第17話 アスラの世話係ゼラ登場
突如謎の異空間から現れた青年。
その青年は、いきなりアスラに攻撃を仕掛ける。
青年の右拳はアスラの顔面に直撃した。
しかしアスラは、反撃したりはせずただ不敵な笑みを浮かべるだけだった。
青年は一旦アスラとの距離を取ると態度を一変させ、その場に跪いた。
??「お久しぶりです。アスラ様」
アスラ「久しぶりだな。ゼラ」
ゼラの動きが全く見えてなかった4人は、なにがなんだか分からず、2人を交互に見るばかり。
ゼラ「オレは、アスラ様がここの世界に追放されてからずっと心配していました。ここの世界は脆過ぎてさぞかし辛い環境だったでしょう」
アスラ「たしかにここでは全力を出すことができない。戦う相手もいない。少し力を入れただけで、すべてが崩壊してしまう・・・ここの世界はオレにとって過酷なものだ」
ゼラ「ですがそんな心配はもういりません。アスラ様に朗報がございます」
アスラ「朗報?」
ゼラ「とうとう追放命令が解かれたんですよ。現支配者であるマジュー様が支配者の座から退くそうです」
アスラ「親父が?」
ゼラ「どうやら支配地にずっと居座り続ける平穏な日々に飽きてしまったようです」
アスラ「親父らしい理由だな」
ゼラ「なので次期支配者を近いうちに決めるそうです。もちろん候補者の中にはアスラ様の名前も挙がっています」
アスラ「そうか・・・」
アスラは4人の方を見て考え込んだ。
ゼラ「アスラ様、グズグズしている暇はありませんよ。今までの遅れと感覚を取り戻すべく、すでに向こうで多くの者が待機しております。思う存分殺し合いをして実戦感覚を取り戻しましょう」
アスラ「・・・・・・」
アスラは何も答えず黙り込んでいた。
ゼラ「ど、どうしましたか?」
アスラ「オレは・・・まだ帰る訳にはいかない」
ゼラ「な、何を言ってるんですか!!先程まで、ここの世界は過酷だと言っていたではありませんか!!しかもアスラ様が、ここの世界にいる間に他の候補者たちはどんどん力をつけてきているんですよ!!そんなことでは次期支配者になることはできません!!」
アスラ「それでもオレは帰るわけにはいかない。オレはコイツらを最強の野球選手にしなければならないからな」
ゼラ「へ?えっと・・・今なんと言いましたか?最強の野球選手?じょ、冗談ですよね?」
アスラ「オレが冗談を言うと思うか?」
ゼラ「・・・・・・」
アスラの本気を察知したのかゼラはため息をつき、ガックリと肩を落とす。
ゼラ「オレには理解できません。次期支配者になることよりも最強の野球選手の育成を選んでしまうなんて・・・」
アスラ「心配するな。コイツらを最強の野球選手にしたら自力で支配者の座を奪いに行くつもりだ」
ゼラ「そうは言いますけど新しく支配者になった方は真っ先に全戦力を投じてアスラ様の命を狙いますよ。今の実戦感覚が乏しくなったアスラ様の実力では間違いなく消されてしまいます」
ゼラの言葉にアスラはニヤリと笑った。
アスラ「それは面白い。全戦力を投じてオレがどこまで耐えられるか自分の実力を知るいい機会だ。もしそこで消されれば、オレはそれだけの存在だったいうだけだしな」
ゼラ「アスラ様・・・」
アスラ「ともあれそんなことをするヤツは次期支配者の器ではないがな」
ゼラ「え?」
アスラ「いちいち反逆を恐れて危険因子を排除しようとする者など弱者がするやり方だ。そんな臆病者の支配など親父のように長続きはしない」
ゼラ「た、たしかに・・・言われてみればそうですが」
アスラ「そういうわけだ。オレはまだ次期支配者になるつもりはない。親父にそう伝えておいてくれ」
ゼラ「わ、わかりました。では今回の後継者争いにアスラ様は参戦しないということでマジュー様に伝えておきます」
アスラ「ああ」
ゼラ「それでは」
そう言って闇の中へ消えて行くゼラの背中はどことなく寂しそうだった。
ゼラを見送った後、アスラが4人に目を向ける。
アスラ「どうした?早く行ってこい」
4人は無言で頷き、森の中へ走って行った。
走りながら4人は先程の出来事について話していた。
中山「な、なんか・・・とんでもないことになっちゃったね」
森「お父んが現支配者ってことは、アスラ兄ちゃんは皇子ってことでええんか?」
風谷「バケモノの後継者争いに、ここの世界が巻き込まれなきゃいいけどな」
三崎「次期支配者・・・」
【異世界】
ゼラは先程のアスラとのやり取りをマジューには報告せず、上司のレンショウに報告していた。
ゼラ「ということでアスラ様は、今回の後継者争いには参戦されないとのことです。ですが、いずれ支配者の座は奪いに行くと宣言されました」
レンショウ「う~む・・・まさかそんな方向に行くとは予想外だ。これではあの時とまったく同じだ」
ゼラ「そうですね」
アスラは以前、支配者の座を奪うべく父親のマジューに戦いを挑んでいた。
だが結果はアスラの惨敗。
この戦いで敗れたアスラは現在いる世界へと追放された。
そしてアスラに加担していたマミも同罪として追放令を受けることに。
ゼラ「あの時はマジュー様がアスラ様の相手をしていました。そしてマミ様は三大獣が相手を・・・ですが今度アスラ様が攻め込んで来た時はマジュー様も奥様も・・・場合によっては三大獣の不在も考えられます」
『三大獣』とは幹部の中でも実力がずば抜けた3人のことを言い、マジューが誇る最強幹部である。
レンショウ「主力が一気に抜けた状態でアスラ様との全面戦争か・・・被害は甚大なものになるな」
ゼラ「ただアスラ様が実戦感覚からだいぶ遠ざかって以前より実力が劣っていることが救いですね。全総力を挙げれば勝てる可能性はかなり高いと思います。ですが個人的にはアスラ様と戦わずに済む道を探したいところではありますが・・・」
レンショウ「甘いな。全総力を挙げてもアスラ様はそう簡単に倒せる相手じゃない。あの方はマジュー様の子だ。戦いの中で一気に覚醒して脅威となる存在になる。それにマミ様も前回と同様アスラ様に加勢するだろうしな」
ゼラ「な、なるほど・・・たしかにそうですね」
レンショウ「だがそれよりも次期支配者になった方に他の幹部や配下たちが全員つくかどうかだ」
ゼラ「と言いますと?」
レンショウ「ここの連中はマジュー様に従っている者だ。次期支配者が決まっても場合によってはアスラ様につくことだって考えられる。お前だって次期支配者が誰になるかによってはアスラ様につくこともあるだろう」
ゼラ「え、ええ」
レンショウ「それに問題は内部以外にもある。支配者が変わることで他勢力の動きもどうなるか分からん。特にガーディスには気を配る必要がある」
ここの世界では四強と呼ばれる4人の強者がそれぞれ支配地を持っている。
『マジュー』と『ガーディス』はその四強のうちの1人だ。
現在、マジューとガーディスが手を組み残りの2人は手を組まず単独の状態にある。
この状況にも関わらず、四強関係が維持しているのはガーディスの性格にあった。
ガーディスはこの世界では珍しく温厚で好戦的なマジューとは正反対のタイプだ。
ガーディスはマジューとは古くからの親友で互いに心を許す間柄である。
そんなガーディスは他勢力に侵攻することに強く反対しており、マジューはその意思を尊重していた。
レンショウ「マジュー様がいなくなれば、この支配地は完全にガーディス頼みになってしまう。ガーディスの性格を考えると我々の支配地を奪うことはしないと思うが、内乱が起きた時どう動くかは分からない。この先一体どうなることやら・・・さっきも妙な報告が入ってきたし少しは明るい報告が聞きたいものだな」
ゼラ「妙な報告?」
レンショウ「どこの勢力か知らんが、色んな異世界の連中を拉致して穴を掘らせているらしい」
ゼラ「穴ですか?一体何のために?」
レンショウ「さあな。まったく見当はつかん・・・だが今はそんなことを気にしている余裕はない!!ゼラ、アスラ様にもう一度会って内乱を起こさないよう説得しろ!!手に負えないというならクラーチも同行させる!!」
ゼラ「く、クラーチ!?」
クラーチという名前にゼラは激しく動揺した。
ゼラ「あ、アイツを同行させる必要はありません!!オレ一人で絶対にアスラ様を説得してみせます!!」
レンショウ「よし、ならば頼んだぞ」
ゼラ「お任せください!!」
次の日・・・
アスラは1人で住宅街を彷徨っていた。
本当はマミに誘われて期間限定のスペシャルケーキを出してくれる喫茶店に行くはずだったがマミに急用ができてしまい取り残されたアスラは、あてもなく住宅街をフラフラと彷徨っていたのだ。
そこへゼラがアスラのもとへやってくる。
ゼラ「アスラ様!!」
アスラ「今度はなんだ?」
ゼラ「(レンショウ様に任されてからオレなりに説得の方法を考えたが、結局思いつかなかった。とにかく今できることと言えば後継者争いに参加していただくようお願いするしかない。アスラ様だって実力で後継者争いに敗れれば、その方を次期支配者として認めるだろう)」
ゼラは当たって砕けろの精神でアスラに懇願した。
ゼラ「アスラ様!!どうか今一度お考えくださいませ!!」
アスラ「断る」
ゼラ「そこをなんとか・・・なんとかお願いします!!」
アスラ「ダメだ」
住宅地のど真ん中で必死に土下座をするゼラ。
その光景を見て、避けて歩く人々や窓から覗き見る住民たち。
しかし、その中で美少女キャラクターが描かれたTシャツを着たオタクと思われる3人は興味深そうにアスラたちを見ていた。
オタクA「あの土下座をしている方・・・」
オタクB「随分と気合の入った魔王のコスプレですな」
オタクC「こんな所で同志と巡り合うことになろうとは」
オタクたちは、ニヤニヤしながらアスラたちに近づいてきた。
オタクA「失礼ですが、そちらのお方」
ゼラ「なんだ貴様らは?」
オタクB「見たところかなり気合の入ったコスプレですな」
ゼラ「失せろ、人間と話している暇はないのだ」
オタクC「ほほう、魔王へのなりきり度も凄まじいですな」
オタクA「それよりこれからメイドカフェに行くのですが2人とも一緒にどうですかな?」
しつこく付きまとってくるオタクたちにゼラは怒り心頭になる。
ゼラ「オレの言ったことが理解できないのか?去らねば貴様らを全員消すぞ」
オタクB「これは失礼しました魔王様」
完全に役になりきってると勘違いしているオタクたちは、ゼラの言葉にも動じない。
本格的にヤバいと思ったアスラは、オタクたちに去るように呼び掛ける。
アスラ「オレたちはそのメイドカフェとやらに行く気はない。お前たちだけで行って来い」
オタクA「わかりました。せっかくスペシャル萌え萌えケーキを食べながら語り合いたかったのですが残念です」
アスラ「ケーキだと?」
ケーキという言葉を聞いてアスラはここへ来た当初の目的を思い出す。
アスラ「(マミの急用で中止になってしまったが、ここへ来た目的を果たしておくのも悪くないな)」
アスラは期間限定のスペシャルケーキを出す喫茶店を探していることをオタクたちに告げた。
オタクA「それなら今我々が向かうメイドカフェのことで間違いありませんぞ!!」
アスラ「オレは喫茶店と言ったはずだが?」
オタクB「メイド喫茶もメイドカフェも言葉が変わっただけですよ」
アスラ「そうなのか?」
オタクたちの中では、すでに喫茶店=メイド喫茶となっていた。
アスラはオタクたちに連れられメイドカフェに一緒に行くことに。
ゼラもアスラの後を追うようにメイドカフェへついていった。
同じ頃、新体操の練習が休みだった4人もアスラのいる住宅街にやってきていた。
中山「急にごめんね、成美の家に行ってみたいなんて言っちゃって」
三崎「私は別に構わないわ」
森「成美の家って、どのくらいで着くんや?」
三崎「もう見えてきたわ。あそこが私の・・・」
家を指差しながら後ろを振り返ると風谷が固まったまま動いていないのが見えた。
森と中山も三崎に習って後ろを振り返る。
風谷の様子を見て3人は駆け寄ると、アスラとゼラがオタクたちと歩いているのが見えた。
あまりに意外な組み合わせに3人も言葉を失い、同じく固まった。
森「あれってどう見てもアスラ兄ちゃんとその手下やな」
風谷「なんであの2人がよりにもよってオタクたちと一緒にいるんだよ」
中山「一体どこに行くんだろう?」
三崎「この辺でオタクが行きそうなところは・・・あそこしかないわ」
風谷・森・中山「・・・・・・」
嫌な予感がした4人は、アスラたちの後をついていった。




