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エピローグ


 暗闇の中で鈍い音をたてながら、重い扉が上がっていった。


 横に細かった一文字の光が、扉の動きにあわせて徐々に太く、広くなっていく。


 外界から射しこむ紫色の光。


 東の空は明るさを増していたものの、夜空にはまだ星々が瞬き、二つの月が西の水平線に沈もうとしていた。


「さすがに、まだ暗いか」、カレンが壁の釦を押すと、秘法による白銀色の灯りが空間を満たした。


 そこは<聖域>の広い秘法船(ひほうせん)格納庫で、一隻の涙滴型秘法船(ひほうせん)が駐機してあった。すでに出発の準備は完了している。


 カレンは格納庫に足を踏み入れた。その後から、リーフォウも続く。二人とも、伸びた身長にあわせて、服を新調しておいた。銀と黒を基調とした意匠で、お互いの特性にあわせて、動きやすいように工夫をこらしてある。


 カレンとリーフォウが操縦席に入ると、天井の幾何学模様が明滅した。


『おはようございます。カレン、リーフォウお嬢様。

 いつでも出発可能ですが、目的地は予定通りスーノエルでしょうか?』


 彷徨号(ほうこうごう)が控え目に尋ねる。


「予定変更だ。先にアインスベルガへ向かう。すでに二つの国の軍隊が動いているらしい。シャーゼトルたちとも戦うことになるだろうな」


 機器類を確認しながら、カレン。


『アインスベルガとは懐かしい。あれから、もう五年になりますか。

 お二人のその服。この旅から、名乗るのですか?』


 そのつもりだ、とカレンは短く答え、作業を続けた。


「お兄ちゃん、チェレルたちが見送りにきてるよ」、助手席のリーフォウが声をはずませ、風防越しに手を大きく振っていた。


「いいよ。すでに挨拶はすませてあるから。それより、忘れ物はないだろうな?」

「大丈夫。いつまでも子ども扱いしないで」、頬を膨らませて拗ねるリーフォウ。


 あのアインスベルガでの戦いから五年----心の檻を開けたリーフォウはすっかり成長していた。心だけでなく、秘法を操る力も、スーノエルのペルシュス王妃から一目置かれているほどだ。しかし、お転婆なところは変わらず、長かった髪もいまではずいぶん短く切っている。ラオシュから聞いたところでは、ペルシュスから格闘技も教わっているらしい。


 だからこそ、これからのカレンの旅に同行すると言いだした時も、カレンは驚かずに、許すことができた。


 カレンは操縦席に深く座り、操舵手甲を装着した。手首に位置する輪が光った後、肘から五指が軽くしめつけられる。もう数えきれないほど繰り返してきた動作だが、その度に彷徨号(ほうこうごう)を初めて操作させてもらったあの日のことを鮮明に思いだしてしまう。


 カレンは少しだけ腰をあげ、風防の外へ向けて手を振った。


 格納庫の安全地帯から彷徨号(ほうこうごう)を見上げているチェレルは笑みを浮かべており、両腕は二人の赤子を抱えていた。チェレルがその赤子たちに何かを語っている。


『----ほら、あれが父さんの乗る彷徨号(ほうこうごう)よ。今日は特別な日なの。ローラッドもフィデルも、よく見ておきなさい』


 彷徨号(ほうこうごう)が気を利かせたか、船外の声を拾ってくれた。カレンは推進器の出力を徐々に上げ、機体を床から浮かせる。


 カレンとチェレルの間に生まれたのは双子で、名前は師匠と、師匠と同じように信念に自分を捧げた男からもらった。不思議なのは、ローラッドはスーリー・メイ似のチェレルに、フィデルはリーフォウにばかり懐いていることだ。


 ここに帰ってきた時には二人とも父親の顔を忘れてしまっているのではないか----カレンの不安な考えは、彷徨号(ほうこうごう)によって現実に引き戻された。


『カレン……いえ、< 英雄 (キャプテン)グローリー>、ご命令を』


 凛とした響き。カレンは背筋を伸ばし、その呼び名を継ぐことの重みを噛みしめた。


「たった今より、俺は< 英雄 (キャプテン)グローリー>として、再び訪れた戦乱の気配を鎮めに出る。

 彷徨号(ほうこうごう)、リーフォウ、おまえたちの命、俺が預かった!」


 返事は聞かなくてもわかっている。


 カレンは全推力を解放し----


 彷徨号(ほうこうごう)は流星となって夜空を駆けていった----


 < 英雄 (キャプテン)グローリー>の伝説は、終わることなく語り継がれていく。



 (終)

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