第28話 天才バレーボール少女黒崎イリーナ
【愛比売山】
今日もいつものように2組に分かれて山登りの特訓に勤しむ5人。
しかし、今日は思わぬ大雨に出くわしてしまった。
慌てて木の下に隠れて雨が止むのを待つが、一向にその気配はない。
はぁ~とため息をついているとアスラがやって来た。
アスラ「そんなところで何をしてるんだ?」
森「見てわからへん?雨宿りしてるんや。こんな大雨の中、歩いたら危ないで」
アスラ「まぁ、どこで休もうがお前たちの勝手だが、雨が降ったからといって山頂までの距離を短くするようなことはしないぞ」
風谷「そんなことくらいは分かってるよ」
中山「それよりも成美たちの方は大丈夫かな?」
アスラ「それなら心配ない。今頃、分裂したオレが向かっているところだからな」
風谷・森・中山「ぶ、分裂・・・」
アスラ「言っておくが分裂すればするほど力は半減される。だから向こうの世界では絶対に使ったりはしない」
風谷・森・中山「ふ~ん・・・」
正直そんなことより、このまま雨が止まなかった時はどう寝ればよいか3人は考えていた。
その時、アスラが意外な提案をしてきた。
アスラ「あと少しで日が暮れるが、この雨の中では寝ることもできまい。だから今日はオレの住処で寝泊まりしてもらう」
風谷・森・中山「本当に!?」
アスラ「ああ」
3人はアスラの住処ということで大きな期待はしていなかったが、必要最低限の設備は揃っているだろうと思っていた。
しかし、いざ着いてみるとその期待は見事に打ち砕かれた。
風谷・森・中山「な、何これ・・・」
3人の目の前には大きな廃寺があった。
廃病院や廃ホテルといった心霊スポットの定番の地よりも何か出そうな雰囲気を漂わせるこの寺は『愛比売寺』といい、オカルトマニアの間では有名な寺である。
3人は、唖然としてその愛比売寺を眺めていた。
途中で合流した三崎たちも廃寺を見て同様の反応を見せる。
アスラ「どうした?入らないのか?」
5人とも一斉に首を横に振った。
真野「こ、こんな心霊スポットで寝泊まりするなんて絶対嫌ですよ!!」
アスラ「今さら何を言ってるんだ?そもそもこの山が心霊スポットだろ」
風谷「そりゃそうだけど・・・何か本当に出てきそうな雰囲気だからさ」
アスラ「まぁ嫌なら別にそれでもいい。野宿を選ぶのも、お前らの自由だ」
5人は相談した結果、仕方なく愛比売寺に泊まることに決めた。
アスラ「今日はここで寝てもらう」
アスラは寺の本堂に5人を案内した。
本堂には大きな仏像が置いてあったが酷く薄汚れており、懐中電灯を照らしてみるとどこか恨めしそうな表情を浮かべている。
さらにその仏像の両サイドにはなぜか等身大の日本人形が置いてあった。
その日本人形の顔は髪が伸びていて表情は分からないが、それが逆に不気味な雰囲気を漂わせている。
森「ほ、ホンマにこんなとこで寝泊まりするんか・・・」
風谷「べ、別の場所は無いのかよ」
アスラ「無いことは無いが、ここが一番安全な場所だと思うぞ」
中山「ど、どうしてここが1番安全なの?」
アスラ「これまで興味本位でやって来たヤツらがいたが、ここで叫んで逃げ出したヤツは1人もいない」
森「な、何か理由としてはちょっと頼りない気もするけど、そう言われたらここしかあらへんな」
5人とも恐る恐るその場で腰を下ろすと扉がギィッと音を立てて開かれる。
??「ここは神聖な本堂。安心して泊まっていきなさい」
真っ暗でよく見えない本堂を雷の光が一瞬照らす。
そこに住職の姿が見えた。
全員「きゃぁぁぁぁぁ!!」
全員が一斉にリュックの中にある物をひたすら投げる。
住職「い、痛い!!や、辞めなさい!!」
住職が部屋の隅にある蠟燭に火をつけて本堂の中を明るくする。
本堂の中が多少明るくなったことで5人も少しだけ落ち着きを取り戻した。
そして全員でその住職をマジマジと見た。
風谷「ゆ、幽霊じゃないよな」
真野「足はちゃんとあるみたいですよ」
住職「やれやれ、人に物を投げたかと思いきや今度は幽霊扱いですかな」
アスラ「帰るのが遅かったようだが、またあの『異世界人』が来てたのか?」
住職「ええ。またここの山を渡せと・・・今度は弁護士を連れて来て大変でしたよ」
アスラ「そうか」
中山「異世界人って?」
住職「最近、アメリカの企業がこの山に研究施設を建てたいということで、この山を渡すように私に交渉して来てるんだよ」
アスラ「この山は、この先も特訓の地として使う。絶対に手放すわけにはいかん。万が一の場合は、このオレがソイツらを黙らせてやる」
住職「その心配はいりませんよ。何があろうとこの山は絶対に手放したりしません。今の私があるのもアスラくんのおかげですから」
アスラとの会話を終えると住職は5人を見た。
住職「しかし、アスラくんが野球の指導をしていると聞いてましたが、まさかこんなに可愛い子たちが受けているとはね」
アスラ「まだ指導というものはしていない。ただ山登りを命じているだけなんだからな」
住職「なるほど・・・それにしても人数はこれだけですかな?」
アスラ「今のところな。人数集めはコイツらに任せてある」
住職「でしたら私から1人推薦したい子がいます。かなり引き抜くのは難しいとは思いますが・・・」
この瞬間、風谷、森、中山の3人は住職を本堂の端に連れ出した。
住職「ど、どうしたんだい急に?」
中山「その子って女の子なの?」
住職「え?」
森「も、もし男子だったら推薦の話はアスラ兄ちゃんには絶対話さんといてもらいたいんやけど・・・」
風谷「あ、アタシたちのチームは男子禁制なんだ」
住職は3人の様子を見て大体の事情を察知する。
そして住職はニッコリと微笑んで3人に言った。
住職「心配はいらないよ。私が推薦する子は女の子だからね」
3人はホッとした表情になり本堂の中心まで戻って来る。
住職は取りに来る物があるからと言って本堂を出た。
待っている間、推薦する子は女の子であることを三崎と真野に話し、みんなで一体どんな子なんだろうかと期待しながら住職を待った。
そして住職は1冊の雑誌を持ってやって来た。
住職「私が推薦するのは、この雑誌に載っておる子だよ」
全員が集まってその雑誌に目を通す。
雑誌は最近出た地方スポーツ雑誌のようで、そこには『天才バレーボール少女黒崎イリーナ、10歳で名門中学から熱視線』という記事が書かれていた。
この記事に映っている人物を見て3人はハッとした表情になる。
中山「この子ってたしか・・・」
森「今治体育館におった子やで」
風谷「めちゃくちゃデカかったけど、アタシたちより年下だったのか」
アスラ「身長はともかくコイツの身体能力はどうなんだ?」
住職「この記事を見れば彼女がいかに凄い逸材か分かりますよ」
住職は雑誌に載っていたプロフィールを見せた。
黒崎イリーナ10歳(小学4年生)。
身長174㎝体重58㎏。
その恵まれた身長もさることながら母親譲りのバレーボールセンスも持ち合わせており、その身体能力はすでに名門中学でもエースを張れるほどのレベルだ。
そんな彼女の母親である黒崎エカテリーナは、元ロシア代表でオリンピック金メダリスト。
そしてオリンピックや世界大会のMVPに何度も輝いたこともある選手だ。
現在は、娘の所属する常盤ジュニアバレーボールクラブの監督を務めている。
住職「この通り身体能力に関してはすでに中学レベルで問題はないんですが・・・」
森「母親が監督を務めてる時点で引き抜くのは無理やろ」
風谷「しかも世間がこれだけ注目してるわけだから、新体操から引っ張ってきた成美の時のようなわけにはいかないぞ」
三崎「そうね」
完全に諦めモードになっている中、アスラは雑誌を手にして住職のもとに詰め寄った。
アスラ「おい、コイツが練習してる場所は分かるか?」
全員「は?」
住職「わ、わかりますが練習を見に行って何をするつもりですか?」
アスラ「別に何もしない。ただコイツの身体能力がどれほどのものか自分の目で確かめに行くだけだ。それから試合の映像もあるんだったら見せてもらう」
住職「わ、わかりました」
5人とも物凄く嫌な予感がした。
アスラが貴重な逸材を見るだけで終わるはずがない。
必ず何かしらの問題を起こす。
5人はそう思った。
そして次の日・・・
5人は雨でぬかるんだ地面にも無事に対応し予定の時間内に山頂に着いていた。
森「昨日はホンマに怖かったな」
真野「これから寝ようって時にあんなこと言うんですから、あの住職さんは本当に人が悪いですよ」
三崎「あの両サイドにあった日本人形がもともとは普通サイズで、どんどん等身大の大きさに変わっていったとか」
中山「仏像の表情が住職さんには笑顔にしか見えないとかね」
風谷「だけど朝までアスラ兄ちゃんがいてくれたのは意外だったよな」
中山「うん、それで何とか寝られたからね」
この時、5人はアスラが朝までいた本当の理由をまだ知らない。
三崎「それより今日の放課後、やっぱり体育館に行くの?」
森「せやな。アスラ兄ちゃんに任せたらロクな事せん気がするし」
風谷「それじゃあ、放課後今治体育館に集合だな」
こうしてアスラの監視のため5人は今治体育館へ行くことにした。




