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私たちの監督は14歳で、かなりヤバいっ!!  作者: フムフム竜
小学生編
60/61

第60話 命運を賭けた地獄のノック

運命の日がやってきた。


隕石はゼラの言う通り突如となく現れ、住民は愛媛県から脱出すべく大混乱となっていた。


我先にと脱出すべく多くの住民たちが一斉に飛行場、港、駅に群がる。


金持ちや権力者たちも脱出を試みるがどこからともなく群衆が湧き出し脱出の目途が立たずにいた。


そんな世の中の動きとはまったく逆方向・・・隕石が落ちる中心に位置する愛比売山に7人の少女はいた。


その前にはゼラとアスラが立ちはだかっていた。


アスラ「どうだ?一日やったがゼラの理屈を覆せることはできるか?」


中山「ううん・・・いろいろみんなで考えたけど無理だった」


アスラ「そうか」


ゼラ「悪あがきでもするかと思ったが案外あっさりしているな。とにかく隕石の落下まで1時間。それがお前らとアスラ様の最後の野球だ」


アスラ「さて始めるか」


アスラが用意していたバットとボールを持つと中山が突如止めに入る。


中山「遊びを始める前にルールを決めておきたいんだけど」


アスラ「ルール?」


中山「ボールとバットは私たちが用意した物を使うこと。それからボールを使うのはこれ1個だけ。そして1人ずつ順番にノックをすること」


アスラ「それで終わりか?」


中山「それと私たちが捕れる威力でノックをすること。最後に・・・この遊びは私たちが倒れるまで続けること」


アスラ「終わりか?本当にそれだけでいいのか?」


アスラの念押しに中山は息をのむ。


相手は異界の怪物アスラ。


少しの見落としも許されない。


だが一晩中みんなで考えた作戦。


見落としはない。


中山はゆっくりと頷いた。


アスラ「オレからも条件をつける。オレがノックするボールから絶対に逃げないこと。そして防具等の身体を守る(たぐい)の物は付けるな」


中山「え?」


アスラ「ボールから逃げないのも身体を守る防具をしないのも当たり前のことだろ」


中山「それはそうだけど・・・」


言っていることに、おかしな点はない。


だがアスラが言うと話は別だ。


必ず意味がある。


だがわからない。


中山「(威力の制限はしたし、道具も指定した。どこに見落としが・・・)」


ゼラ「どうするんだ?アスラ様の条件を受けるのか?早く決めろ」


中山「わ、わかった」


中山が承諾するとゼラは勝ち誇ったかのように笑い出す。


ゼラ「これでお前らは終わりだ!!貴様はこの条件の肝心な部分を見落としている!!」


アスラ「一日やってもお前の言ったことを覆せないヤツらだ。こんな短時間で気付けというのが無理な話だ。だが容赦はしない。誰が最初の餌食になるんだ?」


誰も前に出ることができない。


身体が震え、動くことが出来ない。


今まで自分たちの想像を遥かに超えたやり方で様々な問題を解決していたアスラ。


そのやり方を今度は自分たちに使ってくる。


未知なる恐怖に(おび)える中、最初に前に出たのは中山だった。


アスラ「最初の犠牲者は、お前か」


軽くアスラがボールを打つ。


しかし打った瞬間、打球は突然中山の目の前に現れる。


さらに軌道は一気に変化し、中山の腹部から頬に向かって飛んできた。


ボールが通過した中山の頬から血がポタリと滴り落ちる。


あまりの打球の速度に加えて野球では有り得ない打球の軌道に全員が絶望的になる。


森「な・・・なんや今の速度と軌道。あんなの捕れるわけないやん」


風谷「あんな打球もろに喰らったら1球でお陀仏だぞ」


この打球に真っ先に抗議したのは黒崎だ。


黒崎「ルールと違うじゃない。ルールでは私たちが捕れる威力でって話じゃない」


アスラ「何を言ってる?今の打球だってお前らの反射神経ならギリギリで捕れるはずだぞ?お前らが勝手にボールの軌道を決めてかかったから捕れなかっただけだ。これからは常識の概念を捨てることだな」


真野「そ、そんな・・・」


アスラ「条件の付け方が甘かったな。『捕れる威力』ではなく『人間の常識の範囲内で捕れる打球』とするべきだったな」


黒崎「そんな細かいこといちいち言わなくても常識としてわかるでしょ」


アスラ「お前らの相手は誰だと思ってる?お前らだってオレのことを理解した上でのルール提示だったはずだ」


黒崎「ぐっ」


アスラ「今さら後悔しても遅い。だがお前らが後悔するのはこれからだ」


いつの間にかボールを拾っていたアスラは2球目を打つ。


中山「(正直、あんな打球を打ってくるのは計算外だった。このままじゃ・・・)」


今度は足に向かってボールが飛んでくる。


中山「(次はどこに・・・)」


自身の反射神経を頼りに身を任せて挑む中山。


どう軌道が変化するのか身構えていたが予想を裏切り、軌道は変化せずそのまま右足に直撃する。


中山「しまった!?」


その直後、中山は突如右足に違和感を覚え倒れ込む。


中山「な、なにこれ・・・」


痛みはまったくないはずなのに中山の右足は激しい痙攣(けいれん)を起こしていた。


アスラ「ルールの一つにお前らが倒れるまで続けることだったな。だったら立てないようにするまでだ」


中山「(さ、最低でも1人10分は時間を稼がないといけないのに・・・)」


痙攣する足を抑えてなんとか立ち上がる中山にアスラは容赦なくボールを反対の足に目掛けて打つ。


中山「(やっぱりそこを狙ってくるよね)」


左腕を出してグローブを足の盾にするような形で打球を迎え撃つ中山。


ところがボールは一気に軌道を変えて中山の左肩に直撃する。


中山「ぐわぁぁぁぁぁ」


先程とは違い物凄い激痛が中山を襲う。


中山はその場でのた打ち回ってしまう。


アスラ「しばらくその痛みは続くぞ。そのまま激痛を感じて転げまわっているがいい。これでコイツは立つことは不可能になった。お前らの身体の構造は山登りを観察してすべてわかっている。さて次のヤツにはどこを狙ってやるかな」


目を赤く光らせ、身体には赤黒いオーラを(まと)ってバットを構えるアスラ。


この監督はヤバいと今まで以上に痛感する少女たち。


戦闘狂の本能を完全に目覚めさせてしまい、少女たちは身体がすくむ。


アスラ「誰も来ないならオレが指名してやる。次はお前だ。風谷」


風谷「な、な、な、なんでアタシ・・・なんだよ・・・」


アスラ「どうした?もっと楽しめ。遊びなんだから」


風谷「(じょ、冗談じゃない。こんなの遊びじゃない。拷問だ)」


アスラの容赦ない拷問ノックに少女たちは次々倒れていく。


そして隕石の落下まであと20分。


残ったのは最も身体能力が高い黒崎のみ。


その黒崎も倒れるのは時間の問題だった。


黒崎「(まずい・・・でも私がここで倒れたら)」


アスラの打ったボールは黒崎の眉間に直撃。


完全に止めを刺しに来たアスラの一撃にゼラは歓喜の声をあげた。


ゼラ「素晴らしい!!完璧です!!この容赦のない攻撃!!相手の復活の隙も与えぬ徹底ぶり!!さぁこれで遊びは終わりました!!行きましょう!!」


アスラ「そうだな。これで遊びは終わり・・・」


言いかけたその時、一度は倒れたはずの黒崎が再び立ち上がる。


額からは血が出ていた。


ゼラ「な、なぜだ!?なぜ立ち上がる!?そこまでする価値があるのか!?たかが野球選手を目指すだけだろ!?」


黒崎「そ、それだけじゃないわ・・・隕石が落ちたら私たちは家族を失う。大切な人を失う。あなた達には遊びかもしれないけど私たちにとっては命懸けなのよ!!」


アスラ「お前たちが執拗(しつよう)に食い下がってきた理由はそれだったのか。なるほどな・・・」


ゼラ「アスラ様?」


アスラ「だが・・・オレの知ったことではないな」


アスラは黒崎にボールを打つ。


黒崎「うぐっ!?」


ボールは黒崎の腹部にめり込む。


腹部を抑えながら立ち上がろうとするが黒崎は力尽きてしまう。


アスラ「終わったか・・・」


少し物寂しげな表情をするアスラにゼラは目を見開く。


ゼラ「(まさか・・・コイツらが名残(なごり)惜しかったとでもいうのか!?愛着が沸いていたとでもいうのか!?いや、アスラ様に限ってそんなことはない)」


1人妄想して動揺するゼラをよそにアスラは空間を斬って異世界への道を開く。


その時だった。


マリー「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!」


マリーが猛ダッシュで乱入してきた。


アスラ「何の用だ?」


マリー「あ、アタシも参加するわ」


ゼラ「なんだと?」


マリー「アタシも遊びに参加するって言ってんのよ」


ゼラ「バカな。アスラ様の配下でもない貴様が参加する権利などない」


アスラ「構わん」


ゼラ「え?」


アスラ「特訓なら参加の権利はないが、これは遊び。配下であるかどうかは問題ではない」


ゼラ「ですが・・・」


アスラ「それにアイツはもともとこのオレ自ら叩き潰そうと思っていたところだ」


ゼラは焦っていた。


明らかにアスラの心は揺れ動いているように見える。


その証拠に最初の中山には2球、次の風谷に8球、森には16球と費やす球数がだんだん多くなってきていたからだ。


ゼラ「(先程の表情といい、この娘の参加の許可といい、アスラ様は・・・ヤツらのためにわざと時間を稼いでいるとでもいうのか?)」


中山「(わ、私の思った通りだ。アスラ兄ちゃんは完全に私たちの作戦にはまってる。あとは頼んだよ、マリー)」


マリー「(本当はあんな作戦に協力したくないけど、こんな隕石出てきたらやるしかないじゃない)」


目をギラつかせてバットを構えるアスラ。


マリー「(今まで怖いもの知らずで生きてきたけど、正直今はマジでヤバい。アイツがメチャクチャ怖い)」


アスラ「それでは遊びの続きだ」


マリー「あ、アンタの打球はアタシには通用しないわ!!アメリカ最強の反射神経の持ち主の実力見せてやるわよ!!」


アスラ「面白い。ならば見せてもらおうか」


アスラの打ったボールはギュルルと音を立てながら物凄い回転でマリーに向かって突き進んでく。


マリー「(何よ、この音!?こんなのボールから出る音じゃないでしょ!?)」


ボールはマリーの腹部に向かって軌道を変える。


マリー「(さぁ来なさい。どんなに軌道を変えようともアタシにかかれば・・・)」


ボールがマリーの手元に来た瞬間、ボールが一気に2個に分裂する。


マリー「はぁぁぁぁっ!?」


あまりに非現実的な出来事にマリーは何もできず腹部に直撃する。


マリー「ぐぁぁっ!?」


アスラ「どうした?最強の反射神経を見せてくれるんじゃないのか?」


マリー「ぐっ・・・こ、こんなの反射神経以前の問題よ。こんなの捕れるわけないじゃない」


アスラ「そんなことはない。絶対に捕れる。オレは今まで捕れるボールしか打っていない。お前らは有り得ない現象に動揺して集中力を欠いているだけだ。もう一度同じボールを打ってやる。ボールをよく見ろ」


先程と同様に激しい回転音を鳴らしながらボールはマリーに向かって一直線へ。


マリー「ボールを・・・よく見る」


ボールが2個に分裂した瞬間、今度は集中してボールを見極める。


マリー「あっ!?」


ほんの僅かだが偽物の方がブレが大きく本物より薄く見える。


今度はボールを上手く捕るマリー。


マリー「と、捕れた・・・」


アスラ「だから捕れると言っただろう」


ゼラ「(まずい・・・このままではアスラ様がヤツらの術中に・・・)」


アスラ「続きをやるぞ。どこまで持つか見物だな」


マリー「よっしゃ!!どんと来なさい!!」


ゼラ「(こうなれば最終手段に出るしかなさそうだ)」


空間を斬り、ゼラは一旦自分の異世界へと戻って行った。



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