第59話 神のシナリオ
マリーとモニカは昨日の真相を確かめるべくアスラの元を尋ねた。
マリー「昨日からアーロンが行方不明になってるんだけど、アンタ・・・心当たりはある?」
アスラ「あるぞ」
マリー「思ったより簡単に認めるのね。アーロンはあの寺に戻ったってことでいいの?」
アスラ「そうだ。アイツは戻って来た」
マリー「き、昨日・・・あの寺でアーロンと何があったの?アンタが担いでたのは何?」
アスラ「知りたいか?」
マリーとモニカはしばらく黙り込んだ。
住職に言われたことを思い出していたためだ。
そしてマリーは意を決して頷いた。
アスラ「お前はどうだ?」
アスラがモニカに目をやるとモニカは震えながら首を横に振った。
アスラ「じゃあ、お前だけ来い」
アスラは、マリーを連れて愛比売寺の本堂へ。
本堂の前に着くと中から異臭が。
アスラ「これが答えだ」
アスラが勢いよく扉を開けると強烈な異臭がマリーの鼻に襲い掛かる。
マリー「うっ!?こ、これは・・・」
今まで嗅いだことのない異臭に胃の中の物が出そうになるマリー。
堪えながらその場を離れてモニカの元まで急ぐ。
マリー「(やっぱり間違いないわ。あそこでアーロンは殺されたのよ)」
モニカ「ま、マリー!?」
青ざめたマリーを見て慌てて駆け寄る。
マリー「モニカ、よく聞いて。アイツはあそこで・・・」
アスラ「この山は自殺の名所として有名だ。この山では多くの自殺者が出ている。あそこでオレはその自殺者を再利用している」
マリー「あ、アンタもう追いついたの!?それにしても再利用ですって!?あ、アンタ一体何考えてんのよ!?」
アスラ「自殺者のほとんどは精神を病んでいるだけで身体は健康体だ。だったらその身体を有効活用した方がよいと思わないか?」
部屋の中の異臭と、ところどころに落ちていた肉片。
マリー「じゃあ、アンタは・・・自殺者の臓器を・・・」
アスラ「ああ。欲しがってるヤツに提供してるんだ」
マリー「あ、アンタ狂ってるんじゃないの!?医者でもないアンタがそんなことを!!というかそもそもそんなこと許されるわけないじゃない!!」
アスラ「だが現にそれで救われているヤツは大勢いる。お前の父親もその1人になるはずだった」
マリー「なっ!?」
アスラ「だがヤツは道を踏み外した。自分で死の道を選択したんだ」
マリー「つまりアーロンもアンタが担いでたヤツの臓器で助かろうとしてた。そして、その臓器をアンタが潰したってこと?」
アスラ「少し違うな。臓器を潰したわけじゃない。アイツの目の前で他のヤツに臓器を提供してやったんだ。その時のヤツの表情は見物だったぞ」
マリー「だったら、なおさらわからないわ。アーロンはどんな手段を使おうとも絶対に渡すようなヤツじゃないわ」
アスラ「当然ヤツは臓器をよこせと変な物を向けてきた。何回もそれを使って額めがけて攻撃もしていたな。まぁ、あんな程度の威力でアイツをどうこうできる訳ないがな」
マリー「は、はぁっ!?アンタ、アタシをバカにしてるの!?それって拳銃のことでしょ!?拳銃を喰らって生きていられる人間なんているわけないでしょ!!」
アスラ「人間ならな。だがアイツは人間じゃない」
マリー「そんな戯言は聞きたくないわ!!正直に言いなさい!!アーロンはアンタが殺したんでしょ!!」
アスラ「殺していない。オレが殺すなら一瞬で消す。金を持っていった時点で消している」
マリー「嘘言うんじゃないわよ!!アンタはアーロンの絶望する顔を見た後に殺したんだわ!!その方がアンタらしい殺し方じゃない!!」
アスラ「そう言われればそうだな。だがオレは殺していない。そんなにオレが殺したと思っいるならそう思えばいい。別にお前のようなヤツにどう思われようが関係ないからな」
マリー「な、なんですってぇ!!」
モニカ「マリー」
今まで沈黙していたモニカがマリーの肩にそっと手を置いた。
マリー「モニカ?」
モニカ「あなたが殺していないなら、アーロンさんは一体どこに?」
アスラ「ふむ、どこにか・・・アイツ(肉片)なら臓器を提供したヤツと共に向こうの世界に帰って行った。たぶんもうアイツは消えてなくなっているがな」
マリー「いい加減にしてよ!!何が向こうの世界よ!!いいわ!!そっちがその気ならこっちにも考えがあるわ!!」
マリーが怒って帰ろうとするとモニカが慌てて呼び止める。
モニカ「あ、あれは一体なんデスカ?」
モニカが指差す場所では空間に歪みが生じていた。
マリー「な、何よ・・・これ」
空間が割れ、闇の空間が姿を現す。
その闇から頭がヌッと出てきた。
モニカ「な、何か出てきまシタ!!も、も、モンスター!!」
マリー「あ、あ、あり得ないわ!!こ、こ、こんな非現実的なことが!!こ、こ、これはきっと空気の膨張による錯覚で!!」
現れたのは満面な笑みを浮かべたゼラだった。
マリー・モニカ「ぎゃぁぁぁぁぁ!!バケモノぉぉぉぉ!!」
ゼラ「いきなりオレをバケモノ呼びとはなかなか見どころがあるじゃないか」
マリー「だ、だ、誰よアンタ・・・」
ゼラ「お前みたいなヤツに教える気はない。弱者はその辺で腰を抜かして震えていればいい」
マリー「だ、誰が弱者よ!!」
ゼラ「それよりも、お喜びくださいアスラ様」
アスラ「なんだ?」
ゼラ「アスラ様が戻られる時がついに来たんですよ」
その時、特訓を受けるためにやって来た風谷たちが先程の会話が聞こえていたらしく慌てて割って入ってくる。
風谷「戻るだって!?」
森「一体どういうことや!?」
ゼラ「誰かと思えば、アスラ様に群がるゴミどもか。だがそれもこれまでだ。明日を最後にアスラ様は向こうの世界にお帰りになられるのだからな」
三崎「でも・・・もう元の世界には帰らないって言ったんじゃ・・・」
ゼラ「よく聞け!!明日の夕方6時・・・この愛媛は隕石の衝突により跡形もなく吹き飛ぶのだ!!」
マリー「はぁぁぁぁぁっ!?アンタ、何言ってんのよ!?そんなの有り得るわけ無いじゃない!!そんな隕石があるなら宇宙衛星ですでに確認されているわよ!!」
ゼラ「バカめ!!この隕石の落下は愛媛に住む人間どもを一掃するために神が用意したシナリオだ!!愛媛の人間どもを避難させないよう隕石が突然現れるようにしているのだ!!」
マリー「呆れたわ!!頭のネジが飛んでいるヤツがまだ他にもいるなんてね!!もういいわ!!こっちがおかしくなる!!帰るわよ!!」
マリーがモニカの手を引いて帰ろうとするがモニカはそれを拒絶した。
モニカ「マリー・・・私はこの人たちの話を聞きマス」
マリー「はぁ?アンタまでおかしくなっちゃったの?」
モニカ「イエス・・・こんなファンタスティックなことが続けばおかしくなって当然デス。でも私は決めまシタ。私はここでファンタスティックな野球技術を磨きたいデス」
マリー「アンタ・・・コイツの下で野球をやる気なの?コイツのは野球じゃなくて軍隊の訓練じゃない」
モニカ「でも私たちはその軍隊の訓練をしてる彼女たちに負け、アーロンさんも彼に負けまシタ。過程がどうであれこれが結果デス」
モニカはアスラの前に行き、頭を下げる。
モニカ「お願いデス!!私も訓練に加えてくださいデス!!ボス!!」
懇願するモニカの前にゼラが立ちはだかる。
ゼラ「貴様は何を言ってる?たった今、言ったはずだ。アスラ様は明日お帰りになるんだ!!」
アスラ「まぁ待て。配下になるのならそれは認めてやる。お前の実力はこの前の試合で見せてもらったからな。明日までという短い期間であるが最後の特訓に加えてやろう」
アスラの言葉に全員が異議を唱える。
風谷「ちょっと待てよ!!本当に元の世界に帰っちまうのかよ!!」
森「約束したやん!!ウチらを最強の野球選手にするって!!」
黒崎「帰るからには、ちゃんとした理由があるんでしょうね?」
アスラ「理由か・・・」
ゼラ「理由ならアスラ様の代わりにオレが言ってやる。そもそもなぜアスラ様がお前たちを最強の野球選手にするか知っているか?」
中山「それは・・・今治中央高校の野球部を優勝させるためにでしょ?」
ゼラ「そうだ。アスラ様は今治中央の理事長と契約したのだ」
風谷「だからそれが何だってんだよ!!」
ゼラ「理事長は配下ではない。アスラ様の性格上、隕石から自分の配下は守るだろうがそれ以外は絶対に助けたりはしない。たとえ配下の家族や大切な者であったとしてもな。そうですよね?」
アスラ「ああ」
ゼラ「間違いなく隕石が落ちれば理事長は死ぬ!!契約は無効となるのだ!!」
真野「それじゃあ、理事長に愛媛から離れるように言えばどうにかなるんじゃ」
アスラ「そこまでする義理はないし、したいとも思わん」
真野「そんな・・・」
ゼラ「これでわかったか。ともあれ貴様らはアスラ様によって守られる。光栄に思うがいい。その後の生活は知らんがな」
アスラ「明日は最後の特訓・・・いや遊びだな。ノックをしてやる。今度はちゃんとした利き腕でやるやつだ」
ゼラ「ちょっ!?アスラ様!!何をそんな悠長なことを!?」
アスラ「オレの提案に文句があるのか?」
ゼラ「い、いえ・・・」
アスラ「オレの遊びを邪魔することは、何であろうとも排除する」
ゼラ「し、失礼しました!!」
アスラ「そういうわけだ。これで邪魔の心配はない。今日の特訓はなしだ。明日に備えて身体を休めておけ」
愛比売寺へと戻ろうとするアスラ。
その身体を全員で掴む。
アスラ「一体何の真似だ?」
全員何も答えず、ただ黙ったままじっとアスラを見る。
アスラ「お前らの考えていることはわかっている。オレを止めたはいいものの、何を言えばわからないと言ったところだろう。だったらお前らのすることは一つだ。愛媛が吹き飛ぶまでにこの危機を脱却する方法を考え出せ」
その言葉に全員が顔をあげた。
アスラ「ただし理事長には何もするな。もし脱却することが出来ればオレはこの先どんなことが起ころうともお前らを最強の野球選手にすることを優先する」
ゼラ「なっ!?アスラ様一体何を!?」
アスラ「まぁ、コイツらには最強の野球選手にすると言ったのは確かだからな。それぐらいのチャンスは与えてやらねばなるまい」
ゼラ「で、ですが・・・」
アスラ「それによく考えてみろ。理事長に何もしないという条件を付けた中で、お前の言ったことが覆ることがあるか?」
ゼラ「そ、それは・・・」
アスラ「ほぼないと言っていいだろう」
ゼラ「ですが万が一のことだって・・・」
アスラ「自信が無いのか?」
ゼラ「い、いえ・・・」
アスラ「ならいいではないか。それでは明日を楽しみにしているぞ」
思わぬ課題を突き付けられて各々困惑し沈黙の時間が続いた。
そんな中、中山が口を開く。
中山「正直言って理屈なんてものはないし、ほとんど賭けなんだけど・・・突破の可能性はこれしかないかも」
風谷「な、なんなんだ?その方法って」
中山「たぶん、みんな物凄く痛い目に遭うと思う。いや・・・痛いなんてレベルじゃないかも・・・そしてこれを成立させるにはあなたが絶対に必要なの」
中山はマリーの方を見る。
マリー「はぁ?なんでアタシなのよ?」
中山は自分の考えた作戦は全員に話す。
その内容には全員が絶叫の声をあげた。
だがアスラの性格を利用したこの危険な作戦には納得する部分部分が多く賛同する者が増えていく。
そんな中、マリーだけは猛反対した。
マリー「絶対嫌よ!!だいたい隕石が来るかどうかもわかんないのにそんな危険な真似できるわけないじゃない!!下手すりゃ一生ものの傷を負いかねないじゃない!!」
中山「一生ものの傷で済めばいいじゃない。死ぬよりは100倍マシなはずよ」
マリー「アタシは嫌よ!!一生ものの傷を負ったまま生きるくらいなら死んだ方がマシよ!!」
マリーはそのまま1人で愛比売山を下りて行った。
風谷「どうする?アイツ帰っちまったぞ?」
中山「こうなったら仕方がないわ。私たちだけで頑張るしかない」
7人全員で手を合わせ、明日に向けて決意を露わにした。




