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見てたよね

作者: まよ

私は教師をしている。

まともに仕事ができるのは生徒が下校してからだ。

だからその日も、すっかり暗くなった時間に、校舎の二階にある教室で仕事をしていた。

教室の窓からは運動場が見える。

街灯に照らされたラグビーのポールのH型の影。

その横棒に何かがあることに気づいた。

目を凝らすとロープのようなものがぶら下がっている。

そしてそこに近づいていく何かを持った人影。

その何かを踏み台にしてロープに手をかけたと思うと、大きく跳び上がりロープにぶら下がった。

自殺。ただそのときの私は、助けようという気持ちよりも、見ていたいという気持ちが勝っていた。

ロープを掴む手。

ばたつく足。

暗がりの中で巻き起こる状況に、私は釘付けになっていた。

激しくばたついていた足が止まりそうになったとき。

目が合った。

かなりの距離があるはずなのに、確実に目が合った。

目の前にいるかのように、はっきりと、表情まで見えた。

光のない目で私を見つめてくる。

私は怖くなって隠れた。

ただ最後まで見ていたかった。

なので少し窓から離れて、かろうじて見える位置に移動した。

少し遠くなってしまったが、様子は十分に窺える。

ビクッと体が跳ね動いたかと思うと、両手がロープから離れた。

だらんと垂れる手足。

反して激しくなる私の心拍。

死んだ。

私は生きている。

生と死の対比がはっきりと感じられた。

窓に近づいてまじまじと見た。

この気持ちはなんだろう。

興奮か。

背徳感か。

悲しみか。

嬉しさか。

息が上がり、自分の心拍が全身に響く。

そのとき、ぐらりとポールが傾いた。

重みに耐えきれなかったのか、そのままゆっくりと音もなくポールは倒れた。

そしてロープに繋がれた人は地面に横倒しになった。

警察、いや救急か。

急に我にかえった私は、ポケットからスマホを取り出し、警察へと電話した。

電話口で状況を説明しながら、運動場を見た。

すると死人がゆっくりと立ち上がった。

死んでいなかったことに、ほっとしたとともに何故かがっかりしている自分に冷や汗が出た。

元死人は立ち上がったかと思うと、こちらに向かって走ってきた。

やはり目が合っていたのだ。

何かを叫びながら走ってくる。

一直線にこちらに向かってくる。

ここは二階のはずなのに真っ直ぐ向かってくる。

私は腰が抜けてしまった。

逃げなければ。

四つんばいで教室の入り口へ向かっていると、ガラスの割れる音がした。

そして叫び声が響いた。

「見てたよね」

恐るおそる後ろを振り返るとガラスも割れてはなく姿もない。

隣の教室だ。

隣の教室から甲高い叫び声が聞こえたかと思うと、急に辺りは静かになった。

私は必死に息を潜めて教室の角で隠れていた。

「お前も見てたよね」

耳元で声がした。

私は声にならない声で返事をした。

「なぜ何もしなかった」

私は震える手でスマホを差し出して、警察に電話したことを伝えようとした。

「救急車じゃないの」

彼女の目から涙が流れたように見えた。

そのときパトカーのサイレンが遠くに聞こえてきた。

その瞬間、彼女の姿はもうどこにもなかった。

そのまま私は気を失った。


目が覚めると、自宅のベッドの上だった。

あの後どうなったのかも、どうやって帰ったのかもわからない。

次の日、出勤してみるとラグビーのポールは何事もなかったかのようにH型に立っている。

ただ隣のクラスの担任は出勤して来なかった。

そして3ヶ月後そのまま退職となった。

あの日の出来事が原因なのか。

そもそもあの日は何もなかったのか。

ただ私は今でも思う。

あの状況で警察を呼んだら救急車も来るから間違いではないだろう。

正しいのは私の方だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 死体が立ち上がった辺りから怖くなってきました。
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