1/25
序
その地には、闇さえも明るく照らすと讃えられるほど、美しい女が在った。
彼女を、輝夜火比売尊と言う。
これは厳密には名ではなく神号で、天津神が持つ特権の一つだ。嘗て全ての神々が持っていた神号を国津神から取り上げたのは、高天原におわす主たる男神である。
……と、伝わっているのが、現在の通説だ。男神自らが語ることなどないし、それはあまりにも古い話なので、真相を知る者は、最早いないだろう。
彼女がこの地に封じられてから、呆れるほど長い歳月が過ぎた。ただ無為に過ごした日々は飽くには充分長く、ここに封じられた理由すらも思い出せなくなってしまっていた。
過ぎ去った日に出会った幾人か、それこそ数える程の彼女と語らうことの出来た人間も、ただ彼女の前を通り過ぎていくモノでしかなかった。
彼女は神で、彼らに取っては崇め奉るモノだったのだから仕方がない。
永遠とは、かくも退屈なものなのか。
歳月を顧みて悲嘆に暮れ、それすらも仕方のないことだと飲み込んでしまった頃。彼女を見つけたのは、雪乃という名の娘だった。