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 エレクトラの剣は、いささかも震えることなく、獲物を射程に捉えた蛇の牙のようにリベルタに向けられていた。リベルタは、エレクトラの向こうに立つフリージアに呼びかけた。

「フリージア、あなたは他の連中を捜して」

「でっ、でもリベルタ!」

「私がこいつを抑える。その間にみんなを呼んでくれば、数で圧倒できる」

 まるで身も蓋もない指示に、エレクトラは思わず吹き出した。

「存外、プライドはないようだな。ふたりがかりなら、この私を今ここで仕留められるやも知れんぞ」

「いいえ。あなたは只者じゃない。私達ふたりでは、勝つことはできない」

 リベルタはそう断言した。エレクトラの表情に真剣さが戻る。

「なるほど。ならば望み通りにしてやろう」

「フリージア、行きなさい!」

 リベルタの一喝に、フリージアは背筋を強張らせながらも、決意した顔で頷くと、背を向けてその場を走り去った。フリージアの姿が見えなくなるのを合図に、エレクトラはすかさずリベルタに踊りかかった。刃の噛み合う音が、氷の通路に響きわたる。

「ほう。使えるのは弓だけではなさそうだな」

「くっ…!」

 リベルタは、この剣撃がエレクトラの様子見のである事を理解していた。リベルタの剣技の程度を知るために、手を抜いているのだ。対してリベルタは、その手抜きの一閃を受け止めるので精一杯だった。

 エレクトラは容赦なく、さらに畳み掛けてきた。そのたびに、リベルタは押されてゆく。エレクトラの剣は、少しずつ速くなっていった。やがて、リベルタは壁際にまで追い詰められてしまう。

 実のところ、リベルタはエレクトラを抑えられるとは思っていなかった。それを見抜いたのか、エレクトラは鍔の根本でリベルタの剣を押さえつけると、唇が触れそうなほど接近して言った。

「リベルタ、きさま初めから私を抑えられるなどとは思っていまい」

 さらに剣を押し込む。力の差は歴然としていた。エレクトラの剣の刃が、リベルタの首筋に近付く。

「きさまは初めから、あのフリージアという娘を逃がす事しか考えていなかった。私との力量差を、戦わずして見抜いていたのだろう」

「さあね。まだ、奥の手を隠しているかも知れないわよ」

「ほう。ぜひ見たいものだ」

 エレクトラは笑う。冷徹そうな外見に反して、その性格は好戦的であり、饒舌でもあった。そのときエレクトラは、交わる剣の手もとに視線を落とした。

「きさま、リベルタ。左右で腕が異なるのはなぜだ?」

 それは、圧倒的な力の差を持つがゆえの余裕か、あるいは純粋な興味だったのだろうか。エレクトラはリベルタの右手の指が、関節の部分でわずかに左手より堅固な造りをしている事に気付いたようだった。

 それが、直接相対して話をした事もない氷魔、アルマンドのものである事をリベルタは再び思い起こした。アルマンドはマグショットに敗れ、主であるロードライトが、彼女の腕をリベルタに移殖してくれたのだ。

 リベルタは思った。ここでたやすく負けては、右腕の本来の主、アルマンドはどう思うか。だが、エレクトラは思いに耽る暇など与えてはくれなかった。

「よもや、それがきさまの苦し紛れに言った、文字通りの奥の手とやらか」

 押し込んでいた剣をあえて離すと、エレクトラは凄まじい速度でリベルタに斬りつけてきた。後ろ髪を結い上げていたシュシュが切断され、長い髪が風に舞う。

「この方が美しいな」

 さらに一閃、また一閃をエレクトラが加えると、リベルタの両袖が切り裂かれ、エレクトラが見抜いたとおり、左右でわずかにデザインが異なる両腕が露わになった。リベルタはその圧倒的な実力差に、接近戦では勝つことは不可能だと悟った。さすがに、皇帝側近ヒムロデの直属の配下と納得せざるを得ない。

 一か八か、このたった一本の剣のみで恐るべき強さを見せる敵に肉迫するには、リベルタの弓で対抗する以外にない。だがこの通路内で、この俊足の相手に弓を引くだけのリーチを確保するのは、至難の業だった。

「やはり造りが異なるな。右腕のその造りは、格闘型の氷魔によく見られるものだ。格闘の心得があるということか?」

 エレクトラは再びリベルタに迫り、剣を交差させたまま壁に押し込む。リベルタの首筋に、白刃の輝きが反射した。

 ここまでか。リベルタが死を覚悟した、そのときだった。

「!」

 リベルタは確かに見た。いまにも自分の首を刎ねようとする、エレクトラの背後に、ドレスをまとった長髪の女が、確かに立っているのを。リベルタはそれが、アルマンドだとわかった。

 アルマンドはその真剣な眼差しを、リベルタに向けた。鋭く、心を射抜くかのような瞳だ。その眼差しで、リベルタはその全てを理解した。

「ありがとう、アルマンド」

 ふいに口をついて出たその名に、エレクトラが怪訝そうな目を向けた。リベルタは追い詰められた態勢のまま。不敵に微笑む。

「残念ね、エレクトラ。いまここにいるのは、ひとりじゃない」

「なに?」

 エレクトラがほんの一瞬のそのまた一瞬見せた、ごくわずかな隙をリベルタは見逃さなかった。次の瞬間、エレクトラはリベルタの行動に、まさしく目を瞠った。

「なにっ!」

 リベルタの首が、わずかに左に逸れた。すると、リベルタは押されていたその剣を、あえて後方に引いたのだ。前方に向けて剣を押し込んでいたエレクトラは、自らの力によって前方にバランスを崩してしまう。

 エレクトラの剣は、リベルタの首を落とすかというほどのギリギリの位置で、壁に阻まれて止まってしまう。その間隙をついて、リベルタは横に回避すると同時に剣を引き抜き、エレクトラの喉元めがけてその切っ先を突き出した。

 エレクトラは間一髪、これもまた見事な動きでその剣を受け止めながらも、姿勢を低くして回避する。両者は互いに危険と見るや、素早く距離を取って対峙した。

「リベルタ、きさま」

「言ったでしょ、奥の手があるかも知れないって」

 そう言い放つと、リベルタの背負っていた弓がエネルギーの粒子となり、左手に吸い込まれて格納されてしまった。

「あんたと戦うには、大きな弓はちょっと邪魔になりそうなものでね」

「誤魔化すな。いまのきさまの動きは、さきほどまでの動きではない」

「だったら?」

 リベルタは左手に剣を持ち替えると、右手でエレクトラを挑発してみせた。エレクトラは笑みを浮かべると、あらためて剣を水平に構える。

「いいだろう。その剣に訊いてやる」

 エレクトラは、今度は恐ろしいまでの突きを繰り出した。それは湾曲した剣に沿ってわずかに弧を描いており、獣の牙のようにリベルタの喉を狙ってきた。

 だが、リベルタはほんのわずかに身をそらすと、またしても驚くべき行動に出た。エレクトラの突き出した剣を避けると、その腕を掴んで引き寄せたのだ。エレクトラは自らの勢いでそのまま前方に押し出され、リベルタはその腰に強烈な肘鉄を喰らわせた。

「ぐああっ!」

 エレクトラはそのまま壁面に激突し、姿勢を崩す。そこへ間髪入れず、リベルタは剣を突き出した。

「うっ!」

 今度は先程と逆に、エレクトラが壁に追い詰められる構図となって、両者の剣が交差した。

「…どういうことだ」

 エレクトラの目には、信じられないというよりは、納得しがたいという色が浮かんでいた。

「初めの打ち合いで、私はリベルタ、きさまの剣の技量を見抜いたと思った。少なくとも接近戦について言うなら、フリージアとやらの方が強かったとさえ思える。だが、突然別人のように、きさまの動きが洗練された」

「当然よ。この右腕には、武術の達人の魂が宿っているのだから」

「なに?」

「人の力を借りなきゃいけないのは、ひとりの武人としては少しばかり情けないけどね!」

 今度はリベルタが剣を繰り出した。エレクトラはその剣を、容易くとはいかないまでも受け止める。だが、そこからの動きがエレクトラの予想を超えていた。

 リベルタは交差する剣を軸にして身体をひねるように回転すると、エレクトラの剣を押さえる形で、その横に出た。エレクトラはその動きの秘訣を即座に理解したが、対応することはできなかった。

「せええーいっ!」

 リベルタは剣を離すと、間髪入れずエレクトラの腰に、強烈な膝蹴りを繰り出した。

「ぐはっ!」

 エレクトラは再び弾き飛ばされ、どうにか受け身は取りつつも、床に肘をついてしまう。そこへ、リベルタは剣を突き出した。

「くっ!」

 間一髪、首を刎ねられるかという所で、エレクトラはその剣を受け止めた。

「きさまの、この剣さばきは…これは剣士のものではない。格闘家どもが用いる剣だ」

 追い詰められた態勢のなか、エレクトラは気味が悪いほど冷静にリベルタの剣さばきを分析した。

「もしやその右腕、本来はリベルタ、きさまの物ではないということか」

「そうよ。これは、私が受け継いだもの。私に力を貸してくれた。その子の分まで私が戦う」

「ふっ」

 エレクトラはリベルタの剣を弾くと、即座に壁を蹴って跳ね返り、態勢を整えた。

「死んだ者が力を貸すなどと、あり得ない事だが…よかろう。二人がかりで私に肉迫できるかどうか、やってみるといい」

 

 ◇


 同じ頃、フリージアはようやく百合香達と合流を果たしていた。

「リベルタが!大変なの!只者じゃない!みんな、リベルタを助けて!」

「落ち着いて、フリージア。リベルタはどこ」

 興奮するフリージアの肩をつかんで、百合香はどうにか落ち着かせる事に成功した。

「こっ、皇帝側近の部下とかいう奴が現れて、リベルタがみんなを呼んで来い、って」

「皇帝側近の部下?」

 百合香はルテニカ達を見た。人間の百合香は、そもそも氷魔皇帝やその配下について、いまだ何も知らないのだ。

「氷魔皇帝ラハヴェの側近、情報ではヒムロデという名のみが知られています」

「その直属の配下の隠密、暗殺集団に違いありません。だとすれば、相当な手練れ。急がないと」

 ルテニカとプミラに諭され、百合香はフリージアの目を見た。

「フリージア、リベルタの所に行きましょう」

「うん!」

 フリージアが頷いた、その時だった。突然、全員が立っている床が、ぐらりと揺れた。

「うわっ!」

 右腕を失っているヒオウギがバランスを崩して、壁に左手をつく。

「なっ、なんだ?」

「鳴動が強くなっているようです!それに、これは…何か、正体不明の思念のようなものも…」

 ダリアが、不安そうにルテニカ達に確認を取った。ルテニカとプミラも同意する。

「どうやら、例の礼拝堂に関連する謎の、正体が原因とみて良さそうです」

「ここにいて安全だとは思えません。我々の退避という意味でも、すぐにここを移動しなくては」

 ルテニカとプミラに頷くと、百合香はフリージアに言った。

「先導して!」

「はい!」

 フリージアを先頭に百合香たち一行は、謎の鳴動がいよいよ物理的な振動に変わった中を、脚を取られながらもリベルタのもとに急いだ。


 ◇


 エレクトラは、それまでとは変わって慎重に、リベルタの動きを観察しながら、一定の距離を保って対峙していた。剣はつねにリベルタを捉え、攻めるにも守るにもギリギリのリーチを崩さない。

「どうした。攻めて来ぬのか」

 あまり挑発的とも言えない声色で、エレクトラはリベルタに、僅かに剣を突き出す仕草を見せた。リベルタは剣を後ろ上段に水平に構え、エレクトラの動きに集中する。

 そのとき、床が大きく揺らいだ、その瞬間だった。リベルタは一気に踏み込むと、エレクトラの剣を絡め取るように突き出した。

 だがエレクトラは、こんどは冷静に突きをかわしてみせた。リベルタの剣は大きく上に弾かれる。その隙をついてエレクトラはリベルタの首を狙って突きを繰り出したが、それを予期したリベルタは素早くそれを下方にいなした。

「なるほど」

 再び距離を取ったエレクトラが、今度は突きの態勢でリベルタに向かい合った。

「私に弓を放つ隙を作らせたい、そう思っているだろう、リベルタ」

 エレクトラは、気付かないほど僅かにリベルタに接近した。

「なぜあのような真似をした?無作為に壁を撃ち抜いて、何がどうなる。レジスタンスがここにいると、我々に教えるのに等しいのではないか」

「あなたには関係ないわ」

「この、正体不明の振動とは関係ありか」

 エレクトラの推測に、リベルタの眉が僅かに動いた。

「図星か」

「予想外の事態が起きたものでね」

「さては、得体の知れない相手に我々城側の兵力をぶつけさせよう、などと考えていたのではあるまいな」

 今度こそ図星を突かれた様子で、リベルタは眉間にしわを寄せた。エレクトラが笑う。

「ふふふ、あんがい策士のようだな。現にこの私が今、こうしてここにいるからな。私と、何者かわからぬ相手が戦っておれば、その相手の正体を見極められたかも知れんな」

「今からでも向かって欲しいけどね。この、気味が悪い振動のする方に」

「もとより、我々はそれを調べるために来た。だが、きさまのような手練れのレジスタンスを、行き掛けの駄賃に始末できるなら一石二鳥だ」

 それは本音かどうか、リベルタには測りかねた。なぜなら、エレクトラの表情には微かに笑みが浮かんでいるからだ。まるで、この闘いを愉しんでいるように。

 床や壁面の振動はさらに大きくなった。エレクトラはリベルタに神経を研ぎ澄ましつつ、振動にも注意を払っているようだった。

「残念だが、仕事が優先だ。貴様とは早々に決着をつけねばならんようだな!」

 まさしく目にも留まらぬほどの速度で、エレクトラはリベルタの胸を狙ってきた。リベルタはそれを、絡め取るように剣でいなしつつ、エレクトラの横に出る。

 だがそこで、エレクトラが反応した。リベルタが裏拳を打つと、それを予期していたかのように姿勢を下げて、それをかわしたのだ。

「あっ!」

 リベルタが驚く間もなく、エレクトラはリベルタの剣を弾き飛ばすと、さきほどのお返しとばかりに腹部に掌底をお見舞いした。

「げうっ!」

 リベルタはその場に膝をつく。その隙ををエレクトラは逃さない。無言で、リベルタの脳天めがけて白刃が閃いた。

 だが、今度はエレクトラが驚きの声をあげる事になった。

「なっ…なに!」

 エレクトラは、渾身の力で振り下ろした剣が、リベルタの脳天に届く前に、何かの力に止められたのだ。エレクトラの剣を止めたもの、それは刃を両側から挟むリベルタの両手だった。

「でええーいっ!」

 リベルタが気合いとともに、エレクトラの剣を根本からへし折る。剣を失ったエレクトラは、リベルタの足払いをかろうじて避けるものの、丸腰で後退することになった。心底驚嘆した表情で、エレクトラは訊ねた。

「まさか、私の剣を取るとは…私の動きを見抜いていたのか」

「あなたは私の動きが、受け身の動きだと見抜いていた。当然、それに対応した動きを見せるはず。であれば、そこに隙を見出だせると賭けたのよ」

「ふ…見事だ。と、言いたいがな」

 エレクトラは、何か含むような笑みを浮かべた。

「私を単なる剣士だと思っているのなら、それは間違いだ」

「なんですって」

 リベルタがエレクトラに間髪入れず蹴りを放とうとした、そのときだった。

「うっ!?」

 リベルタは、自身の身体がまるで動かない事に気付いた。まるで何かに縛りつけられたように、立ったまま指輪一本動かす事ができない。

「こっ、これは…」

「さきほどの掌底の一撃で、私はお前の全身をマヒさせたのだ。よもや蹴りを放つ余裕を与えるほど、時間がかかるとは思わなかったがな」

「ぐっ…!」

 リベルタは必死で動こうとした。だが、身体は動いてはくれなかった。エレクトラが、琥珀色の瞳を冷たく光らせて、リベルタに歩み寄る。

「残念だよ、リベルタ。もう少しお前と愉しみたかったがな」

 リベルタが持っていた剣を拾い上げると、エレクトラは容赦なくその喉元めがけて、切っ先を突き出した。

 だが、エレクトラはそれ以上剣を突き入れる事はできなかった。

「むっ!」

 リベルタの首が落ちようとしたその刹那、エレクトラは通路の奥から一直線に飛来したエネルギー波を避けなくてはならなかった。

「何者だ」

 驚きはしつつも態勢は一切崩す事なく、エレクトラは近付いてくる足音に眉をひそめた。

「リベルタ!」

 先頭を切って走ってきたのは、右腕を失い、左手に扇を構えたヒオウギだった。

「お前が城の忍者だか何だかだな!」

「残念だけど、ここまでよ!」

 ヒオウギと剣を構えた百合香が、リベルタの前に立つ。遅れてフリージア、ルテニカ、プミラ、ダリアが駆けつけた。エレクトラは不敵に笑う。

「ふっ、レジスタンスどもがわざわざ殺されに、雁首を揃えて現れたか」

「この面子を前にして、ずいぶんな度胸ね」

 百合香が一歩進み出る。その姿を、エレクトラは興味深げに眺めた。

「ほう。さてはきさまが、噂に聞く謎の銀髪の剣士か。どれほどのものか興味はあるが、残念ながらきさま達を相手にしている時間はない」

「逃げる口実なら、もうちょっとサマになるセリフを言うことね!」

 百合香が斬りかかる。しかし、その剣は容易く受け止められてしまった。

「ふっ、こんな鈍い動きで私を捉える事はできんな―――なに?」

 エレクトラは、受け止めた自分の剣が押されているのに気付いた。

「なっ、この力は…」

「なめるんじゃないわよ!」

「ぐっ!」

 リベルタを上回るその腕力に、エレクトラは警戒して飛びすさる。百合香が畳み掛けようと踏み出した時、動けないリベルタが叫んだ。

「リリィ!そいつは只者じゃない!まだ実力を隠してる!」

「えっ?」

 リベルタの忠告に一寸立ち止まった百合香=リリィに、エレクトラは不敵に笑った。

「ふっ、隠しているのかいないのか、どっちだろうな」

「どっちでもいいわ。倒してしまえば関係ない!」

 百合香は、聖剣アグニシオンを構えると、自らのエナジーを瞬間的に高めた。それは周囲に太陽風のような波動となって拡がる。エレクトラは、その圧力に驚いて身構えた。

「うっ!」

「受けてみなさい!」

 百合香は、剣を右後ろに大きく両手で引き、青白く輝く剣をエレクトラめがけて振り下ろそうとした。


 その時。


 まるで百合香の剣が引き金となったかのように、床を震わす振動が一瞬、ぴたりと止んだ。エレクトラ含め全員が、その変化に気付いて息をのむ。だがそれは、本当の変化の前触れでしかなかった。

「なっ、なに!?」

 先に百合香たちを飲み込んだ、あの黒い霧にも似ている闇が、一瞬で視界いっぱいに拡がった。だが今のそれは霧というより、闇の海とでもいうべき無重力感をともなう、不気味な思念の洪水だった。

 洪水はその場にいる全員を飲み込み、闇の渦の奥底へと吸い込んだ。

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