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短編集まとめ  作者: 岩ノ森
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ブレイクスルー

ブレイクスルー 

コンクリートの地面から照り付ける太陽の放射熱がもうもうと上がってくる昼下がり、男はスクラップの山の中に横たわって寝ているキリストの十字架に向かって痰を吐いた。太陽でスクラップが焼かれている、その中にいる男はオーブンの中で焼かれているローストチキンの気持ちを理解した気になった。十字架もまた俺と同じ気持ちなのだろうか、いや宇宙に誓ってそんなことはないだろう。十字架に、いやキリストに、いや神に感情はない。この世に不在のモノが熱いだの苦しいだのといった感情をどうやったら持つことができるのだろう?

数年前、といっても具体的な数字は忘れてしまったが、科学の発展は究極に達しこの宇宙のすべてが解明されたと全世界に報道された。フェイクニュースの方がまだ信憑性があるその情報は全人類が知る所となり、我々人類は神のごとく豊かなステージに移行できるだろうとあらゆる人々がバラ色の思考を享受した。そしてラジオやテレビ、スマホなどといったメディア機器からは次のような情報が放出されてきた。

「全宇宙の謎、仕組みが解明されました。そしてそのことで証明できることはこの世に神といった存在は存在しないということです。」

バラ色がくすんだ瞬間だった。

 あらゆる人間には、代々無宗派を旨としてきた人々にすら、人類がこの世に生を受けてから遺伝子的に培ってきた神への信仰心と神という存在への信頼がある。所謂集合的無意識と呼ばれる数千年、あるいは数万年もの永いあいだ絶対的存在へと向けられていた無意識的宗教は、数百年程度で台頭してきた科学の手によってひび割れ地に落ち大脳旧皮質に築かれていたエデンの園は破壊し尽くされた。

 「神や天国地獄が存在しない、死んでもどこにも行けないのなら生きてる間に好きなことをしまくればいい。」

悪いことしたら地獄に落ちる、誰もが親に教えられ続けてきた漠然とした死後の世界に対する恐怖という鎖がなくなったとき、人々はタガを外し、憎き知人への制裁、無理やりな交合、金や地位などといった価値観の廃棄などを行った。宗教が意味をなさなくなっただけでない、古代宗教観から形作られた道徳や倫理も同時に意味をなさなくなってしまったのだ。今、人類は完全に神の恐怖と束縛から解放されたのである。


 「料金は5000円になります。お大事に」

 赤十字のマークが引っぺがされた病院を後にし、男は太陽熱と放射熱の間をぶらぶら歩いた。ひび割れとコケに彩られた寺院墓地を尻目に鳥居の前に設置された自販機からなけなしの金でタバコを買った。しばらくぶらぶら行くとおそらく協会を改造した酒場が見えてきたので、そこに入った。店員に案内され店内の隅っこの席に座り男は煙草にライターで火をつけた

 「お客様。店内は禁煙となっております。」

男は言った「いいだろう、お客様は神様なんだから。」

 


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