第22話 山登りの特訓の危機!! 担任藤田の悩み解決
【今治中央小学校】
??「はぁ~・・・」
ここに、ため息をつく男がいた。
男の名は藤田達也39歳。
風谷、森、中山の担任であり、明るく生徒との距離も近い人気のある教師だ。
その彼はある悩みを抱えていた。
風谷「休み時間は、ああやってため息ばかりついて授業もどこか上の空」
森「あのままじゃ、絶対クビにされてしまうで」
中山「もしクビになったら、私たちの次の担任の先生は本郷先生ってことになっちゃうかも・・・」
風谷「えぇっ!?嘘だろ!?本郷先生が次の担任になるのか!?」
森「あの先生が担任になったら、山の特訓どころじゃなくなるで!!」
本郷先生は、堅物で規律に厳しい熱血教師だった。
彼が担任を務めていた頃、家庭訪問の時に放課後の子供の生活のあり方について熱弁し、親の監視を厳しくさせたこともある。
一部の親には評判だったが子供にとってはかなり厄介な存在だ。
特に母子家庭で自由気ままな生活を送っている3人にとっては天敵ともいえる。
本郷先生を担任にさせないためにも3人は藤田の悩みを解決することに決めた。
3人は藤田のもとへ行き、何を悩んでいるか聞いてみた。
だが藤田は当然何も答えてくれなかった。
風谷「いくら生徒と距離が近い藤田先生でも子供に自分の悩みを打ち明けるわけないよな」
森「せやな。でもこれは想定内のことやで」
中山「あとは尾行して自力で先生の悩みを暴くしかないね」
その夜、3人は校舎に忍び込み藤田の様子を観察していた。
藤田は職員室で教頭に注意を受けていた。
教頭「最近のキミは、ボ~ッとして仕事も手につかないみたいだが、どうかしたのかね?」
藤田「い、いや別に・・・」
教頭「しっかり頼むよ。こんなことが続くようだとキミに担任を降りてもらうしかないからね」
藤田「わ、わかってます」
風谷・森・中山「・・・・・・」
風谷「いよいよ担任降格が濃厚になってきたな」
中山「これは早いところ先生の悩みを解決しないと」
3人は帰宅する藤田の後を追った。
まるで老人のように前かがみになりながらノロノロと歩く藤田。
その姿は3人がよく知る藤田達也ではなかった。
風谷「あれは相当重症だな」
森「悩み一つであんなに人は落ちぶれてしまうものなんやな」
中山「先生・・・」
3人が藤田を憐みの目で見ていると交差点のところで藤田の背筋がピンと伸びた。
藤田の視線の先にはマスクをした30代前半くらいのきれいな女性が歩いていた。
藤田は歩くのを止め、その女性をじっと見ている。
それを見て3人は一斉に藤田の元へ駆け寄った。
風谷・森・中山「先生!!」
藤田「うわっ!?」
ニヤニヤしながら3人は藤田に詰め寄った。
中山「先生の悩みの原因は恋ですね?」
風谷「しかも相手はかなりの美人だな」
森「先生も隅に置けへんな」
藤田「お、お前らこんな遅くまで何をやってるんだ!!は、早く家に帰れ!!」
藤田は焦りと動揺で声を荒げた。
だが裏返った声では怒っていても迫力は無く、3人はまったく怯まない。
森「まぁまぁ、そんなことよりええんか?」
風谷「彼女が行っちゃったぞ?」
藤田「え?」
振り向くと彼女の姿はどこにもなかった。
藤田「行ってしまったか・・・」
藤田はその場に手を突いて崩れ落ちた。
森「その様子だと一度もあの人に声かけたことあらへんな?」
中山「私達で良ければ相談に乗るけど?」
藤田「子供にそんな心配は無用だ。それより早く帰れ。今日のことは見なかったことにしてやるから」
藤田は、そう言って家へと帰って行った。
風谷「これで原因はわかったな」
森「あとは、ウチらがあの女の人と話すきっかけを作ればええだけやな」
中山「そのためにも今度はあの人を尾行しないとね」
実は3人は女性が近くの店に入って行くのを見ていた。
3人は店から出て来る女性を待ち、尾行を開始する。
だが尾行した結果は藤田にとっては最悪なものとなった。
彼女が入った建物はフィットネスクラブ。
藤田は運動が大嫌いだった。
森「これはあかんな。先生とまったく正反対なタイプの人やで」
風谷「他に先生との共通点を探さないといけないな」
中山「でもあの人があそこから出てくるまでかなり時間がかかりそうだし、今日はこの辺で辞めにしようよ」
風谷「そうだな」
そして次の日・・・
3人は職員室で藤田に怒られていた。
理由は藤田を尾行するために山登りのノルマを朝に回したのが原因だった。
今までの最高記録で山の頂上に辿り着くことはできたが朝からのスタートでは学校に間に合うはずもなく、大遅刻をしてしまった。
藤田「お前ら、もう2時間目が終わるところだぞ?電話しても誰も出ないし・・・揃いも揃って一体何をやってたんだ?」
風谷「いやぁ~・・・みんな揃って寝坊しちゃって」
森「昨日は玲奈の家で、お泊り会やってたんですわ」
藤田「お泊り会ねぇ~・・・」
藤田は3人を怪しむ目で見た後、ため息をついた。
藤田「今日は大目に見るが明日から頼むぞ」
風谷・森・中山「すみません」
このような場合、普通は親に言うものだが藤田は滅多にそういうことはしない。
藤田が生徒から慕われる理由の一つだ。
3人は休み時間になると藤田のもとを訪れ、昨日の女性の行き先がフィットネスクラブであることを話した。
それを聞いた藤田はすっかり落ち込んでしまう。
3人はそんな藤田に一喝する。
中山「先生!!あの人と話すきっかけを作るにはフィットネスクラブに通う以外に方法はないよ!!」
森「せやで!!ここで逃したら一生後悔することになるで!!」
風谷「もう運動嫌いなんて言ってられないぞ!!」
藤田「こ、子供のくせに生意気なことを言うんじゃない!!」
藤田の怒鳴り声に驚いた他の生徒が一斉に視線を向ける。
藤田は慌てて教室を出て行った。
中山「先生、怒っちゃったけどフィットネスクラブに行くと思う?」
風谷「どうだろうな・・・」
森「こうなれば祈るしかないで」
そしてその夜、藤田はフィットネスクラブの前に来ていた。
藤田「お、オレはそろそろ運動不足を解消しようと思って来ただけだからな。決して彼女との交流のきっかけを作ろうなどという疾しい気持ちは一切無い」
ブツブツ独り言を言いながら藤田はドアに手を掛けようとする。
しかし、すぐに手を引っ込めた。
藤田「(や、やはりダメだ。彼女と話したいがためにフィットネスクラブに行こうとするなんて・・・だが、彼女とも話したい)」
心の葛藤に悩みながら入り口の前でウロウロする藤田。
そんな時、後ろから声をかけられた。
??「先程から入り口の前でずっと立ってますけど、どうかしたんですか?」
藤田「え?」
振り返るとそこにはマスクをしたあの女性が立っていた。
藤田は、その場で硬直した。
??「あなたも、ここのフィットネスクラブに?」
藤田「えっと・・・」
??「私もここに通っているんですが、中まで一緒にどうですか?」
藤田「は、はい」
藤田は彼女に言われるがまま、フィットネスクラブの中へ入って行った。
彼女が会員証を出すタイミングで藤田は目を光らせ名前を確認する。
会員証には宮西和江と記されていた。
藤田「(そうかぁ~、宮西さんっていうのか・・・もしかして、これをきっかけに距離が縮まって、やがて結婚なんてことに・・・)」
藤田は宮西と話しただけで完全に舞い上がっていた。
宮西「それじゃあ、私はこっちですので」
藤田「はい」
藤田は彼女と別れた後、会員登録を済ませ初心者コースを希望した。
しかし予想通り運動嫌いな藤田にとって初心者コースでもついていくのがやっとだった。
そんな時、宮西と専属トレーナーとの会話が聞こえてくる。
トレーナー「宮西さん、実は上級者コースよりもさらに上の超人コースというものがあるんですけど、どうですか?」
宮西「そうですね。上級者コースにもかなり慣れてきたんでやってみます」
藤田「ちょ、超人コースだって!?」
唯一宮西と共通して話せる話題のフィットネスクラブ。
しかし超人コースに挑戦する彼女と初心者コースについていくのがやっとな自分とではまったくの別世界だ。
話題にすれば間違いなく自分がみじめになってしまう。
藤田の心は完全に折れてしまった。
そして翌日・・・
今日は土曜日で基本休みなのだが、藤田は学校に来ていた。
平日で終わらなかった仕事を終わらせるためだ。
だが藤田は廃人と化していて仕事など、ほとんど手に付いていなかった。
その様子を3人は職員室のドアの隙間から眺めていた。
風谷「ありゃ相当重症だな」
中山「片思いをしていた頃よりもさらに酷くなってるね」
森「あれはフィットネスクラブで相当キツイ現実を突きつけられたみたいやで」
どうにかして藤田を廃人化から復活させようと考える3人。
その時、中山が閃いた。
中山「先生にはかなり苦痛かもしれないけど、もうこれしかないと思う」
森「どんな方法や?」
中山「成功するかどうか分かんないけどさ・・・」
中山の提案を聞いた風谷と森は最初こそ驚いたがすぐに納得した。
だがこの方法に不安の声を漏らす。
森「先生、大丈夫やろか?」
風谷「もうここまで来たら一か八かだよな」
3人は、藤田の元へと向かった。
風谷・森・中山「先生!!」
藤田「・・・なんだ?」
生気のない目で藤田は3人を見た。
風谷「今日、暇があったら愛比売山に来てくれ。先生の悩みが一気に吹き飛ぶぞ」
藤田「・・・は?」
生徒の意外な言葉に間の抜けた顔をする藤田。
この後、藤田にとって人生の転機が訪れる。




