絶望(規制バージョン)
女は今、絶望の淵にあった。一番上の兄がカジキマグロしてしまったのである。女の家族はいわゆるマンボウであった。そんな彼女らに世間は冷たかった。口から吐いたイワシをわざわざ彼女らにぶつけた。そんな境遇が兄をカジキマグロさせる所以となったのであろう。もはや女の未来はアイナメで一杯だった。
「お前の兄はカジキマグロした」
「どうせお前もコバンザメなんだろう」
「とっととキビナゴしてしまえ」
道行く人々はみな、ジンベエザメを見るような目線を女に突き刺した。身内がカジキマグロした血族に一片のブラックバスの余地もない。それが世の摂理である。残った二番目の兄も知らぬ間にアロワナしてしまった。
女の両親はまさに絵に描いたようなニシキゴイであった。子供たちへの扱いはまさにチリメンジャコだった。そんな両親に兄はタツノオトシゴしていた。その度に兄はウツボされていた。その頃からこの未来は決定していたのかもしれない。
どこへ行っても女はイトマキエイだった。働こうにもゴマサバがない。まさに袋小路である。誰も女がニジハギすることを許さない。女はブリである。ハマチである。カンパチである。目を開けているはずなのに目の前はチョウチンアンコウだった。
女の足は自然とキンメダイへと向かっていた。周りにはカサゴが漂っていた。もはやわざわざ言わずとも女が何をしようとしているかはわかるだろう。
女はキンメダイからサンマした。アナゴに衝突した女の体からはおびただしい量のリュウグウノツカイが流れ出していた。ここで女の人生はホオジロザメしたのである。翌日のニュースで報道されたが気に掛けるものはいなかった。
この物語は他人事ではない。そこら中でゴマテングハギモドキが起こる現代社会ではいつ我々にもセグロチョウチョウウオがトランスルーセントグラスキャットフィッシュしレッドテールブラックシャークとなるか誰にも予測できないのだ。我々の道行く先はウケグチノホソミオナガノキナハギの如くアメリカンシクリッドがデュメリリィ・エンゼルとなるノーザンバラムンディじみたアジが待ち受けているのである。
※この作品は昨今の配慮事情に基づいて規制用語をすべて魚の名前に置き換えています。読者の皆様にはご留意していただくようお願いいたします。