかっていないようだな。こんなのがオレの障害になるとでも思っているのか?お前は自分の心配でもしていろ。土埃でお前の視界はゼロ。果たしてボールを見定めることができるか?」


マリー「くっ!?」


ゼラ「アスラ様!!今度こそケリをつけてください!!」


アスラ「任せておけ」


アスラの容赦ない打球がマリーを襲う。


両手、両足、腹、両腕。


体の隅々に打球を当てていく。


ボールが当たるたびにマリーの絶叫が響き渡る。


だがアスラは一向にトドメを刺さない。


ゼラ「アスラ様!!もう時間がありません!!遊びはもう十分です!!」


アスラ「ゼラよ・・・オレは今まで弱者をいたぶることを楽しむヤツらが理解できなかった。弱いヤツを倒しても自分の身体能力が飛躍するわけではないからだ。だが今ならわかる」


ゼラ「は?」


アスラ「明らかに実力が格上の相手に必死に食らいつく弱者の顔。そしてそれを突き飛ばし絶望の中、散っていく弱者の顔。オレは・・・こんなに・・・こんなに楽しいとは思ったのは始めてだ!!もっとだ・・・もっと苦しみながら・・・もがきながら散っていく弱者どもの姿をオレはもっと見たいぞ!!」


この時、ゼラの心に稲妻が落ちる。


ゼラ「(な、なんということだ!!私は大きな勘違いをしていた!!アスラ様はヤツらのために時間稼ぎしていたわけじゃない。じわじわ痛ぶることへの快感を覚えていただけだったんだ!!アスラ様は何も変わっていない!!アスラ様、あなた様を疑って申し訳ありませんでした!!)」


涙ぐみながらアスラに土下座するゼラだったが、すぐに正気に戻る。


ゼラ「いや、待て・・・どっちにしてもこれはマズいんじゃないか?」


ゼラは恐る恐るアスラの顔を見る。


アスラの目は生き生きとした狂気に満ちていた。


ゼラ「だ、ダメだ!!あの目は完全に本能全開モードだ!!今のアスラ様は自身の欲望を満たすことしか考えていない!!欲望の妨げになるものは容赦なく消す!!隕石なんてまさに格好の的じゃないか!!今すぐ元凶を取り除いてアスラ様を正気に戻さなければ!!」


ゼラが人間の口のような物を懐から取り出しそれを思い切り踏み潰す。


するとその口が大きな悲鳴をあげ、それが合図のようにマリーの周辺の空間の至る所から闇の穴が何個も現れる。


ゼラ「いいか!!標的はあの小娘だ!!殺せ!!一刻も早く殺すんだ!!」


闇の穴から体じゅう顔だらけのバケモノたちが一斉にヌッと姿を現す。


マリー「ひっ!?な、なんなのよコイツら!?」


必死に逃げようとするもアスラの打球の影響で両足が動かない。


このバケモノたちの登場に神界で見ていた五大神も恐怖する。


ルーン「あ、アイツら見覚えがあるぞ!!」


ティア「忘れるわけがなかろう。神の墓場と言われた第13地区・・・そこにいたケダモノどもだ」


ヴァギ「しかも、これほどの数・・・あのバケモノ1体で我々五大神が手も足も出なかったというのに」


アビドス「洩矢アスラはそれほどの実力者ということだ。やっぱりアイツは危険だ」


アス「不死の神を食い物にしているバケモノたちを相手に一体どうするかな」


ゼラ「いけぇぇぇぇぇぇ!!」


ゼラの号令でバケモノたちが体中の口を開けてマリーに襲い掛かる。


マリー「いやぁぁぁぁぁっ!!助けてぇぇぇ!!」


目を閉じた途端、右腕に激痛が走る。


マリー「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


完全に右腕を引きちぎられた。


そう確信したマリーは涙を流しながら目をゆっくり開け、右腕を見る。


だが右腕は健在。


その代わり右腕にはボールの跡がくっきり残っていた。


マリー「よ、よかった・・・あの痛みはボールが当たった痛みだったんだ」


アスラ「安心しろ。お前には指一本触れさせはしない。アイツらからはオレが守ってやる」


バットをマリーに向けてアスラは笑う。


アクション映画でヒロインが言われるような言葉を使われてもこれほど嬉しくないものはないだろう。


バケモノたちは休むことなく、あらゆる方面から飛び出して来る。


しかし、マリーに近づくことはできない。


ゼラ「ぐぬっ!?やはりアスラ様の攻撃は凄いスピードと破壊力だ。だが怯むな!!どんどん行け!!」


なおも穴から無限に出て来るバケモノたち。


だがモグラ叩きのように消えては出ての繰り返しで一向に進展がない。


一方、アスラは目にも映らぬ速さでバケモノを消しながらもマリーへのノックを両立させる。


頭を抱えるゼラの後ろで中山は笑っていた。


中山「(まったく予想外の展開になってきたけど、おおよそ作戦通りになってる。アスラ兄ちゃんはマリーを痛めつけることに夢中になってる。やっぱり私たちよりもムカつくマリーを痛めつけた方が断然効果があるみたい。これならあのバケモノ同様、隕石も消してくれるはず)」


アスラ「ゴミがいくら来ようが関係ない。さて今度はもっと激痛が走るところに打ってやる」


マリー「じょ、冗談じゃ・・・な・・・」


アスラの打球を受け続け、指一本動かすことができないマリー。


当然アスラの狙い通りの位置に直撃する。


マリー「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


愛比売山にマリーの悲鳴が響き渡る。


アスラ「面白い!!これは面白いぞ!!もっと叫べ!!」


ゼラ「うわぁぁぁぁ!!完全にのめり込んでおられる!!もうダメだぁぁぁ!!隕石がもう落ちて来る!!」


アスラ「あの箇所(かしょ)に当たっても倒れんとは素晴らしいぞ!!次は、一番痛みを感じるところに打ってやる」


マリー「(さ、作戦と全然違うじゃない・・・かなり痛いなんてもんじゃない。こんな生き地獄を味わい続けるなら、いっそ楽に死んだほうがマシよ)」


バットを構えマリーに照準を定めようとした時、バケモノの一体がアスラの方へと襲い掛かる。


ゼラ「や、やめろ!!アスラ様に攻撃するな!!これ以上アスラ様の本能を刺激するな!!」


アスラ「先程から思っていたがやはりコイツらは邪魔だな。オレに向かって来るとは身の程知らずめ」


アスラが襲い掛かるバケモノを思い切り殴り飛ばす。


その吹き飛んだバケモノは徐々に黒い球状へと変化し、そのままマリーに群がるバケモノたちに衝突する。


黒い球体はバケモノたちを取り込んでどんどん膨らみ大きくなる。


やがてその球体は破裂して大爆発を起こし辺り一面黒い霧に覆われた。


霧が晴れてくると残っていたのはマリーだけで、闇の穴もバケモノたちも綺麗に消えていた。


さらにアスラはゆっくりと上を見上げ、隕石を見つめる。


アスラ「これも邪魔だな。アイツのもがく姿がハッキリ見えん」


ゼラ「お、お辞めくださいぃぃぃぃ!!」


ゼラの制止もむなしくアスラは目を細めるだけで隕石を木っ端みじんに消し飛ばした。


ゼラ「そ、そんな・・・」


次にアスラはゼラの方を向いた。


ゼラ「え?」


アスラ「お前も邪魔だな」


ゼラ「え?何を・・・ちょ、ちょっと!?あ、アスラ様!?お、お辞めください!!わ、私は、あなたの・・・」


ゼラもアスラによってあっさりと消されてしまう。


アスラ「これで邪魔者は消えたな。さて続きを」


アスラがマリーの方へ向き直るとマリーはすでに倒れていた。


その姿を見たアスラの目からも狂気が消えてなくなる。


アスラは、マリーに近づきしばらくじっとマリーを観察した。


完全に気を失っていることがわかると空を見上げポツリとつぶやく。


アスラ「アイツらに・・・してやられたな。だが不思議と屈辱感はない。むしろ晴れ晴れとしている」


中山は痛みを堪えながら、ゆっくりとアスラに近づく。


中山「ね、ねぇ・・・ど、どうして手下の人を殺しちゃったの?あの人はアスラ兄ちゃんの世話係だったはずじゃ」


アスラ「アイツが本当にオレの配下や手下だったら殺さなかったな」


中山「え?」


それ以上アスラは、何も言わず澄んだ空を眺めていた。


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