第41話 影がない男
昼になり、2人で買った焼きそばを食べながら歩いていると中年男性がベンチで、ため息をついていた。
その中年男性を見てマミは思わず、指を差した。
アスラ「知ってるのか?」
マミ「あの人、真央ちゃんのパパだよ」
アスラ「本当か?」
マミ「あの顔といい、今にも自殺しそうな雰囲気といい、間違いないよ」
真央の父である一条孝は、ここの遊園地を設立した会社の事業部の部長を務めていた。
フリーパスも会社絡みで貰ったものだ。
しかしなぜ平日のフリーパスを娘の真央に渡したのかは謎である。
マミは、一条(孝)に話しかけた。
マミ「ため息なんて、ついてどうしたの?」
一条(孝)「えっと、キミは誰だったかな?」
マミ「あれ?この前私と真央ちゃんにここの遊園地のチケットくれたじゃない」
一条(孝)「そうか・・・そ、そうだったね。えっとキミは真央と同じクラスの・・・」
マミ「全然わかってないじゃない。真央ちゃんとはクラスどころか学校も違うよ。公園でたまたま知り合っただけだよ」
一条(孝)「そ、そうだったのか。それよりキミは、学校はどうしたんだね?」
マミ「今日は遊園地に行きたかったから学校は中止で~す」
一条(孝)「学校をサボるとは感心しないね。まぁその辺は親の判断に委ねるとして・・・ところで遊園地は楽しいかい?」
マミ「その遊園地の楽しさを今探してるところだよ」
一条(孝)「そ、そうか・・・じゃあ遊園地の楽しさが見つかるといいね」
マミ「うん」
この時一条(孝)は、マミに対してちょっと変わっている子だな程度にしか思わなかった。
マミ「それよりさっきも言ったけど、どうしてため息なんてついてたの?」
一条(孝)「社長に命じられた企画があまりにも無謀でね」
マミ「無謀?」
一条(孝)「近いうちにアメリカの大企業がこの地域に支店を構えるみたいなんだが、その事業の一環として、巨大なテーマパークが建設するらしいんだ」
マミ「(テーマパークってなんだろ?)」
一条(孝)「この遊園地の売り上げはウチの会社の収益源だから社長も必死だ。テーマパークに負けないアトラクションを開発するように私は命じられた。けれど、いいアイディアは全然出て来ない上に開発費の予算だって少ない。さらに社長は上手く行かなければ、事業部の部長である私に全責任を取らせると言ってるんだ」
マミ「全責任?」
その質問には一条(孝)は答えなかった。
だが表情は暗くなり、目に光も無くなった。
一条(孝)「まぁ、とにかく私の人生はもう崖っぷちに立たされているんだよ」
マミは何も言わず、黙ってジッと一条(孝)を見ていた。
すると一条(孝)は、突然薄気味悪い笑みを浮かべながらマミの方を見た。
一条(孝)「ははは、私はもうお終いだよ。高額で買った家のローンもかなり残ってるし、子供たちの養育費も・・・それに多額の借金だってある」
一条(孝)の目の焦点がだんだん合わなくなり、いきなり狂ったように喚き出す。
一条(孝)「こ、この企画が成功しなければ、きっと私は社長に・・・そして私の積み上げてきたものがすべて失われ、借金地獄になってしまうんだ。ひ、ひひひ・・・そ、そうなれば私はもう終わりだ!!私は社長にクビにされて・・・ふひっ、ふひひひひ、そうだ、クビだ。クビが飛ぶんだぁぁ!!あはははは!!」
この時マミは、クビが飛ぶというワードに目を輝かせていた。
マミ「首が飛ぶって、それって処刑宣告のことだよね!!」
どうやらマミの中の殺戮スイッチが入ってしまったようで半ば興奮気味で一条(孝)に尋ねた。
そんなマミに一条(孝)は、自分の首を切るジェスチャーでマミの質問に答えた。
一条(孝)「ふひひひ・・・そうだよ、処刑だよ!!私は社長にシュパッと処刑宣告を受けるんだよ!!あはははは!!」
マミ「そ、それってかなり痛いよね!!凄く興奮するよね!!」
一条(孝)「い、痛いなんてレベルじゃない!!そんな次元では済まされないぞ!!想像を絶する恐怖と苦しみがジワジワと私に襲い掛かってくるんだ!!」
マミ「うわぁぁぁっ!!それってすごくいいね!!何か私、誰でもいいから殺したくなって来たよ!!」
一条(孝)「こ、殺し・・・殺しか。あはっ、あははははは!!」
マミ「ねぇっ!!もし処刑宣告されちゃった時は、教えてよ!!私が殺してあげるからさ!!」
一条(孝)「!?」ビクッ
興奮しながら迫って来るマミの狂気じみた顔と邪悪なオーラを直感的に感じ取った一条(孝)は態度を一変させ、マジマジとマミの顔を見た。
一条(孝)「い、今・・・なんて言ったんだい?殺してあげるって聞こえたけど私の聞き間違いかな」
マミ「聞き間違いじゃないよ!!本当に殺してあげるよ!!こんなところで人を殺せる機会が転がり込んでくるなんて思わなかったよ!!」
一条(孝)「あ、あははは。お嬢ちゃんも冗談がきついね。殺すなんてそんな・・・ほ、本気なのかい?」
マミ「もちろんだよ!!今だってあなたの首をもぎたくてしょうがないもの!!」
マミの狂気に満ちた目に一条(孝)は圧倒される。
そして、マミは一条(孝)の顔を覗き込むようにグッと顔を近づける。
ロリ好きの人間には嬉しいシチュエーションだが、今の一条(孝)にそんな余裕はない。
あるのはマミへの恐怖感ただ一つである。
マミ「怖がらなくて大丈夫だよ!!痛みは一切感じない、一瞬で死ねる方法で殺してあげる!!」
今にも飛び掛かってきそうな勢いのマミに、一条(孝)は慌てて距離を取った。
一条(孝)「ちょ、ちょっと待ってくれないか・・・」
マミ「どうしたの?」
一条(孝)「わ、悪い冗談はこの辺にしてくれないかな。子供が殺すなんて言葉は使うものじゃないよ」
マミ「冗談じゃないよ?死の恐怖を感じる前にあなたを一瞬で殺すこと。それが真央ちゃんの友達として私が出来ることだよね」
一条(孝)「ひぃっ!?」
ニッコリと微笑みながら近づいてくるマミ。
一条(孝)は、後ずさりしながらマミとの距離をどんどん取って行く。
マミ「だから処刑宣告される日が来たら私に教えてよ。社長さんに首を飛ばされる前に私が殺してあげるからさ。こんな具合にね」
マミは一瞬で一条(孝)の背後に回り込んだ。
一条(孝)「う、うわぁぁぁぁっ!!」
人外の速度に一条(孝)は一目散に逃げて行った。
一方のマミは非常に晴れ晴れとした表情だった。
マミ「これで楽に死ねることができるわけだし、首を飛ばされることに怯える生活はしなくて済んだわけだ。私は友達としてとても良いことをした」
アスラ「話は済んだのか?」
マミ「うん」
アスラ「一体何の話をしていたんだ?」
マミ「真央ちゃんのパパ、社長さんの任務を遂行できないと首を飛ばされちゃうんだって」
アスラ「ほほう、任務失敗の罰として首をはねるとは。ここの世界の人間も捨てたものではないな」
マミ「その処刑に凄く怯えてたから、私が恐怖を感じないように一瞬で殺してあげることを約束してあげたんだ。これが友達として私が出来る最高の行為だよね?」
アスラ「ああ。素晴らしい思い付きだ。だが余計なことかもしれんが、殺すときは気を失わせてからやった方がいいぞ」
マミ「うん、わかってるよ」
2人はこの後、当初の目的でもあった遊園地のアトラクションを全て回るという目標を達成した。
そして遊園地の帰り道・・・
信号待ちをしていると1人の若い男が急に車道に飛び出した。
マミ「おっと・・・」
マミが咄嗟にその男の腕を掴んでどうにか事なきを得た。
アスラ「自殺したいなら愛比売山でやれ。久しぶりに苦しんで死ぬ人間の姿が見たくなったし、ちょうどいい。いい自殺場所を提供してやる」
男は何も言わずに驚いた表情でアスラとマミを見た。
マミ「どうしたの?」
男は恐る恐ると言った感じでアスラとマミに聞いた。
??「あ、アンタたちは、オレのことが見えるのか?」
男の言葉にアスラとマミは顔を見合わせる。
マミは興味本位で男の話を聞くため、公園のベンチまで連行した。
??「えっと・・・ここまで連れて来てオレをどうするつもりなんだ?」
マミ「ちょっと話を聞きたくてさ。ねぇ、見えるってどういうこと?」
??「実は、両親が死んだ1週間前からオレの姿は誰にも認識されなくなってしまったんだ」
マミ「へ?」
??「確かにオレは昔から影が薄いヤツだったさ。それでも声をかければ驚かれるが皆気付いてくれたんだ。だが今は誰もオレの存在に気付いてくれない。なぁ、教えてくれ。オレは生きているのか?それとも死んでるのか?」
懇願するように詰め寄る男を見てマミは考えた。
そして、マミは男に言った。
マミ「だったら、誰かあなたを認識できる人を探してみようよ」
??「え?」
アスラ「そんな回りくどいことをしないで愛比売山で自殺の協力をしてやった方が早いんじゃないのか?」
マミ「それは最終手段。とりあえず誰か探してみようよ。こういうのなんか面白そうじゃない?」
アスラ「お前も変わり者だな」
マミ「お兄ちゃんだって、こんな感じでたまに自殺しに来た人を助けてるでしょ?」
アスラ「それは気分が乗っている時であって、オレが助けるのは基本的に自分の配下だけだ」
マミ「それじゃあ、今日は気分が乗らないから明日、ここの公園に10時集合ね」
??「えっと・・・あ、ありがとうございます。オレの名前は影梨東明って言います。キミ達は?」
マミ「私は洩矢マミ。隣にいるのは、私のお兄ちゃんで洩矢アスラだよ」
これが透明人間?と化した男、影梨東明との出会いであった。




