五行山
「判決、被告人を五行山の刑に処す。」
西遊記の孫悟空をご存知の人は多いかもしれない。その孫悟空が天竺の神に戦いを挑みその刑罰として五行山という山の下に500年も閉じ込められていたという話も有名だろう。
男が罪を犯したのも今からたぶん500年ほど前であった。どんな罪を犯したのかは忘れてしまったがこんな刑罰が施行されるほどである、よっぽどあくどいことをしたのだろうと男は唯一残った頭で考えていた。
男は500年間、刑を執行され続けていた。体の四肢はおろか、首から下をすべて取り除かれ、生命活動は脳に直接接続された機械で取り行う。エネルギーは最先端の反陽子エネルギーで賄っているため、たとえ今から5分後に巨大隕石が落ちて人類が滅亡したとしても男は生き続ける。というよりこの刑罰は未来を担う反陽子エネルギーの実験も兼ねて施行されているのだ。男は体のいいモルモットだった。怒りに感情を任せようとしても体がないため感情を表現することもできない。唯一残った頭部は最も発展している街中にさらされ通りがかる人々の好機や憐みなどといった目線に晒され続けるのだ。山の下敷きになって動けない孫悟空の話になぞらえて五行山の刑、勲章物のネーミングである。
500年間、男は様々な人間を見てきた。磔にされている男を見て笑うもの、ゴミを投げつけるもの、憐みを感じ涙を流すもの、写真を撮ってネットに上げるもの、澄ました顔で薄っぺらい神の教えを説くもの、様々な人間の欲と自尊心が脳みそにインプットされていった。
男が刑を受けて800年くらいしてからだろうか、大規模な戦争が地球全土で起こった。男のいる街も爆弾の豪雨で破壊しつくされ、この間まで生きていたものがカラスが散らかしたゴミのように地面に散らばっていた。きっとほかの街や国でも似たようなことが起こっているのだろう。しかし未来永劫動き続ける機械に接続されている男だけはどんな閃光を浴びようとも死にようがなかった。
爆弾が地球全土を更地にし2万年ほど経ったころ、地球に新たな知的生命体が生まれ始めていた。最初は夜の暗闇や他の獣たちに怯えていたその生命体は自らの力のなさを埋めるように徒党を組み、骨を削り武器を作り、獣の皮を纏い寒さをしのいだ。
そして生命体どもは首から下のない磔にされている存在に出会った。その存在のふもとには生命維持の機械がショートしたのか炎が燃えていた。生命体はその炎を使いより一層獣たちを駆逐し、肉を焼き、体を暖めこの世の覇者となった。生命体どもは磔にされている存在を偉大なるものとして崇めた。
生命体どもが言語や文化を習得する時間が流れたころ、男はまだ生き続けていた。しかし数万年動き続けた機械はショートを起こし、男から視覚を奪っていた。
生命体どもはその存在を信仰し崇め続けた。いつぐらいだろうか、その生命体どもの有権者であろうものがその存在に偉大なる宣託の享受を迫った。
男は言った。 「光あれ。」と