クレーマー、クレーマー
「なんだよ!ここのチキンは!!油が悪いんじゃないのか!!!」
ここはどこにでもあるコンビニ。そこでどこにでもいそうな中年の男がレジの店員にきれ散らかしていた。
「何黙ってんだ。お客をそんな扱いかええ?」
店員は何も言わずじっとしていた。よく見ると少々震えているようである。
「こんなんだからコンビニなんかで働いている若い奴はダメなんだ。SNSで拡散するからな。」
そう文句を言いながらチキンの値段をタダにしようと男は画策しているようだ。そんな光景が繰り広げられているとようやく店員が口を開いた。
「あなた、もしかしてクレーマーですか?」
「?。だったらなんだ?」
そう男が言った瞬間に店員は素早く男の手を取った。
「感激です!!握手してください!!!!」
「・・・・・・は?」
男は突然の出来事に目が点になった。
「僕、店員にケチつけるクレーマーなんて噂程度でしか聞いたことありませんでした!もう都市伝説じゃないかと疑ってた程です!!だから実物を見れてすごく感激してるんです!!!!」
この店員は男をネッシーか何かだと思ってるのだろうか。
「握手だけじゃ物足りない!!サインもらってもいいですか!?ついでに写真も撮らせてください!!インスタに上げるんで!!!」
パシャッとスマホで男と店員のツーショット写真が撮られた。誰が得するのだろうか。
「いやぁ~、感激だ。まさか生きているうちにこんな絵に描いたようなクレーマーに出会えるなんて。涙が出てきた。」
野球部が甲子園で優勝した時ばりの涙を店員は流す。
「そうだ!同僚にも教えよう!おーい!在庫整理の佐藤!二番レジの田中!揚げ物担当の上田!副店長の鈴木!店長の龍豪院!うわさに聞くクレーマーが我がコンビニにおわしめされたぞ!!!!!!」
レジの奥から店員がわらわらあふれ出してきた。
「あなたホントにあのクレーマー!?」「実物を見れるなんて感動だ!」「写真撮りますね!ツイッターに上げるんで!」「むう、これがあのクレーマー。まさか実在したとは。」「これで我がコンビニも箔がつくというものだ。」「コンビニ店長人生3年!まさかこのような事態にお目にかかれるとは!!」
コンビニ店員が集まり胴上げが始まった。わっしょいわっしょいと男が天と地を上下する。英雄並みの歓迎を受ける中、男はこう思った。
(もう、クレームを付けるのはやめよう。)