第42話 影梨の復讐
約束の10時・・・
マミは、アスラを無理やり連れて公園までやって来ていた。
アスラ「なぜオレまで?」
マミ「お兄ちゃん、どうせ午後まで暇でしょ?」
アスラ「ああ」
マミ「それにお兄ちゃんもいた方がアイディアに困らないしね」
アスラ「・・・・・・」
その時、影梨がやって来た。
影梨「今日は、よろしくお願いします」
マミ「は~い、よろしくね。じゃあ早速出かけよう。その前に時間短縮と目立つことを兼ねて」
そう言ってマミは影梨を担いだ。
驚きジタバタする影梨など気にせずマミは軽快な足取りで街へと走り出す。
だが街の人たちには影梨のことが見えておらず、誰もマミのことを見て振り返る者はいなかった。
そして着いた先は洋服店だった。
影梨「し、信じられないよ。一体その身体からどこにこんな力があるんだ・・・」
マミ「そんなことより早く店に入ろうよ。とにかくここで目立つ服に着替えてイメージチェンジをしなきゃね。今の着ているそんな地味な服じゃ話にならないよ」
そう言ってマミは服を選んでいく。
結局マミが選んだのは全身ピンク色の服だった。
影梨「お、オレ・・・こんなの着るの?」
マミ「目立つためには多少の犠牲はつきものでしょ?」
マミが会計を済ませている間、アスラはある親子ずっと見ていた。
子供はまだ幼稚園ぐらいの小さな男の子だったが、泣き喚いて母親を困らせていた。
男の子「嫌だぁ~、ヤバロボを買ってくれないと服は着な~い」
母親「そんなこと言ってないで早く着てちょうだい。帰ったらアンタの好きな物作ってあげるから」
男の子「そんな物いらない!!ヤバロボがいいの!!」
母親「そんな事言ってたら、天国にいるパパに怒られるわよ」
男の子「パパなんていないもん。ボクが呼んだって全然来てくれないじゃないか!!」
母親「それは・・・」
そのやり取りを見ていたアスラは、何かを思いついたようにニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
アスラ「おい」
影梨「な、なに?」
アスラ「お前を認識出来るヤツかどうか試すぞ」
影梨「は?」
アスラ「いいか、これからアイツを殴れ」
アスラが指を差したのは、なんと幼稚園児の男の子だ。
影梨「は、はぁぁぁっ!?あんな小さい子を殴れっていうの!?」
アスラ「ああ。どこを殴るのかは、お前に任せる。顔でもいいし、腹でもいい。好きなところを殴れ」
影梨「ちょっ、ちょっと待ってくれ!!気は確かなのか!!相手は子供なんだぞ!!」
アスラ「オレは住職から聞いたことがある。子供には未知のパワーを発揮しやすい不思議な何かが宿っているそうだ。つまりその力を上手く引き出せば、お前の存在を認識出来ることができるかもしれない」
影梨「し、しかし子供を殴るなんてオレには・・・」
アスラ「グズグズしている暇はないぞ。早くアイツを殴って来い」
影梨「なんでそんなに殴ることにこだわるんだ?別に話しかけるだけでいいじゃないか」
アスラ「潜在パワーを引き出すためには強いショックを与えるのが一番だ。アイツを覚醒させるには、痛みというやり方をとるのが一番手っ取り早い」
影梨「い、いや・・・だけど強いショックを与えるのに何も殴らなくても・・・」
アスラ「だったら他に何をしろというんだ?精神的なショック与えるには、期間やそれなりの準備が必要だ。だが肉体的ショックにおいてはそんなものは必要ない。お前は、アイツと自分。一体どっちを取るつもりなんだ?」
影梨「それは・・・」
影梨はかなり悩んだ。
このままアスラを信じて人道から外れた道を選んでよいのかどうか。
影梨は自分の人生を振り返る。
影梨は学生時代はイジメにあってばかりで、影が薄いことからクラスの全員に無視されたり、机やカバンを隠されたり自分だけ給食を配られなかったりとさんざんな学生生活を送っていた。
さらに卒業した後も影の薄さから就職活動が上手く行かず、家に引きこもる生活。
幸い、両親は引きこもる影梨を暖かい目で見てくれたが、その両親も死亡。
いずれ両親の貯金も底をつき、住む家もなくなる。
金を稼ぐにしても誰にも気づいてもらえない。
影梨にはもう後がなかった。
ただそれでも良心の呵責は残っており、決断を鈍らせる。
そんな時、影梨はある人物に釘付けになった。
影梨「か、彼女はたしか・・・」
影梨の視線の先は標的となっている子供の母親だった。
アスラ「なんだ?アイツを知っているのか?」
影梨「彼女は学生時代に同じクラスだった子だ。顔は少し変わっているように見えるが」
アスラ「そうか。ならば確認のためにこれを見てみろ」
アスラは彼女の財布を影梨に手渡す。
驚きながらも影梨は、財布の中を漁るとさらなる驚愕の事実が発覚した。
その事実がわかった瞬間、影梨の身体は怒りに震えた。
影梨「か、彼女は・・・オレのことをイジメていたグループのメンバーだったんだ。し、しかもその旦那もオレをイジメたヤツだ」
その言葉を聞いてアスラはニヤリと笑った。
アスラ「それはちょうどいいじゃないか。今こそ復讐する時だ」
しかし、影梨は首を横に振った。
影梨「でも・・・オレが復讐したいのは子供じゃない。彼女だ」
アスラ「親の罪は子供の罪だ。復讐は何も当の本人に危害を加えることだけが復讐じゃない。対象者を苦しめることこそが復讐なのだ」
影梨「それは・・・そうだけど」
アスラ「世の中は決して平等じゃない。お前をイジメてたヤツらが必ずしもその報いを受けるとは限らない。報いはお前自身で受けさせるんだ」
影梨「オレが・・・彼女に報いを・・・」
アスラ「さぁ、やれ。アイツの子供を思い切り殴るんだ」
影梨「よ、よ~し・・・やってやる」
影梨はそっと男の子の背後に近づいた。
男の子は影梨が後ろにいることにも気付かず、相変わらず母親を困らせている。
母親「パパは、ずっとあなたの傍にいるわ。今もあなたの傍でずっと笑顔であなたのことを見守っているわ」
男の子「そんなの嘘だ!!パパは、もう帰って来ないんだ!!」
影梨「(笑顔で見守るだと?ふざけるな。お前のパパこそがオレをイジメてたグループの主犯だったんだぞ!!ふふふ、恨むなら学生時代にオレをイジメた両親を恨むんだな!!)」
影梨は、バシンッと男の子の頭を思い切り叩いた。
男の子「い、痛ぁぁぁぁぁい!!痛いよぉぉぉぉ!!うわぁぁぁぁぁん!!」
男の子は大きな声で泣き始め、頭を抑えながら後ろを振り返った。
影梨も息をのみ男の子を見つめる。
しかし男の子は母親の方へ向き直り泣きながら母親に抱きついた。
男の子「ママ!!さっき、誰かがボクの頭を思い切り叩いたんだよ!!痛いよぉぉぉ!!」
母親は男の子の頭を優しくなでながら言った。
母親「パパなんていないなんて言うから、きっとパパが怒ったのよ」
男の子「うぅぅ・・・」
失敗に終わったとガックリ肩を落とし、影梨はアスラのもとへ戻って来た。
影梨「やっぱり・・・ダメだったよ」
するとアスラは、さらにとんでもないことを提案してくる。
アスラ「今度は頭を叩くんじゃなくて顔を殴れ」
影梨「はぁぁぁっ!?か、顔を殴れだって!?さすがにそこまでは出来ないよ!!」
アスラ「じゃあ、オレの後ろに立っていろ。今度はオレが殴ってやる。思わず加減を間違えて首が吹っ飛ぶかもしれんがな」
影梨「ちょ、ちょっと待て・・・本気か?」
アスラ「ああ。人間の母親にとって子供は宝物と言われているそうだからな。それをぶち壊してしまうのが一番の復讐かもしれん。お前の代わりにオレが復讐を果たしてやる。感謝しろ」
影梨「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
先程、自分を悠々と担ぎ上げたマミの怪力ぶりを見るにアスラもそれと同等かそれ以上。
しかも倫理観が完全にズレているだけに本当にやりかねない。
影梨はしぶしぶアスラの指示に従うことにした。
母親「いい?これからは、傍にいるパパを怒らせないようにちゃんとママの言うことを聞くのよ」
男の子「じゃあ服を着たらヤバロボ買ってくれるの?」
母親「今度ね」
男の子「嫌だぁ~、今欲しいの~」
母親「こらっ!!そんなこと言ってるとまたパパが怒るわよ!!」
男の子「だって欲しいんだもん!!」
ワガママを言いながら地面でバタバタする子供をジッと見下ろす影梨。
そしてそのすぐ近くには自分をイジメてきた母親の姿が。
さらにその旦那の姿も影梨の中で重なった。
影梨の中で復讐心が一気に芽生える。
影梨「(この子供は・・・アイツらの子なんだ・・・アイツらの)」
影梨は、子供に馬乗りになると今までの恨みとばかりに思い切り殴った。
すると男の子は泣くのを通り越してその場で動かなくなってしまった。
口からは、血が溢れ出て来た。
影梨は慌てて、その場から離れてアスラのところに戻った。
男の子の異常事態に母親が慌てて救急車を呼んで店内は騒然となった。
救急車で運ばれていく男の子を複雑な表情で影梨は見守った。
そんな影梨にアスラが言った。
アスラ「正直気を失うのは計算外だったが、お前は何も間違ったことはしていない。そもそもあの子供の両親がお前をイジメなければこんなことにはならなかったんだからな」
影梨「本当にそう思っているのか?」
アスラ「当たり前だ。正直、あの子供をその場で殺してやってもいいぐらいだとオレは思ったぞ。少なくともそれぐらいのダメージをお前は与えられてたはずだ」
影梨「それは・・・そうだけど」
アスラ「お前が望むなら今からオレがあの子供を殺してきてもいいぞ」
影梨「このオレにどうしてそこまで?」
マミ「お兄ちゃんは、ただ人殺しをする理由が欲しいだけなんだよ。そうでしょ?」
アスラ「その通りだ。だがお前がしたことは間違っていなかったと思うのはオレの本心だ」
影梨「そっか・・・」
マミ「それより、早くこれを着ようよ。あなたに視線を向ける人がいたら私とお兄ちゃんの2人で捕まえるからさ」
影梨「いや・・・キミたちにはオレのことが見えてるんだし、オレはそれで満足だよ」
アスラ「オレたちは人間じゃないから見えるのは当たり前だ。この先、生きていくつもりがあるなら人間に認識されるようしなければならんぞ」
影梨「わ、わかったよ」
影梨は全身ピンク色の服に着替え、街を歩いた。
だが街の人は影梨に見向きもしなかった。
その間、アスラは考えていた。
アスラ「(子供でダメなら次は大人ということになるが、平凡なヤツではダメだ。何か特殊なものを持っていそうなヤツを狙わないとな)」
アスラは、特殊なオーラを持っている人間を探し始めた。
街を歩き回って30分が経過したが一向に影梨を見てくれる人間はいない。
影梨にも諦めの表情が見えて来た。
その時、アスラの目にある人物が入った。




