第13話 三崎の涙 アスラの逆襲
【三崎の家】
三崎「ただいま」
三崎(母)「おかえり・・・ってどうしたのよ!?」
三崎「なにが?」
三崎(母)「その服の汚れよ。顔も泥だらけだし」
三崎「ちょっとね」
三崎(母)「ちょっとで、そうはならないでしょ?まさか野球をやってたんじゃないでしょうね?」
三崎「野球は・・・やってない」
三崎(母)「それならいいけど・・・それより今日コーチから連絡があったわ」
三崎「コーチから?」
三崎(母)「大会のメンバーに、あなたが選ばれたのよ!!」
三崎「え?」
三崎(母)「愛媛新体操クラブでは小学4年生は大会のメンバーには選ばれない決まりなのにそれが選ばれるなんて、あなたはやっぱり新体操の天才よ!!」
ハイテンションで喜ぶ母親に対して三崎は無表情だった。
三崎(母)「どうしたの?うれしくないの?」
三崎「いや・・・あまり実感が沸かなくて」
三崎(母)「それもそうね。早くシャワーを浴びてらっしゃい。今日は、お祝いよ!!」
自分の事のように喜ぶ母親を見て、三崎は複雑な気持ちになった。
大会のメンバーに選ばれたということは、練習も今まで以上に激しくなる。
そうなると野球との両立は絶対に無理だと三崎は思った。
三崎はシャワーを浴びた後、河川敷で景色を眺めることにした。
これは気持ちを落ち着かせるために三崎のやる習慣のようなものだ。
景色を眺めていると河川敷でキャッチボールをしている中学生が目に入った。
その光景を見て、三崎は馬越バファローズに在籍していた頃を思い出す。
【三崎の回想】
監督「よし、次いくぞ!!」
三崎「お、お願い・・・します」
監督「あぁ?聞こえないぞ?」
三崎「お、お願いします!!」
監督「聞こえんぞ!!やる気あるのか貴様!!」
三崎「お、お願いします!!」
監督「もういい!!グラウンドの隅で見学でもしてろ!!」
三崎「は、はい・・・」
声の小さかった私は監督にノックをしてもらったことがほとんどない。
監督は声が小さい人間はやる気がないとみなしてグラウンドの隅で練習の見学をさせていた。
最初は声が小さい仲間がある程度いたけど、みんな辞めて、いつの間にか私だけになった。
唯一の救いは、チームメイトのみんなが優しかったことだけ。
監督は自分の気に入らない選手には徹底して嫌がらせをして辞めるように仕向けてくる。
標的になった選手は、欠点をひたすら攻め込まれた。
私に関して言えば、声出しを強要。
練習内容が理解できない選手には、他のヤツの動きを見て理解しろと言って怒鳴り続ける。
特に欠点が見当たらない選手には、少しミスをしただけで、そのミスを一日中持ちだして嫌味を言う始末。
監督は現代のあり方について酷く不満に思っており昭和時代の持論を私たちに無理強いしてくる。
女の子が野球をやることに対してもかなり否定的だった。
だから私に対して声が小さいこと以外にも、女であるということを引き合いに出して辞めるよう言って来た。
野球は男がやるスポーツで女がやるものではない。
女のお前は部屋で折り紙でもやってろなど。
そんな監督の暴言に泣き出す子は何人もいた。
それでも監督は容赦なく怒鳴り続ける。
そうやって自分の気に入らない選手は、どんどんチームから追い出し、結局監督の標的で残ったのは私と田村先輩だけだった。
私と先輩は監督に何度も怒鳴られても嫌味を言われても休まず練習に来ていた。
野球が好きなこともあったけど、練習に出続ければいつかきっと監督は私たちの事を見直してくれる。
そう思っていた。
でもそんな私たちの思いも虚しく、監督は掛け持ち禁止令を出して私たちを辞めさせた。
【三崎の回想終】
三崎は少しため息をついて、再び河川敷を眺める。
三崎「私って本当に野球と縁が無い。もしかして神様が私に野球をしちゃいけないって言ってるのかな」
誰もいなくなった河川敷で独り言をつぶやく三崎。
その時、後ろからアスラに声をかけられた。
アスラ「おい」
三崎「!?」
急に声をかけられ、驚きながら振り返る三崎。
三崎「ど、どうしたの?」
アスラ「その目はどうしたんだ?」
三崎「え?」
気が付くと三崎は泣いていた。
アスラ「それは悔しいという意味なのか?それとも喜んでいるという意味なのか?」
三崎「どっちでもない。悲しいって意味かな」
アスラ「悲しい?そんな感情聞いたことが無いぞ?一体どういう時にその感情は起こるんだ?」
三崎「それは・・・いつかわかる時が来ると思う」
アスラ「そうか。それよりお前に、これを持ってきた」
アスラは夕食を三崎に手渡した。
三崎「これは?」
アスラ「言い忘れていたが、これから飯の管理はオレがやる。これは絶対条件だ」
三崎「・・・・・・」
三崎は俯いて無言になった。
アスラ「どうした?」
三崎「ごめんなさい・・・私は・・・やっぱり最強の野球選手を目指せない」
アスラ「・・・・・・」
三崎「本当は野球がしたいのに・・・」
三崎の目からまた涙が溢れ出す。
アスラ「お前は野球がしたいんだな?」
三崎は黙って頷いた。
アスラ「よし、ならば安心しろ。オレの配下になった以上、特訓の妨げになるような要素はすべてオレが排除してやる」
三崎「え?」
アスラ「その前にお前が最強の野球選手を目指せなくなった理由について知りたい。そのことについて詳しく話せ」
三崎「わ、わかった」
三崎は、これまでの経緯をすべてアスラに話した。
話を聞き終えるとアスラの表情に変化はなかったが、空間が歪み亀裂が生じ始めていることからかなり怒っていることがわかる。
その異常現象に三崎は目を丸くして驚いた。
三崎「あ、あれは一体なんなの?」
アスラ「あれか?あれはオレの怒りが収まれば消える」
三崎「い、怒りが収まればって・・・あなたは一体何者なの?」
アスラ「だから言っただろ。オレはバケモノだ」
三崎「ば、バケモノって・・・」
アスラ「そんなことよりさっさと行くぞ。オレがお前の敵を取ってやる」
三崎「・・・う、うん」
アスラ「オレの配下に手出しすると、どうなるかヤツらに思い知らせてやる」
アスラはこの上ない邪悪な笑みを浮かべ身体からは赤黒いオーラが溢れていた。
そして・・・
2人はとある1軒屋に来ていた。
三崎「ここどこ?」
アスラ「馬越バファローズの監督の家だ」
三崎「えぇっ!?なんで監督の家を知ってるの!?」
アスラ「今日知り合った田村というヤツに教えてもらったんだ」
三崎「田村って・・・田村先輩のこと?」
アスラ「ああ。ソイツから、ヤツのことをすべて教えてもらった」
三崎「す、すべてって一体どんな?」
アスラ「今にわかる」
アスラは三崎を玄関先に待たせた後、ドアを破壊して家に入った。
家には監督が大音量でテレビを見ながら1人で酒を飲んでいた。
アスラ「お前が馬越バファローズの監督だな」
監督「な、なんだ、貴様は!?どこから入ってきたんだ!?」
アスラ「ちゃんと玄関から入って来たぞ」
監督「ふ、ふざけるな!!ドアには鍵をしてあるんだぞ!!」
アスラは破壊したドアノブを監督に見せた。
監督「なっ!?」
アスラ「お前が、ドアにどんな結界を張ったか知らんがオレには通用しない」
そう言ってアスラは持っていたドアノブを握りつぶしていく。
監督「ひっ!?」
アスラ「オレの質問に正直に答えろ。ちゃんと答えれば殺したりはしない。そうでないと今度は、お前を握りつぶすことになるぞ」
監督はブルブルと震えながら静かに頷いた。
アスラ「田村と三崎のことは知っているな」
監督「た、田村と三崎だって!?」
2人の名前に監督は明らかに動揺していた。
アスラ「三崎から聞いたんだが、お前は気に入らない選手を目の敵にして野球を辞めさせていたようだな」
監督「ち、違う。私はそんなことはしていない!!」
アスラ「そんなはずはない。現にお前のせいで多くの人間が辞めていってる」
監督「ちっ、違う!!本当に違うんだ!!私は選手たちの親に頼まれて仕方なくやってただけなんだ!!」
アスラ「ほう」
監督「だから私は悪くない!!悪いのは、親たちだ!!」
アスラ「無駄な悪あがきは辞めろ。オレはすべて知っている。お前は親に協力する代わりに、かなりの金を要求していただろ」
監督「な、なぜそれを!?」
アスラ「田村の父親から聞いた。当然他の親にもな」
監督「ぐっ!!」
必死に言い訳を考える監督にアスラがゆっくりと近づいてくる。
アスラ「お前・・・正直に答えなかったな」
監督「ひっ!?」
アスラ「どこを潰されて欲しい?好きなところを言え」
監督「ふ、ふふふふ。ふひひひひ」
監督は、追い詰められて頭がおかしくなったのか不敵に笑い始めた。
アスラ「何が、おかしい?」
監督「こ、これは夢だ!!こんなところで私が死ぬなんてきっとこれは夢だ!!そうだ!!そうに違いない!!」
現実逃避をしておかしくなった監督を見て、アスラはやれやれといった感じで監督の首を掴んだ。
監督「うぐっ!?」
アスラ「仕方がないからお前に、もう一度チャンスを与えてやる。だが今度、正直に答えなかったらこの首を握りつぶす」
アスラの手に力が入り、呼吸が苦しくなった監督は足をバタバタさせながら必死に何度も何度も頷いた。
アスラは手の力を緩め、監督に質問する。
アスラ「お前練習の時、自分の中にある不満を選手にぶつけて楽しんでいるだろ?」
ギクリと顔を強張らせた監督は、恐る恐る頷いた。
この時、監督は思った。
このまま真実を話し続けたら自分は間違いなく殺される。
そう思った監督は自分の身の安全を確実なものにするため、アスラに交渉を持ちかけた。
監督「も、目的はなんだ?か、金か?金が欲しいならやる。だから命だけは助けてくれ」
アスラ「そんなものはいらん。正直にすべてを話せば命どころかお前の身体に一切の危害を加えないと約束してやる」
この言葉に監督はかなり悩んだ。
アスラの言葉はとても信用できるとは思えない。
だが約束という言葉は、追い詰められている監督の心をかなり揺さぶった。
そして監督は持っていた酒をグイッと飲み干し、話し始めた。
監督「わかった・・・すべてを話そう。この馬越バファローズのすべてをな」




