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序
呆れるくらい長い緑の黒髪と、明るい笑顔をした雪乃は、村の祭主だった。
孤児の彼女は、村人たちに大切に育てられていた。聞けば、幼い頃に両親を亡くしたのだと言う。父は村の出身だったが、母は何者とも知れぬ流れ者らしい。けれど、美しく気立ての良い働き者だった母は、皆に好かれていたそうだ。
雪乃と親しくなった御蔭で、彼女は立派な住処を得ることが出来た。
だって、神様なんてここにはいらっしゃらないもの。
そんなふうに笑って比売を社へ招き入れた雪乃は、ヒトにもあやかしものにも平等に優しい娘で。社に同居していたあやかしものたちも、気の善いモノたちだった。
彼らと共に村の様子を見守ることも、何もせずただ在った頃に比べれば、変化に富んでいて楽しかった。
春を迎え讃える祭、秋の実りを喜ぶ祭。
住処の前で開かれる宴は、見ているだけで心が躍った。
残念ながら、雪乃の子はその力を受け継がなかったが、二人目の孫とは友達になった。祖母譲りの優しい面立ちと、明るい瞳の色。長い黒髪の奇麗な子供は少し身体が弱かったけれど、次の祭主と村人に目されていた。