第14話 悲惨?馬越バファローズの監督の叫び
アスラは監督の話を聞くため椅子に腰かけた。
監督の飲んだ酒はアルコールの度数が高かったのか、顔が赤くなっていく。
酒を一気に飲み干し酔い潰れることで死への恐怖心を紛らわせようとした監督の苦肉の策だったようだ。
程よく酒が回ったところで監督は、ベラベラと話し始めた。
監督「貴様の言った通り、私は仕事の鬱憤を選手の指導と称して晴らしてきた」
この衝撃発言に、近くで聞いていた三崎は怒りで身体を震わせていた。
監督「そんな時、選手の親から相談が来た。どうしても息子に塾通いをさせたいから野球を辞めることに協力して欲しいとな。私にとって神がくれた絶好のチャンスだと思ったよ。これで選手に異常な八つ当たりをしても親に訴えられることはない。しかも金まで入ってくる。こんな素晴らしいことが他にあるか?」
アスラ「ないな」
監督「親同士のつながりとは恐ろしいものだ。望み通りに野球を辞めさせることに成功させると、あれよあれよという間に依頼する親たちでいっぱいになった。しかもその中には別のチームに所属している選手の親までいた」
アスラ「三崎の親もそんな感じだったのか?」
監督「まぁな・・・三崎の親は、いい金づるだ。あの親は今でも定期的に私に金を払っている。娘が野球を始めないように監視して欲しいと言ってな」
三崎「(そんな・・・まさかママと監督が・・・しかもお金まで払って)」
怒りで震えていた三崎の顔が一気に青ざめた顔に変わった。
監督「しかし、時代は変わったものだ。昔は親が子供に気を使うことなんて有り得なかった」
アスラ「親が子供に・・・か」
監督「今では子供によく思われたいと思う親がたくさんいる。私はその心理を突いて金を要求しているがな。昔と違って最近の親には威厳も何もない。今の時代は本当に腐っておるな」
アスラ「そう言っているが、その腐った時代の親を利用して好き放題やってるお前はそれ以上に腐っているということになるぞ」
監督「ふんっ、なんとでも言うがいい。さぁこれですべて話したぞ。もう帰ってくれ」
するとアスラは、ゆっくりと腰を上げた。
アスラ「お前の本心は、よくわかった。お前には今日で監督を・・・いやこの世界から消えてもらう」
監督「なっ!?こ、殺さないと約束したではないか!!」
アスラ「殺しはしない。ちゃんと約束は守ってやるから心配するな」
監督「な、なんだ・・・一体何をする気だ」
完全に酔いが醒めた監督は、震えながら後ずさりをする。
アスラ「怖がるな。お前をどうこうする気はない。ただお前を幸福に満ちた素晴らしい世界へ連れて行くだけだ」
監督「素晴らしい世界・・・だと?」
その瞬間、家の壁がうっすらと消えて行き代わりに森林が周りを覆い始める。
その風景の変わりように焦った監督はキョロキョロと辺りを見渡した。
監督「な、なんだ!?ここはどこだ!?一体どこなんだ!?」
アスラ「お前にとっての楽園だ」
監督「ふ、ふざけるな!!早く私を元の場所に帰せ!!」
焦りで監督は、アスラとの力の差を忘れてアスラの胸倉を思い切り掴んだ。
だがアスラは、監督の怒声にまったく怯まない。
アスラ「お前を元の場所に戻すつもりはない。お前は死ぬまでここにいるんだ」
監督「ば、バカな!!私はこんなところに絶対住まんぞ!!」
アスラ「なぜだ?たった今、今の時代は腐っていると言ったばかりではないか」
監督「こ、こんなの時代が戻り過ぎだ!!私の理想は昭和時代のことでこんな原始時代のことを言ってるんじゃない!!」
アスラ「どっちにしても今の時代に嫌気がさしていたんだ。予想以上の過去に戻っても問題あるまい」
監督「大ありだ!!」
アスラ「それより、あそこを見てみろ」
アスラの指差した方には、葉っぱ1枚になっている先住民族の姿があった。
監督「な、なんだ、アイツは?」
先住民族「あぁぁぁぁぁ!!!!」
大声で奇声を上げる先住民族。
監督は唖然として、その民族を見ていた。
アスラ「アイツらは、あのように大声を出しながら会話をする。声の小さいヤツが嫌いだったお前にとっては最高のヤツらじゃないか」
監督「こ、声が大きくても言葉が通じなければ意味がないだろ!!」
アスラ「お前には言葉などいらないだろ」
監督「な、なんだと?」
アスラ「言葉でなく身体で通じるんだろ?」
監督「そ、それは・・・それは野球での話だ!?」
アスラ「考え方に野球も日常生活も関係ない」
監督「そ、そんなのは、ただの屁理屈だ!!」
アスラ「それにアイツらの生活は男が外で動物を狩り、女は家の仕事をしている。子供も同様に男は外で狩りを学び、女は家の手伝いをする。お前の言っていた通りの理想の環境ではないか」
監督「そ、それとこれとは・・・」
アスラ「これ以上、お前の戯言など聞くつもりはない。お前は、あの連中とともに理想の生活を送れ」
監督「ま、待ってくれ!!あんな言葉も通じないヤツらと一体どうやって生活すればいいんだ!!」
アスラ「そんなことオレにいちいち聞くな。他のヤツの動きを見て理解しろ」
監督「なっ!?」
これまで選手たちに言ってきた言葉をすべてアスラに返されたことに絶句する監督。
その間にアスラは森から姿を消した。
監督「ま、待て、行くな・・・行くなぁぁぁぁ!!う、うわぁぁぁぁぁ!!!!」
先住民族「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
監督とそれに共鳴して叫ぶ先住民族の声は、虚しく森の中で響くだけだった。
アスラ「さて、これでとりあえず片付いたな」
監督の家に戻ってくると三崎が心配した顔でアスラのところへ走ってきた。
アスラ「どうした?」
三崎「か、監督はどうしたの?まさか殺しちゃったわけじゃないよね?」
アスラ「殺してはいない。オレはアイツが望む楽園へ連れて行っただけだ」
三崎「ら、楽園って・・・」
アスラ「アイツの望みがすべて揃った最高の場所だ」
三崎はそれ以上何も聞かなかった。
これ以上聞くと恐ろしいことを聞かされるような気がしたからだ。
アスラ「さて今度は、お前の母親の番だな」
その言葉に三崎はギョッとする。
三崎「ママに・・・一体何をする気なの?」
アスラ「お前が知る必要はない」
三崎「お願い!!ママには酷いことしないで!!」
必死に懇願する三崎を不思議そうに見るアスラ。
アスラ「理解できんな。お前から野球を奪った張本人だぞ?」
三崎「それでも・・・ダメなの」
アスラ「オレには信じられんな。それがお前の本心なのか?」
三崎「・・・うん。私の本当に望んでることは・・・」
次の日・・・
【今治体育館】
アスラは三崎の演技を見に今治体育館に来ていた。
大会に向けた練習で貸し切りにしているため、観客席には選手の親しかいなかった。
その中で中学生の容姿をしたアスラは、すごく目立っていた。
気になった三崎(母)がアスラに声をかける。
三崎(母)「ちょっといいかしら?」
アスラ「なんだ?」
三崎(母)「あなたの妹さんは、どこにいるの?」
アスラ「妹は、ここにはいないぞ?」
三崎(母)「え?じゃあ、あなたは一体どうしてここに?」
アスラ「わざわざ教える必要もないだろ」
三崎(母)「そ、それもそうね・・・」
自分にタメ口をきくアスラの態度に不快に思いながらも三崎(母)は考えた。
アスラのどことなく只者ではない感じ。
これは、きっと名のある新体操部の選手に違いない。
三崎(母)は、そう判断した。
三崎(母)「ところで、あなたは誰を見に来たの?」
アスラ「オレは、アイツを見に来たんだ」
アスラの指差す方向には、演技をしている三崎がいた。
三崎(母)のテンションは一気に上がった。
三崎(母)「さすがに新体操の名選手は見る目が違うわね!!」
アスラ「新体操の名選手?」
三崎(母)「とぼけても無駄よ。私にはすべて分かってるんだから」
アスラは意味が分からないといった表情になるが、三崎(母)は構わず話を続けた。
三崎(母)「それより、あの子の演技はどうかしら?完璧すぎて目立っちゃってます?」
アスラ「ああ。別の意味で目立ってるな」
三崎(母)「・・・え?」
含みのある言い方に三崎(母)の顔から笑みが消えた。
アスラ「動きは誰よりもキレがあり、他の奴らよりも目立つ」
三崎(母)「だ、だったら問題ないでしょ?別の意味で目立つってどういうことよ」
アスラ「他のヤツより目立つから、動きが少しおかしかっただけで他の人間よりもかなり目立って見えてしまう」
三崎(母)「あ、あ、あの子の動きの何がおかしいっていうのよ!!」
ついに三崎(母)はアスラに怒鳴り声をあげた。
だがアスラは表情一つ変えず答えた。
アスラ「おかしいどころか、あり過ぎて最悪としか言いようがないな」
この言葉に三崎(母)の怒りは一気に爆発した。
三崎(母)「一体なんなのよ!!子供の分際で!!あの子のコーチや監督にでもなったつもりなの!!たかが新体操の選手の分際で偉そうなことを言わないでちょうだい!!」
周りは一斉に三崎(母)に視線を向けるが一向に構わず怒鳴り散らす。
その迫力に近くにいた親たちは一目散に別の場所へと移っていった。
アスラ「お前は、アイツの身体能力をどのくらい理解してるんだ?」
三崎(母)「し、身体能力ですって?」
アスラ「そうだ」
三崎(母)「たとえば・・・何よ?」
アスラ「アイツの身体の柔軟性、腕力、脚力などだ」
三崎(母)「そ、そんなこと分かるわけないでしょ!!」
アスラ「そうか・・・だがオレには分かる。アイツの身体能力を完全に発揮すれば、もっといい動きになるはずだ」
三崎(母)「え?」
アスラ「オレの言っていることがわからないのか?アイツは全力を出しちゃいない。言ってみれば手を抜いた演技と言ったところだな」
三崎(母)「な、なんですってぇ!!あ、あの子の完璧な演技を・・・よ、よりにもよって手を抜いて・・・ゆ、許せない・・・絶対に許せないわ!!」
発狂し怒り狂う三崎(母)。
急いで他の親たちが止めに入る事態に。
アスラは三崎(母)のことは無視して別の親に話かける。
アスラ「新体操は、ミスさえしなければ高得点が狙える競技なのか?」
親「い、いや・・・ミスをしないことは最低限のことで、難易度や完成度、美しさも評価の対象になるわ」
アスラ「ほう」
親「それより、これ以上三崎ちゃんのお母さんを挑発するようなことは言わない方がいいわよ」
アスラ「オレは事実を言っただけだ」
親「じ、事実ねぇ・・・」
アスラは怒り狂う三崎(母)を一目見た後、観客席から去った。
休憩時間になると気持ちを落ち着かせた三崎(母)は上機嫌で三崎のところへ向かった。
三崎(母)「さすがね成美。完璧だったわ」
三崎「そ、そうかな」
コーチ「本当に今日はすごく良かったわよ!!表情も完璧だったし言うことなしだわ!!」
母親に続いてコーチも三崎を賞賛。
三崎としては、かなり複雑な心情だ。
三崎(母)「それにしても・・・」
三崎(母)は先程の出来事を思い出したようで急に不機嫌な顔になった。
三崎「そういえば、客席でママがかなり怒ってたって他の人が言ってたけど一体どうしたの?」
三崎(母)「どうもこうもないわよ!!あなたのことを悪く言うとても失礼な子がいたのよ!!」
三崎「失礼な子?」
三崎(母)「その子はね、よりにもよってあなたの完璧な演技を手を抜いた演技なんて言い出したのよ!!まったく、思い出すだけで腹が立つわ!!」
三崎「えっ!?」
その時、三崎の脳裏になぜかアスラの姿が浮かんだ。
三崎「そ、その人今どこにいるの?」
三崎(母)「さぁね、どこかに行っちゃったわ」
三崎「その人とちょっと話してくる」
三崎(母)「ちょっと成美!!」
三崎は走って休憩室を出て行った。




