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私たちの監督は14歳で、かなりヤバいっ!!  作者: フムフム竜
小学生編
23/61

第23話 アスラと藤田 すれ違う決意

担任の藤田を愛比売(えひめ)山へ誘った後、3人はいつものように集合場所である河川敷に向かった。


3人は学校で立てた計画の通り、アスラにある頼みごとをした。


アスラ「藤田先生を鍛えろだと?」


森「せや。先生が担任から外されたらウチら二度と、この山に来られないかもしれないんや」


風谷「頼む。先生を鍛えてやってくれ」


中山「お願い・・・その女の人を『攻略』するためには、どうしてもアスラ兄ちゃんの指導が必要なの」


おそらく恋の成就のために鍛えてくれと言ってもアスラは絶対に力を貸してくれないと考えた3人。


だから恋の成就を『攻略』という戦闘用語を含んだ言い方に変えてアスラの指導意欲を高める作戦に出た。


アスラは藤田を鍛えることと3人が山へ来られなくなる関連性がまったく理解できなかったが中山の思惑通り攻略という言葉がアスラの闘争本能に火をつけた。


アスラ「攻略か・・・敵を倒すための指導なんて久しぶりだな。たとえ相手の女が格闘選手であろうと殺し屋であろうと特殊訓練を受けた猛者であろうと関係ない。このオレが鍛えるからには必ずソイツを攻略してやる」


中山「本当!?」


アスラ「だがその前に聞くが本人に間違いなくその気はあるんだろうな?」


中山「え?」


アスラ「相手を倒すというのはかなりの覚悟が必要だ。それ相応の苦難が待っている。相手の実力がかなり上ならなおさらだ。オレの特訓はかなり過酷だぞ」


中山「え、えっと・・・それは・・・」


アスラの過酷は本当の意味でヤバい。


思わず中山は言葉を詰まらせてしまう。


すかさず風谷と森が慌てて答えた。


風谷「ほ、本人にその気があるに決まってるだろ!!」


森「そ、そうやで!!ちょっと性格が内向的で消極的なところが問題やけど、やる気は間違いなくあるで!!」


アスラ「・・・・・・」


風谷と森の様子にアスラは疑惑の目を向けた。


2人は内心ヤバいと思いながらも目を逸らさず、アスラを見つめ返す。


するとアスラは視線を2人から逸らした。


アスラ「よし、やる気があるならいいだろう」


3人はホッと胸を撫でおろした。


中山の立てた計画よりもアスラがやる気を出し過ぎてかなりヤバい方向に進んでしまったが、あとはこのまま勘違いさせたまま話を終えれば完了だ。


アスラ「ところでお前らは、その女についてどのくらい知ってる?」


森「ほとんど知らへん」


アスラ「では藤田とやらは相手の女についてどのくらい知ってるんだ?」


中山「まったくと言っていいほど知らないよ。初対面同然だね」


アスラ「初対面同然だと?」


森「せや。初対面の相手を攻略するのは簡単なことやないやろ?」


アスラ「ああ。初対面の相手を攻略するのはかなり難しい。だがその手の指導はすでに経験済みだ。未知の相手を想定した指導は任せておけ」


3人の術中にはまり完全にやる気になったアスラ。


アスラ「ついでに、その藤田とやらについて詳しく聞かせろ」


風谷・森・中山「わ、わかった・・・」


中山は藤田の身体能力や性格、そして恋の成就の目的を悟られないよう上手く宮西との経緯を伝えた。


アスラは本格的な死闘を期待していたようで経緯を聞いて少し不満気だったが藤田の指導は断らなかった。


そして・・・


藤田「まったく、こんなところに来いなんて一体どういうつもりなんだ?」


仕事をなんとか終わらせた藤田は3人に言われた通り愛比売山に来ていた。


だが愛比売山に来たものの、どこへ行ったらよいか分からず駐車場でウロウロしていた。


藤田「そういえば愛比売山に来いって言ってたが、正確な場所や時間は言ってなかったな」


藤田が諦めて帰ろうしたその時、アスラがやって来た。


アスラ「お前が藤田だな」


藤田「えぇっ!?お、お前だって!?」


生徒にタメ口を利かれたことがある藤田だが、お前呼ばわりされたのは初めてでかなり驚いた。


藤田「き、キミは一体誰だ?」


アスラ「オレは(もり)()アスラだ。話は風谷たちから聞いている」


藤田「風谷たちから?」


アスラ「お前、オレの特訓を受けに来たんだろ?」


藤田「は?」


悩みが一気に吹き飛ぶと言われたから(わら)にもすがる思いで来たはずなのに、いきなり特訓を受けに来たことにされており藤田は、なにがなんだか分からなかった。


藤田「ちょ、ちょっと待ってくれ!!一体何の話だ!?オレは特訓のことなんて何も聞いてないぞ!?」


アスラ「何も聞いてないだと?お前は、初対面の女を攻略するために、ここへ来たんだろ?」


藤田「え?」


アスラ「お前はフィットネスクラブとやらで、女との実力差に絶望してここへ特訓しに来たんじゃないのか?」


藤田「え、えっとそれは・・・」


アスラ「お前は圧倒的な実力を見せ付けて、その女を攻略したいんじゃないのか?」


藤田「・・・・・・」


アスラに自分の悩んでいることをズバズバ言われ、藤田は言葉が出なくなってしまう。


アスラ「決断は早い方がいいぞ?相手の女がいつまでもフィットネスクラブにいるとは限らんからな」


藤田「!?」


その言葉に藤田の心はかなり揺れた。


もし彼女がフィットネスクラブに来なくなれば、宮西と会うことはもう二度と無いかもしれない。


しかし藤田は悩んだ。


藤田「(オレはこんな子供を信用していいのか?39歳のオレがこんな子供の指示に従うのか?)」


アスラ「早く決めろ。相手の女を前にした時も、そうやって悩んでいるつもりか?」


藤田「(そうだ、決断は早くしないといけない。彼女は超人コースを選ぶほどの体育会系だ。ウジウジ悩む男なんか絶対に好きになるはずがない)」


藤田は顔を上げてアスラに宣言した。


藤田「オレは・・・オレは必ず超人コースを軽くこなして、彼女を絶対奪ってみせる!!」


アスラ「(ほう・・・相手を攻略するのではなく命を奪いに行くとはいい心がけだ)」


藤田の熱意を完全に間違った解釈で捉え、アスラも完全にその気になる。


アスラ「よし、その意気込みがあれば合格だ。オレが必ず、その女を完璧に攻略できる実力を身に付けさせてやる」


藤田「よし、絶対彼女を奪ってやるぞぉぉ!!」


こうして互いに思惑はズレているが、妙な形で一致し藤田の特訓はスタートした。


そして・・・


藤田「この登山コースを歩くだけでいいのか?」


アスラ「そうだ。登山コースの頂上まで登り切ったら入り口まで戻り、また頂上まで登る。この繰り返しだ」


藤田「え?1回で終わりじゃないのか?」


アスラ「当たり前だ。1回くらいで超人コースとやらに耐えられると本気で思ってるのか?」


藤田「だ、だけど頂上まで2時間はかかるんだぞ?それを何往復もするなんて・・・」


アスラ「情けないヤツだな。もう諦めたのか?」


アスラの呆れ気味で見下した態度にカチンときたのか藤田も意地になる。


藤田「だ、誰も諦めたとは言ってないだろ!!それぐらいやってみせるさ!!」


藤田は勢いよく走り出し登山コースをスタートした。


しかし数分もしないうちに、すぐに歩き始める。


藤田「(ちょっ、ちょっと走っただけで、こんなに息切れするなんて・・・)」


自分の運動不足を再認識した藤田はペースを一気に落として頂上を目指した。


だがようやく自分のペースを掴んできた藤田に思わぬ事が起こった。


それは自分よりもはるかに歳を取った高齢者グループがすぐ後ろまで迫って来たことだ。


藤田「(え?いつの間に!?)」


運動不足とはいえ高齢者には負けられないと思った藤田はペースを上げて高齢者グループを突き放そうとする。


しかし突き放すどころかどんどん差を縮められ、あっという間に追い抜かれてしまった。


藤田「(ちょっと待て!?速すぎるだろ!!)」


必死で高齢者たちに追いつこうとする藤田に対して高齢者たちは楽しく世間話をしながら坂道を登って行く。


そして、あっという間に高齢者たちの姿が見えなくなってしまった。


藤田「(オレって、あんな年寄りより劣っていたのか・・・)」


歩く速度はどんどん落ちて行き、やがてその場に座り込んでしまった。


その時、アスラが藤田の元にやって来た。


アスラ「こんなところで何をしている?」


藤田「やっぱりオレはダメな男なんだ。頂上はおろか老人のペースにもついていくことができない」


アスラ「・・・・・・」


藤田「オレは彼女を攻略できる自信が無くなったよ。せっかく付き合ってもらって悪いけどさ」


アスラ「そうか」


アスラは、あっさりと藤田の言葉を受け入れてその場を立ち去ってしまう。


その後、特訓を終えた3人はアスラに藤田の様子を聞いた。


森「先生の方はどうやった?」


アスラ「ヤツなら、もう諦めて帰ったぞ」


中山「えぇっ!?引き止めなかったの?」


アスラ「やる気のないヤツを引き止めてどうなるんだ?」


中山「そ、それは・・・」


アスラ「言ったはずだ。本人にその気がなければ意味がないとな」


風谷「で、でもアタシ達はどうなるんだよ?このままじゃここで特訓することができなくなるんだぞ」


アスラ「心配するな。もし本当にどうしようもできなくなったら、その時はオレがどうにかしてやる」


風谷「そ、そっか・・・それならいいけどよ」


アスラ「終わったなら帰れ。それとも三崎と真野の到着を待つのか?」


風谷・森・中山「うん・・・2人が来るまで待つ」


個人的に藤田の恋を応援していただけに3人の表情はとても残念そうだった。


一方、特訓を早々に辞退した藤田は松山病院にいた。


理由は、入院している母親の容体が悪化したという知らせが届いたからだ。


藤田「母さん、具合はどうだ?」


藤田(母)「なんとか生きてるよ」


藤田「それは良かった・・・」


いつも通り昔話や学校での話で盛り上がる2人。


そんな時、藤田の母親は匂いを嗅ぐ仕草をしながら藤田を見た。


藤田(母)「私の好きなチューリップの匂いがするけど・・・」


藤田「驚いたな、匂いでチューリップのことがわかるなんて母さんくらいだよ。相変わらず嗅覚(きゅうかく)だけは衰えていないんだな」


藤田(母)「これでも衰えた方さ。昔はある程度遠くにいても匂いで、お前が帰ってきたかどうかわかったくらいだからねぇ」


病気や加齢で身体の至る所が衰えていく中、母親の特徴でもある嗅覚が健在なのは藤田にとってはかなり嬉しいことだ。


藤田(母)「それより、アンタ彼女は出来たのかい?」


藤田「このオレに彼女なんて、できるわけないだろ?」


藤田(母)「そうかい。孫は無理でも、せめて嫁さんの姿は見たかったねぇ・・・」


どこか遠くを見ながら寂しそうに話す母親を藤田は辛そうな表情で眺めていた。


実は母親の病状を説明される時に担当医から1ヶ月の余命宣告を出されていたのだ。


そして・・・


藤田は再び愛比売山に来た。


駐車場にはアスラが待ってましたと言わんばかりに腕組みをしながら立っていた。


藤田はアスラがそこにいることに奇妙に思いながらもアスラの方へ向かい頭を下げた。


藤田「すまない。もう一度・・・もう一度だけオレの特訓に付き合ってくれないか?」


アスラは何も言わず黙って藤田を見ていた。


藤田「頼む!!この通りだ!!」


必死に頭を下げて懇願する藤田にようやくアスラが口を開く。


アスラ「どうやら、かなり追い詰められることがあったようだな」


藤田「・・・・・・」


藤田は何も答えずただ黙っているだけだった。


頭の中では一度特訓から逃げ出した自分をどうやって受け入れてもらえるかを考えていた。


藤田「(この子の言い方や態度を見る限り誰かのために戻ってきたという理由は完全にアウトなような気がする。他に理由を考えないと・・・)」


そんな時、アスラは藤田に言った。


アスラ「2周だ」


藤田「え?」


アスラ「とりあえず明日から登山コースを2周してくるんだ」


藤田「に、2周か」


アスラ「一応言っておくが登って下りるまでが1周だからな」


藤田「えぇっ!?」


アスラ「何を驚いている?」


藤田「そりゃ驚くだろ。1周が大体約4時間かかるんだから合計で約8時間。つまり一日中歩くってことになるんだぞ」


アスラ「だがこんなこともできないようなら、超人コースを楽に耐えることなど絶対に不可能だ。まぁ、オレの言うことが信じられないなら自分で努力する道もある」


藤田「・・・・・・」


アスラ「だが自分に甘いヤツが超人コースに耐えるほどの身体を作り上げることなど出来るとは思えんがな」


藤田「だ、誰もやらないとは言ってない。言われた通りちゃんと2周してみせるさ」


こうして藤田は、再び特訓を受けることになった。


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