第30話 黒崎イリーナ対策
体育館を出た直後、アスラは猛抗議にあった。
森「いくらなんでも2日後なんて期間が短すぎるやろっ!!」
風谷「アタシたち、バレーボールなんてほとんどやったことないんだぞっ!!」
中山「あの子のスパイク見たでしょっ!!あんなの拾えっこないよっ!!」
真野「今からでも考え直すべきですよっ!!」
アスラ「くだらないを心配するな、そもそも今回はオレもいる。アイツらが勝てる可能性はゼロだ」
森「・・・そ、それはそうかもしれへんけど」
真野「けど人外の技とか使ったりしたら大騒ぎになりますよ?」
アスラ「そんな技など使わん」
三崎「じゃあ、二度とバレーボールバレーボールが出来なくなるって一体どうやってやるつもりなの?」
アスラ「お前らは余計なことは考えなくていい。お前たちは自分のことだけを考えてればいいんだ」
森「そうは言うても、あんなバケモノスパイクをどうやって防げばええんや?」
アスラ「そんなもの、お前らの反射神経と身体能力を持ってすれば2日間もあれば十分だ」
結局アスラの勝負に巻き込まれる形となってしまった5人だが、黒崎には絶対に負けたくないという思いが強くやる気は十分だった。
風谷「まぁ・・・こんなことになっちゃったけど、アイツには一泡吹かせたいと思ってたし、アスラ兄ちゃんの保証付きならやってみるか」
森「せやな、ついでに女子野球をバカにした借りも返したる」
真野「打倒黒崎イリーナですね」
5人が常盤ジュニアとの試合に向けて意気込んでいたその時、カメラを首にぶら下げた外国人男性が拍手をしながら声をかけてきた。
??「素晴らしい団結力ですね。無名の素人集団が日本注目の黒崎イリーナを相手に猛特訓を開始。これは良い記事が書けそうです」
アスラ「お前は誰だ?」
??「おっと、これは失礼しました。私はこういう者です」
男が差し出した名刺にはロマン・グランキンという名前が記されており、新聞記者だった。
ロマン「私はこう見えてもイリーナちゃんの母親であるエカテリーナさんが現役の頃から取材していましてね。もしあの親子のことが知りたくなったら、いつでも連絡してください」
そう言い残して、ロマンは今治体育館へと入って行った。
風谷「何か嫌な感じがするオッサンだな」
森「せやな」
アスラ「お前ら、愛比売山に戻るぞ」
アスラは貰った名刺をポケットに閉まった。
ロマン「エカテリーナさん、聞きましたよ?明後日の試合」
黒崎(母)「また来たの?別に明後日は大した試合じゃないし取材しても意味がないと思うけど?」
ロマン「まぁそう言わないでくださいよ。スクープは思わぬところから舞い込んできますからね。ひょっとしたら明後日の試合は凄い試合になるかもしれませんよ?」
黒崎(母)「バカ言わないでちょうだい。相手は素人の集団よ?イリーナ以外は控えの選手で臨むつもりだし、凄い試合になるとはとても思えないわ」
ロマン「勝負は蓋を開けてみないことには分かりませんからね。まぁいずれにしても明後日は必ず取材に来ますよ。イリーナちゃんのことはどんな些細な事でも見逃しませんよ。もしかしたら、あなたのように・・・」
その時、黒崎(母)の目の色が変わり、ロマンを睨みつける。
黒崎(母)「その話はしない約束でしょ」
ロマン「これは失礼。心配しなくても大丈夫ですよ。あなたが私との契約を結んでいる限りはね」
嫌な笑みを浮かべながらロマンは体育館を去って行った。
そして・・・
中山「高さはこのぐらい?」
アスラ「ああ」
風谷「ちゃんと水平になってるか?」
アスラ「風谷はもう少し上だ」
風谷「了解」
アスラたちは愛比売山でバレーボールの特訓を行うことに。
そしてバレーのネットを再現するために木の間に縄を結んでいた。
森「ここで一体何の特訓をするんや?」
アスラ「これからオレは縄の上の位置からボールを投げる。お前らはそれをひたすら受けるんだ。さっそく、1人ずつ並べ」
森「よろしく頼んます」
森はレシーブの態勢になり、アスラの投げたボールに備えた。
アスラが投げたボールは森の想像以上に速く、ギューンという音を鳴らしながら顔面スレスレを横切った。
冷や汗を流しながら森は横目でボールを通過した方向を見た。
アスラ「どうした?なぜ何も反応しない?」
アスラの一言で森の中で何かのスイッチが入った。
森「今のはあかんやろっ!!あんなん小学生が反応できる速さやないでっ!!」
アスラ「お前は野球の試合でも同じことを言うつもりか?」
森「は?」
アスラ「小学生が打てないような速度のボールを投げる投手と遭遇した時も同じことを言うのかと聞いてるんだ」
森「な、何でそんな話になるんや。ウチはバレーボールでの話をしてるんやで」
アスラ「バレーボールだろうと野球だろうとそんなものは関係ない」
森「え?」
アスラ「これはアイツの対策の特訓でもあるが野球の特訓にも繋がる。この特訓の目的は反射神経を鍛えることだ。だから実際にオレが投げる球がアイツの攻撃より速かったとしてもまったく問題はない。それにその方がかえって、アイツのボールを受けた時に遅く感じることにもなる」
森「まぁ、そう言われたらそうかもしれへんけど・・・」
アスラ「ではもう一度始めるぞ・・・と言いたいところだが、考えてみれば1人ずつ順番に相手をする必要などないな。お前ら横1列に並べ」
アスラは5人を並ばせた後、自身の体を5つに分裂させた。
アスラ「これで一気に出来るな。さて始めるか」
対黒崎用のスパイクマシーンと化したアスラの猛特訓は、その後2時間も続いた。
最初はボールの速さに圧倒されて反応することさえ出来なかったが、特訓を終えた頃には徐々にボールに喰らいつくまでになっていた。
だがボールに手を当てることが精一杯で実際にきちんとレシーブ出来た回数は数えるほどだった。
三崎「何とか速さに慣れて来たけど手がものすごく痛い・・・」
真野「同感です」
風谷「こんなこと続けたら、試合前に身体が壊れちまうよ」
森「ホンマやで。けどこんなレシーブじゃ、話にならへん」
中山「でも、もう暗くてボールが見えないから練習の仕様がないよ」
風谷「そうだよな。じゃあ今日はこれで解散ってことか」
森「せやな」
5人は腰を上げて帰る準備を始める。
アスラ「どこに行くんだ?特訓はまだ終わってないぞ」
アスラの呼び止めに全員で首をかしげた。
森「どこって今日はもう帰るしかないやろ」
風谷「外は真っ暗だしな」
中山「まさか今から山登りの特訓を始めるとか言わないよね?」
アスラ「山登りの特訓はしない。続きは別の場所でやるんだ」
全員「別の場所?」
アスラたちは特訓のため場所を移した。
向かった先は今治中央小学校だった。
森「ここってウチらの学校やん」
風谷「ここで続きをやるのか?」
アスラ「そうだ」
アスラは玄関へ向かうと学校の中から誰かがこちらへ向かってくる。
その人物に3人は思わず声を上げた。
風谷・森・中山「ふ、藤田先生っ!!」
藤田「話はアスラくんから聞かせてもらった。夜間の間だけだが、ここの学校の体育館の使用許可はオレが出しておいたぞ」
玄関のカギを開けて体育館へと案内する藤田。
体育館へ着くと藤田は5人にバレーボール用のサポーターを渡した。
サポーターを身に着けると5人は体育館の中央に集まった。
アスラ「ここでは攻撃の特訓を行う。オレは明後日の試合、攻撃は一切しないつもりだ」
風谷「はぁっ!?」
森「な、なんで攻撃しないんやっ!!ウチらだけであのバケモノのブロックをかいくぐるのは無理やでっ!!」
アスラ「そんなことはない。アイツを避けながら攻撃をすることは可能だ。ただし、それが出来るのは三崎と真野の2人だけだ。だから試合も三崎と真野を中心で攻める」
三崎「なんで私たちだけなの?」
アスラ「お前らは身体の柔軟性と視野の広さが高いからだ」
三崎「柔軟性と視野の広さ?」
アスラ「これは言葉で説明するより実際にやってみた方が早いな。これから攻撃の特訓を行う」
スパイクの特訓内容は至って単純。
試合のように3段攻撃の要領でスパイクを打つというやり方を永遠に繰り返すものだ。
相手は6人に分裂したアスラだ。
アスラ「それじゃ、始めるぞ」
アスラの号令と共に特訓が始まる。
スパイクを打つのは三崎だ。
真野がトスしたボールを三崎が思い切り打つ。
だが2枚のブロックで来たアスラたちの身体が三崎の視界を完全に潰していた。
普通はブロックする際にネットから出るのは手から腕までだが、アスラのジャンプ力が強すぎてしまい身体まで飛び出してしまっていた。
三崎「(これじゃどこも打てない。だったら・・・)」
三崎は柔軟性のある身体と視野の広さを生かしてギリギリのタイミングで打つコースを変えて、ガラ空きのコースに打とうとするもアスラの身体に阻まれ、三崎はその場にヘタレ込んだ。
アスラ「どうだ?オレの言ってることが分かったか?」
三崎「うん・・・相手のブロックを避けながら瞬時に打つコースを変えるには、かなり身体に無理な体勢になって打たないとダメ」
風谷「なるほど、これじゃあ身体の硬いアタシたちがやるのは不可能だな」
真野「それにしても、さっきのあのブロックは高すぎませんでしたか?」
アスラ「そうだな。徐々に調整していく」
森「ホンマに頼むで」
アスラ「それから、この特訓にも野球に応用できる」
三崎「野球に?」
アスラ「相手の守備隊形を見ながら瞬時に打つ場所を決める時だ」
風谷「要するにバントの構えから打つ時ってわけか。ファーストやサードの守備位置にいるヤツらは打球を素早く処理しようと凄い勢いで突っ込んでくるからな」
中山「ところで身体の柔軟性がない私たちは2人のサポートに徹した方がいいの?」
アスラ「一応お前らも新体操で柔軟性を鍛えていることもあるし、無理しない程度にはやってもらう。たとえ本格的に出来なくても意識するだけでかなり違ってくるはずだ。それに視野の広さは確実に鍛えられる。ただ試合の時は、何も考えず思い切り打て。仮にアイツに防がれたとしてもオレが拾う」
風谷・森・中山「分かった」
アスラ「じゃあ続けるぞ」
結局このスパイクの特訓は3時間に渡って続けられた。
だがこの日で相手のブロックを避けながらスパイクを決められたのは1500本中、三崎と真野の2人合わせてたったの45本のみ。
確率で言えば、たったの3パーセントだ。
試合まであと1日、かなり不安となる内容であった。




