第24話 命懸けの特訓 驚愕の藤田
次の日の朝・・・
藤田はアスラに言われた通り山登りをしていた。
だが運動不足の藤田にとって2周どころか、山の頂上まで行くこと自体が難しい。
案の定、1周目の頂上に差し掛かったところで、すでに足が限界に来ていた。
藤田「足のふくらはぎがものすごく痛い。地面に足が着く度に痛みが」
もはや歩いているのか止まっているのか分からないペースで山を登る藤田。
そして、山の頂上が見えかけた時だった。
藤田「!?」
藤田の足に激痛が走った。
藤田「ぎゃぁぁぁぁ!!」
足がつった藤田は、その場で転がり回る。
誰も居ない静かな山奥で藤田の悲鳴が響き渡った。
足がつってから5分後、痛みが引いてきたので山登りを開始しようとする藤田だったが、反対の足も限界が来ており立つことができなくなってしまう。
藤田「結局、オレは山登りコースを1周すら出来ない男だったわけか・・・」
藤田が空を見上げて嘆いているとふと母親のことを思い出す。
藤田「ダメだ。オレはこんなところで諦めるわけにはいかないんだ。意地でも彼女に相応しい男になって、母さんに彼女を紹介するんだ」
藤田は自分を奮い立たせ、再び山登りを再開する。
だが数メートル進んだところで藤田は力尽きた。
藤田「やっぱりオレは・・・ダメな男だったか・・・」
倒れながら自分の筋力不足に悲観的になっていると誰かがこっちへやって来た。
??「だ、大丈夫ですか!!」
聞き覚えのある声、見覚えのある姿に藤田の目が見開く。
藤田の目の前には宮西の姿があった。
驚きのあまり声が出ずにいると宮西は藤田を背負い始める。
藤田は運動嫌いだが太っているわけではなく、身長に見合う平均的な体重だ。
それでも体重は70㎏ある。
その藤田を背負いながら宮西は一度も休憩を挟まず、登山コースの入り口まで運びきった。
入り口ではアスラが待っていた。
藤田を降ろすとアスラは宮西に向かって話かける。
アスラ「ソイツは、どこで倒れていたんだ?」
宮西「山の頂上付近で倒れていたわ」
アスラ「まぁ、今のコイツではそこが限界点だろうな」
宮西「この人はアスラくんの知り合いなの?」
アスラ「まぁな」
藤田「えぇっ!?」
宮西「どうしたんですか?急に驚いた声を出して」
藤田「いや・・・2人が知り合いとは思わなくて」
宮西「アスラくんは、私の命の恩人なんですよ」
藤田「お、恩人だって!?」
思わぬ関係に藤田は目を丸くしてその場に、ひっくり返った。
宮西「あの・・・本当に大丈夫ですか?」
藤田「だ、大丈夫です。その・・・ここまで運んでいただいて、本当にありがとうございました」
宮西「当然のことをしただけなので、気にしないでください」
笑顔で答えた宮西は、駐車場の方へと歩いて行った。
藤田は、宮西が去っていた方向を茫然と見ながらアスラに話しかける。
藤田「ちょっといいか?」
アスラ「なんだ?」
藤田「彼女とはどういう経緯で知り合ったんだ?」
アスラ「なぜそれをお前に話さなきゃならない?」
藤田「それは・・・」
藤田は俯きながら黙り込んでしまう。
アスラ「アイツのことより、相手の女のことを気にしたらどうだ?」
藤田は顔を赤くしながらアスラに小さな声で言った。
藤田「実は・・・相手の女ってのが・・・彼女なんだよ」
アスラ「なんだと!?」
相手が宮西だと分かった途端珍しくアスラは驚いた表情を浮かべた。
そして顔が一気に曇り始める。
アスラ「アイツが相手だったのか・・・」
藤田は嫌な予感がしながらも恐る恐る聞いてみた。
藤田「ひょっとして、もうすでに結婚して子供が?」
アスラ「結婚?子供?」
言っている意味がさっぱりわからないアスラは首をかしげた。
藤田は短期間ではあるがアスラのことをある程度理解したつもりだ。
だから藤田はアスラがわかるように付き合うや結婚という類を攻略という言葉に置き換えて話すことにした。
藤田「か、彼女は今まで攻略されたことはないかってことだよ」
アスラは宮西が今まで誰かに倒されたことはないかと解釈して藤田の質問に答える。
アスラ「アイツは今まで誰にも攻略されたことがない女だ」
藤田「ほ、本当か?」
アスラ「ああ。この事を知ってお前がどう思うかわからんがアイツの攻略の難易度はかなり高い。可能性はかなり低いぞ」
それには藤田も納得している。
宮西は、かなりの美人だ。
おそらく多くの男たちが彼女に告白して玉砕していったに違いない。
そんなことを思っていると、アスラが藤田に言った。
アスラ「できることならアイツの攻略は諦めた方が良いと思うぞ」
藤田「え?」
いつも協力的だったアスラから意外な言葉が出て来て驚く藤田。
それは宮西和江という女性が難攻不落であることを意味する。
だが藤田は先程の出来事で宮西への想いをさらに強くしていた。
藤田「たとえ可能性が低くてもやっぱりオレは・・・オレは彼女を諦めたくないんだ」
ボソリと本音をアスラにぶつける藤田。
するとアスラから驚きの言葉が返って来た。
アスラ「自分の命を懸けてまでか?」
藤田「え?」
思わぬ一言に藤田は固まった。
アスラ「アイツを攻略するのは命懸けだ。それでもお前はアイツを諦めるつもりはないのか?」
藤田は、アスラの言ってる意味がよくわからなかった。
どうして人と付き合うことに命を懸けなくてはならないのか。
だがこれはおそらくアスラなりの決意の強さの確認だと藤田は勝手に解釈した。
藤田「オレは・・・命を懸けても彼女を諦めたくはない」
アスラは少し悩んだが、すぐに頷いた。
アスラ「ならば、オレもアイツの攻略のために出来る限りの協力をしてやる」
藤田「ほ、本当か!?」
アスラ「ああ。だがとりあえず今日はこれで終わりにする。オレも今後の特訓の内容を考えなければならんのでな」
藤田「わかった」
アスラは宮西を倒すため。
藤田は宮西と付き合うため。
それぞれの思惑がズレた2人は命懸けの特訓をすることになった。
そして次の日・・・
藤田はプールに来ていた。
藤田「ここで泳ぐってことでいいのか?」
アスラ「そうだ。ただし息継ぎは無しだ」
藤田「い、息継ぎ無しで25m泳げっていうのか!?」
アスラ「最初に言っておくが、アイツの攻略には『強靭な肺活量』が必要だ」
藤田「きょ、強靭な肺活量だって?」
アスラ「ああ。短期間で強靭な肺活量を手に入れるには、この方法しかない」
藤田は、この特訓に不満を覚えながらも息継ぎなしで25mを目指す。
だが人並みの肺活量しか持たない藤田では息継ぎなしでは25m泳ぐことは不可能だった。
藤田「や、やっぱり無理だろ!!オレは水泳選手じゃないんだぞ!!」
アスラ「つべこべ言ってないで続けろ。別に25m泳ぎきれとは言っていない。とにかくひたすら泳ぎまくることに意味があるんだ」
藤田「わ、わかったよ」
藤田はアスラに言われた通り泳ぎ続けた。
このプールによる特訓は午後の3時まで続いた。
藤田はプールの端で、ぐったりして倒れていた。
アスラ「疲れたか?」
藤田「そりゃ疲れるに決まってるだろ。明日には全身が筋肉痛になってるよ」
アスラ「だが休んでいる暇はないぞ。これから山へ行って次の特訓に入る」
藤田「えぇっ!?まだ終わらないのか!?」
アスラ「心配するな、今度は身体を一切動かす必要はない」
藤田「そ、そうなのか」
藤田はアスラを車に乗せて、愛比売山へと向かった。
そして・・・
藤田「こんな山奥で一体何をするんだ?」
アスラ「ここで最後の特訓を行う。近いうちに格闘技の特訓もするが、とりあえずこれからやる特訓とプールの特訓を繰り返す」
なぜ格闘技の特訓までするのか藤田は理解できなかったが喧嘩に強い男も彼女への好感度アップに繋がると思い、深くは突っ込まなかった。
アスラ「正直これぐらいで強靭な肺活量を得られるほど甘くはないが短期間ではこれが精一杯だ」
藤田「そ、そうか・・・」
アスラは早速、枝が異常に太い木にロープを結び付けていく。
その光景に藤田の頭の中に嫌なイメージが浮かんできた。
背中には自然と嫌な汗が滲んでくる。
そして結んだロープの先端に輪を作り、藤田の方へと向き直った。
アスラ「さぁ始めるぞ」
藤田「う、嘘だろ・・・こ、これじゃまるで首吊りじゃないか」
アスラ「その通りだ。わかったら早くこのロープに首を入れろ。限界だと判断したらロープを外してやる」
藤田「ふ、ふざけるな!!こんなの一歩間違えば死んでしまうじゃないか!!」
激昂する藤田にアスラは淡々と言葉を返す。
アスラ「何を言ってるんだ?オレは命懸けだと言ったはずだぞ?」
藤田「なっ!?」
アスラ「あのプールの特訓が命懸けだとお前は思っていたのか?」
藤田「そ、それは・・・」
アスラ「むしろあれは準備運動で、本当の特訓はこっちの方だ」
藤田は恐怖で後ずさってしまう。
洩矢アスラ、コイツは本当にヤバい。
藤田は心の中からそう思った。
完全にビビっている藤田を見かねてアスラが近寄ってくる。
藤田「な、何をする気だ?」
アスラ「仕方がないからオレが手伝ってやる」
藤田「え?」
アスラは藤田の身体を持ち上げた。
藤田「や、辞めろ!!放せ!!」
必死にもがく藤田だったがアスラの手を振りほどくことは出来ない。
藤田「(な、なんなんだコイツの力は!?本当に子供なのか!?)」
藤田がアスラの力に驚愕している間に、アスラは藤田の首にロープに通した。
アスラ「では始めるぞ」
藤田「う・・・うぐぐぐ・・・」
藤田は必死に両手でロープを掴みながら身体をバタつかせる。
藤田「た、助けてくれ・・・」
顔を真っ赤にさせながら必死に助けを求める藤田をアスラは完全に無視。
藤田「げぇっ!!」
少しの間、堪えていた藤田だが嘔吐し意識が徐々になくなっていく。
そこで、アスラはロープを外した。
藤田「がはっ・・・がはっ・・・はぁ、はぁ、はぁ」
藤田はキッとアスラを睨む。
藤田「お、お前・・・」
アスラ「まだ喋るな。呼吸が整ってから話せ」
藤田は呼吸が整ってから怒りを一気にぶつけた。
藤田「本当にお前はどういうつもりなんだ!!どうかしてるぞ!!それになんだ、あのバカ力は!!お前は本当に子供なのか!!」
アスラ「オレは生まれて14年・・・ということになっている」
藤田「14歳なら14歳らしい態度を示したらどうなんだ!!前から言おうと思ってたが、その偉そうな態度は一体なんだ!!年上の者に対する礼儀がまるでなってないぞ!!」
殺されかけたことで、今までのアスラに対して溜まっていた鬱憤を一気に爆発させる藤田。
だがそんな藤田に対してアスラは平然と答える。
アスラ「お前の思い描いている14歳とオレは違う。なんでも自分の思う型に当てはめようとするな」
藤田「と、とにかく今のはやり過ぎだ!!下手すれば殺人事件になるところだぞ!!」
アスラ「昨日、お前は命を懸けてもアイツを諦めないとオレに言ったんじゃなかったか?」
藤田「だが限度ってものがあるだろ!!」
この言葉にアスラの目つきが鋭くなる。
その迫力に藤田も身体を一瞬ビクつかせる。
アスラ「お前は命懸けの特訓をなんだと思ってるんだ?」
藤田「な、なに?」
アスラ「命の保証が約束された特訓など、もはやそれは命懸けの特訓ではない。そんなものは、ただの特訓だ」
藤田「ぐっ!?」
アスラ「何度も言うが、アイツの攻略への鍵は強靭な肺活量にある。それを短期間で手に入れるには、この方法しかないんだ」
藤田「・・・・・・」
アスラ「今日はもう終わりだ。この特訓を続けるかどうか、明日までに答えを出せ」
藤田は無言で頷き、愛比売山を去って行った。




