第58話 黒髪美少女 狂気の食事会
約束の日がついに来た。
山の所有権がかかるだけあって社長のジェイコブも同行していた。
集合場所の愛比売山の駐車場には住職がおり、アーロンたちを秘密の隠し通路へと案内する。
この隠し通路は、住職が愛比売寺へ車で行き来するための隠し通路であり木々の錯覚を利用して普段は見えにくくなっている。
住職の先導でアーロンたちも車で愛比売寺まで向かった。
ジェイコブ「本当に大丈夫なんですか?」
運転手を買って出たジェイコブにアーロンが話しかける。
アーロン「心配するな。それにしても社長のお前が運転手とは・・・お前は他人の運転を信用できんようだな」
ジェイコブ「ええ」
アーロンの顔は自信に満ちていた。
金が集まるはずがない。
たかが中学生の子供に何ができるのだと・・・
しかしその考えは間違いであったとすぐに痛感する。
愛比売寺に着くとそこには、多くの山積みになった札束が置かれていた。
アーロン「はぁっ!?」
驚きの声は一瞬だった。
だが表情には現れていた。
目は大きく見開き、口はリンゴが丸々2個は入るぐらいに大きく開かれている。
NOCの社員は札束よりもアーロンの顔に驚いていた。
そのアーロンの様子をあざ笑うかのようにアスラがアーロンの前まで来る。
アスラ「何を驚いている?金を集める方法は自分で言っていただろ?」
アスラの問いかけにアーロンは、固まったまま答えない。
見兼ねてマリーが尋ねた。
マリー「一体どんな手品を使ったのよ?本当に空から降って来たとは思えないけど・・・」
アスラ「なら教えてやる。コイツは『こんな山のために100億も出す善人がいるとでも』と言っていたな」
マリー「そうね。でもアンタはそんなの存在しないって言ってたじゃない」
アスラ「そうだ。だが『悪人』ならいる」
マリー「え?た、確かに言葉の裏返しで言えばそういうことになるけど・・・」
ジェイコブ「い、一体その悪人とは誰なんだね!?」
アスラ「そんなこと言う必要はないだろ。とにかくこれでオレが金に屈しないことは証明できたはずだ。わかったら固まっているヤツを連れてさっさと帰れ」
その時、アーロンが不意に肩を震わせる。
アーロン「ふ、ふふふふ。そんなことで勝ったとは思わないことだ。貴様らは近いうちに後悔することになる。この私に愛比売山を売らなかったことにな」
アーロンは、社員たちに目配せして札束が本物であるかどうか確認させる。
確認が済むと札束を一斉に車に積んでいった。
アーロン「金はもらっておく。今回はこれで手を引いてやろう」
アスラ「いいのか?オレの言ったことを忘れたわけではあるまい?お前の取るべき道は何もせずこのまま立ち去るか。オレの奴隷となるか。それ以外は死だ。今の行動は死の道を選択したことになるぞ?」
アーロン「ふんっ、バカバカしい」
アスラの言葉を一蹴して車に乗り込んだ。
その光景を住職はニヤニヤしながら見ていた。
アスラは住職に目配せをすると住職はゆっくりと頷き、スマホを取り出しどこかへ電話をかけ始めた。
住職「アスラくんの命令です。予定通りよろしくお願いします」
それだけ言って電話を切る。
それと同時にアスラは自身の2倍はあるだろう大きな袋を担ぎながら寺の本堂へと入っていく。
マリーとモニカの背筋が凍りつく。
大きな袋からは人間の髪の毛のようなものが出ていたからだ。
マリー「あ、アイツ・・・一体・・・何するつもりなのよ」
震える声でマリーが言うと住職はマリーの肩をポンッと叩く。
マリー「ひっ!?」
住職「袋の中身が見えてしまったようだね。だがこの後することは知らない方がいい。見てしまったら最後、キミたちはアスラくんに対して一生のトラウマを抱えることになるだろう」
今までにない住職の真面目な顔に2人も思わず息をのむ。
すでに袋の中身で、アスラに対して十分なイメージが出来ているのに見てしまうとそれ以上の衝撃を受けることになる。
子供心の興味本位など完全に消えた2人は住職の言われた通り大人しく家に戻ることにした。
一方、アーロンの方にも電話がかかってきた。
アーロン「一体誰だ?」
表示された名前にアーロンの顔は少し強張った。
アーロン「先生!!見つかったんですか!!」
鬼気迫った表情で電話に出るアーロンだったが会話が進むにつれて顔はどんどん青ざめていく。
ジェイコブ「あ、アーロンさん?」
アーロン「今すぐ愛比売寺に戻れ」
ジェイコブ「あ、あの・・・他の者には?」
アーロン「伝えなくていい。いいから進路を変えろ」
ジェイコブ「は、はぁ・・・」
愛比売寺に戻るとそこには住職が待っていた。
住職「お待ちしておりました。それでは電話の指示通り、お一人で本堂へお入りください」
アーロン「・・・わかった」
ジェイコブには車で待つように命じて、アーロンは本堂へと入っていく。
本堂にはろうそくが道を照らすように灯してあり、その先にアスラが立っていた。
その後ろには、40代の男性が全裸で貼り付けにされている。
アーロン「そ、そいつが・・・」
おぼつかない足取りで男性に近寄るアーロン。
その前にアスラが立ち塞がる。
アスラ「この世の中は金がすべて。お前はそう言っていたが今もそうか?」
アーロン「ぐっ」
アスラは、男性の身体をつつく。
アーロン「そ、その男に触るな!!早くソイツをこっちへ寄越せ!!時間がない!!」
??「焦る必要はありません。それは死後数週間たった死体ですが特殊な方法で死ぬ直前の状態で保存してあります」
真っ暗な闇からスッと姿を現したのは制服を着た黒髪の少女。
その少女がアーロンにペコリと頭を下げる。
??「突然会話に入ってすみません。私の名前は『美紅』と申します。今回、あなたの処分をお手伝いさせていただきます」
アーロン「しょ、処分だと!?」
アスラ「お前は死の道を選択したと言っただろ?まさか生きてここを出るつもりじゃないだろうな?」
アーロン「ま、待て!!話し合おうじゃないか!!私はキミと取引をしに来たんだ!!」
アスラ「さっきとは全然態度が違うな。それもそうか・・・オレにとってこの死体は何の値打ちもないがお前にとっては、いくらつぎ込んでも喉から手が出るほど欲しいものだろうからな。だが取引などする気はない」
アーロン「か、金ならいくらでも出す!!」
アスラ「金などいらん。あの大金を見ただろ?オレには金など必要ない」
アーロン「金はいくらあってもいいはずだ!!何が望みだ!!お前が望むものなら何でも叶えてやる!!」
アスラ「だったら絶望の表情で苦しんで死ぬ姿を見せてくれ。何をしようがお前の道はすでに決まっているんだからな」
そう言ってアスラは、死体の腹部に手を突っ込んだ。
アーロン「や、やめろぉぉぉ!!」
腹部から血が勢いよく吹き出し、引き抜いた内臓の一部をアーロンに見せる。
アスラ「お前の欲しいものはこれだったか?それとも別のやつだったか?まぁどちらでもいいか。さて出番だぞ」
美紅「はい」
アスラに軽く会釈すると男性の前に立つ。
そして裂けた腹部に顔を突っ込んだ。
アーロン「ひっ!?」
ぐちゃぐちゃと内臓を咀嚼する音が静かな本堂に響き渡る。
アーロンは懐に手を入れ、拳銃を美紅に向けた。
アーロン「ば、ば、バケモノめ!!それ以上、ソイツの身体に触るな!!次何かしたら撃つ!!ほ、ほ、本気だぞ!!」
美紅「やっぱりどんなに保存状態がよくてもやっぱり重要なものが欠けてますね。そう・・・悲鳴という大事なスパイスが」
顔を血で真っ赤にし、口の周りにベッタリと付いた肉片をペロリと舐めながらアーロンを見る美紅。
アーロン「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
アーロンは美紅の額に何発も銃弾を浴びせる。
だが銃弾はすべて弾かれ、美紅は何事も無かったように食事を続ける。
アーロン「な、なんなんだコイツは!?た、助けてくれぇぇぇぇ!!」
アーロンは走って本堂の扉を開けようとするが、扉は開かない。
どう見てもボロい扉のはずなのに開かない。
アーロン「な、なんで・・・なんで開かないんだ!!ジェイコブ!!助けてくれ!!こ、殺される!!」
アスラ「無駄だ。いくら助けを呼んでも誰も来ない。普段からここに人は来ないからな。登山客が来る奇跡が起きるかもしれんが、今日に限っては絶対に起こらない。なぜならお前が登山客を入れないよう入り口を封鎖してしまったんだからな」
アーロン「くそっ!!くそっ!!くそっ!!」
アスラ「素直に諦めて帰っていれば、あの臓器はお前の物になっていただろうな。お前に適合する臓器を持つのはアイツしかいない。この山では自殺者の臓器を提供してる。それで命を救われた強欲な金持ちが大勢いる。お前はそのチャンスを逃したんだ。自分で選んだ道を後悔しながら苦しんで死ぬがいい」
その言葉が合図だったかのように美紅がクルッとアーロンの方へ向き、一瞬で目の前に移動する。
アーロン「うわぁっ!?」
美紅「それではあなたの臓器・・・いただきます」
アーロン「や、やめ・・・」
美紅はアーロンの腹部に歯を突きたてる。
アーロン「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!あ・・・あ・・・あぁぁぁぁぁ!!」
アーロンがバタバタと暴れながら血まみれの手を美紅の頭めがけて何度も振り下ろす。
だが美紅の頭は鋼鉄のように固く、逆にアーロンの手が折れてしまった。
アーロン「う、うわぁぁぁぁ!!ゆ、指がぁぁぁぁ!!」
手は大きく腫れあがり、指はあらぬ方向へと向いている。
美紅はアーロンの手をマジマジと見る。
美紅「ずいぶんと腫れあがってしまいましたね。とても美味しそうです。やっぱり先にこちらの手から召し上がることにします」
美紅はアーロンの指をウィンナーを食べるようにパキッと噛み砕く。
アーロン「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
バリボリと骨を噛み砕きながら指を1本ずつ頬張る美紅。
美紅「やっぱりいいですよね。人間の悲鳴を聞きながら食べるのは・・・」
痛みに耐えながら反対の手で拳銃を握って何度も何度も美紅を殴るがまるで効果はない。
アーロンの折れた手を食べ終えると再び、腹部へと顔を突っ込む。
アーロン「や、やめろぉぉ!!離れろぉぉぉ!!うぎゃぁぁぁぁ!!」
髪の毛を思い切り引っ張って美紅を引き剝がそうとするが美紅はどんどんアーロンの腹部の奥まで頭を突っ込んでいく。
とうとうアーロンの手に力が入らなくなる。
同時にグシャと音を立てて、口にくわえた肝臓をアーロンに見せる。
美紅「見てください。これは、あなたにとっては病の元凶。不要物です。でも私にとっては最高のご馳走です」
彼女が初めて見せた満面な笑み。
こんなにもおぞましい美少女の笑みはないだろう。
そして目の前でその肝臓を歯で噛み砕いてゆっくりとその味を噛みしめる。
アーロンは目を見開き、口をパクパクさせていたが、なぜか意識だけはハッキリしていた。
早く意識を失って楽になりたいのにそうならない。
どう見ても即死のはずなのに今でも激痛が走る。
アーロン「あ・・・あぁ・・・あぁぁぁぁ」
アスラ「どうやら抵抗する力もなくなったようだな。それにしてもこんなものでオレたちを相手にしようとは甘く見られたものだ」
アスラはアーロンの手にしている拳銃を奪い、それを口に入れてバリバリ噛み砕いていく。
美紅「アスラさんは鉄分が多いものがお好きなのですか?」
アスラ「別に好きというわけではない。ただお前の食事の邪魔になりそうだから食ってやっただけだ。オレのことはいいから、黙ってソイツを食べろ」
美紅「わかりました。それでは今度はこちらの臓器を・・・」
アーロン「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アーロンの絶叫は愛比売山に響き渡った。
アーロンの処分を完了し本堂から出た美紅とアスラを出迎える住職。
住職「お、お疲れ様です」
住職は気分が悪そうに口を抑えて言った。
アスラは車で待機しているジェイコブのところへ向かう。
アスラ「お前の望み通り、最も苦しむ方法でヤツを始末してやったぞ」
ジェイコブ「そ、それはどうも・・・うっ!?」
ジェイコブも住職同様に気分が悪そうに口を抑える。
ジェイコブの視線の先にはアーロンの肉片を口いっぱいに付けた美紅が。
ジェイコブ「わ、私の想像以上のやり方のようですね。本当に恐ろしい方だ。やはりあなたを敵に回さず配下になって正解だった。これで私の長年の恨みも晴らせました」
アスラ「それよりわかっているだろうな?今後はこの山を狙う輩の処分は、お前がするんだぞ」
ジェイコブ「ええ、わかっています。NOCの名前を出せば世界のどんな大企業も撤退しますよ」
美紅「それでは、私はこれで。今日の食事会は楽しかったです。機会があればまた呼んで頂けると・・・」
アスラ「ああ。また招待してやる」
美紅はペコリと頭を下げて姿を消した。
その頃、家に戻ったマリーとモニカは本堂でアスラが何をしていたのか考えていた。
モニカ「あれはきっと黒魔術の儀式をしていたに違いありまセ~ン」
マリー「効果があるかは別としてそういう類のことをしていた可能性は高いわね。そんなんで人が死んだら苦労しないけど」
だがこの日の夜、ジェイコブからアーロンが行方不明になったことを聞かされ、マリーとモニカの背中には嫌な汗が流れた。




