第38話 人生は思わぬことの連続だ
ロマンは、話をする前に一つアスラに聞いた。
ロマン「ある人物とやらに私の本音を聞いているのなら、何も私の話を聞く必要なんて無いんじゃ・・・」
アスラ「必要かどうかはオレが決めることだ。余計な事は考えず、さっさと話せ」
ロマン「わ、分かりました。ですが私の本音を話したら、その時は私を開放してくれると約束してくれますか?」
アスラ「ああ。約束してやる」
その言葉に安心したロマンは、自分の心の奥に閉まっていた本音を話し始めた。
ロマン「私は・・・エカテリーナさんのことが好きでした。彼女は容姿端麗、スポーツ万能。男子の憧れの存在でした。私はそんな彼女に近づくために彼女のことを徹底的に調べ上げ、その努力の結果、友人というポジションを勝ち取りました。ですがそれも束の間、私の恋はあっさりと終焉を迎えることになります。彼女は代表の合宿で日本に行った時に黒崎という男と恋仲になってしまったんです」
クラーチ「アスラ様、恋仲ってなんですか?」
アスラ「知らん」
ロマン「・・・・・・」
アスラ「どうした?早く続けろ」
ロマン「そ、それで私は考えました。遠距離恋愛なんて長続きはしない。時間をかけてゆっくりと彼女との距離を縮めれば勝機はあると。だがそんな私の淡い期待は見事に粉砕しました。ある時、告白に絶好の雰囲気だと感じた私は、思い切って彼女に告白しました。ですが彼女から返って来た言葉はあまりにも惨いものでした」
その時、ロマンの手は怒りに震えていた。
ロマン「彼女は私に『あなたは友達としては良いけど、恋人としては無理。何となく無理なの。この気持ちは多分、永久に変わることはないと思うわ』と言いました」
身体から溢れ出る怒りと憎悪のマイナスオーラを見た、アスラとクラーチは互いに顔を見合わせて首をかしげた。
ロマン「私の努力も知らないで、理由が何となくだとっ!!ふざけたことを言うんじゃないっ!!私はこの時決意したっ!!私を振るとどういうことになるか絶対後悔させてやるとっ!!そのために私は表面上、友人としての関係を保ちながら彼女の秘密を握るために徹底的に付け回したっ!!そして彼女からあの話が舞い込んできたんだっ!!」
自分の気持ちを一気に吐き出したロマンは再び冷静な表情に戻る。
ロマン「あの女はバカですよ。私がずっと恨んでいることも知らずに友人だと思っていたんですから。ああいうバカなところが思わぬところで足元をすくわれる要因なんですよ」
アスラ「お前の言う通りだ。たとえどんなに親しい間柄でも常に警戒しておかなければならない。それが出来ないならどんな裏切りでも平気でいられる精神力を持つことだ」
ロマン「この世は思わぬことの連続なんですよっ!!警戒心を怠った人間はゴミなんですよっ!!クズなんですよっ!!生きる価値もないんですよっ!!あの女は典型的なクズな女ですっ!!それにあの娘もっ!!だからあのクズ女もバカ娘も生きる価値なんてないんですよっ!!今頃2人は仲良くあの山で死んでますよっ!!あはっ、あはははは・・・」
その瞬間、ロマンの首がグルングルンと高速回転し、その首がアスラの足元に転がった。
アスラは思わずクラーチを見た。
アスラ「・・・どうして殺したんだ?」
クラーチ「だってアイツも言ってたじゃないですか。この世は思わぬことの連続だって。それに警戒心を怠るヤツは生きる価値が無いって。さっきのアイツは命が助かると思って警戒心の欠片もありませんでした。これは生きる価値がないってことですよね?それに約束を破られるのだって思わぬことの1つに含まれるんじゃないんですか?」
アスラ「・・・そう・・・かもな」
クラーチ「ところで、コイツの死体はどうします?」
アスラ「生物兵器の餌にしておけ」
クラーチ「分かりました。さ~てと、これで5人殺しちゃったし死体を向こうの世界に持っていかなきゃいけないし、私はこれで帰りますね」
アスラ「ああ」
クラーチ「それじゃ、マミ様をよろしくお願いします」
そう言ってクラーチは消えて行った。
アスラ「さて、最後に約束を果たしに行かなければな」
その頃、病室では黒崎のもとにコーチのミハイロフが来ていた。
ミハイロフ「行方不明って聞いた時は驚いたよ。お母さんには病室に戻っているって連絡しておいたからもうすぐ来ると思うよ」
黒崎「すいません、コーチ」
ミハイロフ「それにしてもオレは、キミの専属コーチ・・・いやスポーツトレーナーとして失格だ。選手の身体の異変にいち早く気付いてあげなければならなかったのに・・・」
黒崎「もういいんですよ。私も身体が痛いっていうことをちゃんと言えば良かったんです」
ミハイロフ「本当にすまない・・・」
黒崎「そ、それより母さんから聞いたんですけど、コーチは母さんと同じ学校だったんですよね?」
ミハイロフ「それどころか同じ学年だったよ。キミのお母さんの学生時代の頃は、男子生徒の憧れの的だったからな」
黒崎「コーチだってかなりモテてたって聞きましたよ?」
ミハイロフ「ははは、オレなんてキミのお母さんに比べたら大したことないさ」
そんな和やかな雰囲気のところに突然アスラがドアを破壊して入って来た。
ミハイロフ「き、キミは確か・・・」
黒崎「ちょっ、ちょっと何でドアを壊したのよっ!!まさかドアの開け方が分からないなんて言うんじゃないでしょうねっ!!」
アスラ「ドアの開け方くらい分かる。ちゃんとドアを押して開けた。このドアが脆過ぎただけだ」
黒崎「そのドアは引き戸よっ!!押して開けるドアじゃないわっ!!」
アスラ「ほう、ドアにも色々な物があるんだな」
メチャクチャな登場に黒崎とミハイロフは大混乱。
幸いなのはここが個室だったこととドアの破壊音がそこまで大きく無かったことだ。
ミハイロフ「ところでキミは一体何をしに来たんだ?失礼だが、オレの知る限りキミがお見舞いに来るような子には見えんのだが」
アスラ「お見舞いというのが何だか分からんが、オレはお前に用があって来たんだ」
ミハイロフ「オレに?」
アスラ「そうだ。黒崎はさっき、オレの配下になった」
ミハイロフ「は?」
アスラ「オレの配下になった以上、特訓の妨げになるヤツは廃除しなければならない」
ミハイロフ「特訓の妨げになるヤツって・・・オレのことを言ってるのか?」
アスラ「そうだ」
黒崎「ちょっと待ってよ。廃除なんてそんな・・・コーチは何も悪くないわ」
するとアスラはボイスレコーダーを黒崎に投げた。
黒崎「こ、これは何なの?」
アスラ「それを流せばすべて分かる。オレは使い方が分からんのでな」
黒崎は、ボイスレコーダーのスイッチを入れた。
そこにはミハイロフの声が録音されていた。
ミハイロフ「ふふふ、もう少しでエカテリーナはオレの物になるな。だがロマンのヤツはエカテリーナを消したがってるから、アイツもマリアと同様に始末する必要があるな。これでロマン、イリーナの2人が消えれば、邪魔者は全員いなくなる。すべて、オレの計画通りだ。あはははは」
これには黒崎もコーチのミハイロフを軽蔑した目で見た。
黒崎「し、信じられない・・・コーチッ!!どういうことですかこれはっ!!」
ミハイロフ「こ、これは合成の録音テープだ。オレの声じゃない」
アスラ「声以外にもあるぞ。これだ」
アスラは、カバンからパソコンとブルーレイディスクを取り出した。
アスラ「これも使い方が分からんから、お前がなんとかしろ」
黒崎「さっきのボイスレコーダーといい、どうやってそんなもの用意したのよ」
アスラ「これはある人物から貰った物だ」
ブルーレイディスクを入れると、そこにはミハイロフが自殺されたと思われたマリアを殺す瞬間が鮮明に映っていた。
黒崎が驚いた表情でその映像を見ていると、病室のドアが勢いよく開けられた。
黒崎(母)「ミハイロフ・・・あなたがマリアを殺したの?自殺じゃなかったの?」
ミハイロフ「こ、これも合成に決まってる。だ、だってマリアが死んだのは夜の11時頃だったはずだ。こんなにオレやマリアが鮮明に映るはずがないじゃないか」
この時、黒崎(母)は目を見開いてミハイロフに詰め寄った。
黒崎(母)「なんであなたがマリアの死んだ時間が分かるのよっ!!」
ミハイロフ「そ、それは・・・ろ、ロマンのヤツがマリアの自殺の真相を暴くとか言って警察の極秘資料を盗んでそれで知ったんだ」
黒崎(母)「どちらにしても、この映像をすぐにロシア警察に提出するわ。これが作られたものでないと証明されれば、あなたは終わりよ」
ミハイロフ「くっ!!」
黒崎(母)「どうするの?まだ言い訳をするつもり?」
ミハイロフ「・・・・・・」
ミハイロフは、観念したようにふぅ~とため息をついた。
ミハイロフ「まったくロマンのヤツ・・・盗聴だけならまだしも盗撮までしてやがったのか。こんなことならアイツはもっと早く殺しておくべきだったな」
先程までの善意に満ちた優しいコーチの姿はどこにもなく、目の前にいるのは悪意に満ちた凶悪犯の姿だ。
黒崎(母)「な、なんでマリアを殺したのよ。あなたの幼馴染だったじゃない」
ミハイロフ「あのバカ女、エカテリーナが活躍して自分の居場所が無くなった途端今までのことをすべて暴露すると言いやがったんだ」
黒崎(母)「ちょっと待って。言っている意味がよく分からないわ」
ミハイロフ「マリアは精神的に弱いヤツでな。国の代表という重圧に耐えられなかったんだ。だがそのくせプライドが高い。重圧に耐えられなくて出られないなんてことは死んでも言いたくなかったんだ。だからオレのアイディアでケガをして出られなくなったってことにすることにしたんだ」
黒崎(母)「そ、それじゃあケガをしたっていうのは・・・」
ミハイロフ「もちろん嘘に決まってる。ロマンと組んで一芝居打ったってわけだ」
黒崎(母)「そ、そんな・・・」
ミハイロフ「だが仮にお前が自分からマリアをケガさせるように言って来なくても犯人はお前にする予定だった。なにせマリアは、お前の才能にずっと嫉妬してたからな」
黒崎(母)「そうとも知らないで私はずっとマリアのケガのことで思い悩んでいたっていうの・・・」
黒崎「でも分からないわ。どうしてコーチはマリアさんを殺さないといけなくなったの?」
ミハイロフ「マリアがすべて暴露すれば、ケガをさせた罪悪感で悩んでいるエカテリーナを支えて距離を一気に縮めるというオレの計画がすべて台無しになるじゃねぇか」
黒崎「そ、そんな理由で・・・」
ミハイロフ「だが実際に支えになったのはオレじゃなくて日本にいた黒崎って男だったけどな。だがオレはエカテリーナを諦めることが出来ず、機会をずっと伺っていた。そして黒崎が行方不明になりイリーナが生まれた時、あることを思いついたんだ」
ミハイロフはニヤリと残虐な笑みを黒崎に向けた。




