第46話 まさかの展開
一条(翔)への戒めが終わった後、アスラは愛比売山に戻った。
すると登山の入り口に影梨の姿があった。
アスラ「こんなところでどうしたんだ?」
影梨「き、聞いてくれ!!オレはもう終わりだぁ!!」
影梨は、発狂気味になりながらアスラに泣きついて来た。
影梨「お、オレの家が火事になってしまったんだぁぁ!!しかも貯金通帳も燃えちゃって一文無しに・・・オレは一体どうやって生活していけばいいんだぁぁ!!」
アスラ「驚いたな、この間まで死のうとしていたヤツが今後の生活のことを考えているとは」
影梨「もうオレは死のうとは考えてないよ!!アンタたちに殺されると考えただけで夜も安心して眠れやしない!!」
アスラ「だがもう終わりなんだろ?どっちにしても、お前は死ぬしかないではないか」
影梨「だから何とかして欲しいんだよ!!お願いだ!!もう存在を認識して欲しいとか言わないから!!」
アスラ「そうは言われても誰もお前のことが見えていないのでは、どうすることもできんぞ?」
影梨「そこを何とか考えてくれないか!!お願いだ!!オレにはもうアンタたちしかいないんだよ!!」
その時、マミが上機嫌になりながらやって来た。
マミ「昨日真央ちゃんに会ったんだけど、今日が真央ちゃんのパパの処刑宣告の日なんだって」
アスラ「いよいよか」
マミ「うん。むやみに殺すことはできないけど、人助けのためなら迷いなくやれるから嬉しいよ」
影梨「キミ・・・将来死刑執行人か殺し屋になったら?」
マミ「ところでさっきから何を騒いでいたの?」
アスラ「コイツが急に死にたくないと言い出してな」
マミ「それはそれは」
影梨「常識外れのアイディアでもいいから頼む!!オレを救い出してくれ!!」
必死に頭を下げる影梨。
するとアスラはゆっくりと影梨のもとへ向かう。
アスラ「お前、住む場所と金を失ったと言っていたな」
影梨「ま、まぁ・・・」
アスラ「すべてが手に入るいい方法があるぞ」
影梨「ほ、本当に!?」
アスラ「ただし、夜まで家から一歩も出ることは許されない。それだけ約束できるなら、お前に素晴らしい家と仕事を与えてやる」
影梨「い、家の他に仕事まで!?」
アスラ「ああ」
影梨「それは素晴らしいよ!!それでオレは一体どんな仕事をすればいいの?」
アスラ「特に何もしなくていい。家で普通の生活をしていればいいんだ。後はお前のやり方次第だな」
影梨「それだけでいいの?」
アスラ「ああ」
アスラは影梨を新たな家へ案内した。
アスラ「まだお前の家ではないが、ここがお前の新しい家になる」
影梨「これってさぁ・・・家・・・なの?」
アスラ「大丈夫だ。少し改造してちゃんとした家にしてやる」
影梨「それならいいんだけど・・・」
その頃、アスラに殺されかけた一条(翔)は、今後のことについて話し合うため、矢野と結城を呼び出していた。
一条(翔)「今日、ボクは監督に殺されかけたよ。女子たちがチクったせいでね」
矢野「何だと!?あの女どもめ!!オレが二度とチクれねぇようにしてやる!!」
一条(翔)「辞めといた方がいい。そんなことしたら監督がお前を殺す。一瞬で愛比売山に移動したあの力を見ただろ?」
矢野「た、たしかに・・・あの監督はハッキリ言って異常だ。その上、考え方も自己中心なんてレベルじゃねぇ」
結城「監督には自制心というものが存在しないからな。怒らせたら何するか、わかったもんじゃない」
一条(翔)「そんな監督から彼女たちの特訓の妨げになるようなことをするなと言われた。たとえ偶然だとしてもね」
結城「それじゃあ、お前の計画通りにいかねぇじゃねぇか。本当は女子と男子を入れ替えて、『アイツ』を見返すチームを作ることが目的だったんだろ?」
一条(翔)「あの監督に睨まれた以上、目的の達成は限りなく不可能だね」
矢野「オレは女と一緒の野球チームなんて嫌だぜ。もしアイツと戦うことになったら絶対バカにされる」
一条(翔)「焦ることは無いよ。監督はああ言っていたけど、すぐに女子たちを見限ってくれるよ。監督は野球の・・・チームプレーというものをわかっていない。足引っ張りという存在がいかに不要かというのがわかる時が必ず来る」
そして放課後・・・
河川敷でアスラが来るのを待つ男女9人は互いに目こそ合わせるが一切喋らない気まずい雰囲気となっていた。
そんな中、最初に口を開いたのは一条(翔)だった。
一条(翔)「おかげさまで、ボクは今日監督に殺されるところだったよ」
その衝撃の告白に女子5人は全員驚いた。
一条(翔)「監督にはキミたちの特訓の妨げになるようなことは一切するなと言われた。だからボクたちは、キミたちには今後一切何もしない。だから安心して欲しい。これからは男子は男子。女子は女子で頑張ろう」
そう言って一条(翔)は含みある笑顔で離れて行った。
その笑顔に5人は違和感を覚えた。
だがこれ以上深く考えても仕方がないと思い、気にしないようにした。
こんなチームとして崩壊したままの状態がずっと続くのかと思われたが、それは以外な形で終わりを告げることとなる。
2日後・・・
アスラは影梨の様子を見に遊園地に来ていた。
影梨は『ゴーストハウス』というアトラクションに住むことになった。
今はまだ正式にオープンしておらず改装の途中であるが、ゴーストハウスからはスタッフたちの多くの悲鳴が飛び交っていた。
女「いやぁ!!て、テレビが・・・テレビが勝手に点いたわ!!」
男「ま、またかよ・・・やっぱりこれ、かなりヤバいんじゃないか?やっぱゴーストハウスなんて作らない方がよかったんじゃないか・・・」
女「きゃぁぁ!!こ、今度は電子レンジが勝手に!!」
男「勘弁してくれよ!!昨日は食器棚が勝手に動くし一体どうなってんだよ!!」
アスラ「アイツもこれでめでたく家を持てるわけだな。あの様子だとゴーストハウスとしてもうまく機能しそうだ」
アスラがゴーストハウスを眺めていると、一条(孝)が声をかけてきた。
一条(孝)「アスラくん、この前はどうも」
アスラ「ああ」
一条(孝)「アスラくんのおかげでこの『ゴーストハウス』の企画が社長に凄く気に入られましたよ」
アスラ「それは、よかったな」
一条(孝)「しかもそれだけじゃなくて今回のことが高く評価されて急遽千葉にある本社に異動することになったんですよ。もう感謝しかありません」
アスラ「それはいいが気は抜かないことだ。昇格するのは難しいが降格というのは簡単に起こるからな」
一条(孝)「はい、肝に銘じておきます。ところで、こう言ってはあれですけど、あのゴーストハウスって本当に大丈夫なんですか?」
アスラ「どういうことだ?」
一条(孝)「今も聞こえてるじゃないですか、スタッフたちの悲鳴。昨日もスタッフが言ってたんですよ。あそこはヤバい。誰かに見られてる気がするって。もしかして本物の幽霊を連れて来てるんじゃないですよね?」
アスラ「心配するな。あれは幽霊の類ではない。間違いなく生きた人間がやっていることだ」
一条(孝)「ということは、あれはただの仕掛けなんでしょうか?」
アスラ「そういうことだ。改装前から心霊の噂話でも作っておけば、開店したとき面白半分で入るやつらがそれなりに来るだろう」
一条(孝)「な、なるほど・・・それにしても凄い仕掛けですね。スタッフが動いた家具を調べても変わったところはないって言ってたのに」
アスラ「だがいずれあの仕掛けを見抜くヤツは現れるだろう。影梨もそれを望んでいるだろうしな」
一条(孝)「影梨?ひょっとしてその人があのゴーストハウスの家具を動かす仕組みを作った張本人なんですか?」
アスラ「そうだ。だが仕組みを知っていれば誰でもできるわけではない。影梨だからこそできるものなんだ。影梨以外では絶対にできん」
一条(孝)「ということは、あのゴーストハウスは世界に1つしかないアトラクションってことですか?」
アスラ「そういうことだ」
一条(孝)「なるほど・・・わかりました。全国各地に設置できないのは残念ですが、逆にそれを我が社の強みにしていきたいと思います。アスラくん、今回の件は本当にありがとうございました」
アスラ「ああ」
そう言って一条(孝)は去って行った。
そして放課後・・・
いつものように河川敷で選手が集まっている中、一条(翔)だけがなかなか来なかった。
集合時間から遅れること5分。
一条(翔)は、父親である一条(孝)とともにやって来た。
言うまでもなく一条(翔)の顔はかなり険しかった。
アスラ「ようやく来たか」
一条(孝)「遅れて申し訳ありません。翔のヤツが千葉に引っ越したくないと言いまして」
その言葉に全員が驚いた。
そんな中、アスラはそうかと素っ気なく答えるだけだった。
そのアスラの態度に一条(翔)が強く反応する。
一条(翔)「そうかって・・・それだけですか?ボクはもう2度とここに来ることは出来なくなるんですよ?それなのにそんな言葉で終わりなんですか!!」
アスラ「ああ」
一条(翔)「ボクには・・・最強の野球選手になって見返したいヤツがいます。それが出来るまでは、このチームを絶対に抜けるつもりはありません!!」
一条(孝)「お前もしつこいヤツだな。千葉に行ったらその子とも、もう会うことは無いだろ?だから諦めて千葉へ来るんだ」
一条(翔)「ボクは負けたまま逃げるような真似はしたくない!!それにボクは寮生活なんだから無理に父さんについて行く必要なんかないだろ!!」
一条(孝)「バカな事を言うんじゃない!!お前は千葉の有名私立に入るんだ!!今通ってるところなんか目じゃない!!ほら、さっさと帰って千葉へ行く準備をしなさい!!」
一条(翔)「嫌だ!!」
頑なに拒絶する一条(翔)に頭を悩ませる一条(孝)。
しかし女子5人は、一条(翔)が千葉に行くことになってホッとしていた。
アスラに脅迫された後は、一条(翔)を含めた男子の嫌みは無くなったものの、雰囲気や態度からはまだ自分たちを辞めさせようと企んでいるように思えてならないからだ。
その時、アスラは一条(翔)に近づいた。
5人は一条(翔)に引導を渡してくれと心から思った。
だが・・・
アスラ「お前の意思は、よくわかった。どちらにしてもお前には変わらず、オレの特訓を受けてもらうつもりだ」
一条(翔)「え?」
アスラ「何を驚いているんだ?お前はオレが一瞬で愛比売山に移動していることを知っているだろ?どんなに遠くへ行こうが関係ない」
一条(翔)「ほ、本当に・・・本当にこのチームを抜けなくていいんですか?てっきりボクは見捨てたられたとばかり」
アスラ「オレが見捨てる時は、ハッキリお前に言う」
一条(翔)「じゃ、じゃあ、ボクは千葉に行っても特訓を受けられるんですね?」
アスラ「当たり前だ。特訓の際にはオレが千葉まで行ってやる。だからお前は何も気にせず親父と一緒に千葉に行って来るんだ」
一条(翔)「あ、ありがとうございます!!オレ、絶対最強の野球選手を目指して頑張ります!!」
そう言って一条(翔)は、アスラに頭を下げた。
矢野と結城も一条(翔)に駆け寄り、喜びを分かち合った。
だが5人は一条(翔)には寄り添わず、複雑な表情を浮かべていた。
そして、一条(翔)が千葉に引っ越してから初めての特訓の日・・・
アスラは一条(翔)を迎えに行くため教室の前までやって来ていた。
一条(翔)「すみません、遅くなりました」
これから最強の野球選手になるために一層特訓に励もうと一条(翔)は意気込んでいた。
ところが・・・
アスラ「今日からお前はオレの配下から除名する。もう会うことはないだろう」
一条(翔)「え?」
思わず耳を疑う衝撃の一言に一条(翔)の思考は停止した。




