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第1話 天涯孤独な元サラリーマン

【注】残酷な描写があります。不快に思われる方は閲覧をお控え下さい。



「…君、クビ。」

  と、突然宣告をされ身体全体が揺れているような感覚。天と地がひっくり返る、まともに立っていられない。そんな感覚が俺を襲った。勤続31年の会社にこうもあっさりと見限られるとは…。

  しかし、晴れて無職だ!いやまぁ、晴れてはないけど…。

  元々会社が好きではなかったがそれなりに頑張っていたつもりだ。しかし、日本の景気は芳しくない。我が社…元いた会社もその影響を少なからず受けていてのリストラなのだろう。

  実際問題40手前で万年平社員。奥さんもいなければ彼女なんて出来た試しがない。両親は2年前に他界しており、天涯孤独の身である。会社としても問題無いとの判断なのだろう。

  募る思いはあるが、今日は一杯引っかけなければやっていられない。


  「…お疲れさん。」

  「ったく。人がリストラされたってのになんだよその返しは…。」

  「まぁでもよ今、多いみたいだぜ。リストラ。」

  「知ってるよ。知ってるさ。だが、いざ自分がその立場になると、思う部分はあるよ。後、数週間しかあの会社に居られないと考えると寂しくもあるな。」

  「んー…。よければやりたい事見つかるまで働ける場所紹介してやろうか?」

  「ん?おぉ!助かる!さすがシゲだな!」

  「ハッハッ!…ん?」


 プルルル


  着信音が店に響く。

  「…どうした?あー?健太が風邪引いたって?じゃあ検査受けにいくのか?…うん。…うん。わかった、今から帰る。じゃあな。」

  「どうかしたのか?」

  「悪ぃ!息子が風邪引いちまってよ!今流行りのウイルスじゃねぇか?ってさ。だから家族全員検査しに行かなきゃいけねぇんだよー。」

  「そうか、お大事にな!ここは俺が持つよ。話聞いてくれたお礼だ!」

  「すまねぇ!今度なんか奢らせてくれよ!じゃあ、お先に…。」

  「おう!じゃあな!」

  息子か…。今の電話は奥さんだろうな。

  そう思うと自分の置かれてる現状に少しばかり虚しくもなった。

  「…俺の人生なんだったんだろうな…。」

  そう呟き暗い街に消えていった。



  翌日、目を覚ますと見覚えのない風景が広がっていた。

  「ってて…。なんだここ!?…っていうか機能の記憶が…えっと、シゲと呑んでて、シゲが帰って、んで………って思い出せねぇ!」

  仕方がないのでとりあえず辺りを探索することにした。この時点で驚き戸惑わなかったのは、少なからず自分の人生に悲観的になり何処か遠くに逃げたいと考えていたからだろう。

  だがやはり、何度見ても見覚えがない。生い茂る木々。物音ひとつ無い自然の心地よい音が耳を撫でる感触。日本ではありえない程の大自然。遠くでは魔物が日向ぼっこをしている。なんて平和な…。…?魔物?

  「えぇ!よく見れば魔物いるじゃん!何あれ小さいけど魔物じゃん!落ち着け落ち着け。まずは、一旦冷静になろ…」

  と、落ち着きを取り戻そうとしたが追い討ちをかけるように、足元に魔物が鎮座していた。

  「…うわぁぁぁぁあ!!!なんだこれ!何だこの世界!」

  年甲斐もなく慌てふためきながら逃げ惑っていると、いつの間にか森の奥まで来てしまっていた。

  「ハァハァ…。ここまで来れば流石に追っかけてはこないだろう…。」

  「あのぉ…。」

  「ひっ!魔物!…ってあれ?喋っ…てる?」

  「貴方は"人間"ですか?」

  「え?あ、あぁそうだけど…。」

  「わぁぁ!初めて見ました!!おとぎ話でしか聞いた事なかったんです!私の名前はビーナ。妖兎族です!」

  「妖…兎族?」

  「人間様!私の村に是非いらしてください!きっと村長さんも喜んで下さります!」

  「村?村なんかあるのか?…ていうかここは一体どこなんだ?」

  「え?…ここは"イリニの森"でございます!」

  イリニの森。聞いた事の無い地名だ。やはりここは俺がいた世界とは違う世界か。

  「どうなさいましたか?人間様。」

  「あ、ううん!なんでもない!行く宛ても無いし、外には魔物がいるし、ビーナさんの里にでも行こうかな!」

  きっと好戦的な魔物では無いのだろう。そう思った俺は彼女に着いていくことにした。

  「それでは行きましょう!こっちです!」



  「ようこそいらっしゃいました…。私はここの村の村長をやっております…コーネリアと申します…。」

  「俺の名前は…。」

  あれ、思い出せない。自分が何者が分からない。記憶喪失ではない自分に関する情報だけが綺麗さっぱりと無いのだ。

  「無理もないですじゃ…。貴方様は人間族なのですから。」

  「うぇ?何か関係あるのですか?」

  「私たちの村に古くから伝わるおとぎ話です。『次元の歪みにより転生した人間族は各国間での争いを鎮め、平和を説いた。世界が平和で満ちると人間族は姿を消した。』しかし人間族は本来この世界には居ないのですじゃ。」

  「だから、ビーナさんはあんなに驚いていたのか…。」

  「ビーナはこのおとぎ話が大好きなのです。きっと余程嬉しかったのでしょうな。」

  そう言うと村長はしわしわの顔をクシャッと笑ってみせてくれた。

  「しかし貴方様は行く宛ても無いのではないでしょうか。外には好戦的な魔物もおりますゆえこの村にご滞在なられてはいかがでしょう?あまりおもてなしは出来ませんがそれでもいいのなら我ら妖兎族一同歓迎致します。」

  「え?いいんですか?ならお言葉に甘えます!」

  村長の言う通り行く宛ても無いし魔物は怖いしリストラされたし、それなら有給消化した方が良いと考え、居候として俺は妖兎族の村で暫くの間でお世話になることになった。


  「村長ー!」

  「おぉ、ホップ。どうかしたのかの?」

  「大変だよ!またあの蛇が出たんだ!!」

  「…またであるか。しかし弱ったな…。もう我々の村には闘える者は居ないのじゃが…。」

  「…俺が行くよ!兄ちゃんの仇、討ちたいんだ!」

  「ホップ…。しかしそなた下級付与魔術ローエンチャントしか使えぬではないか…。」

  俺は二人の話し声で目が覚めた。

  「あのぉ、どうかなされましたか?」

  「…。」

  「人間様。我々に力を貸していただけないでしょうか?」

  「俺からも!お願いします!兄ちゃんの仇を討ちたいんです!」

  「仇…?何か倒しに行くのですか?」

  「…えぇ。最近ここら一帯を縄張りとする蛇の魔物がいるのです。初めて現れたのは3か月前。その時は食糧を調達していた3体の妖兎が命を落とし。再び現れたのは一月程前でした。その日は俺の兄ちゃんが村周辺の警備の為森を巡回していたのです。兄ちゃんは村一番の剣の達人でした…。ですが…。」

  「そんなことが…。」

  「奴は今も腹を空かして妖兎が森の奥に来るのを待ち望んでいるのです。討伐しようにもこの村で戦える者は、もうこのホップしかいないのです。どうか貴方様もホップと一緒に蛇の討伐に強力をしていただけないでしょうか?」

  マジかよ…。俺は妖兎族と戦ったって勝てるか怪しいんだぞ?ていうか一般ピーポー種族関係なく魔物には勝てないよな普通!そんな妖兎族より強い蛇なんだろ?無理だよ…。

  「あ、あの…。俺普通の人だから…ホップ君の足引っ張っちゃうと思うし…そのこれでも前の世界ではダメダメなオッサンだったんだけど…。」

  「…滞在されたら如何か?と提案したのは私ですが、本当に何もなさらないおつもりですかね?それで心は痛まないのでしょうか?」

  うわー…。これ断れねぇ…。断ったら追い出される…。そして森で危険な魔物に襲いわれ寂しく孤独に死ぬんだ…。

  「わ、分かりましたよ…。俺も討伐に行きますよ…。」

  こうして俺は妖兎族よりも遥かに強い蛇の討伐に向かうことになった…。


  〜イリニ森・奥地〜


「シュルルルル。腹が減った…。あの兎共の肉は絶品だ…。また食べたいものだ…。シュルルルル。」


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